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第百九話

 船での移動二日目、早速最初の訓練の為、船最上デッキにある戦闘場へと集まる。

 ちなみに、俺は船の中でも問題なく眠れるタイプです。揺れが心地いい。


「眠そうだなカイ」

「ああ……寝付けなくて。慣れないんだよどうも」


 まぁ眠れない人間もいるようですが。


「では、本日はグランディアの魔力で戦闘がどう変化するのか、その確認も兼ねて全員で組手を行って貰う。キョウコは本来戦闘行為には参加しないが、徒手による組手に参加してもらうが良いか?」

「了解しました。私も、こちらに来てから少し召喚した精霊が変質したようですので、可能ならばあの子も訓練に使用したいのですが」

「なるほど、許可する。他の皆も、自身が召喚したアーティファクトの使用を許可する」


 お、凄いな、今日は全部使うのかみんな。


「そういえば……アラリエルって何召喚したんだ? 実は俺知らない」

「あん? そりゃ学園来てから目立つ物は使ってねぇからな。俺が召喚したのは『力』だよ。うちの家系に伝わる力の一部を宿したんだ」

「へー! そうだったのか。どんな力なんだ?」

「闇属性の魔法の精度上昇、魔眼、身体能力強化の練度の上昇。まぁ魔力の燃費が悪いから地球じゃあんま多様出来ねぇんだ」

「おお……じゃあ俺と組手しようぜ。絶対地球の時より強いだろアラリエル」

「いいぜ、俺も正直お前かカイかカナメじゃないと試せないって思ってたんだ。おいジェン、最初は俺とユウキからでいいか?」

「ん? 分かった。だがくれぐれも周囲に影響を与えないように。ここの設備は学園程頑丈じゃないんだからな」


 そういえば、アラリエルと組手なんて、去年の実戦戦闘理論の研究室以来だな。

 最近じゃ狙撃訓練ばっかりしてるし、なんだかこうして向かい合うのが新鮮だ。


「今日はライフルデバイスじゃなくて術式リンカーで行くぜ。久々に全力で殴り合おうぜ」

「おー、んじゃ俺も素手……と言いたいところだけど、普通にデバイス使うわ」


 互いに構え、そしてジェン先生の合図が響く。

 アラリエルは動きが速いからな。初手で回り込もうとしたりするだろうし、まずは振り返って――


「オラァ!」

「うおっと」


 が、アラリエルは真正面からこちらに向かい殴りかかって来た。

 モーションがコンパクトで、速さを重視した動きに見える。これなら、防ぐよりもギリギリで避けた方がリターンも大きいか?


「うおっと! イテ!」

「ファーストヒット頂き」


 だが、寸前で拳の先から闇魔法だろうか、黒い結晶が伸び、避けたと思った瞬間薄く皮膚を裂かれてしまった。

 ここでは術式によりダメージは疲労に変換させられる。つまり、今の一撃で少しだけこちらの身体が重くなったって訳だ。


「ん-……読み外しが連続。なんか調子悪いな今日」

「けけ、だな?」

「まぁとりあえず……攻守交替」


 駆け出し、得意の疾走からの居合い……と見せかけて、そのまま風絶を発動させアラリエルの動きを一瞬停める。

 が、アラリエルが魔法で風絶の勢いを弱め、想定よりも一瞬だけ早く風の拘束から逃れた。

 まぁ逃れたところで――間に合う訳だが。

 距離を取ろうとしたアラリエルの背中を、風の刃が切り裂き、吹き飛ばす。

 それで恐らく相当な疲労が溜まったのだろう、アラリエルの動きが鈍る。


「悪いな、今回も俺の――」

「へへ」


 近づき最後の一撃を放てば終わり。

 念のため、確実に行動不能になるような一撃を――


「……風絶」


 しかし、やっぱり近づかずにその場でもう一度風絶を放ち、アラリエルを行動不能にする。


「アラリエル……お前なんかしてるだろ。少し調子が悪い。よりによって『今の俺が』だ」

「……ぐ……くっそ……おめぇの力が増してたのがアダになったか……」


 ジェン先生による試合終了の合図と共にアラリエルへと近づき、助け起こす。


「攻撃の読みを外したり、技の選択が安直になりかけた。途中で思い直して技をかえたけど」

「へ……正解だぜそれ。俺の宿した力の一つ『魂操の魔眼』だ。ある程度なら相手の行動を阻害、誘導可能って訳だ。……だが、魔力の扱いに長けた人間には効きにくい。セリアやコウネには厳しいと思ったが、まさかお前に破られるなんてな」

