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第百十三話

「最初に一つ。ジェン先生、俺が学園に入学した経緯について、どこまで知ってる?」

「……その件が今回の事と関係があるんだな? 一応、お前が理事長からの推薦で、合格枠に無理やり押し込まれた……という事は知っている」


 俺は、直接関係ないが、それらしい俺の秘密の一端を話に交える。


「セリアさん。前に俺は『ノルン様の落とし物を届けた』って説明したと思うけれど、あれ嘘なんだ。本当は……任務で関わった事がある。そして同様にセシリア様とも任務で関わった事がある。……俺はね、秋宮の人間なんだよ。間接的にじゃなくて、がっつりさ。SSクラス創設にあたって、直接的な戦力を配備しておこうと考えたんだよ、理事長は」


 ここまで、話してしまう。本来の目的とは違うが、俺がここに派遣された事実を話してしまう。


「な……そう、だったのか。だが実際、理事長の目論見通り、お前がこのクラスに配属されたのは正解だった、と言えるな」

「元々、高校卒業前に見出されただけなんだけどさ? 俺が東京に出たがってた時にスカウトされたんだよ。『君強いからちょっとこっちで本格的に鍛えるね』『十分鍛えられたし、折角だからうちの学園こない?』ってな感じで。正直、こんな良い環境の学園に通える事になって、すっごく嬉しかったよ」


 あくまで軽い感じで。そんな裏の人間って訳ではないですよーって。

 だが、クラスメイト達の表情はどこかすぐれなかった。


「それが、君が必要以上に身体を張る理由かい? 秋宮への恩義を返す為に」

「ああ、そう思っちゃうのか。ん-……ちょっと違うな。カナメは俺と同郷だから分かると思うけど、俺地元じゃめちゃくちゃ浮いてたんだよ。ほら……ド田舎だからさ」

「それは……想像に難くないね。だから僕だって早いうちに東京に出たんだし」

「でも俺は高校までずっと地元にいた。俺身寄りないからさ、実家を離れるのがやっぱり難しかったんだ。でも、こっちに来て俺は自分と並べる、一緒に学べるクラスメイトと出会えた。俺にとってみんなはただのクラスメイト以上に大事なんだよ。みんなの為なら俺はどんどん身体張るよ。そういう理由。秋宮に恩は感じているけど……俺が身体張るのとは直接的には関係ないかな?」


 俺の正直な気持ちと嘘を混ぜ込みながら、皆に話す。

 違和感なんてない。だって、嘘ではあるが、俺は嘘を言ったつもりなんてないのだから。


「まぁ、そういう理由で俺はノルン様やセシリア様と面識があるんだよ」


 全てを語り終えると、皆どこか感心したような表情を浮かべていた。


「……つくづく、君の流派が既に失われているのが惜しいよ。ユキさんも、そして君も秋宮に見出された。それ程までの流派が既に失われているというのは……」

「ん-……確かにユウキ君の事は我が家でもある程度は情報も入ってきていましたし、私は知りませんけど、納得出来ちゃう部分がありますねぇ」

「……俺の暴走を止める時、ユキさんが来てくれたのも……」

「……まぁな。俺はお前が勝手にいなくなるのが我慢ならなかったんだよ。一之瀬さんの願いでもあったし。だから、同じ秋宮所属のよしみでユキに依頼を出した」

「く……俺はもうここを去ったりなんて絶対にしないからな! 安心してくれ!」


 やだ、熱い。


「まぁ話は分かったけどよ、なんで夜にセシリアはお前を呼んだんだろうな?」

「ほんとそれな。……正直、俺あの人苦手なんだよ……」

「気持ちは分かるぜ。見てくれだけなら最高にタイプだが、一緒にいたいかと問われたら俺は全力で逃げ出したくなる。外見だけなら本気でタイプなんだよ」

「なんか色々察した。幼いアラリエルの性癖を歪めたんですね」

「うるせぇ!」


 正直、面倒な事が起きる予感しかしないんですが……。


「しかし……やはりササハラ君はただの生徒ではなかったのだな……秋宮ではどんな訓練を受けてきたんだ?」

「ん-……まぁカナメは知ってるしいいか。実は俺、常時リミッターを付けて生活してるんだ。つまり身体能力強化、魔法共に抑圧されてる。その条件下で、いろんな相手と闘って来たよ」

