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第百五十一話

「ここが元植樹地です。今はこのドームに覆われていて、厳重に警備されているんです」

「なるほど。ドームの材質や防御機能については説明出来ますか?」

「それは私から。私も協力したんですけど、ドームの材質その物は基地と同じ一般的な建材です。建設期間が短かった関係で特殊な素材は用意出来なかったみたいです。ただ、それでも強度は軍用の資材ですから一般的な建物よりは上ですね」

「しかしそれではユウキ、あの愚弟クラスの人間の攻撃には耐えられないでしょう」


 基地の案内を終えたカイ達は、次に基地に併設されている植樹地……を、全て覆ったドーム型施設に俺を連れて来てくれた。

 こんな短期間でここまで大きくて立派な建物を建造できちゃうあたり、やっぱり魔法の力って偉大だな。


「……はい。ですが、私とデバイス開発企業の人間が協力して紋章術式を刻印して強度を大幅に向上させました。外部からの魔力的なダメージは七割程軽減出来ます。アイツの魔導でも数発は耐えられると思います」

「魔導? どの程度のものです」


 それは、俺の奥義とも呼べる『タイラントブレス』の事だった。

 マジでか。あれってちょっとした砦なら塵にしちゃうような威力あるって聞いたけど。


「なるほど、では物理的な衝撃に対しては?」

「そうですね、傷をつける事や穴をあける事は出来ます。ただそれを人が通れるくらい大きな物にするとなると……」

「僕も一応強度テストに参加したんですけど、人間が全力で攻撃しても人が通れるような穴には出来ないと思います。大量のミサイル、戦車砲でならもしかしたら……っていう程度です」

「なるほど。地球の軍事兵器を秘密裏にあの愚弟達が用意、配備できるとも思えない以上、これで十分と判断したのですね」


 なるほど。しっかり対策済みと。

 確かにここまで広範囲に基地を建設したり軍を配備されたら、兵器関連の配備は難しそうだ。

 すると、今の話にリオちゃんが気になるところでも見つけたのか、手を上げる。


「そこまでの魔術抵抗を一般的な素材に付与するのって難しくない? もしかして両面に対外衝撃術式刻み込んでる?」

「うん、正解。両面に刻んでるよ。だから内側からの魔力衝撃にはそこまで強くないんだ。でも要は内部で戦闘を起こさなければ良い話だからね。それに仮にテロリストが狙うなら、回収して外に出た後だと思うし」

「ふーん、内部に入り込まれない自信があるんだね。おっけー分かった」


 なるほど。ナイスだリオちゃん、更に情報が引き出せた。


「ところでリオちゃんだっけ? 魔術にも詳しいのかな?」

「さすがに元聖女候補さん程じゃないよ。ただ、私の場合は北方式、ホワイトエルフとか北方魔族の体系で学んできたから、感覚的な面が強いかなー」

「あー……なるほど。ならちょっとドームの屋根の術式、確認してみる? 何か気が付く事があるかもしれないし」

「いいの? じゃあお願いしようかな。サーディスの英才教育を受けた人間の術式って興味あるんだよね。私達と違って理論重視で無駄がないし」

「そういえば……私のクラスメイトで今はいないけど、北方魔族の術者もいたんだよね。あれはかなり感覚重視だったなぁ……」


 へぇ、それは初耳。確かにアラリエルは理論って感じじゃないからな。

 じゃああの闇魔法は感覚で使っていたって訳か。

 少し前に調べた事があったのだが、北方魔族もホワイトエルフも、共に神話時代の存在である『魔王』と『女神』の血を色濃く引いた種族の事らしい。

 R博士とか、その女神の血を強く引いた人なんだろうな。

 ……魔王の方はヨシキさん本人らしいし。


「ユキさん、私はちょっとドームの天井見て来るね。ユキさんはどうする?」

「そうですね、一通り案内も終わったようですから、どこかで休憩でもしておきます」

「あ、だったら一応基地内にもカフェがあるのでそこで……」

「ふむ。朝の騒動の影響で私が行っては落ち着けないでしょう。どこか適当な場所で過ごしますよ」

「なるほど、なら良い場所がありますよ。カイ、僕らの宿舎側に自動販売機が沢山ある場所があるだろう? あそこならテーブル席も多いし空調も効いてるから行こうか」

「ユキさん、それでいいですか?」

「では、そこでお願いします」


 なるほど、穴場か。


「リオ、聞いていた通りです。セリアさん、終わったらリオを案内してきてくれますか?」

「分かりました。じゃあ、リオちゃん行こうか。ちょっと非常用階段上るから恐いかもだけど」

「だーかーら、これでもセリアちゃんと同じくらい生きてるんだってば」


 なるほど? じゃあ三〇年は生きていると……。

 やっぱり長命なのかね、リオちゃんも。

 そういえば、コウネさんも寿命が長いみたいな事言われてたっけな。

 ……あれは御先祖がフェニックスの肉を食べたからって聞いたけど、さすがにお伽噺の類だよな。




 カイとカナメに連れられ基地の宿舎、俺とリオちゃんとは違う場所にあるカイ達の部屋の近くに向かうと、結構しっかりと席が用意された、ちょっとした屋内カフェのような場所に辿り着いた。

