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第百三十四話

『植樹式襲撃事件』

 そうあの事件が名付けられ、世間の知るところになってから一月が経とうとしていた。

 結局、あの事件はテロリストと通じていたササハラユウキによる裏切りという事で決着がついたのだが、同時に多くの疑念が生まれる事となった。


『何故、電撃的に植樹が決定されたのか』

『ササハラユウキは元々テロリストだったわけではない可能性』

『何者かが彼を引き込んだ』

『秋宮への不信感が根底にあったのではないか』


 まだ陰謀論の域を出ない、噂のような物。

 だがそれでも、秋宮の地位は少しだけ揺るぎ始めていた。

 なにせ、直前までユウキはまさしく『次代の英雄』と称えられてすらいたのだから。

 多くの事件を解決し、地球に貢献していた生徒の唐突な心変わりに疑念を抱くのは当然。

 故に、今やシュヴァ学の地は、日本のみならず他国からの干渉も受けていた。

 尤も、手駒として利用しようとしていたSSクラスの人間は、既に秋宮所属の研修生という形になってはいるのだが。


「今日お呼びしたのは他でもありません。ミコトさん、カイさん、カナメさん、セリアさん。貴方達四名、地球に残った元SSクラスの戦闘員に、正式な任務を与える為です」


 秋宮の研究所の一室にて、リョウコに呼び出された四名の元クラスメイトが集う。


「この度、植樹地であったオーストラリアから派兵要請がありました。テロリストの狙いは苗だけだったとは限りません。あの場所には、セリュミエルアーチより技術提供を受けていた魔力、地脈を操作する魔導具が埋め込まれています。強引に撤去する事は難しく、もう四月程は様子を見なければなりませんが、恐らく撤去される際にそれを奪取しに再びテロリストが現れる可能性があります。ですので、先に現地入りしてテロリストに備えようというのです。向かって頂けますか?」

「……そこに、ユウキは来ますかね」

「……どうでしょう。正直相手の規模も構成員も不明です。ですが、戦力としては彼の投入はありえない話ではありません。どの道、現状対抗できるのは貴方達しかいません。お願い出来ますか?」

「行きます。私は行きます」


 真っ先に行くと答えたのは、セリアだった。

 それに続き、今度はミコトが発言する。


「……私は、出来れば日本での任務に従事したくあります。失礼ながら、私にはテロの狙いが再びオーストラリアとも限らないと思うのです」

「と、言いますと?」

「私の父、一之瀬蒼治郎が言うには、彼は突発的にテロリストに加担した様に思える、と。ならば、彼は一度日本に再び戻って来る可能性があると見ていました。そしてそれはきっと……あの学園の傍にある家。少なくとも海上都市に一度立ち寄る可能性が高いと見ています。確かにオーストラリアに向かうのも大事かもしれませんが、最低一人は海上都市に控えさせておいた方が良いと具申します」

「……なるほど、確かに一理ありますね。彼の住居は一応私どもも検めましたが、あらかじめこの地を去る準備をしていた痕跡はありませんでした。目だった物はありませんでしたが、彼だけが知る何かを回収に来る可能性もある……と」

「はい。ですから、最低一人は残した方が良いと」


 ミコトの進言に、追従するようにもう一人が語る。

 だがそれは……。


「なるほど! それに海上都市にはカヅキさんも残るんですよね? 彼女の護衛の為にも一人残した方が良いかもしれません。……アイツが殺しに来るかもしれませんから」

「っ! セリア、それはありえないだろ」

「分からないよ。異常者だから相手は。気が変わって今度こそ私達を殺すつもりかもしれない。私達がアイツへの唯一の対抗手段だもん。だったら殺しやすいカヅキさんが狙われるかも」


 それは、セリアによる『盲目的な思い込み』による進言。

 もはや、彼女は完全にユウキを異常者だと決めつけているようだった。

 だがその実、異常を見せ始めているのは自分の方なのだと……気が付いていない。

 その痛ましい姿に、クラスメイト達はこれ以上言い返す事が出来なかった。


「……セリアはカイとカナメと一緒にオーストラリアに派遣された方がいいだろうな。こちらには私が残る。あちらは魔力量が植樹式の影響で多い。魔法に長けたお前の方が向いている」

