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第百五十四話

(´・ω・`)こんな日のこんな時間に予約投稿してもリアルタイムで読める人いないだろうけど……きっとみんな恋人と過ごしているだろうからね。

 この日、俺は術師団迎え入れの為、朝から基地空港でカイ達と共に飛行機を待っていた。

 学園の制服に身を包むカイ達を見ると、少しだけ懐かしいという思いが去来する。

 ところで、俺ってこういう場で着る服がないから元々この変装道具一式に内蔵されていたスーツに着替えているんだけど……自分で言っちゃ何だけどめっちゃ美人だよな。

 リョウカさんとお揃いのスーツって感じだし。


「リオはその服で良いんですか?」

「うん。一応グランディアの良いところの子供が通う学校の制服だから」


 リオちゃん、なんか凄い小学生感出てる制服でした。基地のお偉いさんが思わずにんまりしてしまう可愛さです。

 そうして空を眺めていると、飛行機ではなく輸送ヘリのようなシルエットが現れた。


「へぇ、あんなに速度が出るのにああいう形なんだ。グランディア産ではないんだよね」

「うん、向こうの空は魔神龍様の領域だからね。地球産の筈。ただ、たぶん開発にグランディア、研究院が関わってるんだと思う」

「ユキさんの飛行機も、地球のデザインとは違いますよね」

「……私語を慎みなさい。そろそろ着陸です」


 大きさの割に騒音の少ない輸送ヘリが着陸し扉が開くと、ローブ姿の一団が現れる。

 基地代表の人間が挨拶に向かうと、会話もそこそこに早速『植樹地へ案内をお願いします』と言い切った。

 接待、歓待は無用だと言わんばかりに先を急かす術師団。

 そしてそんな一団を囲むように、俺とリオちゃんを含むSSの生徒が同道する。


「……おや、貴女はエルフですか」

「はい」

「その髪……ハーミットの出身ですか。地球にいるとは珍しい」


 術師団の代表と思しき、先頭を行く人物がセリアさんに話しかける。

 どうやら、以前聞いたようにセリアさんの髪色、金髪やそれに近い髪色は一目置かれる存在のようだ。


「国に戻るように打診もされました。ですが、今回の魔導具防衛に志願した次第です」

「ほう、となると……あの少年が再び現れると踏んでいると。我々としては、あの少年や背後組織も気になりますが……むしろ『シャンディ』の連中を警戒しているのですよ」

「えっと……しゃんでぃとは?」

「ふむ……どうやら長い事首都には関わっていないようですね。まぁ危険思想を持つ集団ですよ。今回の魔導具を奪う為、既に研究院も襲撃に遭いました。ですが、地球で既に使われていると向こうに知られた以上、こちらが襲われる前に回収しようと」

「そんな組織が……」

「見たところ貴女はかなり保有魔力も多い。よければ我々と研究院に向かいませんか?」

「それは……魔導具が無事に回収されたら考えてみます」


 ……ふむ。本当に随分と過激な組織なようだ。

 つまり既にグランディアで武力行使を行っているのか、その連中は。


「今回、懸念されているあの少年が現れたとして、貴女達は撃退が可能なのですか?」

「……私達だけでは難しいでしょう」

「で、しょうな。我々の長であるセシリア様より、もしもあの少年が現れた際には『生きて捕えて来い』と仰せつかっています。万が一にもあの少年が命を落とすとは考えていないご様子でしたよ。こちらの方で捕縛術式を用意してありますので、時間を稼ぐ事だけに注力してください」


 セシリアが俺に対して言及していた……?

 俺が苗を破壊した理由について聞きたいのか……?