「意外だろ? 俺こう見えてもかなり魔力の扱いに慣れてんだよ」


 これも、イクシアさんによる治療と、それにあわせて魔法を工夫。なによりもこのデバイスとリミッターを付けて生活したお陰で、魔力の繊細なコントロールはお手のものなんですわ。


「そういや、お前の進級試験、魔導だったな。すっかり忘れてたぜ」

「けど、正直初見で突破は難しすぎるだろそれ」

「初見じゃなくてもカイとカナメ、一之瀬あたりならかなりの勝率じゃねぇか? 今日はもう打ち止めだ、明日だ明日」


 フィールドの外に出ると、クラスメイトが驚いた表情をしてこちらを見つめていた。


「……ササハラ君の動きがいつも以上に速く、悔しいが途中動きを見切れなかった。だが……アラリエル、お前もだ。あれと戦えたのかお前は……」

「私は既に知っていましたけど、ユウキ君の要所要所の動き、技の切り替えが速すぎですね。アラリエル君も、かなりの速さで術を展開していましたし」


 マジでか。いつもと同じ感覚で動いていたけど、一之瀬さんですら一瞬見逃す速さだったのか?

 アラリエル……お前凄いなこっちでフルパワーだと。

 その後、俺達に触発されたのか、他の面々もいつも以上に激しい戦いを見せていたが、中でも一之瀬さんが凄かった。

 恐らくいつもより身体強化が上手く発動していたのだろう、確かに動きの機敏さが上がっていたが、それ以上に『その速さを完全に使いこなしていた』。

 刀捌きがもう、人外じみていました。カイと戦っていたのだが、速さで上回るカイを完全に自分はその場を動くことなく、全攻撃を捌き、ついにはカイの剣を弾き飛ばしてしまったのだ。


「くっそー……上下左右の打ち分けが速すぎるぞミコト……まさか剣を奪われるなんて」

「お前の力は剣によるところが大きいからな。対策としてずっと練習していた。……ふっ、今日は少々刺激的な物を見てしまったからな、割と全力で行かせて貰った」


 やばい一之瀬さんカッコいい。惚れちゃいそう。嘘だけど。

 一方その頃、別なフィールドではキョウコさんがカナメと徒手による組手を行っていた。

 だが……え? あれ?


「そこです、いきなさい!」

「おっと! それ、速いね!」

「ええ、そうでしょう? ……今です」

「な!? もう一匹!?」


 キョウコさんが、まるで某『ポケットに入るモンスター』のトレーナーよろしく、電気ハムスターちゃんを戦いながら操作していたのだ。

 それも……明らかにチンチラサイズまで大きくなったのを二匹も。

 すげえ、もう実質ピ〇チュ〇じゃん!


「はい、チェックメイトですわ。ふふ、驚きまして?」

「完全にやられたよ。裏をかこうとしても無駄だって分かったよ。香月さん相手に頭脳戦は無理だね」

「まぁ一度限りの奇襲戦法ですけれどね」


 すると、二匹のデカハムちゃんがキョウコさんに元に戻って来た。やだ……可愛い。


「キョウコさん! 可愛いね! それ」

「な……可愛い……ああ、ええ。そうでしょう? こちらに来てから精霊がだいぶ力を増したんですの」

「へー……あれ? キョウコさんの瞳の色も少し変わってる……金色と栗色? 凄いね、オッドアイだ」


 見れば、キョウコさんの片方の目だけが金色に輝いていた。が、はむちゃんを消すとこちらも栗色に。

 栗色に気が付かなかったよ……。


「ま、まじまじと見られると少し照れます」

「あ、ごめんごめん。カナメもお疲れ」

「うん、ちょっと疲れたかな。精霊の一撃だけでごっそり疲労が溜まったよ。たぶん、本来なら一撃で感電、行動不能になるんじゃないかな」

「正解ですわ。この大きさですと、出力の方も上がっていますので。それに、さらに細かく分裂、小型化して四方に潜ませる事も可能です」

「え!? じゃあ小さいはむちゃんいっぱい呼べるの!?」


 すげえ! 俺それ知ってる、古いゲームで見た事あるぞ!

『実は最強の敵がハムスター』っていうゲームで、そんなハムの大群が襲ってくる技があった!

 すげぇ……ゲームの再現いけるじゃんそれ……カモン〇ミングだ……。


「ど、どれくらい沢山出せるの?」

「そんな期待された目をされても……出てらっしゃい」


 すると、ポンとゴールデンレトリバーサイズの、先程より二回り大きいはむちゃんが出てきた。

 可愛い! もふもふしたい!