 で、自動販売機の数がえぐい。そりゃ利用者が多いだろうとは思うが、それにしたって……。


「何か買ってきますよユキさん! 何が良いですか?」

「自分で決めます。この数は興味深いので」


 カイ、お前……さすがにこう、なんというか……忠犬が過ぎる。


「確かに見た方が面白いかも。ここ、いろんな国が一つの軍として共同で作った基地ですから、いろんな国の飲み物があるんですよ。僕のおすすめはアメリカのドキツイ色とわざとらしい味のブルーベリーソーダかな」

「なるほど、候補に入れておきます」


 カナメってそういえば、結構飲み物に詳しかったような気がする。

 学園の自販機のジュースの事にも詳しかったし。


「な、なら俺もおすすめがあります! バンダバーグブリュードっていう、オーストラリアのメジャーなドリンクです。ジンジャーエールの凄い濃厚な感じっていうか……」

「……なるほど、その土地の物を知ろうとするのは良い心がけです。ではそれにしましょう」


 普通に気になる。すると、どうやらカナメも同じ物を買う事にしたらしく、三人で同じドリンクを手に適当な席に座る。


「……ふむ、美味しい」


 凄いショウガの味が強い! そして甘すぎなくて普通に好みの味だ。

 うーむ……ピザとかから揚げと一緒に頂きたいですなこれは……。


「ユキさん、世間話とかしても大丈夫ですか?」

「どうしましたかカナメ君。別に、私も常時ダーインスレイヴとして動いている訳ではありません。先程の場合は例外ですけれど。何か聞きたい事でも?」


 すると同じくこの美味しいジュースをごくごくと一口で大量に飲んでいたカナメが、少しだけ申し訳なさそうに話しかけてきた。


「さっきは失礼しました。どうしても、自分より強い人に対して好奇心を抑えきれなくて」

「……まぁ、その気持ちは分かります。それで、何か聞きたいのですか?」

「はい。もう知っているかもしれないですけど、僕ってユウキ君やユキさんと同じ県出身なんですよ。ユキさんの住んでた場所はどのあたりなのかなーと」


 あ、そっか。そういえば同郷だった……気になるのも当然なのかね……?


「私は幼い頃、確か八歳までしか住んでいませんでした。かなり早い段階で裏の世界に身を置く事になりましたから。住んでいた場所はユウキの家の近所ですよ。彼の祖父の弟子として指導を受けていました」


 The 作り話。とりあえず矛盾が生まれない程度に……。


「そうだったんですね。じゃあもしかしたら、どこかですれ違った事もあったかもしれませんね」

「あ、あの! ユウキもユキさんもユウキのお爺さんの弟子なんですよね? なんでユキさんだけ早い段階でこういう世界に……?」

「それは、私が常軌を逸した才能を持っていたからです。ユウキの祖父も早い段階で『自分では教える事はもう出来ない』と悟ったのでしょう」

「……そんな子供の時代に……」


 だ、大丈夫だよな? おかしいところはないよな?


「ユキさんってプライベートではどんな風に過ごしているんですか?」

「女性にプライベートを簡単に聞くものではありませんよ。まぁ私は任務に関係する行動しかとりませんが」

「し、失礼しました……」

「じゃあ僕の質問もプライベートになるのかな……好きな食べ物とか聞きたかったんですけど」


 ……なんなのこの時間。なんかこう……気分的に転校生になったような気分なんだけど。

 それに好きな食べ物って……ユウキとして答える訳にもいかないよなぁ。


「……おでん、でしょうか? こちらは丁度夏ですが、日本は今冬に入ろうとしています。寒い季節のおでんは私の好物の一つですね」


 これ、実は俺の好物の一つです。が、時期限定なので公言はしてないんです。

 いやぁ……もし海上都市でモタつくような事があったら、それこそ晩御飯にでもおでんを食べに行きたかった。海上都市にも屋台が集まる区画があるって聞いたので。


「おでん! 良いですね、僕も好きです。カイ、前に話したと思うけど、港区には屋台が夜になると集まる場所があるんだ。前にアラリエル君に聞いたんだけど」

「へぇ、初耳だなそれ。じゃあおでんの屋台もあるのか?」

「うん、実は結構有名な屋台があるんだ。ユキさん、知っていますか?」

「……いえ、初耳です。海上都市には数えるくらいしか訪れた事がないので」


 やっぱりあるのか……しかも有名なおでん屋台だと……!?