 ダメだ分からん。けど……油断は出来ないか。俺を生け捕りにする為の対策をしてきたと言うし。


「アイツを生け捕り……ですか? セシリア様は苗を破壊されてアイツを憎んでいるのではないんですか?」

「憎いですよ、勿論我々も。しかしセシリア様の意向を無視する訳にも行きません。それに……王宮側でも、少々かの少年を擁護する動きがあります。ここで研究院と王宮とで無用な争いの種を生む訳にもいきませんから」

「そんな……どうして王宮が……」


 それは俺も気になるな。てっきりエルフ全体を敵に回したのだと思っていたのに。


「……どうやら、想像以上にユウキには味方が多いようですね。殺すつもりだったのですけどね、最初は」

「失礼ですが、貴女は?」

「こちら、アイツ……ササハラユウキの姉弟子です。確実に、アイツよりも強い人間です」

「はい。こちらも雇い主から殺害は避ける様に言われていました。ですので今回は目的が一致しています。個人的には……その『シャンディ』という組織について尋ねたいのですが」

「なるほど姉弟子……秋宮にはまだ隠し玉がいたという訳ですか。シャンディについてですが、現在分かっているのは『主要メンバー全員が常軌を逸した力を持つ地球人』という事だけです。既に研究院を初め、一部地球との交流を図っているグランディアの企業を幾つも襲撃、死者も出している過激な組織です。まぁ表向きは発表されていない事件ばかりですが」

「それを、ここで話してしまっても?」

「彼の組織の動きは近年激しくなっています。知れ渡るのも時間の問題ですから。さもすれば、苗の破壊の裏にはあの組織が関わっていた可能性もあります。我々が事件後に調査をした段階で、植樹地周辺にはおびただしい量の炸裂術式や地球の破壊兵器が仕込まれていました。あれが使われていなくて本当によかった。使われていたら魔導具『フェアウェルの瞳』も破壊されていたでしょうから」


 なにやらセリアさんが考え込んでいる様子だが、俺達は無事にドームへと辿り着く。

 打ち合わせ通りドーム内にいるのは最低限の人員、施設の管理者程度しかいない。

 これで、後は術師団が魔導具、フェアウェルの瞳を取り出すのを待つのみだ。

 ……そして、リオちゃんの読みが正しければ――


「ここが植樹地です。この地点に魔導具が埋蔵されているのですね」

「ええ。しかし、短期間で基地を始め、ここまで大規模な施設を建造するとは、驚きですね」

「そうですね、私も驚いています。ですが、そもそも最初から建造していれば苗を破壊される事もなかったのでは? とも思えますね」

「いえ、それは難しいでしょう。慎重に調整を重ねて作られた場所ですからね、本来は土地を荒らす様な行為は植樹地を汚す事になる。今回は既に苗が失われたからこそ、建造に踏み出したのでしょう」


