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閑話

(´・ω・`)BBさんのお話

「……これが、私に勝負を挑むという事だ」


 ジョーカーであり、世界の調停者である存在。

 ヨシキはそう、自分が完膚無きに討ち滅ぼした相手を前にして、そう宣言する。

 その様子はカメラを通じて全世界に配信されており、そのあまりにも圧倒的な結果に、誰もが言葉を発する事が出来ないでいた。


「私はこれからも、手軽に楽しく、誰でも作れる料理をこれからも紹介する。プロデューサー、この勝負のギャラは不要だ」


 尤も――今回は料理のお兄さん、覆面料理人『BB』として立ち回っただけではあるのだが。

 どうしてこんな事になってしまったのか。それは今から二月前に遡る――








「ん……そうか。無事に地球に戻って来たのか、マザー」

『はい。チセやユウキ君、リオさんは無事にファストリの協力者の元へ向かいました。……あの、二人の時くらい名前で呼んでくれませんか?』

「ごめんごめん、つい癖で。こっちも、新政権の初動をある程度見極められたから、またブゥチューバー生活に戻るよ。残念ながら当分はこっちで暮す事になるけどね」

『それでしたら、私もそちらへ行っても良いでしょうか? そろそろそちらの海で怪魚を狙ってみたいと思っていましたので』

「はは、分かった。じゃあR博士……リュエと一緒にこっちにおいで、レイス」


 ジョーカーことヨシキは、先の米国の暴挙から、しばしこの国の行く先を監視する目的で滞在していた。

 が、それもそろそろ一段落がついたという事で、己のもう一つの顔『異世界料理系ブゥチューバーBB』としての活動を再開しようとしていた。

 元々、ヨシキとして購入した家ではないこの場所には、誰が住んでいるか不明とされており、近隣の人間からは『どこかの富豪の別荘』だと思われていた。

 故に隠れ蓑として重宝していた訳だが、この時ヨシキは『BBとして屋敷を出入りしていた』。

 つまり、米国内にジョーカーは存在していても所在は不明であると同時に、米国内に今現在、活動休止中のBBが滞在しているという噂が広がりつつあったのだ。

 その翌日、ヨシキはBBとして『活動再開』の告知を動画にて発表。

 後はアシスタントとしてマザーとR博士、いやRお姉さんがやって来るのを待っていた。


「こっちの食材も面白いし、暫くこっちで活動するのもアリだよなぁ。二人もあんまりこっちで観光出来ていなかったし、良い機会だよな」


 ある日、ヨシキは二人の妻の到着を自宅でのんびり過ごしながら待っていた。

 だがそんな時、屋敷に来客を知らせるインターホンが鳴り響く。

 玄関ゲートのカメラの映像をテレビ電話に映し出すと、そこには見慣れない男が立っていた。


『Excuse me, is this BB's home?』

「……実際にこうやって訪ねてくる人間は初めてだよ。英語を使うって事は半信半疑だったのだろうけど」

『……! 本当にBBですか! 突然申し訳ありません、私は――』


 玄関先に現れた男が自己紹介を始めようとしたその時、玄関のゲートが開く。


「どうぞ中へ。お話なら中で聞きましょう」


 それは通常の著名人ならば不用心過ぎる行動だった。

 が、それは『世界最強』である人間には不必要。平然とヨシキはその相手を自宅に招き入れたのであった。

 無論、しっかりフルフェイスヘルメットを装着した上で。




「お招き頂き感謝します、BB」

「どういたしまして。それで、貴方は何者ですか? ……まぁ噂を聞きつけてわざわざ訪れた以上、ただのファンではないでしょう。警備員がそもそもそういう身分の人間を敷地に入れない」


 事実、この屋敷は屋敷だけでなくその周囲全てが塀で覆われ、屋敷に辿り着く前には警備員が常駐している検問所を通る必要がある。

 なんだかんだで、BBの稼ぎはこの豪邸を管理維持出来る程度にはある、という訳だ。

 尤も、それは秋宮や国から支払われた報奨金も含まれているのだが。


「はい。私、インターネット上で配信されているバラエティ番組やドキュメンタリー番組のディレクター件プロデューサーを務めている『ミハエル・メイアン』と言います。先日、BBがブゥチューブ上で活動を再開すると発表をされた事を受け、今密かに噂になっていたBBの目撃情報を頼りにやって来た次第であります」