「ん、そうだね。じゃあ海上都市は任せたよ、ミコトちゃん。アイツが来たら絶対に殺してね」

「……ああ、そうだな」


 するとそんな中、カナメが発言した。


「ユウキ君の捜索、追跡はどうなっているんですか?」

「彼の追跡は現状、既にあちらの世界に展開している私の私兵に任せてあります。現在地球とグランディア間の人の行き来は制限されているので、私が独断で派兵する事は出来ないのです。地球の主要国連盟で派兵するという案もありましたが、先方に断られているのが現状です。この場合、セリュミエルアーチですね」

「なるほど。……分かりました。オーストラリアへの派兵、僕は問題ありません」

「そうですか。では、カイくんとカナメくん、セリアさんの三名には明後日の便で現地に向かって貰います。ミコトさんは引き続き、学園の寮で過ごすということで」

「はい。意見を聞いて下さり感謝します」






 一方その頃。既に目的地である大陸『セミフィナル大陸』に到着していたリョウカとイクシアの二人は、道中多少のトラブルはあった物の、無事に目的地である山村に到着、そこに保護されていた。


 かつて、USMとは協力関係にあった為、あっさりと二人の保護は決定されはしたが、現責任者であるロウヒが現在任務の為地球へ向かっているからと、実質的な指揮を受け持っているのは、なんとリョウカ本人であった。

 保護されていながら、指揮を執る。そんな変わった関係ではあるのが、そんなリョウカの元にこの日『ある報告がされた』。




「……それが、ロウヒの行った作戦の結果という訳ですか。どうりで少し前から地球との通信が途絶えているはずです……それに……この顛末はあまりに……」

「しかし作戦に参加した人間は無事に地球を脱したとあります。こちらの被害はなしで最高の結果を出したではないですか、ミス・リョウカ」

「……ええ、こちらの組織の目的という意味では最高の結果を出しました。ですが……一人の、一人の若者の未来を潰してしまった。いえ、それだけではありません。……事と次第によっては、この組織が潰されます――たった一人の母親の手により」


 そう、この日リョウカの耳に『世界樹植樹計画の破綻』と『裏切り者の名』が報告されたのであった。

 リョウカは、詳細が判明するまでこの事実をイクシアに伝えるべきではないと心に決める。

 だが少なくとも、ササハラユウキが地球を後にし、ロウヒと共にこちらに向かっている事は分かった。

 故に……ただ、ユウキがこちらに向かっているという事だけは、彼女に伝える事にしたのであった。

 ……地球を去ってから三月半。ユウキとの別離により、心が衰弱しきってしまっているイクシアへと。




「本当ですか……? ユウキが今、こちらに向かっていると……?」

「はい。恐らくまだ時間はかかるとは思いますが、グランディアにいるのは確定しています」


 リョウカは、USMのアジトの表の顔である宿屋『セシルの雨靴』の一室に宿泊しているイクシアの元を訪れていた。

 ここに到着し、身の安全がある程度保障されてからというもの、緊張の糸が切れたように弱り果てていたイクシア。

 それは肉体的な物ではなく、偏に愛する息子と離れ離れになってしまった事の精神的疲労による物。

 故に今、リョウカからユウキがこちらに向かっていると聞いたイクシアは、一瞬にしてその瞳に生気を取り戻し、身支度を整え、元の完璧とも言える姿に立ち直ったのであった。


「ユウキはどこから来るのでしょう。やはり私達の様に陸路なのでしょうか」

「いえ、恐らく海路でしょう。移動にはボートを使っているという話でしたから」

「なるほど、それは心配ですね。では、私はこれから何年でも毎日港に通う事とします。……良かった、本当によかった……思っていたよりもずっとずっと早い……きっとロウヒさんがユウキの頼みを聞いて連れて来てくれたのですね!」

「……ええ、きっと」


 詳しい事は不明。だがロウヒがユウキを連れてきているのは事実。

 そして、ユウキがテロリストとして報道されているという事実により――ただの親切心でロウヒがユウキを連れてきたのでなく、確実になんらかの方法でユウキをテロリストとして仕立てたのだろうとは考えていた。

