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第百十八話

(´・ω・`)お ま た せ

「……はぁ」

「ササハラ君……まだ気に病んでいるのか……? その、なんだ。君が私達を思ってくれているのはよく分かるし、嬉しく思う。だが、これから先も理不尽な依頼を受ける事だってあるかもしれない。少しずつで良い、飲み込んでいくしかないんだ」

「いや、そうじゃなくて……この飛行機がゲートを潜ったら、俺はまたその……背がですね……元に戻ってしまうので」


 世界樹の苗を護衛するという今回の実務研修は、結果だけ見れば苗もナシアも無事、地球に送り届ける事に成功したと言えるだろう、このままいけば。

 だが一之瀬さんの言うように、その結果はセシリアの策略、ある意味では俺達を囮に使うような形で達成されたという事実が、少しだけ俺の心を曇らせていた。

 ――が! 俺が今テンション低めなのはその所為じゃないんです!

 また、またですよ! またこの身長一九〇の世界にお別れしなければいけないんです!


「そ、そうか……そうだったな。その姿とも暫くはお別れになるのか。……ふふ、では今のうちに目に焼き付けておこうかな?」

「……カイに教えとくね?」

「な! いや、なぜそこでカイが! いや、別に深い意味なんてないんだぞ、ただその」

「冗談だから落ち着いて。まぁ……いつかは地球でもこうなる事を夢見て、って事で」


 そうして、俺達を乗せた飛行機はゲートを越え、地球に戻ったのだった。






 流石にだるんだるんな恰好で戻るのもあれなので、今回はあらかじめ着替えを用意し、飛行機内のトイレで着替えを済ませておいた。

 はい、おかえり身長一五〇代の俺。さよなら、一九〇代の俺。

 空港に到着し飛行機を降りると、今回は護衛対象が対象だけに、空港内に戻る前にそのまま、滑走路付近で待機していた黒服の男やコンバットスーツを纏った人間が、ナシアと苗をそのまま別な飛行機に護衛していった。


「彼女はこのまま、苗と共に植樹地へと向かう事になります。皆さん、今回は大変な任務だったでしょう。よく無事に戻ってくれました」

「リョウカさん!? まさか出迎えてくれるとは……いえ、それも当然、なんですね」

「ええ。貴女達が出発した後、今回の任務の詳細を伝えられ、こちら側での受け入れ態勢を整える為に私も奔走していましたから。最後まで見届けるのは当然です。それに、皆さんを労わないといけませんからね。車の手配は済ませてあります。このまま学園に戻りましょう」


 なんと、見送りだけでなく、お出迎えまでしてくれたのだ。

 いやぁリョウカさんも寝耳に水だったろうなぁ……。

 俺達はやたら豪華なマイクロバスに乗せられ、約一月ぶりに学園へと向かうのだった。

 割とスムーズに任務は遂行出来たのに、移動距離が多くてすっかり夏季休暇にずれこんでしまった。

 こりゃ明日にでも里帰りの予定、立てないとだな。




 珍しく、本当に珍しくクラス全員で理事長室に呼び出される。

 俺だけならよくあるけど、クラス全員って珍しいな本当。


「さて、改めてSSクラスの皆さん。今回は長距離の移動、そして極めて重要性の高い任務の遂行、本当にお疲れ様でした。今回皆さんをお呼びしたのは、二学期からの皆さんの処遇、教育の方針を少々転換する事にしましたので、今のうちに皆さんの意見を聞きたいと思ったからです」

「方針転換、ですか? リョウカさん、それは私も知らされていませんが……」

「ええ、今回の任務で、皆さんへの注目度が高まる事が予想されますからね。この機会に国内外にも貴方達の存在をアピールしたいと思っているのです」


 なんと、クラス全体をアピールするとな。それはなんかこう……問題が増えたりはしないのだろうか?


