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第百三十一話

(´・ω・`)お待たせ

 予想通り、ゲート周辺海域及び空域の封鎖、のような厳戒態勢はまだ敷かれておらず、俺達を乗せた輸送機は無事にゲートを潜り抜ける事が出来た。

 そもそもの話、ゲートという高エネルギーの塊に突入出来る機体なんて、地球上にそこまで数は存在していない、というのが常識だ。


「……そうだな、タイムリミットは明日の夕刻くらいまでか。恐らく、それを過ぎればファストリア大陸から抜け出すのも難しいだろう。このままグランディアに着き次第、我々のドックへ向かう。そこで装備を整え、そのまま海上に出るぞ」

「了解。お嬢、身体の方は問題ないですかい?」


 ゲートを抜けるとすぐに大陸が見えてきた。

 ファストリア大陸、地球との玄関口とされている大陸だ。

 彼らは空港ではなく、そのまま大陸の北端を目指し移動していく。


「今更疑問なんですけど、グランディアと地球の行き来は原則政府公認の旅客機だけです。俺達が密入国してもすぐバレてしまうんじゃないですか?」

「ふむ、君は去年……ゲートに纏わる秘密の一端を知ったのではないかな?」

「と、いうと?」

「坊主、お前が思っているよりもゲート周りの利権は複雑で、ドロドロしてるってこった。ほら、後ろ見てみろ」


 輸送機の窓からゲートを振り返ると、そこには大規模な工場のような物が海上に設置され、それが上空にあるゲートに向かい高々と建造されているのが見える。

 それに……沢山のパイプがゲートの中へ伸びている。

 そうか、公式な飛行機の客席に窓がないのは……こういう理由か。


「あれは……まさか魔力を地球に送る施設……?」

「そうだ。こうしてゲートを肉眼で見る事は関係者以外通常はない。だが、実際はこうだ。グランディア側が、秘密裏に地球側と交渉、資源として魔力を供給している」

「んで、当然施設のメンテナンスとして、地球側の施設からも頻繁に輸送機が出入りしてるって訳だ。公にされていないだけで、今乗ってる輸送機みたいなモンはありふれてんだぜ?」