「……なるほど。だが、それだけではない、のだろうな。思えば君の非凡さを最初に感じたのは……去年の『実戦戦闘理論』の研究室、そこの選抜試験だ。恐らく君はあの時既に……」


 え? いやあの頃はまだ誰も殺してなんていませんよ? あれはあくまでこう、ゲームの延長線上というかなんというか……まぁそういうことにしておきましょ。


「まぁ察してくれると助かるかな。あの頃はまだ不慣れな武器に、強められたリミッター。それに魔法も生まれつきちゃんと発動出来なくて苦労していたよ。なんだかんだで、俺もみんなと同じように学園で成長してきたって訳だね」


 そう締めくくると、なんだかもの言いたげだったキョウコさんが、ぽつりと言う。


「本当に、秋宮に使い潰されている訳ではないのですわよね? その魔法が使えなかったという話も、秋宮に何かされたから……という訳ではないのですよね?」

「はは、本当だよ。俺は秋宮の協力者ではあるけど、忠誠を誓っている訳でもないしね」

「ねぇねぇ、ノルン様やセシリア様とはどんな任務で知り合ったの?」

「いやーさすがにそれは答えられないんだけど……簡単に言うと護衛任務みたいな物だと思うよ」

「そっか、それはそうだよね」


 さて、一度俺のお話しはお開きという事で、今回の任務について話そう。


「正直、世界樹の植樹なんて……重大任務なんてレベルの話じゃないぞ。国家が総出でプロジェクトを立ち上げ運用していくような話だ。それをまさか生徒達に護衛を任せるなどというのは……」

「……そうですね、さすがにこの話は私の父も掴んでいなかったと思います」


 俺は、既に知っていた。そういう計画が水面下で動き、どこに植樹するかで国同士が利権を争い、密かに会合を開いていた事も。

 そして……その会合をテロリストが襲撃した事も。

 つまり、今回の任務はオーストラリアでの一件のような危険が伴っている、という事だ。

 俺はあの時……リミッターを全て外していた。その上で、六光という、あのグループを指揮していた男を仕留めきれず取り逃してしまった。

 そのレベルの人間と遭遇するかもしれない任務となると……確かにこれは俺達にはまだ少し荷が重いかもしれない。


「地球に植樹を成功させたとして、世界樹が成長、魔力を生成するようになるまでは長い年月を必要とする。そうなると、地球側でも厳重な警護が必要になってくる。まさかこんな急に私達に話が回って来るなんて……」

「少し、急が過ぎる。この任務はそもそもフェイク、偽の依頼なのではないか? ですね?」


 これが俺の考えだ。以前のセシリアは、植樹についてはまだ『検討する』程度の言葉しか発していなかった。いや、それどころか『計画書に目を通しておく』程度じゃなかったか?

 それを、こんな短期間で実行に移すと言うのは……やはりどう考えてもおかしい。

 何か……何か別の狙いがあるのではないだろうか?


「正解だ。正直、この計画はエルフの死生観で見ればそこまで目の長い話じゃない。だが地球人からすれば、一〇年、二〇年程度では結果が実らないような作戦だ。なのにこんな重大な物を長期に渡り厳重に警護出来る場所、土台や人員が既に用意されているとは思えない。仮に、地球側で内々に作業が進んでいたんだとしても……あまりにも急な上に、求められた人員が少なすぎる」

