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第百四十話

「現在、ここグランディアには我々を除いて、異なる思想を持つ二つの勢力が存在している。まずは『地球との関係、交流の在り方を変えるべきだ』と考えている人間だ。もう、分かっているとは思うが、その指導者はサーディス大陸、セリュミエルアーチ王国に存在する研究院。その主である『セシリア・アークライト』だ」


 ロウヒさんが、まず現在の勢力について解説してくれた。

 ……セシリア。そこまで地球に対して思うところがあるようには思えなかったが、それも全て演技だったとしたら。

 そもそも、世界樹の一件だって……。


「これは六光がもたらした情報だ。セシリアは我々とは違う『もう一つの勢力』に、あえて世界樹の植樹の話が持ち上がり始めていると情報を漏らしていた。故に、その勢力が植樹についての会合を潰そうと動き始めたという事だ」

「これは、ユウキ君なら知っているでしょう。丁度去年の秋、私があの老人からの要請で貴方を派遣した件です」


 あのオーストラリアでの事件か。

 あれすら、セシリアの計算のうちだったと。

 ……確かにアイツの態度は非常時のソレじゃなかったけど。


「セシリアは恐らく、何年も前から計画を練っていたのだろう。世界樹の植樹計画が地球で囁かれ始めたのは今から八年前。そのきっかけは、何者かが世界樹の苗をそろそろ正式にどこかへ植え、次代の礎にするという話を地球の人間に漏らしたからだ。地球が秘密裏に計画していた植樹の招致、それすらもセシリアの計画だったのではないかと私は思う」

「……植樹計画の情報は、出来れば私にも教えておいてもらいたかったのですけれどね」

「申し訳ないが、貴女を手放しで信用する事は出来なかった。なにせ秋宮は実質、地球ではなくグランディア側の勢力だったのでね、特に貴女が総帥を勤めていた時代は」


 それはなんとなくわかる。リョウカさんって、地球よりもグランディアを優先しているようなところがあったし。なんというか、グランディアを地球に売り込む? 積極的に関わらせようと間を取り持っているというか。


「我々は世界樹植樹の裏の意図を探った。元々地球に対して思うところがある素振りを見せていたセシリアが、何故強引に世界樹の植樹を推し進めていたのか。そして何故、苗の持ち運びを地球人である君達に任せたのかを」


 もしかしたら、苗を詳しく調べられては困るから?

 いや、それだけじゃない気がする……あの時、謎の変貌を遂げた兵士達が俺達を襲った。

 それすらもセシリアの企みだったではないか。

 領主が裏で手を引いていて、それを炙り出すのが目的だったとセシリアは言っていたが。


「本当ならば苗を奪取して調査機関に回すだけの計画だった。だが、急遽手に入った力に目を奪われ、暴走して君達を排除する方向に誘導させられた。結果が領主の失脚と、我々の手勢の消失だ。ユウキ君、君達が撃退した者達は、元々我々の側の人間だったんだ」

「な……俺達はこっちでもロウヒさん達を……」

「いや、もはや理性を無くした魔物のようになってしまっていたと聞く。葬ってくれた事を感謝したいくらいだ」


 セシリアはそこまで……どこからがアイツの計画だったんだ?

 思えばあの実務研修も、急遽目的地を変更されたって話だし。


「地球との交流が盛んに行われ、技術がこちらに流入し続けると誰が困るのか。キーとなるのは、サガ社という、地球の企業が開発したエネルギー供給方法となる。クリーンで効率よく、電気を生み出し世界に供給する。最低限の魔力で、魔力の代替えになりうる電力を大量に生み出すそれは……グランディアにも莫大な利益をもたらすだろう」


 あ、それなら知ってる。この世界に迷い込んで最初の一カ月で学んだ事だ。

 ……あれってそんな大ごとになるレベルの発見だったのかよ。

 いやまぁ……仮に俺の元いた世界で、原子力発電以上の電力をローコストで安全に簡単に供給出来る方法が発見されたら……大革命なんてレベルじゃないと思うけど。


「地球で魔力の価値が高いのとは逆に、電気の台頭により年々グランディアでの魔力価値が下がっている。魔力の供給を司りグランディアでの地位を築いているセリュミエルアーチにとっては、地球の技術は目の上のタンコブと呼べる存在だったのだよ」

「それが……セシリアが地球を目の仇にしている理由ですか」

「そうなるな。今回の世界樹の植樹に隠された仕掛けは明らかに地球を困窮させる為に仕組まれた物だ。いつか魔力を生み出さずに、むしろ地球の魔力を消費して潰えるように仕組まれた世界樹を地球に植え付け、そして傲慢にもグランディアとの決別を決めた地球が、その後に自らグランディアに助けを求めるように仕向けたのだ」