 故に……その時が来たら、確実にイクシアはロウヒを殺すだろうと、密かに覚悟を決めるリョウカであった。


「ふふ、海は恐いですが、ユウキが来るかもしれないなら平気です! さぁ、まずはどこかで救命胴衣を手に入れないと……それと漁村まで降りる為のゴンドラの時刻も把握しなければ……ああ……ユウキ……」

「……これはユウキ君の頑張り次第ですね……」


 頑張れユウキ。USMとロウヒの命は君の説得にかかっているぞ。








「ユウちゃん何か掛かったー?」

「ん-ん、なんにも。こんな遠海じゃ小さな釣竿使っても何も釣れないでしょ」

「えーそういうものなの? あーあ、退屈だねぇ……このペースだとセミフィナルに着くの、もう二月くらいかかりそうだし」

「仕方ねぇよお嬢。セカンダリアで補給が出来なかったんだ、燃料節約して進まないと海の上で立ち往生しちまう」

「……予想よりも大陸周囲の警戒が強まっているようだからな。セミフィナルにはどうやって上陸した物か」

「ん-、途中でこのボート破棄して通りかかった客船に密航しよっか?」


 一方その頃、海上をまるで帆船の様に進んでいたユウキ一行。

 この世界で空路が使えない以上、ユウキを捜索するなら海上しかないと踏んでいた地球関係者達は、各大陸周辺海域を警戒する形で待ち構えていた。

 故に、遠海を進む事しか出来ず、時間もかかり、さらに補給に立ち寄る事も出来ずにいた。


「正直あまり気乗りはしないが、そうなるだろうな。となると……後二週間程でサーディス大陸の領海に入る。そこで客船を見繕う事になるだろうな」

「おっけ。んじゃろっくん、偽装は任せるね。ユウちゃんは私と一緒に釣り続行!」

「……こんな緩い感じでいいのかな」

「いいのいいの、海の上じゃやれる事なんて限られてるんだしさ。あ、でもたぶんもう地球での騒ぎはこっちに伝わってるだろうし、聖女ももうこっちに戻ってるだろうから警戒はしてね? さすがにこっちの世界で聖女とやりあうのは、今の私達じゃ荷が重すぎるから」

「ん……そっか。ナシアってそんなに強かったんだな」

「ん-、違うね。今代の聖女なら私でも勝てるよ。現に地球で私が薬で不完全な状態でも攻撃防げたし。でも、こっちじゃ無理。こっちなら聖女は『完全な形で初代の魂を呼び出せる』からね。私が言ってる聖女っていうのは『初代聖女』のこと」

「え? ……あの人、そんなに狂暴なの?」


 思い出されるのは、かつて俺の家でお茶を飲みながら一瞬現れた少女の姿と……あの無人島で苗を持ち出すときに現れた姿。

 神秘性と優しさを感じさせる、神々しい姿だ。


「あの人って……まさかユウちゃん会った事あるの?」

「うん。苗の持ち出しの時に立ち会ったし」

「へー! 神代の魂だよ、まさに最強。たぶん勝てる人なんていないよ」


 マジでか。でも……そんな人が、イクシアさんの名付け親でもあるんだよな。

 ……イクシアさん。本当はもっと複雑な事情があるんだろうな。


「リオ、それは間違いだ。初代聖女だろうとも勝てない者は存在するさ」

「あー……そっか、数に入れてなかった」

「青年、君達は一度接触していると聞いた。ジョーカー、彼こそが現状最も強い存在だ。そして……一番の懸念事項でもある」

「ああ……あの人はまぁ」

「彼は、今回の一件には関わらないと決めてくれた。だがそれでも懸念しておくべきだろう。正直、彼の行動だけは読めないからな」

「そうですねぇ……一見すると面倒見良い感じなんですけど」

「む……君は彼の素性を知っているというのか?」

「え? ……あ、これ話しちゃダメだったのか」

「……君の心に秘めておきたまえ。私は藪を突く趣味はないのでね」


 あの人マジでなんなんですかね?

 元魔王? どこまで本当なんだろうか。


「ま、なんにしても暇だねー……釣りも飽きちゃったし、今度は何しようかなー」

「……やっぱり緊張感ないなーリオちゃん達」


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