第百五十五話
(´^ω^`)昨夜はお楽しみでしたね。
「お前……リオか。上がお前達と関わっている事は知っていたが、お前が直接動くとはな」
「ま、地球に思うところがあるのは私もアンタらと同じだしね。でもアンタらだって地球人だよね?」
「……この狂った地球に未練などないさ。どうやら既にカプセルは奪取されたな、追うぞ」
「ん-……あの子達の相手って私がした方がいい?」
「……そうだな、お前に任せよう。シュヴァインの人間は今後我々の活動の邪魔になる。ここで仕留めてくれ」
「りょーかい。あ、私が今回利用した女、さっきカプセルを護衛してった人だけど、かなり強いから注意してね。たぶん今の私より強いかも?」
「ふふ……ドーム入り口にはうちの手練れを配置している。君が心配するような事は起きないさ」
壊れたドームの屋根で、リオは顔見知りのように襲撃者と言葉を交わす。
その最中、リオはまるで面白い話を聞いたかのように顔をほころばせる。
まるでそう『そんな訳ないじゃんバーカ』とでも思っているかのように。
が――何も知らない人間にそれは伝わらない。当然――
「リオ! お前……! ユキさんを裏切ったのか!!!」
「ま、私は元々魔導具奪取が目的だったからねー。襲撃犯がいるならそれに便乗したまでだよん。いやぁユキさんって秋宮にだいぶ信頼されてるんだねぇ、こんなに簡単に潜入出来るとは思わなかったよ」
カイとの会話の最中、リオの真横から斧槍が振るわれ、ドームを崩しながらリオへと向かう。
「油断大敵だよ。悪いけど僕は油断しない。このまま押し切らせて貰う」
「……誰を押し切るって?」
だが舞い上がった粉塵が晴れると、そこにいたはずのリオの姿が既に無く、ただ楽し気にカナメの真横でニコニコと笑みを浮かべていた。
「セリアちゃん、この位置で魔法撃ってみる? カナメ君が吹っ飛んじゃうけど」
「カナメ! 前に跳んで!」
「無理」
瞬間、カナメの身体が地面に崩れる様に跪き、それをリオが弾避けのように使い隠れてしまう。
同時に、カイもカナメの身体が邪魔で攻撃に転じられないでいた。
「おりこうさんは既存の術式を洗練させていくだけだもんねー。業腹だけど地球産の術式って面白いから、新しい術を編み出しやすいんだ」
「ぐ……これ……ハワイの時の……」
リオは、カナメの身体に手を触れ、一時的にカナメに対して絶大な重力を課していた。
怪力であるカナメをして行動不能に追い込む魔法を片手間で使うリオの技量に、同じ魔導師としてセリアは『これは見た目に惑わされてはいけない格上の相手だ』と認識を改める。
「ま、これ触れてないと効果が現れないんだよねー。ほら、私を引き離せば逆転出来るかも? けどまぁそろそろカプセルも奪えただろうし、私も退避しなくちゃなんだけどさ」
「カイ君! 攻撃して! 合わせるから!」
カナメの叫びも虚しく、カイが動くよりも先にリオ本人がカナメの身体をドームから地面に投げ捨てる。
「判断が遅いねー。んじゃ、私はユキさんを追おうかな? ばいばいひよっこども。もう少し現場に慣れてから出てくるべきだったね」
地面に激突し、痛みにうめくカナメを治療しようとセリアの動きが止まる。
唯一動けたカイだけが、一瞬遅れてリオを追いかけるのであった。
「まさか……あの二人を倒せる人間が……貴様何者だ」
「敵に情報を出す愚か者がいるとでも?」
「……地球にまだこのような逸材がいたとはな。お前達、術師団を抑えろ、私はこの女を仕留める」
発着場に辿り着くと、そこは既に基地の兵隊により防備を固められており、対戦車砲や機銃で今にも総攻撃をしかけようとしている様子だった。
が、それと同時に追いついて来た男に俺は呼び止められていた。
「皆さん、一斉射撃を」
躊躇なく、基地の人間による一斉射撃が行われる。