 へぇ、そういうものなのか。


「お前達、儀式の用意をしろ」


 すると、代表の掛け声と共に術師団が植樹地を取り囲み、何やら呪文を唱え、地面に向かい手を突き出し始めた。

 地表を見つめてみれば、一か所から何やら赤い光が漏れているのが見て取れる。

 やがてそれが、じわじわと地表に現れてくる。

 土が盛り上がったりした様子はないが、どういう仕組みなのだろうか。


「回収ケースを用意しろ」

「少々お待ちください」


 現れたのは、名前の通り瞳のような丸い球体だった。

 金属と木を組み合わせたかのようなボディからは微かに赤い光が漏れ出しており、それを大きめのガラスの器に収め、さらにガッチリとした金属のフレームで覆う。

 これで、無事に魔導具は回収された訳だ。


「……リオ」

「……うん、一人おかしい」


 視界の隅で、一人の職員が施設の扉の開閉スイッチを操作しているのが見える。

 術師団がこの場を後にしようとしたタイミングで、案の定扉が閉まり、閉じ込められてしまった。


「全員、術師団を守れ! リオ、扉の職員を拘束!」

「な……どうしたと言うのです」

「扉を閉める予定なんてありません。これは敵方の何らかの狙いがあると見て間違いありません」


 そうこちらが宣言すると、リオは職員の一人を拘束、そのままこちらに連れて来た。


「こいつ、たぶん軍人じゃない。君さ、もしかしてシャンディの人間? 私達閉じ込めてどうするつもり?」

「知らない! 私はただ指示通りに動いただけだ!」

「はい、じゃあまず腕一本」

「あああああああああああああ!!!」


 あっさりとリオちゃんが腕を折る。文字通り折る。関節が一個増えたかのように。

 その冷徹さに周囲がたじろぐも、それでも男は口を割ろうとしない。


「ん-……洗脳されてたっぽい? はい、じゃあ回復――」


 だがその時だった。俺達の頭上から、大きすぎる轟音が鳴り響き、その強烈さに皆膝を折り蹲ってしまう。


「これは……ドームの外……?」

「外部から破ろうと……? 扉を閉鎖した癖にどうして……」


 ……逃がさない為だ。これは中にいる人間を皆殺しにする時に使う常套手段だ。

 袋のネズミにしてしまうこのやり方は……俺も、使った事がある。

 外部からドームを破ろうという動きがある以上、プラン通りに……リオちゃんによるドームの内部からの爆破が行われる。

 轟音が鳴り響く中、今度は内部から爆破音が鳴り響き、あっさりとドームが崩落。

 その壊れた屋根から、見知らぬコンバットスーツを纏った集団が顔をのぞかせる。


「ふふ、じゃあねユキさん。私はあっちに行くね」

「な! どういうことですか、リオ!」


 これ見よがしにそう声を上げて、こちらを一瞥してリオが襲撃犯の元へと向かう。


「なんだ貴様は」

「このドームを内から爆破した人間だよん。私の事知らない?」

「……想定よりも早く破壊出来たと思ったが……」


 リオが接触を試みている。そして、その様子を目撃した俺達は――


「……これは私が出るべきでしょうか。ユウキ程ではないにしろ、リオは強敵です。どうやら……私は獅子身中の蟲を呼び込んでしまったようです」

「じゃああの子は……敵って事ですか!?」

「そう見て間違いないでしょう……まさかこんな術式を仕込んでいたとは」

「私の所為だ……私があの子をドーム屋根に近づけたから……」

「ユキさん、僕達で勝機はありますか?」


 全部、想定通りの流れに事が運ぶ。


「三人でかかれば或いは……リオは術者としても一流です。セリアさん、貴女は後衛に回ってカイ君とカナメ君で攻めた方が得策です。私は……術師団の皆さんを連れて退避します」

「いや、それには及ばない。我々だけで充分に逃げ切れるだろう。君も主力ならばあの賊の討伐に――」


 その瞬間、リオから放たれた極大の斬撃が、ドーム内部を縦断するかのような深い斬撃痕を残す。

 まるで、一歩でも動けば全員殺すとでも言うかのように。

 ひぇ……こんなんジョーカーの技みたいなものじゃないか……。


「私が護衛します、良いですね」

「あ、ああ……その方が良さそうだ」

「三人共、リオを頼みます。他の取り巻きはこちらで抑えながら退避します」

「お願いしますユキさん! 行くぞ、二人とも!」


 うまくやってくれよ、リオちゃん!