「例のテロリストの関係で大々的に動くことは出来ない……っていうだけじゃないんですか?」

「確かにカイの考えも尤もだと思います。テロリストの存在が任務を内密な物にしたとは考えられませんか?」

「……だが、それでも生徒や理事長には話しておいてもよかったとは思うが――」


 ……言って良いのかな? まぁ一応考えを述べるだけだし……。


「コウネさんとアラリエルがSSクラスに所属しているから、というのは考えられませんか? 俺達からしたら二人は信頼出来る。でも相手側からすれば『他国の要人』でしかないじゃないですか。警戒するのはおかしい話じゃないと思いますよ」

「は、ちげぇねぇ。俺も一応、母国にゃそれなりに支持者がいる。コウネんとこもシェザード家と言えば国の治安維持を任されてる大貴族だ。警戒するのは当然だな」

「まぁ……私はお父様に研修内容については一切教えていませんけれど、警戒はされますよねぇ」


 それに、別に二人に限った話じゃない。日本人である他のみんなだって、それぞれ企業に繋がりのある人間だ。

 カナメは既に企業に所属しているし、キョウコさんなんて次期社長。カイはともかく一之瀬さんは、将来的にはグランディアのどこかの国に仕える騎士になりたいと入学当初は言っていた。


「現状、任務の正統性や信頼性には多少の疑問があるが、我々はこの任務を降りる訳にはいかない。皆、最大限の注意を払い臨むように。そして……身の危険を感じた場合は、護衛対象のナーシサス様さえ守る事が出来れば、後は自分達の身を優先するように。さすがに、今回の任務はキナ臭い」

「了解!」


 そうして、俺達の初日の挨拶は終わり、後は城内で時間を潰すように、という話だった。

 残念。俺の散髪はちょっと無理そうです。




 時間を潰すと言われても、俺達が王都に到着したのはまだ昼前。今もそろそろ昼食をどうするか考えている段階で、城の中だけでどうやって時間を潰せばいいのかと考えている訳で。

 すると、アラリエルとカナメが城を散策中の俺の元にやってきた。


「よう、そろそろ飯でも食わねぇか?」

「あ、そんな時間か。どうするんだ? 食堂にでもいくのか?」

「はは、僕と同じ反応だ。ね、普通はそう思うよね」


 なぬ? 他にアイディアがあると申すのか!


「城の中って言っても、城の敷地内に『商店』やら『観光地』があるんだよ。城の地下に、有名な地底湖がある。一般にも開放されてる場所でな、飯を食える場所やいろんな店があるんだ。さっき一応ジェンに聞いたら『許可する』だとさ」

「マジでか!? 城の敷地内に地底湖って……どうなってんだよ……」

「なんでも、グランディア一水深の深い湖なんだって。ちょっと空腹うんぬん抜きに是非見てみたくならないかい? 日本一水深が深い湖のある県出身としては」

「ははは……そういやそうだった。でも知ってるか? 世界一の1/4しかないんだぜ、あれ」

「……知らなかった。ちょっとショックなんだけど」


 実は、田沢湖の水深って四〇〇メートル超えてるけど、世界一のバイカル湖って水深一七〇〇越えてるんですよ……俺も授業で昔習って、世界の広さに感服しちゃいました。


「おら、んなくだらねぇ事はいいからいくぞ、良い店はすぐ満席になっちまうんだ」

「くだらなくなんてないよ! 僕、湖とか好きだから大事なポイントなんだよ……」


 何それ意外。まぁとにかく、俺達は城の地下にあるという、地底湖周辺にある観光地へと向かうのだった。




「すっげ……! ここ地底だよな!? なんでこんなに水面がキラキラしてんだ!?」

「見てみなよユウキ君。直接外部に繋がってる出口、あの辺りの天井の岩が大理石みたいにキラキラ光を反射してる。たぶん、それで水面が照らされているんだと思うよ」

「正解だ。それに『ヒカリゴケ』ってのが日光の届かない場所に繁殖して照らしてんだ。まぁ勿論照明もあるし、そもそもここは城の母体になってる巨大樹の水管の真下だ。微かに光が通過して照らしてるんだよ」

