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第十四話

(´・ω・`)二章開始です。今日は十九話まで投稿予定です

 大学の講義というと、予めバイトのシフト表のように自分で受けたい講義を決め、数カ月ごとのスケジュールを自分で決めて単位を修得していくものだと思っていたのだが、どうやら特殊な訓練校であるシュバ学では、少々変則的な授業形態をとっているそうだ。

 まず、クラスが存在する。まぁクラス分けがある大学自体は割と多いのだが、その意味合いが違う。

 これは入学時の能力に応じて割り振られ、一種の部隊振り分けのような意味合いがあるのだそうだ。それ以外は大学と同じように自分で受けたい講義を選び、クラスを受け持つ講師とそれについて話し合い決める、と。

 ただ、クラス単位で行う実技訓練や授業も存在しており、クラスのレベルにあった戦闘訓練や座学が行われるそうだ。

 また『学部』という括りで分けられる事はなく、自由にどの講義も受けられ、自分が望む分野の時間割を自由に作り『技術分野に秀でた後方支援の術師』のような複合的な将来像を作り学ぶ事も出来る、と。実に悩ましい。俺はどうするべきか。


 クラスは本来なら一学年につき五つで、普通入試で合格ラインを無難に突破した生徒が所属する『D』クラスと『C』クラス。序列で言うならば一番低いらしいが、それでも普通の訓練校ならばトップクラスの成績を持つ人間だけで構成されている。

 次が『B』クラスと『A』クラス。ここからは本当に一人一人が未来を担う、成績優秀者ばかりがそろえられており、ここに割り振られた段階で人生勝ち組、とも言われている。

 ちなみにこれはネットの掲示板で書かれていた事で、信憑性は……まぁそれなりにあるのだろう。

 元々受験する事そのものが難しく、ある意味受験できただけで凄く光栄な事だと言われている学園だ。大半が有名企業役員の跡継ぎだったりするくらいだし、ある程度のコネも必要になってくると。

 勿論、中には秋宮の関係者に見いだされて受験資格を得た一般的な生徒もいるらしく、俺も一応名目上はそういう事になっている。よかった、俺が唯一の庶民じゃなくて。

 そして残りが、お約束のように存在している『S』クラスだ。

 これはもう生まれにより未来が約束された良家の人間であり、なおかつ非常に希少な召喚を成功させていたり、生まれつき優秀なスキル、技術を継承していたりと、文字通り『全て』を持って生まれた人間だけが所属出来るクラスだ。

 俺が実技試験の見学にいった際に見た受験生の大半がここに所属するらしい。

 いや実に羨ましい。エリートを通り越して文字通りの上級国民である。


「とまぁ、これがパンフレットとネット上の情報を総合したシュバ学のクラス評価です」

「ふむ……それで、ユウキが所属する事が決まっているというクラスはどれなのでしょう」

「ええと、今言ったどれでもないんです。今回新たに増設された残り一つが――」


 最後にもう一つ。秋宮総帥から以前説明された通り、選ばれた人間の為のSクラスですら力不足となるような、既に実戦経験を積み、非凡な才能と力、普通の教員では何も教える事が出来ないような優秀『過ぎる』能力を持った『異質、異才、異能』と判断された生徒だけが所属できる『SS』クラス。これは別にSが二つでSより上という意味ではなく『Strange Student』直訳すると『変な学生』という散々なネーミングではあるが、そういう意味らしい。

 まぁ『SS』というあからさまなネーミングによる反発を抑える為の方便だとは思うが。


「――が、俺の所属するクラスですね。極々少数のクラスらしくて、俺を含めて八人しかいないみたいですよ。ただ、他のクラスからもしかしたら編入して増えるかも、と」

「なるほど。それで……入学式にユウキは出席出来ないというのはどういう事なのでしょう……うちの子だけ仲間外れと言うのは……正直あまり良い気分ではありません」

「あはは……俺って変則的な入学だったみたいだし、まだ納得していない関係者もいるみたいで。余計なトラブルの元になるよりは、別室で学園について詳しく教える席を設けた方が俺の為になるだろう、っていう話です。それに実際その方が良いって俺が同意したのが決め手だったので」


