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パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~  作者: 藍敦
九章

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第百十二話

「そうですか。取り逃した……と」

「申し訳ありません……どうやら他にも協力者がいたようでして……」

「ふむ……お姉さまの残した資料には粗方目を通しましたが、詳細が不明の項目がいくつかあります。『ダーインスレイヴ』『イクス』『R』『ジョーカー』『USM』」


 リョウコは、リョウカが残した資料から、とくに機密性の高い物を上げる。

 幸いにして、リョウカはこれらの情報を極力リョウコの手に渡らないようにあらかじめ手を回していたようだ。


「どうやら、このUSMというのは非公式の私兵団のようですね。協力者というのは、恐らくこの集団に所属しているのでしょう。先日のアメリカの一件、間違いなくお姉さまやジョーカーが関わっているにも関わらず、どこもこの件に関与しようとしていない。……この部分には触れない方が今は賢明でしょうね」


 だがそれでも、正解に辿り着く。


「ですが……さらに一名、その人間だけは正式に秋宮の協力者として名前が載っています。今回協力してもらった石崎家は必要以上に情報を開示するつもりもないでしょうし、これ以上あの家に借りを作る訳にもいきません。協力者の名簿にある『ササハラユウキ』。この青年について、徹底的に洗い出してください。私はこれより『秋宮リョウカ』として新たな総帥、そして理事長として動かねばなりません。お姉さまの捜索はこれ以上必要ありません。グランディアに逃れたのなら、あちらは私の土俵ではない。精々、向こうがこちらに手を出してくるのを上座から待っていようではありませんか」


 シュヴァインリッター総合養成学園理事長室。

 その理事長の席に座る『秋宮リョウコ』改め、真の秋宮リョウカ。

 彼女は引き出しの中から、予備だろうか、もう一つの仮面を取り出し、己にはめる。

 これで、自分は本当に秋宮リョウカになれたのだと誇示するように。


「SSクラスの生徒が戻るまでに、徹底的に学園の浄化を行います。お姉さまの息のかかった生徒、職員を排除してください。SSクラスの生徒は――良い手駒になるでしょう。まずは父兄から取り込みましょう。そうですね……手始めに香月家、そして『甲田家』との繋がりを深めましょうか。一之瀬家とシェザード家にはくれぐれも気を付けて下さい」

「は!」


 そうして、リョウコによる学園の掌握が始まったのであった。








「まもなく王都に着くぞ。皆、制服には着替えたな?」


 いやはやついにやってまいりましたセリュミエルアーチ王国王都。

 この後はすぐに研究院に向かい、今回の依頼主であるセシリアの元へ挨拶に向かい、そこで一度ナシアをあちらに引き渡すことになる。

 その後、王都で必要な準備を行うのだとか。


「この姿で制服になるのは初めてだけど……どう? おかしくない?」

「あん? 問題ねぇんじゃねぇか? ただ少し髪はくくった方がいいかもな、先端だけでも。よく動くお前ならその方いいんじゃねぇか?」

「だよな。あーあ……ノクスヘイムで散髪でもしたらよかった。王都にいったら時間に余裕とかないかなー」

「正直、地球に戻るまでそのままでも問題ないのではないか? ササハラ君、髪留めにゴムをあげよう。私は沢山持っているからな」

「あ、ありがとう一之瀬さん。……よし。これで一之瀬さんとおそろいだ」

「ふふ、そうだな。ただ最近、体捌きの鍛錬にもなるしくくらなくても良いのではないかと思うようになったのだが……ふむ」

「お? ミコト髪型変えるのか? いいんじゃないか?」

「そ、そうか? ……そうか」


 あのあの、一之瀬さんが髪結ぶのやめたらつまりただの黒髪ロングになりますよね。

 それってもしかして……某女剣士(仮)に寄せるつもりだったりするのでしょうか……。


「……あの、私はどうでしょう? 似合いますか?」

「あれ? キョウコさんも結んだの? 同じ髪型三人ってなんだかおもしろいね」

「……確かに少々おかしですわね、やめておきます」


 あ、やめちゃった。


「そういえば、私達のクラスって長髪が多いですよね。アラリエル君もそうですし、私もそうですし」

「あー、確かにな。俺もたぶんコウネと同じ理由で伸ばしてるんだと思うぜ?」

「なるほど、魔力の貯蔵ですね。私はまぁヒューマンですので、そこまで貯める事は出来ませんけれど」

「私、戦士に転向する時にばっさり切っちゃったんだよねー……ちなみに結構なお金になりました……」

「マジでか。そういう理由で伸ばしたり取引とかも出来るんだ……」


 そんなクラスメイトの髪型事情に話を膨らませながら、ついに俺達は王都に到着したのであった。




「あれ……なんか涼しい? 外なのに」

「ふふん、驚きましたか? セリュミエルアーチの王都、全てを結界で覆い中の気温を一定に保っているんですよ! なんとこの結界、神話の時代からずっと維持されているんです」