「うお……気が付かなかった……そういやここって木の根っこ部分なんだよな……あの水って落ちてこないのか?」

「粘度が高いのと水面張力の関係だとよ。俺もガキの頃、似たような事を聞いたわ」


 ほほー……すげぇなセリュミエルアーチ……エレクレア公国が魔法文明の発達した未来都市なら、こっちは純粋な魔法が盛りだくさんのファンタジー魔法王国って感じだ。

 いいなぁ……普通に任務抜きでじっくり観光したい。

 あたりを見回しながら適当な店を探していると、湖を観察していたカナメが、小さく笑う声が聞こえてきた。


「どうしたんだ?」

「ん? いやね、グランディア一とはいっても、湖の広さそのものは大したことないなーって思ったんだ。これ、直径なんて二〇〇メートルもないよ」

「あん? 看板があるぞ。外周の長さは五四〇メートルだとよ」

「ふふ、勝った。そんなに大したものじゃないね」


 カナメ……まだ対抗意識燃やしていたのかよ……。

 って……おいおい、これはちょっと……。


「喜べカナメ。問題の水深なんだけど、三〇九四メートルだってさ。三キロ以上の水深、さすがにこれは太刀打ち出来ないな」

「ぐ……深過ぎでしょ……どうやったらそんな地形生まれるのさ……っていうか水透明過ぎでしょ……透明なのに底がまったく見えないし……」


 いや本当、これ自然に出来た地形だとは思えないんですが……この巨大樹の関係だろうか?


「こっちに伝説が書かれていんぞ。なになに……」

「えーと……太古の昔、エルフの王様が邪悪な龍を討ち滅ぼし、その時の攻撃の余波で深い穴が穿たれ、そこに川の水が流れ込み、長い時間を掛けて削り取られいつしか出来上がったのがこの『リュエ湖』になります」

「えー? 本当かなぁそれ。なんか嘘っぽくない?」

「は、さすがに疑わしいな。邪悪な龍ってのも常套句みてぇなもんだしな。俺の国にもあるんだぜ? 『その昔、巨大な氷山が丸ごと邪悪な龍の身体で出来ていた』なんて話がな。まぁこれもお伽噺の類だろうよ」


 だよな。やっぱり世界が違っても、こういうお伽噺のお約束ってあるんだな。


「なになに……『リュエ湖名物。魔女のつまみぐい。一串に二〇ルクス、または二〇〇円』だってさ。ここの喫茶店にしようよ、ちょっと気になる」

「あれ? こっちは……『リュエ湖名物。女神のつまみぐい。一袋三〇ルクス、または三〇〇円』ってあるけど……俺、これ地球で買った事あるぞ。結構おいしい飴玉だった」

「はっは、懐かしいなそれ。なんでか知らねぇが魔女と女神の両方がここでつまみぐいでもしてたんじゃねぇか? 俺もどっちも食った事があるが、中々うまいぜ」


 んじゃま、とりあえず頂きましょうか?




「なぁ、なんかメニューにすっげぇ日本で見た事ある料理があるんだけど。日本とそんなに仲いいのか、ここって」

「いや? そいつらは神話時代から伝わってるって話だぜ? 一説には古くからグランディアに紛れ込む異邦人がいたって話があったんだが、案外日本人だったのかもな」

「ふむ、じゃあ僕はこれにしようかな。僕これ好きだし」


 なんか……メニューに平然と我がもの顔で『揚げ出し豆腐』と『きんぴらごぼう』があったんですけど。どういうことなの……。


 その後運ばれて来た料理を頂いたのだが、魔女のつまみくいって普通に海老の揚げかまぼこ? みたいな感じでした。ぷりっぷりで美味しい。なんか普通にリピートしそう。

 さてと……じゃあ俺は夜に呼び出されたらどんな無理難題を言い渡されるのか、今から少し心構えでもしておきましょうかね……。


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