 生徒の保護者、即ちあらゆる企業、名家、派閥の人間が一堂に介する場でもある。

 そこに行って、もしも『知らない人間が生徒に混じっている』と気づかれて面倒事に巻き込まれるのは嫌なのです。誇張表現なしで、全生徒の事を把握しているヤバイ家の人達がいるらしいですよ? なんか普通に諜報部隊みたいなのを自分の家で持っていたりとか。


「……では、私も入学式に出席する理由もないのですね……ユウキの制服姿を見たかったのですが……」

「まぁ……確かに制服って式典の時くらいでしか着ないみたいですし。普段は私服登校だから……」

「むぅ……では今着て見せてくれませんか? スマート端末でお写真を撮影して後で引き伸ばしプリントなる物をしてもらいます。私の部屋の扉に張りますので」

「……扉の内側に張るなら良いですよ」


 最近、イクシアさんの俺の扱いがどんどん『小学校に上がる間近の幼稚園児』のようになってきている気がする。昨日だって『緊張していませんか? 一緒に眠りましょうか?』などと、ついつい『お願いします』と言ってしまいそうになる提案をしてきたくらいだ。


「あ、でもやっぱりイクシアさんも入学式に来てくださいよ。この学園ってグランディア出身の生徒も多いみたいですし、イクシアさんも目立ちませんよ。何よりも入学式が終わったあと、そのまま外食に一緒に行けますよ? 実は都市部の方に美味しいお寿司屋さんがあるみたいなので、そこにいけたらなーと」

「なるほど……そういう事でしたら行きましょうか。ふふ、確かに特別な日ですからね。お店の場所はユウキが知っているのですよね? ならば予約等はお願いします」

「ええ、勿論です。じゃあ明日、お願いしますね」


 そう。入学式はもう明日まで迫っている。

 イクシアさんは既に明日着ていく衣装、燕尾服をクリーニングから引き取ってきており、居間に準備している状態だったのだ。本当はもっと早くこの話、俺が入学式に出席出来ないという話をするべきだったのだが……教えられたのは先程電話で突然、だったので。

 しかもニシダ主任ではなく、秋宮総帥自らである。なんで電話番号知っていたの? 恐い。

 ただ物凄く申し訳なさそうかつ、お詫びとして学食の一年間無料利用券を頂いたのでチャラにしたいと思います。さすがにイクシアさんに毎日お弁当を作ってもらう訳にもいかない。イクシアさん、実はまだ料理一品を作るのに時間が大分かかってしまうのだ。