「へー! 凄いな、地球にも都市丸ごと空調効いてる場所なんてないよ。さすがに魔力も潤沢だな……」


 到着した王都は、セカンダリアの主都と比べると幾分大人しい印象受ける、どちらかというと自然と調和した街並だった。

 とはいえ、その規模と、はるか先に見える『巨大な樹からところどころ城が生えている』かのような光景は、地球では絶対に見られないのだが。


「あれが……セリュミエルアーチの王城……」

「はい、私の実家みたいな物です! 今回は研究院に行くので、どのみちお城には行かないといけないんですけどね」

「あれ? そうなの?」

「うむ、ナシア……いや、ナーシサス様の仰る通り、研究院は王城と併設され、あの樹木の中に存在している。では、これより王城行きの馬車に乗り込むぞ」


 すげえ……じゃあナシア、実質王族みたいなものじゃないか。

 馬車に乗り込んだ俺達は、王都の景色を楽しみながら目的地へ向かう。


「私も何気に王都は久しぶりなんだよねー……それにセシリア様と直接お会いするのなんて……二〇年ぶりくらいかも」

「へぇ、じゃあ子供の頃に会った事はあるんだね」

「うん、聖女候補として私も王城の中にある施設で学んでいたから」

「セシリア・アークライト。稀代の大魔導師にして天才研究者。そして……王以上に王らしい、本来であれば初のエルフの王女になると思われていた程の偉人ですからね。私もさすがに緊張してしまいます」


 マジか、そんな凄いのかアイツ。俺にとってはこう……面倒なお姫様というか女王様気質というか……。


「けど、僕達が直接お目通りしてもらえるなんて、シュヴァ学のSSクラスって想像以上にこっちでも認知されているんだね」

「確かにそうだよな。凄いな秋宮理事長……どんな人脈してるんだって話だよな」

「まぁ、確かに私も直接セシリア様とお会いできるとは思ってもみなかった。それに……依頼の詳しい内容まであの方が直接説明すると言うのは、ちょっと不思議に感じるな。理事長ですら詳細を知らないと言うし……」

「ジェン先生はもしかして会った事?」

「……一応、それなりの家の人間だったからな。社交界で幼い頃に遊び相手になっていた」

「マジで。じゃあ同年代って事なのか」


 ちょっと意外。そっかー……同年代なのかー……。


 城に通された俺達は、樹の中だという事を感じさせない豪華な内装の城内を進み、研究院区画へと通された。

 一際装飾の凝った扉の前に立ち、案内の人間がノックをすると――


『入りなさい。案内ご苦労、貴女はそこで下がりなさい』


 その声と共に、メイドさんが去って行く。……何気にスルーしてたけど、エルフでメイドとか破壊力抜群だよね。もう表情取り繕うのに必死でしたよ。アラリエルは普通に話しかけてたけど。


「予定通りの到着ね、シュヴァインリッターの生徒達」

「は! 今回は我々の実務研修への協力、感謝致します」

「ええ、そういう形になるわね。……正直、自国の兵で十分だとは思っていたのだけど、折角ナーシサスが地球に留学しているんですもの、多少の交流は必要かと思って」


 部屋の中では、セシリアが研究者としての私服なのか、以前のようなドレスではなく落ち着いた服装で待ち構えていた。

 まぁ、わざわざ俺達の為に着替えて待っていてくれるよう人ではないと知っているのだが。


「……それに、想像以上に実りがあったわね。懐かしい顔が揃っている。ねぇ、そうでしょう? ファリル家長女に、元聖女候補。それに――先代魔王の遺児」

「……覚えていたんスか」

「その魔力を忘れはしないわ」


 すると、セシリアはそんな事を言いながら……なんとジェン先生やセリアさんだけではなく、アラリエルにまで話しかけ始めた。

 は? 魔王の遺児? アラリエルが?

 今すぐ話を聞きたいが、あくまで今はクライアントの依頼を聞くための場。皆好奇心をぐっと抑え、セシリアの話を聞く。


「……あら? あの子はどこかしら? 確かSSクラスだという話だったと思うのだけれど」

「と、言いますと?」

「ジェン、貴女の受け持つ子供にササハラユウキという少年がいたでしょう? 彼の姿が見当たらないわ」

「ササハラを知っておいでなのですか……」

「ええ、少しね」


 あ。あの事件についてってあんまり広めちゃいけないんじゃなかったのか……?


「ササハラユウキでしたら……この男です」

「……お久しぶりです、セシリア様」


 そう挨拶をすると、怪訝そうな表情を浮かべながら、こちらまで歩み寄って来た。


「お前が? ……本当に?」


 近づいて来たセシリアが、まるでこちらの匂いを嗅ぐように顔を近づけてくる。

 そういえば……こいつ人のこと香炉だなんだって言っていたな……。


「この魔力香……どうやら本当に本人のようね。地球の人間はこんなに成長が速かったのかしら? この間まで、私の胸くらいまでしかなかったはずよ」

「その、グランディアの魔力により身体が変質した結果です」

「ほう、興味深いわね。私の研究対象に加えてもいいくらいよ。……まぁ、先に依頼の内容を教えておくことにするわ。お前達には今回――」


 そして、その依頼内容というのは――


「地球に正式に植樹する予定の世界樹の苗木。その苗木に結界を張る儀式を見届け、守る役目をお願いするわ。その後、苗木を無事地球へと移送しなさい。……それと、貴方達にはしっかりと伝えておく。『全員、最悪殺される覚悟をしなさい』」