 これが、俺が知らされていた今回苗を破壊した理由。

 あの苗が、将来地球を終わらせるための布石だと彼は言っていた。


「セシリアは魔力が尽き、さらに自ら関係を狭めて魔力不足に陥った地球を、今度は支配する事を目論み始めたのだろう。そうでなければアキミヤリョウカ、君の妹の計画に加担しようとは思わなかった。彼女だろう? グランディアとの関係を完全に断とうと考えていたのは。世界樹を手に入れたあかつきには、地球が自前で魔力を手に入れられる。そうしたらもうグランディアとは手を切るべき。そう考え暗躍していたのは」

「……ええ。私は直接、リョウコから『ゲートを破壊してでも関係を断つ』と聞かされています。手を取り合うよりも、互いに関わらずに生きていけるのなら、それでいいと」

「そして、リョウコの思惑は外れ、地球は孤立し魔力不足に陥る。そこに再びグランディアが魔力をちらつかせ、弱みに付け込むようにして支配していく、と」


 ……リョウコが言わんとしている事は分かるよ。

 別に友達なんていらない、一人でも楽しく過ごせる人間同士を、誰かが強引に友達にする。

 そんなの余計なお世話だ。無理に関わらなくてもいい。

 でも、もしすでに友達になっていたら? もう関わり合い共に歩み始めていたら?

 そんな状況で誰かが『関わるのを止めなさい』と言うのは、さらに酷いお節介だ。


「……俺は、グランディアと関わるこの世界だからこそ、家族が出来ました。リョウコさん? でしたっけ、その人の思想は絶対に認められませんね」

「ええ、私もそうです。故に彼女と私は完全に決別しました。ですが――地球の主要国の中には、リョウコが思い描く『グランディアに忖度する事なく、潤沢に魔力が使える未来』という物にあてられ、彼女に付き従う国々が現れました。故に……私は邪魔だと、地球には必要ないと、そう判断されました」


 ……それが、リョウカさんが地球にいられなくなった原因の一端なのだろう。

 リョウコとかいう女だけじゃない。地球の人間達が……権力者達が、グランディアと共に歩む事を拒んだのだ。


「リョウカさんが失脚した経緯は分かりました。ロウヒさん、お話の続きを」

「そうだな。今聞いたように彼女はグランディアと地球の共存を望んでいる。それに賛同して協力関係にあったのだが我々だ。だが、そこまで全幅の信頼を置いていた訳ではなかったのだよ。故に監視の意味も込めて、私やリオ、六光のような人間が地球で監視していた」


 ここまでは分かった。で……最初に戻る。

 俺だけが知っている筈だった『魔法なんて存在しないはず』と語る勢力についてだ。


「……最後の一勢力。グランディアと地球の断交は勿論の事、グランディアの影響を全て地球から消し去りたいと、それどころかグランディアの存在その物が地球の在り方を歪めたのだと……そう主張し、両世界で暗躍している勢力がいる。我々に今回、地球に植樹される世界樹の苗を破壊する作戦を立てるきっかけを与えたがその連中だ」

「まぁ、今回に限りは俺達もあっちの連中も世界樹の植樹を防ぎたかった。そういう意味で協力関係にあったって訳だ。……ま、それだけで済めばいいんだが、連中はそれ以上の破壊活動、暗殺、妨害もしていくつもりだからな。だから実行犯は俺達になったって訳だ」


 考えた事、なかった。

 そうだよ、俺みたいな境遇の人間が、俺しかいないなんて誰が言った。

 俺と同じ境遇の人間が、この世界を受け入れられずに暴走した可能性だってある……!