 ……一緒に俺が作ろうとすると、喜びながらも『ダメです』って断るんだよなぁ……。

 自分の修行の為にも、もう少しだけ一人で頑張りたいのだそうだ。

 実はまだ包丁の扱いが俺よりも若干ヘタッピなのである。剣は扱えるのに。

 とにかく、イクシアさんの為にも一度制服に袖を通すことにした。




「おお……よく似合っていますよユウキ。ふふ、なるほど……やはり嬉しいものですね。なんだか急にユウキが大人になってしまったみたいです」

「いやぁ……そもそも出会った時点で一八だったので、そろそろ子供扱いは――」

「……ダメですか? ユウキは私の子供です、もう少し……もう少しだけ良いではないですか」


 ダメとは言えないです。そんな儚い笑顔を向けられると。一応戸籍上では母になっているのだし。……うむ、照れくさいし恥ずかしい。だがここは俺が慣れるべきなのだ。うん。


「さ、もっとよく見せてくださいユウキ。そう……ふふ、手をもう少し身体に付けて……脇をしめて……では撮影しますよ――」


 本当に、嬉しそうで。変に恥ずかしがる自分が馬鹿みたいに思えてくる。

 いいではないか。こんな素敵な家族がいて、むしろ誇るべきではないか。


「イクシアさん、一緒に撮りましょう。タイマー機能もありますから」

「なるほど、分かりました。…………よし。ではユウキ、少し右に」

「はい。はは、やっぱりまだ俺の方が少し背が低いですね」

「ふふ、きっと卒業する頃には追い抜かれていますよ。さ、口を閉じて――」


 伸びると良いなぁ、身長。




 入学式当日。保護者の大半が政財界との関りがある上流階級の人間であり、待ち時間を体育館や講堂のような場所で過ごさせておくなんて事が出来るはずもなく、本来学園にはあるはずのない施設、大規模なラウンジにて保護者同士の交流が行われているそうだ。まぁ自分とは無縁な世界の話なので詳しくは知らないが、とにかく俺は入学式が行われるセントラルホールと呼ばれる施設ではなく、本校舎へと向かっていた。 なんでもSクラスとSSクラスの教室は本校舎にあるのだとか。

 そしてほぼ人が出払った本校舎の、それもよりによって生徒指導室などというあまり呼び出される場所としては名誉ではない所に呼び出されていたのであった。


「おはようございます。新入生のササハラユウキですが」

「おう入れ入れ」


 殆どの職員が入学式の為に移動している中、俺の為だけにこんな場所で待機してくれているであろう人物の声が、室内から気だるげに聞こえて来る。


「お、思ったよりも普通の生徒だな。だがお前、本当に一八才なのか?」

「開幕割と酷い事言いますね? 初めまして、この世に生を受けてから一八年と一週間ちょっとのササハラでございます。今日は式典の日でもあるのに、貧乏クジをひかせてしまい申し訳ありません。ええと……先生? 教授?」

「ふむ。ユウキ、中々気にいった。クソ真面目なヤツでも調子をこいたガキでも面倒だと思っていたが、お前みたいに口も頭も回りそうなヤツは嫌いじゃない。一応、お前さんたちの所属するSSクラスを受け持つ講師、兼戦闘員の“ジェン・ファリル”だ。まぁ座れ」


 声の主は、少々ダウナーな雰囲気を纏った、真紅の髪のお姉さんでした。ただ、恐らく地球人ではなさそうだ。少なくともカラーコンタクトじゃないのだとしたら。

 ジェンと名乗った彼女は、白目こそ普通の地球人と同じだが、その瞳がどこか爬虫類を思わせる、猫目にも似た切れ長の瞳孔で形作られていた。虹彩の色も珍しいオレンジ色だ。

 それに……たぶん角? 髪飾りでないのだとしたら、微かに頭部に二つの膨らみが見て取れた。


「ジェン先生、で良いですかね? 担任みたいな物なんですよね?」

「ああ、担任の先生って認識構わない。ユウキ、あまり事情は詳しく聞いちゃいないが、色々と面倒な立場なんだろ? とりあえずこれからの講義やらなにやらの説明は――」

「入学案内とパンフ、学園のHPを熟読したので把握していますよ」

「お、そうか。お前さっき私に『貧乏クジ』なんて言ったが、とんでもない、むしろ大当たりだ。面倒な式典に出ずに済むし、窮屈な衣装を着る必要もねぇ。それにお前は案外勉強熱心なお陰で私が説明すべき内容の殆どが必要なくなった。クク、嬉しいねぇ」


 そう言いながら、彼女はラフな格好の己を誇示するように胸を張る。

 うむ、ジャージだ。良い感じに胸が強調されているジャージだ。しかもあずき色。

 セミロングの髪もあちこち跳ねているし、化粧っ気も感じられないが……美人ですね?