空中に跳びそれを飛び越え空港内に入り、取り残された術師団はすぐに兵隊に守られるように陣形の内に入れられる。
こちらを追いかけて来た、先程ドーム襲撃に現れた男も、この一斉射撃を鬱陶しく思ったのか、俺同様に飛び越え、こちらの目の前に着地しようと跳んでくる。
アホか。跳んで追いかけてくるんじゃないよ。
抜刀で迎撃を試みる。だが、男は空中で更に跳躍し、こちらの背後を取る。
背後に向かいノールックで刀を振るう。
「防ぐか」
「速いな」
相手の得物は槍だった。
デバイスではない、けれどもただの武器には見えない、何かオーラのような物を纏っている。
例えるならそう、カナメの斧槍のような、どこか神聖な……。
「……シッ」
瞬間、男の突撃による一撃を刀で迎え撃ち、切っ先を反らし、すぐさま蹴りを放ち槍を大きく跳ね上げる。
だがこちらが反撃をしようとすると、まるで蹴り上げた槍が引き寄せられるようにこちらの胸に向かってくる。
急ぎ身を反らし回避するも、その余波で右腕を浅く切ってしまう。
マジか。こいつさっきの連中より全然強い。
全力の移動と共に斬撃を放つ。
が、まるで槍がこちらの動きを察知するかのように攻撃を受け止める。
だが、不思議な事に男自身はこちらの攻撃に驚いている様子だった。
「速いな。あの二人が倒されるのも頷ける」
「……その槍、普通の武器ではありませんね」
「そちらの刀こそ。私の一撃を防げるとはな」
これ、普通に俺いっぱいいっぱいだ。
今度は斬撃と同時に、風の分身により多方面同時攻撃を仕掛ける。
だがそれすら、槍が神がかり的な動きで波状攻撃を全て防ぎきる。
が、ようやく――
「グッ」
「ようやく片足ですか。物理的に不可能な事はその槍でも出来ませんか」
もし、フィクションの世界なら、概念的に攻撃を無効化する力とかあったのかもしれない。
が、波状攻撃である以上、ディレイをかけた攻撃を混ぜる事だって出来る。
防がれた攻撃の後に無理な軌道から放たれたこちらの追撃を左足に受け、ようやく男の表情を歪めることが出来た。
「ダーインスレイヴ殿! こちらの人間は皆倒しました! 術師団も無事です!」
「了解、そのままこの男を攻撃してください。動きはこちらで制限します」
さて、ここからは本当に綱渡りだ。
この男と戦いながら、全ての弾丸を回避しきれるか。
……俺は動体視力で避けるんじゃない。そんな動体視力さすがに持ってない。
が……俺は風に特化してるんだろ? 風の流れくらい読めないでどうするよ。
「……仕留める」
「やれやれ……地球にこんな化け物がまだ存在していたとは。君を引き入れたら、せめてジョーカーへの対抗策になりえたというのに」
「ジョーカーを倒すつもりですか?」
「……そうだ。あれは、我々の最終目標の前に必ず立ち塞がる。ならば廃する策を講じるのは当然だ」
……おいおい、まさかジョーカーを倒すなんて考える人間がこの世に存在するなんて。
無理だろそんなん。フィクションじゃあるまいし――
「……手段のアテがあるのですね」
「ククク……まぁな」
いや、こいつらがもしフィクションを知っている身だとしたらどうだ……?
俺は知っている。本来の地球で生まれた多くのフィクションには、即死、因果の逆転、そんな『ありえない』効果を持つ道具が存在していた。
もし、それを再現出来てしまったら……!
「残念だが、もうお喋りは無しだ。君にその一端をお見せしよう。では……ここで死――」
その瞬間だった。
俺の背後から、一条の深紅の光が奔り、目の前の男の心臓を貫いた。
その余波は心臓だけでなく男の身体を消し飛ばし、完全に亡き者になっていた。
「な! 一体何が!?」
背後を振り返る。位置的に……あれはニシダ主任の乗ってる飛行機……?
あの飛行機にやばい兵器でも積んでいたのか!?
