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パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~  作者: 藍敦
第十三章

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第百五十六話

(´・ω・`)お待たせしました再開です。

 曰く、リオちゃん達の組織はグランディアの各大陸に最低三つは拠点を持っているらしく、地球から脱出した俺達は、そのままファストリア大陸の第三拠点へと着陸した。


「ここは……なるほど、この辺りを拠点にしていましたか」


 同乗していたマザーさんが、俺達が降り立った遺跡群、そこに隠されていたアジトから外の風景を眺め、そう漏らしていた。


「ここ、神話時代の街っていう話なんだよね。魔導学院の裏側に広がる遺跡群の一角って訳。この辺りは大昔のゴーレムとかが徘徊してるから、一般人は入ってこないんだ。だからアジトにはうってつけって訳」

「なるほど。義姉さんはここで離脱、という事ですか?」

「……ええ、そうなります。少しこの辺りを見て回ってから地球に戻ります」

「あれ? 今って一般人の地球とグランディアの行き来って出来ないんじゃ……」

「ふふ、私は一般人ではありませんので」


 そうマザーさんは妖しげに微笑む。うむ……魔性の女ですな。

 彼女を見送り、俺達はこの後どうするかを相談する。


「まずは協力者に会わないと。手始めに魔導学院に行くよ」

「大丈夫なのリオちゃん。一応指名手配されてるんじゃ」

「ん-……大丈夫じゃない? この大陸ってあまりシュヴァインリッターと関わっていないし、人の出入りも激しい場所だし。そもそも私が手配されたのってかなり昔の話だし。人相だって……まぁ思いっきり見比べないとバレないんじゃない? 流石にシュヴァインリッターの仕事熱心な人に見られると不味いけど」

「適当だなぁ……俺はまぁこの姿はこっちじゃ知られていないだろうしこのままでいいかな」

「一応はい、伊達メガネ。あと今回はチセさんも一緒に来て貰えるかな? もしかしたら協力してもらうかもしれないし」

「私も? 良いけれど……戦力にはなれないわよ?」

「大丈夫、そういうのじゃないから」


 アジトを出ると、以前来た時は遠目にうっすらとしか見る事が出来なかった巨大な旧世界樹……つまり『ファストリア魔導学院』のシルエットが間近に目に映る。

 俺達が普段利用したりするホテル、空港のある街はここから結構離れているらしく、大陸の南部にあるのだとか。

 で、ここは中央。かつて神話の時代、主都として機能していた場所らしく、魔導列車でこの辺りに移動し通学するのが一般的だそうだ。

 今では学院の生徒、関係者くらいしか近づかない場所らしいのだが、一応しっかり交通整備はされているのだとか。


「あ、結構立派な駅がある」

「そ。一応最低限のお店は遺跡群を抜けたこの辺りにもあるから。たださっきも言った通り、私達のアジトがあるあたりは遺跡群だから、ゴーレムとか古い魔導生物がたまに現れるんだ」

「個人的にゴーレムには興味が引かれるわね。地球産の物と古代の物との差とか」


 少しずつ、人の生活感が出てきた街並。もうまもなく学院に辿り着くと言うところで、俺は奇妙な建物を見つけた。

 近代的な建物や、古い遺跡の残骸が混在する奇妙な街並。

 だがそこに、明らかに場違いな『ザ・貴族のお屋敷』と言った具合の、立派な大きな屋敷が居を構えていたのだ。

 へー……この大陸にもセカンダリアみたいな貴族街があるのか……?

 いや、他に屋敷は見当たらない。ここだけぽつんとある。


「リオちゃん、あれは?」

「ああ。その屋敷なら『久遠館』って呼ばれてる一種の遺跡だよ。噂じゃ神話時代から一切老朽化しないで、誰も寄せ付けない、敷居をまたぐことも出来ない、謎の存在みたい。私達も調査しようとしたんだけど、敷地の中に入り込む事さえ出来なかったんだよねー」

「へー! ただの屋敷じゃないのか……って、今中に人影が見えたような……」

「……マジ? これも噂なんだけど、たまに窓から人影が見えるんだってさ。出てくるところも入っていくところも目撃されてないのに」


 ヒェ! ガチモンの幽霊屋敷じゃないですか! 早く行きましょう……!