「とりあえずあれだ。私の受け持つ生徒はお前を含めて八名だが、注意事項がある。……ほぼ全員が名家、貴族の出身で、無駄にプライドが高かったりする。最初のうちはあまり刺激しないでくれよ? まぁそんな素行不良な生徒は一発で停学食らわせたいところだがそれも出来ない。ま、実際に問題がありそうなのは一人だけだ、気にすんな」

「ええ……一応その一人の情報だけ下さいよ、近寄らないでおくんで」

「秘密。どうせ嫌でも分かるだろ。それより――一応私達講師陣の中でも担任の私だけは、お前の事を総帥がなんらかの目的を持って入学させたって聞いているんだが……ぶっちゃけなんの目的だ? もしかして査定か? アタシの素行でも報告すんのか?」


 するとここにきて突然ジェン先生が何かに思い当たったかのように姿勢を正す。


「や、そんなんじゃないっす。一応秘密なんですけど、先生達に不利益になるような事はないんで安心してくださいよ。それよりどうしましょう、まだ入学式って続きますよね」

「はー……良かった。そう、そうなんだよ。暇じゃないか正直? お前だってもう単位やら進路については調べていそうだし、私の仕事なんもないじゃん?」


 そう言いながら、ジェン先生は椅子にもたれかかりながら身体を揺らす。

 たゆんたゆん。眼福。しかしだいぶ緩いというか適当な先生というか。


「じゃあ俺から質問して良いですか? 結構個人的な感じの」

「おー、いいぞなんでも聞け。ちなみに上から89 61 93な」

「うわ、定番で聞かれてもスルーするような事いきなり言い出した!」

「なんだ違うのか? じゃあなんだ?」


 中々ナイスバディじゃないですか先生……へへ、こいつは学園生活が楽しく――冗談です。


「先生ってどういった種族なんですか? すみません、もし失礼なら謝ります」

「んあ? グランディアのセリュミエルアーチって国に住んでるドラゴニアっつー種族だぞ? なんだ、勉強不足か?」

「ええ、実はグランディアの事とか種族には疎いんですよ」


 ほー! 名前から察するに竜の人、みたいな感じだろうか。

 セリュミエルアーチっててっきりエルフの国だとばかり思っていたが。


「エルフが王家ってだけで、いろんな種族が混在してる国だよ。まぁ、ドラゴニアはそん中じゃ最強の種族だーなんて言われてた時代もあったらしいが、お前達みたいな規格外を受け持つなら私みたいな人間じゃなきゃ無理だって上が判断したんだろうさ」

「へぇー……じゃあ先生ってめっちゃ強いんですか?」

「まぁな! 一応学園の職員、非常勤含めて二番目に強いのは私だな」

「へぇ……こんな規模の学園で二番目って相当じゃないですか。ちなみに一番は誰なんです?」

「誰って……そりゃあリョウカさんに決まってるだろ?」


 誰ですのん? 女性の名前っぽいけど。


「誰って顔してるな。あ、そうだ。ほらこのモニタ見てみろ、入学式の様子が映ってるから」


 すると先生は部屋に備え付けられていたテレビに電源を入れ、セントラルホールの様子を映し出した。するとそこでは、丁度いつもの仮面をつけた総帥が挨拶を述べているところだった。


「ほらこの人。秋宮涼夏アキミヤリョウカさん。私達教員の雇い主だよ」

「ま た あ き み や か」


 総帥さん、強かったんですね……もう貴女達グループが何しても驚きません。


「じゃあ私からも質問。お前さん、専攻はどうするつもりだ?」

「あー……結構迷ってるんですけど、とりあえず戦闘に携わる物ですね」

「そりゃそうだろ、このクラスに配属されたんだから。前衛か? 後衛か? アタシが当ててやろうか? お前回復系の術師志望だろ? 顔が可愛い男はみんなそうなんだ」

「何ナチュラルに口説いてるんですか? この一年でもっと面長になって背も伸びて立派な青年になるんでそういう事言わないでくれますかね?」

「なんだよいいじゃんか。私は好きだぞ? 自信持てよ」

「やだ禁断の恋。じゃなくて……残念大外れ、俺は前衛志望の剣士ですよ。今のところは剣術を学びつつ、身体強化や戦術面を学びたいって思ってるんですよ」


 先生、そんな露骨に『うっそだろお前』みたいな表情止めてください。傷つきます。

 後あまり可愛いとか言わないで、結構気にしてるんで。大丈夫、半年で少しは成長した。


「ふむ……まぁ事情がどうであれそれが許されて入学したんだもんな。私からは何も言わないさ。さて、んじゃ他に何か質問ないか? 時間潰そうにもさすがに生徒の前で、しかも校内で喫煙も出来ないしな。なんでも聞け、ちなみに今日は紫のチェック模様だ」