「SSクラスは、二学期より私直属の生徒であり、また一時的に秋宮預かりの訓練生という側面を強化し、前学期で皆さんに罰として課した護衛任務のような形で、第三者にも一種の兵力として貸し出す事を許可したいと考えています。無論、こちらで任務内容は精査し、皆さんが依頼を受けるか否かの選択権も当然与えるつもりです。これは、皆さんに一足早く『大人の世界』を経験させ、卒業後の進路でも有利に動けるように慣れさせる、という意味あいもあります」

「な……! 私を秋宮の訓練生扱いにすると……!?」

「キョウコさんが反発する事も無理はありません。そう思い、既に香月家御当主には話を通してあります。キョウコさん、貴女に割り振りたいと考えている任務は主に秋宮の研究へのサポートです。ノウハウを盗むもよし、我が社の製品の心臓部に触れ己の経験にするもよし。これは将来、USHと秋宮が競いあい、更なる高みへと至る為の投資だと私は考えています」

「お父様が……許可を……本当に、私を秋宮の中枢を見せるというのなら、それなりの覚悟をしてもらいたいですわね」

「ふふ、ええ。では、キョウコさんは私の方針に従う、という認識でよろしいですか?」

「……ええ、構いません」


 おお……なんか思い切ったなリョウカさん。そこまで大きくSSクラスの方針をかえていくのか……。


「……私は、一之瀬の師範代として、おいそれと他の勢力に力を貸すのは難しいでしょう。恐らくカイも同様。ましてやカイは昨年度の事もあります。やはり学園の任務外で他勢力に協力するのは……」

「そ、そうです。少なくともミコトの親父さんに許可を貰えないと、俺達は首を縦には触れません」

「蒼治郎さんにも連絡を入れお伝えしました。休暇中、お二人と共によく話し合う、という返事を頂きましたので、よく話し合ってみてください。ですが、私も一之瀬流を安易に他勢力に貸し出す事を良しとはしていません。基本的に私のグループに関連する施設での任務を割り振る予定です。後程、任務の候補一覧をお渡ししますので、是非お父様と精査してみてください」

「は。了解しました。ご配慮感謝致します」


 ……そっか。前回は罰則としての任務だから許可は下りたんだろうけど、今後はそうじゃなくて純粋に力を貸しだす事になるのか。そりゃ確かに慎重になるよな。

 一之瀬流って、俺はそんなによく知らないけど、この世界じゃ知る人ぞ知るプロの傭兵のような、そんな特別な人間の一門なんだもんな。


「理事長先生。僕はどうするんです? 一応、籍は既に企業に置いてるんですけど、僕」

「はい、カナメ君が在籍している『グリニッチ重工日本支社』には既に通達済みです。学生生活の延長線上での事ならば、特に問題はないという回答を得る事が出来ました」

「そうだったんですね。じゃあ僕からはとくに問題はありません。貴重な体験ですからね」

「アラリエル君は、残念ながら身元引受人である香田家から色良い返事は頂けませんでした。ですが、任務ではなく課外授業として、キョウコさん同様、秋宮グループの研究に参加、意見を出してもらうと言う形での協力になるのですが、問題はありませんか?」

「あん? あのじじいが俺の事に勝手に口出ししやがったのか?」

「……ふふ、仕方ないことなのかもしれません。前回は皇居周辺という、ある意味では配属された人間もある程度の安全の保障がされている場でしたからね。ですがこの先はどうなるか分からない。さすがに……貴方をそんな場所に向かわせたくなかったのでしょう」

「……正直俺はそんなの無視したいんですがねぇ? それになんで研究なんすか?」

「貴方はバイクにとても詳しく、地球グランディア両方の製品にも精通していると聞きました。一ヘビーユーザーとしての意見を是非頂けたらと思っています。我がグループは決してデバイスだけの企業ではありませんから」