「んじゃ受付は私がするから」


 巨大な樹の洞に見えた場所は、学院の入り口だった。

 中は思っていたよりも近代的で、普通にどこかのビルの内部のように見えた。

 勿論、内壁は木で出来ており、どこか幻想的な照明が内部を照らし、なんともカントリー感溢れる様子ではあったが。


「はい、これ紹介状。ちょっと古いけど大丈夫だよね?」

「これは……少々お待ちください」


 受付では、リオちゃんが何やら古びた手紙を出していた。

 紹介状……?


「これ、私が国を出る時に持たされた物なんだ。はー……もう二〇年以上も前だよ」

「え? 貴女……ヒューマン種じゃなかったの?」

「うん、言ってなかったっけ」

「……く、長命種が羨ましいわ」


 大丈夫ですよ主任。主任もまだまだ全然若いですから。

 少しすると、奥に引っ込んで行った受付さんが戻って来た。


「お待たせしました。あちらの昇降機で最上階へ移動してください。学院長がお待ちです」

「了解。さ、行こうユウちゃん、ニシダさん」

「お、おお? 学院長って……」


 確か、俺の魔導の評価を決めるヤツ? あの時の責任者みたいな事をしてた人だよな。

 もしかして協力者ってあの人なのか? 凄いな、超VIPじゃん。でもなんで協力してくれるんだろう?


 俺が知るエレベーターよりもレトロなそれで、長い長い距離を移動していく。

 目的の階で降りると、リオちゃんはなんだか緊張した様子で先導を始める。


「リオちゃん、知り合いじゃないの?」

「初対面だよ、関係者ではあるけど。……なんだか今更会うのがちょっとねー」

「協力者なんだよね? そんな微妙な関係なのに協力してくれるんだ」

「え? いやいや、学院長は協力者じゃないよ。顔つなぎ役ってところ」


 ありゃ? 違ったのか。

 しかしそうなると、どんなコネなんだろうか?