「なるほど、番組プロデューサーですか。どうやら身分のはっきりした方のようですね」


 男は、自分が手掛けてきた番組名を語り、確認の為に名刺とテレビ局の連絡先を提示してきた。

 それは、ヨシキも知っている程有名な物であり、この人物が怪しい存在ではないと認めるには十分な証拠だった。


「私も見た事がありますよ。『レジェンド・シェフ』シリーズ。あれはとても面白い番組です。あの為だけにサイトに登録して視聴しているくらいですから」

「それは光栄です! ……それで、なのですが……実はこの度、第三シーズンの収録が決定しまして、是非BBには審査員として参加して頂きたく、オファーの話を持ってきた次第でして……」


 ヨシキは考える。

 現状、自分は秋宮を離れて完全にフリーとなっている。

 当然の話だ。ヨシキがブゥチューバーとして秋宮専属になっていたのは、リョウカがトップにいて、なおかつ自身の妹が所属していたからだ。

 その両名が既に存在していない組織に、ヨシキが残る筈がない。

 そんなフリーとなった自分の最初の仕事に、そんな大きな役割を選ぶのは、存外悪くないのではないかと考えたヨシキは――


「報酬と拘束期間について詳しいお話をお願いします。それ次第では前向きに検討したいと思います」

「本当ですか!?」


 元々知っている番組に携わる事が出来るという好奇心も相まって、オファーを受ける方向で話を進めるのであった。

 ミーハーである。世界の調停者は思いのほかミーハーである。


「期間は一週間。番組の構成や配信のタイミングで勘違いされるかもしれませんが、そこまで日を空けて料理をしている訳ではありません。一日に二回戦行い、そして三日目に決勝が行われます。その後、優勝者を殿堂入りさせるか否か、その料理人の本気の料理を審査員達が審査します。その際には料理の準備期間として二日が用意され、六日目に最後の一品を審査。最後の一日は収録ではなく、参加者の慰安日として打ち上げを行う、という予定になっています」