「な……じゃあ俺をバイクに関わらせてくれるって事なんすか?」

「ええ、そう思ってくださって結構です」


 ……なんか、凄い手回しが良いというか、みんなの適正や希望に沿うように先手を打ってるように感じる。

 一か月の間、それだけの事をしていたのか……。


「セリアさんについてですが、残念ながらコウネさん同様、ご両親にはまだ連絡が行ってないと思われます。従って、今この場で何かを決めて頂く事は難しいのですが」

「うーん……そうですね、私のところは放任主義ですし、実際こうして地球に来られてますから、ある程度の事は許可してもらえると思います。私個人としては、いろんな任務に就けるのは将来の為になるし別に問題ないです」

「私も個人的には同じ意見ですね。ですが、家が家ですので、私に割り振る任務は出来るだけその……企業に留めておいて欲しいです。特定の家や派閥の直接的な益になる任務は控えて頂けたら……」

「勿論です。グランディアの大国の令嬢を地球の貴族や華族に仕えさせるわけにはいきませんからね。あくまで私直属の訓練生として、ふさわしい任務を割り振るつもりです」


 あれよあれよとみんなを説得していくリョウカさん。

 そして、いよいよ俺の番になった。


「ユウキ君はそうですね……やはり貴方は戦力として見られる事も多いでしょうが、同時に顔が売れている、という点もありますからね。もしかしたら、公の場に出る事もあるかもしれません。そのことを留意していてください」

「は、はい」


 まぁ俺は別に面倒な家のしがらみもないし、そもそも秋宮に協力してる立場だから難しい話なんてないんですけどね?


「では、既に他の生徒達は夏期休暇に入っていますので、皆さんも明日からは夏期休暇となります。今回は遠征、任務などが重なり期末試験には参加出来ていませんが、特例として二学期以降の任務への従事、または補習ですべて賄えるようにしたいと思います。通常のカリキュラムに加えて任務も行われる事になりますが、皆さんの単位については当然補填もされますし、希望者には補習も受けられるようにしてありますのでご安心ください」


 そのリョウカさんの発言に、みんなが露骨にほっと溜息をついていた。

 そりゃそうだよなぁ……あのキョウコさんまで少し不安だった模様。


「さて……では話はここまでですが――ユウキ君、少し残って頂けますか?」

「あ、やっぱそうですよね」

「あの……ササハラ君についての事は私達も聞きました。秋宮に協力しているのですよね? 彼は身体の変調で本調子ではないのだと思います。出来るだけ無理はさせないであげてくれませんか」

「なるほど、打ち明けたのですか。ええ、今回は少しお話をするだけです」


 キョウコさん、お気遣い感謝です。

 みんなもジェン先生も退室し、リョウカさんと二人きりになる。

 今回の任務の詳細報告……だろうな。


「では、今回の任務の詳細を――」

「いえ、それには及びません。今回貴方に残ってもらったのは……少々、話しておかなければいけない事があるからです」


 室内の空気が、俄かにピリつく。リョウカさん……?


「ササハラユウキ君。貴方の口から、直接これまでのイクシアさんとの生活について、今一度最初から話して頂けないでしょうか。出会いから、今日に至るまでの全てを」

「え……なんでそんな……」

「必要な事なのです。この会話は全て録音されます。出来るだけ、正確に話してください」


 何故だか、そんな意味の分からない事をしろと言われる。だが、リョウカさんの顔は本気だ。いや仮面で半分隠れてるんですけど。


「わ、わかりました……じゃあ召喚実験の時からで……」

「ええ、そこからお願いします」


 俺はイクシアさんの魂を呼び出したその時から、今日までの出来事を出来るだけ詳しく語るのだった。






「――で、見送ってもらった訳です。あ、たぶん明日から俺、イクシアさんと実家に戻るんですけど、大丈夫ですか?」

「……いえ、それは出来ません。ユウキ君、本当に言いにくい事なのですが……今、イクシアさんはあの家にはいないのです」

「え……どうしてです?」

「今、イクシアさんは秋宮の研究室に入院中なんです」


 は? あれ、でも少し前に検査入院したじゃないか。


「あの、また検査ですか? どれくらいで――」

「……イクシアさんは、現在この世界に存在を留める事が出来るか否かの瀬戸際です。古い魂ですからね、随分と劣化も激しく、不調が現れてきていたのです」


 ……え?