「ハンカチの柄って事で納得しときますわ」


 この先生とならうまくやっていけそうな気がします。あと胸元見せんな。折角誤魔化したのに。えっろい色の下着つけてますね、何か問題起きても俺は知らんぞ!

 とまぁそんな流れで随分と緩く学園生活について気になった事を聞いてみたり、反対にこちらの事を聞かれたりしていると、突然ジェン先生のスマート端末が音を鳴らした。


「なんだなんだ? ……はいもしもし、ジェンで――ああ! すみません忘れてました」


 ん、もしかして何か予定でもあったのだろうか? 目に見えて焦っている。

 すると彼女は端末をしまい、スクッと立ち上がり、良い笑顔でこう言い放った。

『やっべ、オリエンテーション忘れてたわ。一緒に他の生徒迎えに行くぞ』と。

 ……マジかよ。って事はもう入学式終わってたのか。






 急ぎ本校舎一階のロビーへ向かうと、俺と同じ制服に身を包んだ生徒七人が、若干不安げな表情で待機していた。間違いない、これが俺のクラスメイトかつ護衛対象になる生徒だ。

 ……見覚えがある生徒が二人。少し前にここで道に迷っていた男子生徒、つまりあの素敵な剣を持つ爽やかイケメン君と、俺が一番最初に見た受験生、主人公チックな、将来の女剣士さんだ。残りは……正直あまり覚えていないが、あの会場で戦った受験生ではないはずだ。


「いやぁ待たせて悪いな。事前に知らされていたと思うが、お前さん達が所属するのはSSクラス。普通の訓練じゃ役者不足って判断された生徒の為の新規創設クラス。記念すべき最初の生徒がお前達というわけだ、これからよろしく頼むぞ」


 ジェン先生、人が多くてもそのスタンスで行くんですね。たぶん服装とかそのノリに若干の不満を抱いているであろう生徒さんの顔がチラホラと見えます。そして爽やか君、俺を見て『あっ(察し)』みたいな顔するな。俺は断じて留年して一年生になった訳じゃない。


「何か用事があったのだとは思いますが、最初の顔合わせにも遅れるというのはどうかと思います」


 すると、例の女剣士さん、間近で見るととても凛々しいお顔の彼女が苦言を呈す。

 そうだそうだ。言ってやってください。楽しい人だけど締めるところは締めないと。


「いやぁ悪いな本当。ちょっと問題のある生徒と生徒指導室で色々と話さなくちゃいけなくてな? な? ユウキ」

「事実ですが一〇〇%悪く取られるような言い方せんでくださいよ。ていうか俺を言い訳に使うのはやめてください。俺のこれからの学園生活に陰りの気配が漂ってきそうなんで」

「ん、そうだな。こいつが君達と同じクラスになる最後の一人だ。よろしくやってくれ。じゃあ早速教室に向かうぞ。まぁ普段は使わないけどな、ブリーフィングルームみたいな物だ」


 そりゃそうだ。基本的に講義を受けに他の場所にいくのだから。

 しかし、先生。今の紹介の所為で小さく色々言われてるんですけど俺。


(クク……初日に生徒指導かよ。案外良い子ちゃんばかりの学校じゃねぇんだな)

(あれ……この学校って留年もあるんだ……)

(この学園に相応しくない人間もいるのだな)


 アーモウヤダー! いや、ある程度距離があった方が良い場合もあるかもしれないけれど、なんでいきなりドン引きされたり誤解されなきゃいけないんですか先生。 多感なお年頃なんですよ、俺も含めて大人になる最後の準備期間なんですよ、大事な時期なんですよ?