 おでんの屋台ってドラマとかアニメでは見た事あるけど、実物って見た事ないんだよなぁ……ちょっと憧れるぞそれ。


「……行ってみたいな」


 しまった本音がそのまま出てしまった。


「ユ、ユキさんも興味あるんですね!? じゃあ、この任務が終わって日本に戻ったら、その……一緒に行きませんか?」

「あ、僕も行きたい」

「……ああ、カナメも一緒にな」


 そこ、露骨に嫌そうな顔すんな。


「おでんの具は何が好きですか? あれって地方によってメジャーな具が違うらしいですよ」

「そうなんですか。私は……やはりがんもどきでしょうか」

「王道ですね。僕は牛筋かな」

「俺それ知らないな。俺もたぶんメジャーだけどジャガイモかな」


 ……へ? おでんにジャガイモって入るの? 初耳なんだが。


「……ジャガイモは初耳です」

「僕も初めて聞いたかな。カイって生まれも育ちも関東なんだっけ?」

「あ、ああ埼玉生まれで、高校に入ってからは千葉だけど……まじか……ジャガイモって入れない場所あるのか……」

「へぇ……興味深いですね」


 ふいに、こういう他愛ない会話をまたこいつらと出来るのが、とても嬉しいと感じている自分に気が付く。

 ……そっか。リオちゃんが俺を気にかけてくれたのは……こういう気持ちが任務の邪魔になるかもしれないって思っているからなのか。

 うん。きっとこれは枷になる。それは俺にも分かる。

 でも、こうしてこいつらと話すのが……たまらなく嬉しいんだ。


「……もしも、全てが終わったら。ユウキ君の事件も、もしも大きな秘密があって、本当はユウキ君が悪人じゃないって認められたら。……その時は、彼もいっしょにこうやって話せる日が来るといいな、って思うのは、やっぱり甘いって思いますか、ユキさん」


 カナメ……お前、そんなに俺が戻ってくることを望むのか?

 俺、そんなにお前に気に入られるような事、してこなかったと思うんだけど、何かカナメの琴線に触れるような事をしたのだろうか?


「カナメ君もカイ君も、随分とユウキを慕っている様子ですね。あれがそこまで慕われるとは思っていませんでした」

「ユウキ君は僕の最初の友達ですから。中等部まではそれなりに話す知り合いはいましたけど、高校で東京に出てからは、友達って呼べる人は誰もいませんでした。その所為だと思います、僕が彼に拘るのは」

「俺も……同性で敵わないなって初めて思えたのがユウキでした。それに……俺がライバルだって勝手に思ってるのも、ユウキですから」


 ……そっか。


「きっと、ユウキに事情があったとしても、私とユウキが共に過ごす日は永遠にやってこないでしょう。ですが……貴方達の元には、戻って来る日が来るかもしれませんね」


 ……ま、さすがに同時に俺が存在する未来はやってこないさ。だって同一人物だし。

 俺のその言葉に、二人はどうやら『ユキさんは永遠にユウキを許す事はない』と受け取ったのか、少しだけ悲し気な表情を浮かべていた。


「私も、たぶん許すのは難しいですけどね。……戻って来ても、たぶんもう友達には戻れないです」


 するとその時、第三者の声がかけられる。

 ふりかえるとそこには、セリアさんとリオちゃんの姿があった。


「ええ、きっとそうでしょう。ユウキも、覚悟の上で行動を起こしたのでしょうね」

「ただいまユキさん。あ、さっき相部屋の申請しておいたから、今夜からは一緒の部屋だよ」

「なるほど、了解しました。リオ、ドームの様子はどうでした?」

「やっぱり綺麗にまとまった良い術式だったね。一応、内側から破壊しやすい箇所を調べておいたから、もしもの時はどこを重点的に守ればいいかまとめておいたよ」


 つまり、任務の際はそこを破壊して逃走すればいいと。

 抜かりないね、流石に。


「リオちゃんって凄いですね。一目で術式のウィークポイントが感覚でわかっちゃうんですよ」

「まぁねー。まぁその対策を練るのに時間がかかるんだけどね」


 二人が合流し、引き続き世間話に興じる。

 先程の屋台の話や、日本食の事。

 リオちゃんやセリアさんは日本食に詳しくない関係で、どんな食べ物があるのかと会話が弾む。

 そんなありふれた日常。

 だが、そんな日常から非日常に引き戻す報告が、俺達になされたのであった。


『グランディアから魔導具の回収にサーズガルド大陸から術師団がやって来る日程が正式に決まった』という報告が――


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