「……総員、すぐにドーム側へ向かいなさい。かなりの死傷者が出ています。私はこのまま術師団を移送ヘリへ送ります」
いや、それでも今は任務を優先させよう。もう……俺の邪魔をする存在は排除されたのだから。
術師団と合流した俺は、そのまま輸送ヘリへと向かう。
離陸の準備がされ、術師団の大半が乗り込み、残すは代表とカプセルを積み込むのみとなる。
「恐ろしい相手でしたな。しかしあの光線は一体……」
「さて、それは秘密です。ところで……提案なのですが、私は自分の飛行機で貴方達を追走する予定です。ですが、その前にカプセルを渡して貰えませんか? 今、この場には私達しかいません。完全に相手の裏をかく事が出来ると思うのですが」
さて、仕上げだ。ここで大人しくカプセルを渡してくれればやりやすいのだが……無理だろうな。
「いえ、こればかりは我々がそのまま持って行きます。貴女には感謝していますが、さすがにそれは出来ませんよ」
でしょうね。なら仕方ない。殺しはしない、今回はもう死者が多すぎる。
だから――
「リオ、もう来ていますね」
「はいはい! んじゃみんな――運が良ければ生き残るよ。出来れば永遠に目覚めないで欲しいところだけど」
瞬間、ヘリが凍り付く。目の前で、代表の術師の足元から氷が広がる。
対抗する事もなく、成す術もなく、氷が上半身に到達し、カプセルを抱える両腕が凍り始める。
もう力が入らなくなった両腕からカプセルを奪い取ったところで、男の首にまで氷が到達する。
「お前……! まさか最初から……!」
「心外ですね。私は基地の人間も貴方達術師団も殺していない。死者ゼロ人を目指していたというのに。横やりを入れて来たシャンディの所為で大惨事になってしまいましたよ」
「くそ……それを……奪われる……わけに……」
怨嗟の表情が刻まれた氷像を背に、リオと共に飛行機へと向かう。
が、ふいに倒された男の方を振り返る。
あいつ……おかしな武器を使っていたよな。出来れば回収しておきたかったんだが……。
「見当たらない……一緒に壊れたのか……?」
「ユキさんどうしたの? 早く行こう、たぶんSSのカイって子が追いかけて来てる」
「あの三人は無事でしたか」
「まぁね、カナメ君だけちょっと負傷させてセリアちゃんの足を止めさせているけど」
「……許容範囲です」
飛行機の扉が開き、いざ乗り込もうとした時だった。
背後から、叫ぶような大声が掛けられる。
「ユキさん!!! これはどういう状況なんですか!! なんでそいつ……リオと一緒にいるんですか! 何故カプセルを貴女が持っているんですか! どうしてヘリが凍っているんです!!!」
間に合ってしまったか。
「リオ、代わりにカプセルを」
「……いいの?」
「せめて、最後の責任は私が果たします」
リオちゃんにカプセルを積み込んでもらい、カイと対面する。
「さぁ、自分で考えてみてください。貴方達はあまりにも思考能力が低すぎる。物事を多角的に捉える事が出来なさすぎる」
「……信じたくない、考えたくない……! でも……そう言う事……なんですか?」
「どうぞ、言ってみてください。答え合わせをしてあげましょう」
カイ、お前達ならきっとここまで来たら、今回の件がただのテロじゃないって気が付けるはずだ。
今、この場所に集まった勢力は、地球側とテロリスト側の二勢力だけじゃないって、気が付けるはずだ。
ここには、少なくとも三勢力がいた。
地球を、この世界の在り方を憎む組織と、俺とリオちゃんの所属する組織。
そして秋宮を含む地球の陣営。三陣営が集う場所だったんだ。
「……最初からユキさんはテロリストとグルだった……魔導具を奪う為にここに来た」
「二〇点。真実には程遠い。やはりまだまだお話になりませんね、貴方達は。……いえ、きっと貴方だから辿り着けない。もっと知恵を出し合えば或いは……真実に辿り着ける」
「……今、貴女を倒して全てを明らかにす――」
それを言い終える前に、俺は抜刀と共にカイの背後に現れる。
もう、目で追うどころか察知もさせんよ。俺は自分の強さを薄々理解し始めている。