「去年、君達は地球側の施設に任務で赴いた事があると報告されている。理解、出来たかい?」

「なるほど……じゃあ一台くらい紛れてもファストリア政府が俺達を察知する事は出来ない……と」

「ああ、そういう事だ」


 なるほど……グランディアと地球は、俺達が思っているよりもずっと深く結びついているって事なのか。


「このまま沿岸を進んで俺達の隠しドックに向かう。そこで輸送船を海洋船に可変させる」

「え、このヘリ船になるの!? すげえ……」

「くく、そうだろ、俺らの船は特別製だ」

「ま、数少ない自慢だね……く……ちょっと変化が起き始めたかも、貨物室に行くね」


 すると、リオちゃんが苦しそうにしながら、ぶかぶかになった服のまま輸送機の後方に移動する。

 ……あ、じゃあ俺も――


「ぐ……! 俺も……来た……!」

「あ、どうした坊主?」

「ふむ? 青年、どうした?」

「すみません……実は……」


 俺も、リオちゃんとほぼ同じ体質だという事を告白する。


「なんと……それは知らなかった……服なら戦闘用のスーツの予備がある。それに着替えてくるといい」

「お嬢も今もしかしたら服を整えてるかもしれねぇ、間違っても覗かないようにな」

「はい……」




「すみません、リオさん……じゃなくてリオちゃん……俺もちょっと着替えが必要で……」

「え? ああ、うん。私も今終わるからちょっと待ってね」


 貨物室では、リオちゃん、もといリオさんがぶかぶかの服を整え、伸びた髪を結わいでいるところだった。

 ……ハーフアップっていうのかな? ……美人さんだな。


「でもユウちゃんのサイズの服ってあるかな? えーと……」

「あ、いえ違うんです。大人用の大きなサイズで……」

「うん? ……その魔力反応、もしかして?」

「はい、俺はリオさんの逆バージョンです」

「わーお……んじゃはい、ろっくんとほぼ同じサイズのこれ。これならたぶん余裕があると思うから」


 六光、そういえば背が高かったな。これならいけるか。

 俺はぶかぶかなコンバットスーツを纏い、次第に熱を帯びる己の身体を抱きしめ、変化に耐える。

 ……やっぱり身体が慣れて来ているのか、前よりも我慢が出来る辛さだ。


「お、おおー……自分以外の変化を見るの初めてだよ私。へー……ユウちゃんこっち向いて」

「え、ええ……あ、治まってる……」

「お、ユウちゃんかっこいいね! 前髪止めるピン貸したげるよ」


 なんというか、大人になってもリオちゃんのままなんだよな、この人。

 凄くフレンドリーで距離が近い。……ちょっと照れる。


「じゃ、とりあえずドックに着いたら適当に髪切ってあげる。後ろも切る?」

「あ、どこかの町に着いたら散髪するんでとりあえず前だけで」

「あいあい。……あと、また敬語出てるよ? リオちゃんでいいってば」

「……年上のお姉さん相手にそれはちょっと難しいです」

「慣ーれーてーよー」


 いやぁ……言動は確かにそうなんだけどさー。




「ほう、それが君のグランディアでの姿か。今ドックに入った。これから機体を船に可変させる、一度降りて荷物の積み込みを手伝ってくれ」

「ああ、それ俺のコンバットスーツか。ついでだ、なんか適当に俺の服も積み込んどいてやるよ」


 ドック、というか港のようなその場所は、四方を岩肌に囲まれた洞窟のような場所であった。

 海面に浮かぶ輸送機が、ゆっくりと変形し、ボートに変化していく。

 その姿を眺めながら、俺は大量の食糧や装備品、その他必要な道具を積み込む。


「速度は出るが、それでも空を行くよりは遥かに遅い。魔神龍の機嫌を損ねない為だ、我慢してくれ」

「とりあえずセカンダリアの補給用ドックまでは四日。そっからはサーディスには寄らずに直接セミフィナル大陸まで移動だ」

「一応、サーディスは今一番厄介な大陸だからね。……世界樹に仕込みがされていた、つまり世界樹を管理していたサーディスが今回の件の黒幕だと私達は睨んでる訳。さすがに敵の本拠地には向かわないよ」


 そうか、そうだよな。世界樹の苗に仕掛けがされていたのなら、当然黒幕は……。

 つまり、セシリアか? それともナシアもそれを知っていたのか……?