「なるほど、中々にハードなスケジュールで皆さん戦っておいでだ。まぁ現場で料理をしている人間なら問題ないでしょうが」

「はい、そういった料理人としてのタフネスも必要だと考えた上での構成です」


 ヨシキはもう既にワクワクしていた。

 自分以外の一流の人間達が鎬を削る戦い、そして生み出される料理を食べる事が出来るという事実に。

 作る事が好きな人間は、当然食べる事も大好きなのだ。

 それが自分以外の料理人ともなれば当然だ。


「報酬は……こちらの額と、収録中の宿泊費用その他雑費を全てこちらが負担するという形ですが……」

「……なるほど、大国は金払いもスケールが大きい。良いでしょう、その条件でお引き受けします」

「本当ですか!?!?!? 今まで秋宮所属の貴方に他企業からのオファーが通った事等一度もなかったというのに……フリーになったというのは事実なのですね」

「ええ、そうです。ただ、こういう仕事を今後受けるつもりはほぼないでしょう。今回は復帰最初の仕事、という事でサービスです。今回限りと考えてくださいね」

「おお……神よ……私はなんと幸福か……早速スケジュールを組み上げてきます。後日、正式な契約を交わす為にまたお邪魔します」

「ええ。ではどうか気をつけてお帰り下さい」


 その後、二人の妻を出迎えたヨシキは事の顛末を説明する。

 少しの間だけ、二人にチャンネル運営を任せるといった内容と、一緒に出掛けるのは収録が終わった後になるという話。

 別段、こじれるような内容ではなかったのだか、Rお姉さんだけが『私も凄い人達の料理食べたかった!』と、少しだけ不貞腐れたりもしたのだが、それも一瞬の事。

 そうして、ヨシキはBBとして、撮影に呼ばれる事になったのであった。







 後日、ヨシキは指定された場所に到着する。

 撮影スタジオは、まさかの映画の聖地ハリウッドにあった。

 広大な敷地には大きなスタジオが設置され、中には巨大な厨房が内包されていた。

 大きすぎる食材保管冷蔵室に、最新鋭の料理機材の数々。

 グランディア由来の魔導具もふんだんに使われ、ヨシキですら『ここで料理をしたら楽しそうだ』と思う程。


「……凄いな、俺でも知ってる錚々たる顔ぶれだ」


 スタジオには、既に審査員達が集まり、進行について話していた。

 その中にはグランディア出身の人間も含まれており、必然的に日本語での会話が繰り広げられていた為、ヨシキは内心ほっとしていた。

 多国語も話せはするが、専門的な会話になると自信がないというのが正直なところだ。

 無論、それでも同時通訳は用意されているので、そこまで不安はないのだが。


「ミシュランの審査員に……ドバイの有名ホテルの料理長……専門誌の編集長に……秋宮のレストランの総料理長か。久しぶりだな……」


 その他、有名店やホテルのシェフ達が集まる輪に、ヨシキも近づく。


「今回はあのBBも審査員に加わると聞いた。正直、我々は彼の経歴や実績を動画配信の様子でしか知らない。この場にそぐわない可能性もあるのではないか?」

「いえ、それはないと私が断言します。我がリアンエタルネルの全てのメニューは、経営の秋宮グループ総帥の人脈により、全てBBに監修を受けています。その場には私も同席していましたが……彼の知識量と観察眼には一生かかっても追いつける気がしません」

「それほどに? それは楽しみよ、彼の素顔も含めて、是非お近づきになりたいわ」

「……一線を退いた、グランディアの宮廷料理人が地球で動画配信を行いながら地球の料理文化を学んでいる……という噂を耳にした事がある。さもすれば事実なのやもしれないな……」


 そんな憶測が飛び交う一同。

 ヨシキは内心苦笑いを浮かべながら、それでもシンボルのヘルメット姿で飄々と現れる。


「いやーお兄さんはそんな大層な物じゃあありませんよ。ただ料理文化と異世界が大好きなお兄さんですとも。どうも、こんな姿で失礼します。BBクッキングチャンネルオーナーのBBと申します」

「! これは初めましてですな、ミスターBB」

「噂をすれば、だ。初めましてBB」

「本当にヘルメットなのね? ……うーん、透けて見えたりはしないみたいね?」

「お久しぶりですBBさん。中国支店の立ち上げ以来ですね」


 互いの自己紹介、そしてこの番組に過去に出演した事のある人間から基本的な流れを学ぶ。

 そうして交流を図っていると、収録の時間が近づいてきた。


「しかし、貴方がこの手の仕事を受けるとは意外でした」

「好奇心には勝てませんでしたよ。楽しみですね……これは現在冷え切りつつあるグランディアと地球の関係に一石を投じるという意味合いもあるのでしょう」

「そうね、参加者の中には向こうのシェフもいるみたいよ。確か、セミフィナル大陸とサーディス大陸から参加しているのだとか」

「いや、もう一人いるぞ。あのセカンダリア大陸一の美食家、シェザード家でかつて働いていた料理長も参加している。私としては、彼こそが優勝候補ではないかと考えている」

「ふむ、そうかね? 我が国のシェフも負けていないと思うのだが」


 そんな、小さく火花を散らす各国の審査員のやり取りを間近で感じながら、ヨシキはただ『楽しいな』と、無邪気な事を考えていた。

 そして、収録が始まる。




『さぁ! 皆さんお久しぶりです! 今宵、三度この舞台の幕を開けられた事を心より感謝致します! 第三回、レジェンド・シェフ! 予選を開始する事をここに宣言します!』


 沢山の調理スペースが並ぶスタジオを見下ろす場所で、司会の人間が参加者の紹介を始める。

 全ての参加者の紹介が終わると、今度は審査員の紹介が始まり――


『そして最後の一人! なんと今回、番組側が交渉の末に勝ち取った最後の審査員! その知名度は世界一! 一般家庭から本業の人間まで、彼の動画を見た人間の数は計り知れない! BBチャンネルオーナー! BBです!』

「初めまして皆さん! 日頃、中々本業の皆さんの料理を味わう事がなく、内心緊張しています。どうか、皆さんが存分に腕を振るう事をお祈りしていますよ」


 そうして、一週間にも及ぶ番組収録が幕を開けたのだった。


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