 とりあえずこれ以上注目されるのは勘弁してもらいたいからと、最後尾に隠れて移動します。


「入ってくれ。席は自由に座ってくれて構わないぞ。これから簡単な自己紹介をしてもらうからな。そうだな……名前と出身、希望進路でも発表してもらおうか」


 通されたのは、教室と言うよりはどこかのオフィスのような部屋だった。

 なるほど、パソコンっぽい端末も用意されているし、本当に会議や情報のやり取りを行うのだろう。……随分とSFチックで未来感あふれている端末だけど、これって売ってるのかね? 欲しい。

 とりあえず特別目が悪いわけでもないので、黒板の代わりに配置されているであろう大きなモニタがはっきり見える位置、後ろから二番目、そして出入口に一番近い席に陣取る。そしてさっきのやり取りの影響かは知らないが、皆さん近くに座ってくれません。

 が、しかし――


「驚いた……あの、やっぱりまた一年生をやり直すって事なんですか?」


 爽やかイケメン君、到来。いや違うから、そもそも新入生だから。


「誤解だから。前に顔合わせた時、俺も君と同じで学園に呼び出されていただけの新入生だから。ちなみに二回目の訪問だったので校内に詳しかっただけでごぜーます」

「あ、そうだったのか……悪い、迂闊な事言ってしまったよ。自己紹介は……これからする事になるだろうからその時で。改めて宜しく」

「おう、よろしく」


 やだ、心までイケメンかよ!

 早速友人になれそうな人間の登場に少しウキウキしていると、自己紹介が始まった。

 先生、適当に近い順からやらせているな。このままじゃ俺がトリになってしまいそうだ。


「はい、じゃあええと……“一之瀬 ミコト”まず一番手を頼む」

「はい」


 そして立ち上がったのは、先程先生に苦言を呈してくれた、なおかつ俺に少しだけ蔑みの視線を向けてくれた未来の女剣士さんでした。違うんです、誤解なんです。


「一之瀬ミコトです。千葉県出身ですが、六歳から一三歳まではグランディアにあるエレクレア公国で暮らしていました。希望進路は剣を主体とした騎士となり、グランディアにて公国に仕える事です。ここで学べる事を可能な限り吸収し、将来に生かしたいと思います」

「ふむ……実家を継ぐつもりはないのか?」

「先生は知っているのですね。はい、実家の道場は兄が継ぐ事になりますね」


 ふむ、まさに騎士道精神の塊のような人ですな。そりゃ不良や曲がった事は嫌いそうだ。俺があんな目で見られるのも――ってそれは誤解だっていう。


「へぇ……国の騎士になりたいのかミコトは……」

「ん、何知り合い?」

「ああ、俺も彼女の実家の道場に通っていたんだ。あまり話した事はないけど。高校も違ったし」


 チクショウ、この上さらに美人幼馴染までいると申すかこの爽やかイケメンめ。

 そうして一人また一人と自己紹介が続いていくのだが、やはり皆貴族だったり名家の人間だったりと、とてもじゃないがお近づきになれそうにない家柄の人間ばかりだ。

 そして意外な事に、このクラスにはグランディア出身の人間が二人もいた。

 ちゃんと聞いていなかったのだが、エルフの女生徒と、どこか日本人に似た顔つきだが、髪色が水色な以外は見た目地球の人間と変わらない女生徒。さすがゲートに近いだけはあり、異世界との交流の多さも他の土地とは段違いなのだろう。