「大陸からかなり離れた遠海の航路を進む。目的であるセミフィナル大陸に付くのは……そうだな、最短二月後だ。遅れることは覚悟してもらうぞ」

「……勿論です。イクシアさんに会う為なら、どんな旅路だって乗り越えて見せます」

「くく、そうか。分かった、では急ごう。リオ、このドックは今回で破棄する。出発前に時限式の爆破術式を仕込んでくれ」

「了解」

「勿体ねぇなぁ……結構使い勝手よかったろここ」


 おお……なんかプロっぽい……。

 俺は三人に従い、今度はボートと化した輸送機に乗り込み、大海原へと出発した。

 ただ、爆発音は特に聞こえてこなかったな。その辺りも計算済みか。


「まぁねー。最小限の破壊で洞窟が崩落するようにしたんだよん。元々あの辺りは崩れやすい遺跡やら古代の地層がむき出しになってる場所だからね。崩落は日常茶飯事な訳」

「さすが……じゃあ、これから二カ月、よろしくな、リオちゃん」

「うん、よろしい! よろしくね、ユウちゃん」


 そうして、俺の長い航海が始まった。








 ユウキが大海原に旅立ったのとほぼ同じ時間。

 グランディアに逃れていたリョウカとイクシアの両名は、目的地である『セミフィナル大陸』に上陸を果たしていた。


「……ええと、オキーテオ・カサーン……でしたか」

「はい起きました」

「っ! ほ、本当に起きた……お疲れ様です、イクシアさん。一先ず目的地のセミフィナル大陸に……“貴女の前の故郷に”に到着しましたよ」


 長い船旅。それは当然、イクシアに耐えられる物ではなく、今回も自己封印という手段で乗り切ったのであった。


「申し訳ありませんでした。護衛であるのに、結局はこんな有り様で」

「いえいえ。幸い、こちらに追手の気配はありませんから。それに……ここまで離れる事が出来れば、この通り」


 そう笑うリョウカの顔から、豚の仮面が外れる。

 リミッターとして彼女の力を抑制していたそれは、その機能を失っていた。


「さすがに、このサイズにリミッター機能を内蔵出来るはずがありませんから。これはあくまで遠隔で操作されているにすぎません。もう……私を脅かす存在はいませんよ」

「そう……ですね。それで、この場所は?」

「ここはセミフィナル大陸の首都『リバティホフ』です。港町からそのまま運河を登ってここまで来たんですよ?」

「リバティホフ……名前だけは調べて知っていましたが……この場所は……」

「ええ。かつて、貴女が生きた時代の首都と同じ場所です。名前を変え、文化を変化させ、統治者が変わる。それでも、この場所はこうして今も息づいている」


 どこか、感慨深くイクシアは船室から出て周囲を見渡す。


「降りましょう。この後はこの都市の警察組織『シュヴァインリッター』の本部へ向かいます。私の目的地である隠れ家は、定期的に所在を変えているんです。今のアジトの場所を聞かなくては」

「シュヴァインリッター……ですか」

「ふふ、貴女の時代に合わせるのでしたら『冒険者ギルド』と言った方がしっくりきますか?」

「! ギルドが変化したものなんですか!?」

「ええ、そうです。というか……貴女の生きた時代にもあったはずですよ?」

「ええと……確か聞き覚えはあったと思うのですが……私はずっとギルドと呼んでいたので……」

「な、なるほど……確かに園の中心にいては世情には疎くなってしまうかもしれませんね。ともあれ、これからここの本部へ向かいます。もうイクシアさんも変装の魔導具を解除して構いませんよ。むしろその顔の方が見つかりやすいかもしれませんから」


 すると、イクシアも魔導具を解除し、自分の素顔を晒す。

 まぁ尤も、既に地球では二人よりも優先して捜索すべき人間が生まれ、二人の事を追う余裕などないのだが。




「とても賑わっていますね。なんというか……地球に似た様相といいましょうか」

「そうですね。この国は全面的に交通整備が整っていますし、車やバイクのような地球の交通手段も一般に広まり利用されています。道路の整備状況だけならば、グランディアで最も進んでいる大陸でしょう」

「なるほど……良い、発展をしたのですね、この大陸は」

「……ええ。私の自慢の大陸、国です」


 どこか感慨深く二人で語りながら、都市の中心部に居を構える、シュヴァインリッター本部へと向かう。

 中の様相は、もはや地球の役場となんら変わらない、近代的な物となっており、二人は真っ先に受付へと向かい、そこでリョウカは一枚のカードを提示する。


「こちらのカードをご確認下さい」

「こちらは……はい、分かりました」


 それで満足したのか、リョウカはイクスと共に待合所のベンチに腰掛ける。


「先程提示した物は一体……?」

「一応、それなりに顔は利きますからね。ちょっとした身分証のような物です」

「ふふ、それなり、ではないでしょう。……リスク等はないのですか?」

「ええ、今の私は秋宮財閥とは関係なしに『ちょっとだけシュヴァインリッターに顔が利く人間』ですから」

「なるほど」


 どこか含んだような物言いをする二人が、互いに含み笑いのような物を浮かべ、しばし受付で動きがあるまで待機していると、微かに、受付の奥から人の話し声が増えてきた。

 程なくして、先程の受付の人間が、リョウカの元へやって来る。


「ええと……三階の応接室に案内します」

「ええ、分かりました。同行者を同席させますが、構いませんか?」

「は、はい。どのような要求にも従うようにとのお達しが……あの、お客様は一体……」

「お友達です、ここの責任者の方と。それだけですよ」


 そうして、二人はここグランディアの警察組織、最も大きな組織力を持つその総本山の責任者の元へ案内されていくのだった。


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