「今日はここまでにしましょう。一度に全て話しても理解は難しいでしょう。それに……イクシアさんも一先ず、ロウヒの考えや行動に一応の納得はしてくれたようですし」

「……はい。ですが、きっと仲良くは出来ないでしょうね。協力は出来ません。ですが……少なくとも私が彼等を害する事はないと約束します」

「……それで、十分です。貴女を止められる人間はここにはいませんから」


 そうだ、まず今の一番の懸念事項は……イクシアさんの怒りだ。

 あの……俺、結構色々言っちゃってましたよね……。


「……これからについては明日以降にお話しましょう。イクシアさん、落ち着くにはまだ少し時間が必要でしょう」

「ええ、正直内心そこまで穏やかではありません。最低でも今日一日、ユウキ成分をしっかり接種しないとまた暴走してしまいそうです」

「だ、そうです。ユウキ君、今日一日はイクシアさんのお願いはしっかり聞いてあげてくださいね」

「……勿論です」


 あ、手握られた。

 俺はそのまま、イクシアさんに手を引かれて別館から再び本館へと連れられて行く。

 ちょっと一体どこへ……。




「ユウキ、私はとても疲れました。ユウキも長旅で疲れているはずです。だから仮眠しましょう、良いですね?」

「え、あ、はい」

「ここは私の部屋です。さぁ、一緒に寝ましょう」

「いやそれはおかしい」

「おかしくありません。さぁ、寝てください。今のユウキは身体が大きいですからね、こうして……」


 あれよあれよという間にイクシアさんに連れられた俺は、そのままベッドに押し倒され、そしてイクシアさんが隣に潜り込み、片側に抱き着かれてしまった。

 え、ついさっきまで会議室でまじめな話ししてたのに!?


「……きっと、明日には元に戻ります。元のお母さんに戻りますから……もう、あんな醜態は見せませんから。ユウキを悲しませたりしませんから。だから……今だけはお願いします」

「あ……」


 でも、涙を浮かべて見つめる彼女が、そう弱弱しく懇願してくる姿に、俺はもうこれ以上抵抗は出来なかった。

 うん。今日だけ。今日だけは俺も……。

 しっかりとイクシアさんの腰に手を回し、強く抱きしめる。

 互いに抱きしめ合いながら、眠りにつく。

 不思議と、変な考えは浮かんでこなかった。

 ただただ、大切だなと。愛しいなと。そう思った。


「……ユウキ……愛しています……」

「俺も……大好きです」


 この感情は貴女とは違うかもしれないけれど。

 でも、俺も愛してる。








 イクシアとユウキが去った会議室。

 嵐のような衝撃の連続であったその場所で、残された者達が語る。


「ニシダさん、非戦闘員である貴女に少々危ない空気を感じさせてしまった事、謝罪します」

「いえ、今回ばかりは同席したいと、無理を言ったのは私ですから」

「では、チセさんは今日以降、自由に過ごしてくださって問題ありません。一応、護衛の人間は離れて付ける事になりますが」

「了解です。暫く、私もこの村に滞在します。遠出の際はご連絡しますね」


 そう言ってチセが立ち去ったのを見計らい、リオが口を開く。


「で、結局自分の正体については言及しなかったわけだけど、ズルくない?」

「今、必要な情報ではないですから。私が何者であれ、する事に変わりはありません」

「ふむ……それもそうか。しかしやはりというべきか、イクシアというあの女性は、神話時代の魂、ということだな?」

「ええ。かなり力のある魂です。彼女の心を落ち着ける事が出来て幸いでした」

「そのペンダントの効力か?」

「ええ。とはいえ、これは魔法もなにもない、ただのアクセサリーなのですけど」

「ふぅん、やっぱそうなんだ。何も感じないもん、それ」


 リョウカは先程取り出したペンダントを掲げる。


「……彼女の、生前に所縁のある品のレプリカです。魔法もなにもない模造品。ですが、彼女の思い出を呼び起こし、気を引く事には一役買ってくれました」

「ふぅん。なんだってそんなの用意出来たの?」

「関係者から頂いた……ですかね?」

「本当、なんでもお見通しみたいなやり方、気に入らないなー私」


 リオの軽口に苦笑いを浮かべる。


「……今回は違いますよ。別な人間の置き土産です」

「ま、なんにしても坊主とあのお母さんが落ち着いてからだな。明日、またここに集まるんで?」

「その予定です。三人共、出来れば全員に出席して頂きたいところですが」

「了解した。六光、今日は外出を控える様に」

「カーッ、折角馴染みの店に行こうと思ったのによ」


 ようやく緊張が解けたのか、それぞれが動き出す。

 最初に部屋を後にしようとしたのは、リオだった。


「私はちょっと散歩にいってくるよ」

「珍しいな、リオ。いつもは出歩きたがらないだろうに」

「ま、そういう気分」


 数年ぶりとなるグラディア故だろうか。

 それを見送ったロウヒは、もう一度リョウカに向き直る。


「彼女は、身体と同様、心も不安定な面がある。不快にさせる事もあるだろうが勘弁してくれ」

「今回は私が不快に感じさせたのでしょう。仕方のない事だと思います」

「ま、それだけじゃなさそうですがね? 姐さん、結構ショック受けてたみたいですし、あの坊主のお母さんに」

「ふむ?」


 彼女の心境がいまいち読めないリョウカであった。


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