だから……もう俺は知っている知識が超常的であればあるほど、際限なく強くなる事が出来るんだ。
「さようなら、カイ君。もう二度と君の前に現れる事はないでしょう。……私は、どこまでいってもあの愚弟の姉なんですよ。最初から私はユウキの為に動いているに過ぎない」
「どう……いう……こ……」
カイをそっと地面に倒し、俺は他の人間がかけつけてくる前に飛行機に乗り込む。
これにて、任務完了。
本当は争いの種になるような地球人の犠牲は出したくなかったのだが、シャンディが想像以上に危険な組織だった事で計算が狂ってしまった。
かなりの人数を犠牲にしてしまった。だが……こう言ってはなんだが『死ぬことを是とした軍人』の犠牲だけで済んだとも言える。
SSの三人が生きている。それだけで……満足だ。
「ユキさん、発進するわよ」
「お願いします。一応基地の人間は死傷者の確認に向かいここの警備は手薄です。猶予はありません、全速力で離脱してください」
「了解。義姉さんも一度シートベルトをお願いします」
「リオ、私達も座りますよ」
「いやー……結構スムーズに進んだけど……結構懸念事項も増えちゃったね」
飛行機が物凄い速度で滑走路を進み、最低限の助走で空に飛び立つ。
窓から眼下を覗いても、未だ基地の人間が集まって来る気配もない。
このまま無事に逃れられるだろうな。
「それにしても……よく『ヨロキ』に勝てたね。アイツ、シャンディの中でも最高クラスの幹部だよ。私達と直接のやり取りはした事がなかったけど、ロウヒとかが警戒していた相手なんだ。正体不明のアーティファクト使いなんだよね」
「……確かに恐ろしい槍使いでした。直接の技量はそれほどではないのでしょうが、まるで槍が生きているようにこちらの攻めをいなしたり、攻撃に転じたり。もっと苦戦してしかるべき相手でした。ただ――」
俺は、あの時の赤い閃光が一瞬でヨロキと呼ばれた男を貫き消滅させた時の話をする。
てっきりこの飛行機の兵器かなにかだと思ったが、どうもそうではないようだし。
「……それは気になるね。もしかしたらあの場にもう一人幹部クラスがいたのかも……邪魔になってヨロキを消したとか……」
「どうなんでしょうね……ニシダさん、あの時の光線はこの飛行機が停まっている位置付近から飛んできました。何か目撃しませんでしたか?」
そうニシダ主任に聞いてみると、何故だか主任は操縦桿を握ったまま、恨みがましい視線をヨシキさんの奥さん、マザーさんに向けていた。
「……義姉さん、説明を」
「……ノーコメントです」
「そうはいきません。今回ばかりは説明をしてください」
え、なになに? マザーさんなにか知ってるの?
「私は、自分の夫を亡き者にしようと画策する人間を放置する程冷酷な女ではありませんので。本来であれば不干渉のつもりでしたが、そちらの会話が聞こえた以上、私自らが処断しました」
……え? あれ、マザーさんがやったの? いや、確かにジョーカーを殺す算段が出来ているとか言ってたけど……っていうかあの会話って飛行機で傍受してたのか?
「一応、私の方でも状況を確認する為に聞いていたのだけど……ジョーカーを殺すって聞こえた瞬間、義姉さんが……」
「殺しました。世界の抑止力である夫を殺す。それはつまり、世界を破滅へと向かわせるという事です。正しい争いならば、夫の考えを尊重し、私も不干渉を貫きましょう。ですが、世界を滅ぼしかねない選択を選ぼうとするのなら話は別です。なによりも、愛する人を害すると言い切る人間にかける慈悲はありませんから」
一瞬、マザーからとてつもない怒気が放たれ、ガチで身体が震えを起こす。
……ジョーカーの奥さんこええ……。
「え! なになに、ジョーカーの奥さんなのお姉さん! うっそ、あの人結婚してるんだ!」
「ええ、これは限られた人間しか知りません。くれぐれも口外しないようにお願いします。エンドレシアの娘さん」
「……そっちも私の事は知ってるって訳なんだ。……うん、分かった。さすがにジョーカーを敵に回す真似は出来ないからね」
いやぁ……あの一撃ってこっちも反応出来なかった程の速度だったんだけど、何したんですかね……?