「失礼します」


 部屋の中は、まるでここだけ無重力空間になっているかのように、ぷかぷかと本棚や書類棚が浮かび上がり漂っていた。

 その中で床に固定されていた机に向かい、学院長が書類仕事をしている。

 だがリオちゃんを見た瞬間、すぐに作業を止め近くに歩み寄って来た。


「……お初にお目にかかります。リオステイル・K・エンドレシア様ですね。私の名前は『グウェンダル・ディアード・リヒト』と申します」


 学院長は、リオちゃんの本名を告げ、恭しく跪く。

 え……なんだこの対応……。


「そういうの、やめて。もう存在していない家の人間に、とうの昔に仕えるのを止めた人間が傅くのは変でしょ」

「……左様ですか。あの紹介状は、確かに『リュミエル』様の筆跡と封印術式が刻まれていました。それに……貴女はリュミエル様……お母様と瓜二つです」

「……そうなんだ。で、私は王家が亡ぶ時に『何か困った事があれば彼を頼れ』って言われてたんだよね。ちょっと協力をお願い出来ないかな?」

「はい。貴女様の為ならば、たとえ法に背く事でもご協力しましょう」


 この忠誠心……本当に臣下だったんだなっていうのが伝わって来る。

 恐らく、リオちゃんの家。リオちゃんのお母さんに仕えていたであろう学院長は、静かに俺達に席を勧めてくれた。


「……この学園に通う生徒の一人。ノルン・リュクスベル・ブライト様を呼び出して欲しい。それで……その後の話を一緒に聞いて、可能なら助力して欲しい」

「……どうやら、ただ自分の身を匿って欲しい、という類の願いではないようですな」

「あ、私の事知ってたんだ」

「ええ。貴女がトラブルの渦中にいる事は何年も前から。では、早速呼び出しをかけます。その間、お連れの方々を紹介して頂けないでしょうか?」


 俺は今回、とりあえずこの姿に相応しい偽名として、再び――


「ユウリスと言います。地球出身です」

「ニシダ・チセと言います。同じく地球出身、元秋宮グループの研究員をしていました」

「なんと、秋宮の。……不思議な取り合わせですね」


 そっか。リオちゃんって地球に思うところがある人間らしいしな。


「別に、もうそこまで確執がある訳じゃないよ。っていうか私の事知ってるなら、地球嫌いの理由だって知ってるんでしょ?」

「……ええ。私が地球、いえ秋宮に対して思うところがあるのと同じ理由でしょう」

「けれど、私は感謝もしている。とりあえず今回の件で地球への感情は一度捨てて」


 なんか……ちょっとだけリオちゃんの中にある闇、理由、そういうのが見えた気がした。




 その後、学院長室に控えめなノックの音が響く。


「入りなさい」

「失礼します」


 やって来たのは、随分と久しぶりの再会となるノルン様だった。

 相変わらずの美貌。そしてやっぱりイクシアさんに少し似ている。

 ノルン様は来客中だった事に少し驚きはしたが、それが呼び出された理由なのだろうと学院長の元へ向かう。


「お呼びだと聞いたのですが、どういった御用でしょう、学院長先生」

「すまないノルン君。急に呼び出してしまい。実は用事があるのは私ではないのだ」

「はい、私が用事のある人間です。ノルン様、どうかこちらに」


 我が物顔でソファーに腰かける俺達をいぶかしむも、途中でニシダさんに気が付いたのか、表情が変化する。


「貴女は……確か秋宮の……」

「はい、お久しぶりです。ゲート周辺の工事の視察、ならびに地球での会談に同席した時以来ですね」

「じゃあまずは私から自己紹介。……実は私が子供の頃に一度会ってるんだけどね? リオステイル・K・エンドレシアです。没落した旧エンドレシア家の最後の血を引いた人間です」


 そうリオちゃんが告げた瞬間、なんとあろうことかノルン様までもが畏まりはじめた。

 なんだ……!? 旧エンドレシアってそこまでの力があったのか……!?


「……姫殿下とは露知らず申し訳ございません」

「だから元だってば。今回はちょっとノルン様に見て貰いたい物があって来たんだ。エルフの王族は、絶対に同胞の魔力を、気配を間違わないからね」


 そう言ってリオちゃんは、俺達が回収した魔導具『フェアウェルの瞳』を取り出した。

 だがその瞬間、ノルン様が血相を変えて声を荒げる。同時に、学院長までもが。


「リオ様!!!! それをどこから持ってきたのです!!!」

「っ! 何故こんな物がここに!?」

「……やっぱこういう反応だよね。長い歴史の中で『瞳』や『玉』……球体の名を冠する魔導具は全て災厄の種になっただけはある、と」

「フェアウェルの瞳……国で厳重に保管、安置封印されていたはずの魔導具が何故……」

「これ? これさ、地球の植樹地に埋められていたのをセリュミエルの研究院の連中が秘密裏に回収に来たのを奪ってやったの。何が言いたいか分かるよね?」


 リオちゃんは途中から、どこか威圧するような低い声を出し、この場を支配するかのような空気を醸し出す。

 まるで『返答次第ではどうするか分からない』とでも言うかのように。


「……研究院が地球になんらかの破壊工作をしようとしたと?」

「たぶんキミだよね? 地球で指名手配されている稀代の犯罪者。ササハラユウキの糾弾の声がこっちで高まらないように王家に働きかけているのは。それ正解。ユウちゃんはこの魔導具の存在、研究院の思惑を事前に察知して自らが悪者になって植樹を妨害したんだ。たぶん気が付いてるよね? これがどんな風に使われていたのか」