 嘘だ、そんな素振りはなかった。検査も異常なしだったはずじゃ。

 頭が真っ白になる。言葉を受け入れるのを頭が拒否している。

 気が付くと俺は――


「嘘だ!!!!!」


 癇癪でも起こしたように、声を上げていた。


「事実です。私は……少し前から相談を受けていました。恐らく、貴方には心配をかけたくなかったのでしょう。あの人はそういう人ですから」

「嘘だ……イクシアさんはどうなっちゃうんですか!?」

「今、ユウキ君の口から語られた思い出を、彼女の魂を補強するのに利用出来ないか模索中です。人の魂に手を加えるのは禁忌の部類ではありますが……それでも治療は必要だと私は判断しました」


 なんでだ、なんでだよ! いつもみたいに見送ってくれたし、一緒に旅行だって行く約束をした!


「な、なんでも話します! もっといろんな思いで話だって! っ治療、出来るんですよね!?」

「……理論上は。ですが、これは召喚とは違い人為的に人の魂に手を加える研究。世界でも認められていない分野です。私は日本との関係で悩んでいましたが、このような大掛かりな研究、さすがに秘密裏に行うのは難しいでしょう。最悪、研究を止める様に言われる可能性もあります」

「そんな……! じゃ、じゃあグランディアに……!」

「それも不可能です。彼女を今の状態でゲートを通過させるのは危険です。ですから、今私に、いえユウキ君に出来る事は一つしかないのです」

「な、なんですか」


 どうするんだよ……治療、ダメだって言われたら秋宮も引き下がるしかないのか?


「……国に、世界に恩を売るのです。イクシアさんの治療を目こぼししてくれるような膨大な恩を。困難な任務を受け、そして勝ち取るのです。国の信頼を。そうすればきっと、研究を続けられる。幸い、貴方は日本の首相にも覚えられていますし、その名前は世界にも広がりつつある」


 そうか……そういうことか。

 秋宮が好きに動けるにしても限度がある……なら限度を超える為に何かを差し出せと。

 それが、俺か。


「……俺、なんでもやります。誰でも守るし、誰でも殺します。それでイクシアさんの治療を続けられるなら……どんな任務だってこなしてみせます」

「……分かってくれましたか。では、これまで以上に任務を与えます。恐らく新学期が始まってからも、学園を空ける事になるかもしれません。それでもかまいませんね?」

「はい。俺の一番はイクシアさんです。俺は……その為ならどんな犠牲も厭いません」

「……分かりました。では、今日はもう戻りなさい。これから辛い任務もあるでしょう。ですが、その先にイクシアさんがいます。どうか、最後まであきらめないで下さい」


 ……なんだってやる。

 ここまで暗く沈んだ気持ちになるのは、たぶん爺ちゃんと婆ちゃんが死んだ時以来だ。

 でも……これはまだ手の施しようがあるはずだ。だったら俺は……全部やってみせる。

 理事長室を後にしながら、俺は誰も待っていない……家に戻るのだった。








「……思ったよりも情報は少ないようですね。イクシア……やはり神話時代の魂でしたか。この程度は想定内でしたが、想像以上にこれは……良い餌になるみたいですね。ササハラユウキ……想定以上の駒です。ふふ……私のジョーカーになってくれるでしょうか」


 秋宮リョウカは一人、邪悪な笑みを浮かべる。

 最強の駒の一つであるユウキを、完全に手中に収めた故に。


⎛´・ω・`⎞邪悪な豚は出荷よー

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