これも考えないようにしておこう。マジで余計な事して敵対したくないし。
「このままゲートに突入するから、リオさんもユキさんも先に着替えておいた方がいいわね。もう追手の心配もないから着替えてらっしゃい」
「では、お先に失礼します」
俺は貨物室で全ての変装を解き、そしてダボダボな服に袖を通す。
いやまぁ……通すって言っても袖がめっちゃ余ってるんですけどね。
「ふー……いやー肩凝ったー……」
「改めてお疲れ様、ユウキ君。任務が無事に終わってよかったわ。リオさんもお疲れ様。その恰好だと転びやすいから二人とも席に着いて頂戴」
ようやく本来の姿に戻り一息つく。
今回の任務で大量の血が流れてしまったが、この後の展開はどうなってしまうのだろうか。
地球側からすれば、俺達が関与しようがシャンディが関与しようが関係ない、ただ『グランディアにいる組織が大量殺戮をした』って事になってしまう。
だが……。
「ユウちゃん難しい顔してるね? 今回、術師団を氷漬けに留めて殺さなかった事はきっと良い方に転がると思うけどな。だって少なくとも連中は『私達と襲撃者は別な陣営だ』って分かってるはずだからさ。それに……このフェアウェルの瞳が解析出来たら、間違いなく研究院に大打撃を与えられる。そうなったら術師団はきっとセシリアの命令よりも自分達の保身に走る。そうなったらこっちの物だと思わない?」
「俺達に有利な証言をするって事?」
「少なくとも瞳の真実が知れ渡れば私達は『研究院の企みを阻止し地球を救った存在』になる。セシリアと私達、どっちに味方した方が得かは考えなくても分かるでしょ?」
「まぁ……確かに。でも解析したとしてもそれを発信、世に信じさせる手段があるの? 正直最初からその点について疑問だったんだけど」
ある程度信頼と実績のある協力者がいないとこの作戦はそもそも成立しないのだ。
まだ作戦の全貌を知らされていない身としては、不安が残るのだが……。
「大丈夫、強力な協力者がいるんだ。セリュミエルの王家や研究院にも発言権を持つ、信頼も実績もある人間のね」
「マジでか。じゃあ……後はその協力者のところに行けば?」
「そういう事。ニシダさん、ゲートをくぐったらすぐにステルス起動出来る? 起動出来たら今送った座標に飛行機飛ばして欲しいんだけど」
リオちゃんはまるで、もう勝利を確信しているかのような明るい調子でそう語る。
一体、誰が協力してくれると言うのだろうか……?
「どれどれ……これってファストリア大陸よね? ゲート最寄りの大陸に潜むつもりなの? 危険じゃないのかしら」
「大丈夫、一応長年見つかってないアジトの一つだから。それに、協力者はこの大陸にいるんだ。だからお願いね」
「へぇ、あの大陸ってまだ他にもアジトがあったんだ」
「まぁねー! 今回、無事にフェアウェルの瞳を奪えたのは本当に大きい。この魔導具の存在は、本来許されていない物なんだ。だから……絶対協力してくれる」
その協力者を信頼しているような口ぶりだが、俺はちょっと心配だな。
なんかもう、誰かを新しく信じるのが難しいんだよ。色々あり過ぎて。
「チセ、私はファストリアに到着した段階で地球に戻ります。くれぐれもリョウカに宜しくお伝えください。無論、先程夫を殺す算段が付いたと語っていた不届き者についても」
「分かりました。義姉さん、兄によろしくお伝えください」
そっか、やっぱりイクシアさんと会うつもりはないのか。
なんか雰囲気が似ているし、良い友達になりそうなのになぁ、残念。
そうして、俺達は特に待ち伏せをされる事もなく、無事にゲートを通過する事が出来た。
この先で、きっと汚名を返上出来ると、失った信頼を取り戻せると信じながら、俺はもう慣れっこになってしまった身体の変化の痛みに耐えるのであった。
(´・ω・`)これにて十二章は終わりです
次章は来年になります、良いお年を。