「出来るだけ分裂してみてくれる?」

「チッ!」


 すると、短く鳴いたと思った次の瞬間、いつもと同じサイズに小さなハムスターはフィールドの一角を埋め尽くしたではないか。すげえ! 普通に百匹余裕で越えてる!


「おおお! すごいなー、可愛いなー」

「ただ、あまり長時間は維持できないみたいですわね。『疲れた』と言っています」

「あ、そっか。ごめんなはむちゃん」


 すると一つに集まり元の大きさに戻り、消えていった。


「今日以降はこちらの力を鍛える方向ですわね、私は」






 午前の訓練を終え、昼食を摂った俺達は、午後の訓練が始まる午後三時まで、しばしの自由時間となった。

 相変わらず海しか見えないが、やっぱり海の青さが凄いっす。これってやっぱり水深も凄いのかね? この世界の海洋生物ってどんなのがいるんだろ。


「あ、ユウキ。海見てたの?」

「セリアさん。そう、ちょっとグランディアの海洋生物について考えてた。ほら、地球にすら体長二〇メートル越えクジラがいるんだし、グランディアはどうなのかなーと」

「あー……実はこっちの世界って、海の調査がそこまで進んでいないんだよね。あくまで生活に必要な漁業について調べる程度でさ。ただ……魔物としてなら昔は凄く大きい海龍とかいたらしいよ。今だと殆ど残っていないけど」

「へー! 龍と言えば、この世界には魔神龍? っていうのがいるんだっけ? それで飛行機が自由に飛べないって聞いたけど」

「うん、魔人龍様のことだね? ノースレシアに住んでる龍で、人の言葉も話せる巨大な龍なんだ。私は生で見た事はないけど、現代でも龍と言葉を交わす役割を持つ人がいるんだー。それに、魔神龍ほどの存在ではないけど、セリュミエルアーチにも『白龍様』っていう存在がいるんだ。こっちも人の言葉を話せるけど……なんというか、普通に退屈してるお姉さんみたいな性格で、魔神龍様とは比べるのもアレなんだけどさ」


 え、何それ見てみたい。ていうか話せるのか龍って。


「それにしてもなんか変な感じだなー。里帰りと同じ船に、クラスメイトみんなが乗ってるなんて」

「あー、確かに。セリアさんの故郷って、目的地の王都から離れてるの?」

「結構離れてるねー。大陸に着いたら、今度は小型の船に乗って大陸の中を流れてる運河を移動するんだけど、途中の支流に向かうと私の故郷の里があるんだ。でも、王都はそのまま運河を二日移動する必要があるんだ。だから、結構な距離があるんだ」

「へぇ、陸路じゃないんだ」

「大陸縦断列車って、本当に縦断しかしないから、王都に止まらないんだよね。というか私達エルフって、列車が苦手なんだよね、風を感じられないから」


 なんと、そんな種族の特色があったのか。窓全開じゃ満足できないのか。


「ま、そもそも私達の国って、国の名前こそ変わったけど、主要都市とか街道って神話時代のままだから、後から列車を走らせて全部の都市を繋ごうとすると、すっごい複雑な形になっちゃうから、元々向いていないんだよねー」

「へー……つまり東京のようだと」

「あはは、そうかも。それにしても王都かー……行くの何年振りだろ……」

「あんまり行った事ないんだ?」

「たぶん、まだ聖女候補として学んでいた時代以来かな? 七年ぶりくらいかも」


 まぁ、俺だってたぶんシュヴァ学に通わなかったら東京に行く事なんてないしなぁ。


「たぶん王都見たら驚くよ? ファストリアでは朽ちた世界樹が校舎になった学園があるけど、王都には生きた世界樹がそのまま王城として使われているんだよ?」

「え、凄い樹の中に城があるんだ」

「うん、そう。私も前はお城の中にある教育機関に通っていたんだー」

「へー! じゃあ最近まではナシアはそこにいたのか」

「そうそう。ナーちゃんっていうか、聖女候補の花の一族は、基本王城の中から出ないし、出たとしても私の里に遊びに来るときくらいなんだ」


 ふぅむ……箱入りだなぁマジで。


「もし自由時間がとれるようなら、王都の案内してあげるね」

「お、やった! じゃあ約束ね、セリアさん」


 はてさて……正直依頼主がセシリアの段階で、あんまり自由時間はとれなさそうな気がするんですが、どうなることやら……。


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https://youtu.be/4wt3rxZYXyc?t=722

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