「次。“甲田アラリエル”」

「あ? ざけんな俺の名前はアラリエルだ。甲田なんて家名を名乗った覚えはねぇ」

「だが名簿上はそうなっているからな。自己紹介を頼む」


 おっと、名前の響き的にもう一人いたようだ。

 俺と同じく後ろの席、窓際に座ったいかにもやんちゃそうな見た目のお兄さん。

 灰銀の髪を持つ男が苛立たし気に立ち上がり、そのまま――


「名前は今聞いたろ。イラつくからこのまま帰るわ」

「ああ、帰っても良いぞ。どうせ紹介だけして今日は解散だ。だがまぁ、私の評価と心象は最悪になるな。調子に乗り過ぎると損をするぞ」

「ああ!?」


 ジェン先生、はっきり言いすぎです。甲田君もキレすぎです。

 帰る為には俺の前を通るしかないじゃないですか。その空気のまま近寄らんでください。


「テメェ……一年間ビビってここにこられなくするぞババア!」

「無理だな、お前程度の実力じゃ。一応自己防衛は許可されているんだ、こっちも」


 次の瞬間、甲田の腕から黒い槍のような物が飛び出し、ジェン先生に向かう。

 しかし……それが彼女に触れることはなかった。


「いやまぁ『どうせ嫌でも分かる』って……自分で煽ってるじゃないですか」

「おーサンキュウな、ササハラ。ほら、お前もその魔法解除しろ。それこそ――二度と歯向かえないように一生残る傷でもつけられたいかよ、なぁ?」


 先生の前に回り込み、それらを手で掴み取る。だが次の瞬間、心臓に氷の棘でも差し込まれたような、痛みを錯覚してしまう程の寒気が襲い掛かる。先生、今一番先生に近いとこにいるの俺っす。そのプレッシャー全部もろに俺に直撃してるっす。


「甲田君も落ち着けって、正直この先生やべぇって」

「っ! てめぇ今なんて――」

「あ、悪い。アラリエル君だな」


 とりあえずこの黒光りする槍のような魔法を消してもらい、先生が恐いので席に戻る。

 結構咄嗟に動けるな、前よりも身体強化への入りもスムーズになっているようだ。

 ともあれ帰ろうとしていた彼は当然、俺の席のすぐそばにいたわけで。

 先生に向けられていた怒りが幾分こちらへと向いていた。

 話しを逸らさせてください。そんな目を向けないで下さい。


「その魔法なんぞ? 初めて見たんだけど。黒曜石みたいな材質なのかな。羨ましいな」

「……いいぜ、最後まで残ってやる。今見せたように俺は魔術師志望だが、人を殴り飛ばすのも大好きだ。自己紹介は以上だ。とっとと次に回せ」

「ああ、それでいい。じゃあ次は……“柳瀬カイ”」


 たぶん、邪魔をした俺の名前を知りたいからか、残ってくれた甲田君、もというアラリエル君。睨むな、恐い。てかよく見ると君も随分とイケメンだなチクショウ。あとその身長少し俺に分けろ下さい。


「はい。柳瀬カイです。出身は東京で、一之瀬さんの実家の道場の門下生です。将来の夢はプロのバトラーになる事で、得意武器は剣です」


 あ、そうか君の番だったか。なるほどカイ君か。剣士なのは知っていたのだが。

 ふむ……プロのバトラーか。一番この世界だとありふれた夢って事なのだろうか。

 格闘家というよりも、元の世界で言うプロ野球選手のような立ち位置だと俺は思っているのだが。


「ん、そうかバトラー志望か。座っていいぞ。じゃあ最後は――」


 来た、いよいよ俺の番。ここで見事に今現在俺にかけられている嫌疑『留年』『素行不良で初日から生徒指導』という二つを晴らしつつ、素敵なトークスキルで――

 が、立ち上がると同時に聞きなれないメロディのチャイムが響き、中断される。


「ああ、今日はこの後ここの端末の初期設定をする関係でここから出ないといけない。紹介はここまでだ。明日、今度は各研究室や講義の紹介をする為のオリエンテーションが行われる。午前九時までにここに集まるように。では解散!」

「待って! 俺まだしてないんですけど自己紹介!」

「そいつはササハラユウキ。剣士志望。じゃあ私はこの後会議があるからまたな!」


 待てや。誤解を晴らす最大のチャンスぶち壊して消えないでくだせぇ!