「な……それはどういう……! それに世界樹なんて……!」

「世界樹の植樹は我が国の独断。反対する勢力も多いでしょう。けれど、これは我が国の問題。他国にとやかく言われる筋合いはない。だったらその国へは今後一切の物資の輸出はなくなると考える様に既に通達済みよ。つまりもう、この依頼が遂行されるのは決定事項。失敗は許されない。そして……こちらの世界でもテロリストというのは存在しているの。特にそう……地球と懇意にするのをよく思わない、そんな組織がね。貴方ならよく分かるのではなくて? ササハラユウキ」

「……去年の橋の爆破について、ですね?」

「そういう事。儀式は厳重な警備の元執り行われる。けれど、既にテロリストは我が国に潜み、そしてその思想を広めつつある。自国の人間を完全に信用出来ないという状況なの。だったら、まったく無関係な地球の学園の生徒を使えばいいと思ったという訳」


 なんとも……易々と生徒に『死ぬかもしれない任務』を『断れない状況』で与えるとか……厄介極まりないだろこいつ。

 たぶん、この任務は断れない。断ったら最悪、秋宮が、シュヴァ学が苦境に立たされる。そんなレベルの話だ。


「そのテロリストは……そこまでの戦力を?」

「そうね。魔界の調査団に対しても妨害工作を行い、結果として人的被害を出している。グランディア、地球。その両方の精鋭がいる調査団相手にそういう事が出来る相手よ」

「……そんな人間の相手を、生徒達にやれと……言うのですか」

「ええ。ササハラユウキ。貴方の学友は皆、貴方と同じくらい使えるのでしょう?」

「それは……戦闘力という意味でなら申し分ないかと思われます」

「私は『使えるか』と聞いているの」


 ぐ……正直、それは分からない。一応みんなもこの間まで様々な任務に就いていたけれど……俺が経験してきたような任務で動けるか未知数だ。


「……実務は積んできています」

「それはお前と同質の物かしら?」

「…………」

「なるほど、答えられない質問のようね。まぁいいわ。少なくとも兵隊としては一流なのでしょう。詳しい日程については後程伝えるわ。ナーシサス、貴女はここに残りなさい。他の者はもう下がって良いわ。それと……ササハラユウキ、今晩一人で私の部屋に来なさい」


 え、なにそれは……また香炉として置いておくとか言うんじゃないだろうな!?


「ササハラ、許可する」

「……分かりました」

「ええと……じゃ、じゃあ一度お別れです? 皆さん、道中ありがとうございました」


 そうして、俺達は様々な疑問が渦巻く中、セシリアの前を後にした。




「まぁ……とりあえずお前らが聞きたいであろう事だけどよ。言われた通り俺は先代の魔王の子供って形になるな。ほら、知ってんだろ? 今の魔王が就任前、六六代目の魔王がエンドレシアとの交戦中に暗殺されたって。俺はまぁその息子だ。別に世襲制って訳じゃねぇが、親父が特別な血筋だったからな、同様に俺も狙われるんじゃないかって言われていた。そんでまぁ……地球の名家っつー『甲田家』に匿われてるって訳だよ」


 俺達に与えられたミーティングルームで、軽くアラリエルが概要を聞かせてくれた。

 ほーん……特別な血か。それがナシアの言っていた初代魔王の系譜って訳か。


「ノースレシアの王家は、代々セリュミエルアーチの王家と懇意にしていたんだよ。俺も、当然ここに来た事があるし、逆にセシリア様がノースレシアの城に来た事もある」

「なるほど、そういうことなら、もしかしたら私と子供の頃にニアミスしてたかもね?」

「へ、そうかもな。んで……」


 アラリエルがみんなの疑問に答えたところで、次に俺に視線が朱中する。

 やっぱり話さないとだよなぁ……とりあえず、それらしい話を……。


「ササハラ君。君が何故セシリア様と知り合いなのか、聞いてもいいか?」

「確かに……今思えば、ユウキってノルン様とも知り合いだったよね……?」

「ユウキ、さすがに任務に関係があるかもしれない以上、クライアントとの関係は知っておきたい。話せる範囲で話してもらえるか?」


 我が脳みそがフル回転。出来るだけ無理のない嘘の話を――そうだ、ノルン様!

 この線ならいけるか……?


「たぶん、この中だとセリアさんだけが見た事あると思うんだけど……これ」


 俺はまず、自分のスマート端末に保存してある、ノルン様とのツーショット写真をみんなに見せる。

 はい、さすがにもう待ち受け画面にはしていません。今の待ち受け画面はイクシアさんが幸せそうにたこ焼きを頬張っているシーンの写真です。ああ……癒される……。

 そうして、俺は咄嗟に考え抜いたエピソードをみんなに話すのだった。


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