 リオちゃんがまくしたてる様にそう話すと、ノルン様は俯き黙りこんでしまった。

 同時に、学院長が近くまで歩み寄り、瞳にそっと手を振れる。


「まさか……いやまさか……コレを世界樹に組み込む……世の理を反転させる禁忌をまさか世界樹に……」

「こんなのとっとと壊した方が良かったんだよ。後生大事にとっておいた結果がこれだよ」

「……神話の時代、二つの術具があの大陸に存在していました。ですが時の権力者はその効力を恐れ、互いをぶつけ合い対消滅させるつもりでいたと聞きます。ですが片割れ『フレイムガルドの禍玉』は歴史の闇に消え去り、残された瞳は……今の時代まで、静かに封印されていたと聞きました」

「……これがここに存在している以上、今の話の全てではなくても、一部は真実なのですね?」

「全部真実だよ。で、本題。具体的にこの魔導具にどういう効能、仕掛けがされていたのかの解析と、それを行った人間が誰なのかの調査。正直こんな危ない代物を調べるリスクは高いけど、やらない訳にはいかないよね? 幸い人材も設備も備わっているんだし」

「私を呼び出したという事は、王族、それに近しい人間が関わっていると?」

「うん。たぶんセシリア。だから証拠が欲しい。あ、でもこれってノルン様に祖国の一大スキャンダルを暴けって言ってるような物になるのかな? ……それでもやって貰うよ。拒否は許さない」


 瞬間、部屋に濃密な殺気が充満する。

 リオちゃん、本気だ。本気でここにいる人間を脅すつもりだ。


「ユウキ様の罪が晴れるのなら、祖国にこのような物を持ち出す悪が存在しているのなら……調べない訳にはいきません。たとえ近しい人間が首謀者だとしても」

「よかった、引き受けてくれて。もしも祖国の評判を優先するような事を言ったら私たぶん怒ってたよ」


 怒ってたとかそういうレベルじゃないが。こちとら手が震えているんだが?


「ユウキ様は現在逃亡中の身だと聞いています。彼の安否についての情報はありますか?」

「ユウちゃんなら私達の組織が匿ってるよ。待遇は保障してあげる」

「……よかった。我が父も、ユウキ様の事は知っています。地球での事件の噂は徐々に国民にも広まっていますが、父は私の願いを聞き届け、表立ってセリュミエルアーチ国内ではユウキ様の指名手配はされていません。もしも真実が、あの凶行の裏に隠されていた真実が明るみになったのなら……」

「ま、その時はユウちゃんに感謝してあげてよ。じゃあ今日から解析の方お願い出来る? かなりの品だからね、今日からみっちり集中しないといくら時間がかかるか分かった物じゃないし」

「……学院長。休学届を提出する必要はありますか?」

「いや、必要ない。私も全力でお手伝いしましょう、リオ様。ここの研究室を一つ開けておきます。本日より作業に取り掛かって頂きたい」

「ありがと。ニシダ主任、お手伝いお願いね」

「なるほど、そういうことね。なんだかかなり物騒な物みたいだけど……全力を尽くすわ」


 そうか、ここでもう魔導具を解析するつもりだったのか。

 ……あの、少々懸念事項があるんですが。


「あの、俺はその間何をしていれば……」

「おや、彼は研究者ではないのですか?」

「あ、そうだった。ユウリスは……うん、解析が済むまでここに通ってて? 魔導の専門知識を学んでおいて損はないし」

「リオ様が言うのでしたら、さぞや素養の高い人なのでしょう。ユウリス君、では短期留学生として、解析が済むまでここに通いなさい。寮は空き部屋を用意しておくので」

「あ、じゃあ私と同じ部屋にしてね? ユウリスは大事な人だから」

「なんと……!」


 やめて! なんか変な既成事実作ろうとしないで!


「えー、だって色々今後の相談とかしたいじゃん」

「まぁ確かに……解析ってどれくらいかかる物?」

「んー……最短で一週間? この規模の魔導具だから下手したら一月くらいかかるけど、今回はノルン様がいるからある程度の作業は簡略化出来るね」


 そうか、最短で一週間か……じゃあセシルの雨靴に戻るのは少なくとも十日以上先か。

 一番の懸念事項。イクシアさん、俺が戻るのが遅くて不貞腐れていないかです。


v(´^ω^`)vサンクエイム潜在4になったった

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