 さっき止めに入ったりしたじゃない! 少しくらい何かこう、フォローないんですか。


「……ユウキ、でいいのかな? 改めて宜しくな」

「お、おう。よろしくな。ええとカイでいいのかね?」

「ああ、それでいいよ。ヤナセでもいいしカイでもいいけど、続けて呼ぶのは勘弁な」

「ん? ……ああ『嫌な世界』ってなるのか。把握した、じゃあよろしくなカイ」

「なんでこの世の全てを憎むような名前になるんだろうな……本当勘弁だ」


 アラリエル君といいカイといい、名前にコンプレックスを持つ生徒が多いですね。

 ただ俺に言わせると――みんな特徴的な名前すぎない? カッコいいじゃん!


「ユウキっつーのか。てめぇ、どこ出身だ」

「アラリエル君か。日本の片田舎でございます。そしてカイ以外で俺に興味を持ってくれて若干感激というか嬉しかったりする。なぁなぁさっきの魔法について詳しく教えてくれない?」

「気持ちワリィ、君なんてつけるんじゃねぇよ。他人にあんま自分の事は教えねぇ」

「ですよねー。ちなみに俺はオープンなので恐らく聞きたいであろう事を先に言うと、俺が唯一得意なのが身体強化。そんであらかじめこの位置ならみんなの様子見られるから、君の事注視してたってオチ。なんか先生が警戒してる生徒がいるみたいな事言ってたからさ」

「……おもしれぇ。あの女、次はお前がいないとこで――」

「お、おい……やめておけよ。先生なんだぞ」


 カイ、仲裁に入ってくれるのはありがたいのだが、たぶんこれ本気で言ってないと思います。軽く流しとけ。


「良い子ちゃんはお呼びじゃねぇよ、黙っとけ。ユウキ、お前は少し面白れぇ」

「少しじゃないから、凄い面白いから。明日からよろしくな。なんかみんな遠巻きにしか見てくれなくて寂しいから」

「お、俺はそんな風に見てないからな、ユウキ」


 ええい、空気を読め! でも気持ちはとてもありがたい!

 するとアラリエルはつまらなそうに鼻を鳴らし、足早に教室から去って行った。

 すると、まるで入れ違いのように――


「カイ、お人よしがすぎるぞ。悪いがユウキ君、こいつは少し人が良すぎる。あまり、変な事は教えないであげてくれ。……が、先程先生を庇った事は評価する」

「一之瀬さんか。実は色々誤解が――」

「そう、そうなんだよ。ユウキは凄いぞ、隣にいたのに気が付かなかったんだ。気が付いたら先生の前にいて、また一瞬で戻って来た。確かに指導室に呼ばれるような事をしたんだと思う。でも、きっと何か事情があるはずだろ? しかも剣士志望だ、悪人の筈がない!」


 そろそろ俺に弁解させてくれませんかね。


「ふむ、それはこれから先、見て行けば自ずと分かるだろう。カイ、父様が話たがっていた。ラウンジに行くぞ、準備してくれ」

「あ、ああ……じゃあユウキ、また明日な」

「ああ、分かった。またなカイ」


 気が付くと、教室に俺一人。なんだかタイミングが悪いというか、空気を読めない人間が多いというか……結局誤解を解くことが出来なかった訳だが、そもそも元を正せばジェン先生が悪いような気がする。いや間違いなく先生が悪い。俺は悪くねぇ。先生が――


「ああ、懐かしやテ〇イルズ……ゲームでもして忘れたい」


 残念、科学は進んでいるけどゲーム分野の進歩はだいぶ遅れています!


「って、イクシアさん待たせてるんだったな。ふふふ、今晩の寿司はどんな味なんだろうな」


 そうだ、俺には嫌な事を全て忘れさせてくれるイクシアさんがいるではないか。

 彼女に連絡し、足早に彼女と合流すべく、正門へと向かうのだった。


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