「離れてください、扉を破壊します」


 閉じられた扉は、やはり施設の重要度に比例するかのように強固な物で、開錠には時間がかかりそうだった。

 それに何やら紋章が浮かび上がっている。こんな仕掛けは知らないぞ、俺。


「ダメだ、対魔力防壁だ。魔法で破るのは不可能だと思った方が良い!」


 俺はリョウカさんに渡された刀を腰に下げ、慣れ親しんだ抜刀の構えを取る。

 今なら、もっと上を目指せる。再現は更に上の段階に到達できる。

 これまでの経験、戦いを経て俺は自分の力をしっかりと自覚しているのだ、これくらい出来るだろ。


「フッ」


 抜刀と共に、剣圧を放つイメージ。風の斬撃を生み出すイメージ。かつて、カイとの戦いで空間ごと物体をぶった切ったイメージ。

 それらをすべて総動員し、俺は記憶の中にあるゲームの技を再現してみせた。


「……再現完了」


 無数の軌跡が空間に、扉に浮かび上がる。

 風絶とも違う。魔導ではなく、本当に剣圧で対象を切り刻む。

 扉が一瞬でバラバラに切り裂かれ、こちらの進路を邪魔していた一切が取り除かれる。


「……地球人がここまでの技を……」

「感心している暇はありません。恐らくドーム外にも敵の勢力が待ち構えている事でしょう。敵対者は全員切り伏せますが、貴方方も防御の魔法の使用準備を」

「ああ、分かった」


 恐らく扉を締めた事でこちらを袋のネズミにしたのだろうが、絶対出口にも兵を配置しているはずだ。

 出来れば、この騒ぎを聞きつけて基地の人間が集まって『いない』方が良いんだが……。


「な……これは……」


 だが……その願い虚しく、ドームの外に広がっていたのは、敷地を埋め尽くさんばかりの血と肉片の海だった。


「おいおい、中から人出て来てんじゃん。って……術師団逃がしてんのか隊長、何やってんだよ」

「班長、どうやら引率をしているのはデータにない人物です。ご注意を」

「SSの連中よりつええって事はないだろ。おら、とっとと殺して奪っちまえ」


 そこにいたのは、この惨劇を生み出してであろう……『たった二人』の男女だった。

 若い。たぶん俺達とそう変わらない歳だろう。それに見たところ地球人、それも日本人だ。

 こんな奴が……俺達以外にもいたのか。

 班長と呼ばれた男は、自分が今殺した基地の人間を放り投げ、近くのベンチに座り、部下とおぼしき女性に指示を出す。


「出来れば抵抗はしてもらいたくありません。大人しくカプセルを渡し、武器を捨ててください」

「ソイツの指示に従え。どうせ死ぬ、だったらサクっと逝った方がまだ救いがあるんじゃねぇか?」




 ……まぁ、だからどうしたって話だ。

 今現在可能な最高速度で接敵、そして――ベンチごと隊長の方をぶった斬る。


「は?」

「……油断大敵」


 ベンチが左右に割れる。無論、その利用者もろとも。

 きっとお前あれだ、ゲームなら結構良いポジションの敵キャラだったんじゃないか?

 中盤のボスとか、主人公のライバルポジションみたいな。

 でもな……悪いな、俺はゲームで言うところのステータスMAXチート使ってるような物なんだよ。

 ガチで殺そうと思ったらこうなるんだよ。

 殺す気になれば、俺はたとえクラスメイト達でも歯牙にもかけない程度には強いんだよ。

 そしてどういう訳か……この刀、恐ろしくよく斬れるんだよ。


「班長!? 班長!? 嘘ですよね班長!」

「黙れ」


 首を斬り飛ばす。皮肉な事に、秋宮の魔剣として、騙され酷使されて来た経験は……俺を強くした。

 強くしてしまった。

 手に入れてはいけない類の強さを、俺に刻み込んでしまったのだ。

 躊躇も葛藤も、慈悲も手心も、感情のスイッチ一つで全て捨て去る事が出来る化け物にしてしまった。


「先を急ぎます。正直、被害の規模が予想以上です。最悪……空港の輸送ヘリが襲われている可能性もあります」

「な……いや……お前達を責められはしない……か。連中の強さは我々がよく知っている。よく倒せたものだな……貴殿の名は?」

「今はそんな話をしている場合ではないでしょう。その魔導具を無事にグランディアまで輸送する。その為に私は命を懸けて貴方達を守っているのですから」


 そう、さも当たり障りの無い、良い人間のようなセリフを吐くと、術師団は心なしか、バツが悪そうな表情をしだす。

 知っているさ。その魔導具、本当なら今すぐにでも破壊してしまいたいんだろ?

 調べられたら不味い情報が沢山秘められているんだろ?


「発着場へ急いでください。さすがにこれだけの惨状、あの二人だけで起こしたとも考えられません」

「いや……十分に考えられる。申し訳ないが地球の人間は個人個人の戦闘力があまりにも低すぎる。だが……あの連中は別だ。明らかに、グランディア人をも超える力を振るう。そう……今の君のように」

「それは……」


 それは、俺が特別だから。でもそうじゃない。

 ロウヒさんも言っていたではないか。

『本来魔法なんてこの世界に存在しない』と言っている組織なのだと。

 だとすれば、俺と同じような力を持っていてもおかしくはないではないか。

 もしかしたら、今俺が殺した二人もそうなのかもしれない。

 もしかすれば、今ドームを襲撃している人間の中にも、そんな強さを持つ人間がいるのかもしれない。


「……輸送機へ急ぎます」


 だがそれでも、今はみんなの強さを、そしてリオちゃんの采配を信じる事しか出来ない。

 恐らくそろそろリオちゃんも撤退を意識して動き始めているはずだ。

 俺は血の湿地帯と化した基地内を駆け抜け、空港へと向かうのだった。


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