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第百八話

 研修二日目。船でサーディス大陸へと移動する事になった俺達は、想像以上に大きな客船にちょっと尻込みしていた。


「いや、こんくらい普通だろ。地球とは海の広さがちげぇんだから。てかなんでセリアまで驚いてんだよ」

「え、いやそのー……これいつも私が実家に戻る時と同じ便だからつい……」

「まぁ、確かにセカンダリア大陸ではなく、その先のサーディス大陸まで移動するとなると、この規模の客船になりますよ? かなりの距離を移動しますから、出来るだけ多くの人を一度に運んで燃料の元を取る、という事です」


 なんか、前にコウネさんと乗った客船よりさらに大きいんですが……事故らない? 大丈夫? あ、魔法があるのか。


「ミコト、こんな大きな船に乗った事あるのか?」

「いや、私もセカンダリア大陸より先に行った事はないんだ」

「だよな……アラリエルはノースレシアだったか?」

「ああ。この船でサーディスに渡ったら、今度は大陸縦断列車に乗って、その後さらに船でセミフィナル大陸。そこからまた鉄道に乗って、もう一度船に乗って、ようやくノースレシアだ。どうだ、俺の里帰りがいかに大変か分かったかよ」

「……なぁ、ファストリアから反対の海に向かえばノースレシアまですぐじゃないのか?」


 地球は丸いんです。グランディアも丸いはずでしょ? 地平線も弧を描いてるし。


「あん? そっちの海域通ったらさらに時間かかるだろうが。乗り換え考慮してもこっちの方が速いんだよ」

「……グランディアでかすぎんだろ。じゃあ殆ど海じゃないか」

「まぁな。実際この世界の住人からしたら、地球の方が『海の規模に対して大陸だらけ』って印象なんだよ」


 はー……なるほどなぁ。世界が違えば物の見え方も違うって訳だ。

 俺達は船に乗り込み、与えられた個室に荷物を預け、甲板に集合する。


「では、まもなく船が出向する。所要時間は八日。それまでは基本自由行動とするが、一日六時間、訓練時間を設ける事になる。午前九時から一二時までの訓練。その後昼食を挟み、さらに三時間の訓練を行う。最上デッキの訓練フィールドを借り切っているので、そこに集合するように。では、本日は解散とする。明日は遅刻しないように」


 なるほど、しっかり訓練は積んでおくのか。これはむしろ好都合だ。


「チッ、優雅に船旅も出来ねぇのか……まぁ夜は自由みたいだが」

「アラリエル、ここって船内バーがあるとか言わないよな?」

「……へへ、あるに決まってんだろ。まぁ……さすがに次の日の訓練に遅れる訳にはいかねぇけどよ」

「うむ、さすがに弁えてきたなアラリエル。それに今は任務中だ。たとえ酒を飲める年齢であろうとも、控えて貰うぞ。カイも残念そうな顔をするんじゃない、未成年だろう」

「へいへい」

「な、なんで俺まで……」


 くそー……めっちゃ楽しそう! 飲めなくてもなんだかそういう場所ってわくわくするんだが!


「ユウキ君、ここプールがあるみたいだよ。もう身体は平気だろうけど、慣らしもかねて少し泳がないかい? 君、学園で結構プールで自主練してるよね?」

「あ、知ってたのか。まぁ色々身体に無理させてたからさ、結構前からよく通ってたよ」


 すると、今度は唐突にカナメがそんな提案をしてきた。

 実は、イクシアさんに去年言われた時から、ちょいちょい通ってる。

 身体能力強化の訓練や、リミッターを上げられた直後なんかはよくプールで調整していたのだ。


「こっちもそろそろ初夏だし、丁度良いかなって」

「へぇ、カナメ中々いいとこ突いてんじゃん。真面目な振りして」

「……なんのことだい?」

「俺も付き合うぜ。結構この船、富裕層のオネエサマも乗ってるからな」


 こいつ……! 最近すっかりアラリエル色に染まって来ていやがる……!

 あとカイもこっちに聞き耳立てんな! 一之瀬さんに切り刻まれるぞ!




 まぁ、俺達水着なんて用意してないんですけどね。船で販売している水着を購入、当然お洒落なんて言語道断な訳でして、普通にスポーツタイプの海パンを購入しました。

 しかも、女子は誰も付き合ってくれないという。みんなしてプール脇のカフェで何やら資料に目を通している。


「いや期待なんてしてないんですけどね」

「何を期待していないって?」

「なんでもないなんでもない。……しっかしカナメ、マジで筋肉凄いよな」

「身長が成長しないからね、せめて筋肉の成長を見守ってるって訳さ。それに、ある意味では全盛期に近い年代で身体の代謝が半固定されてるんだ。成長率の高さが維持されていると思うと、結構楽しいものだよ?」

「なるほど……つまり年を重ねるほど強くなる、と」

「ケケ、そういう意味だと俺も得だな、エルフ程じゃないが結構長命種なんでな」

「羨ましい話だよまったく。俺なんてただの人間だぞ?」


 と、そこへアラリエルとカイが。カイ、お前がただの人間というのは無理があるぞ。

 君その剣の力で歴代の所有者の知識が身についてるんだろ? つまり……中にはイクシアさんの知識も紛れ込んでるんじゃないのか!?


「んで、期待ってぇとあれだろ。……まぁツラだけならうちの女子連中はかなりの上玉ばかりだ。身体の方は……まぁ及第点ってところか」

「おま……クラスメイトをそんな目で見るんじゃない!」

「真面目君だな相変わらず。一之瀬とはどうなんだよ」

「ミコト? ……確かにアイツは背も高いし身体のラインも綺麗だとは思うぞ、鍛えているからな」

「カイ君、そういう意味で聞いたんじゃないと思うよ。けどまぁ、みんなプロポーションはいいよね」


 やめろやめろ、さすがにこれ以上その話題はなんかこう、触れてはいけない部分に飛躍しそうだからやめろ。


「俺の見立てだと……セリア、コウネ、一之瀬、キョウコの順だな」

「へぇ、僕はてっきり一之瀬さんと香月さんは一緒くらいだと思っていたよ」

「何の話だ? 身長ならミコトが一番だろう? それで次がキョウコだ。僅かな差だけど」

「……カイ君はたまにワザと言ってるんじゃないかって思う事があるよ」

「……だな」


 ほらー! 触れてはいけない部分に飛躍したー!

 あとアラリエル、その見立ては俺と一緒です! セリアさん鍛えてるからか普通に大胸筋によるブーストもあるんだと思いますよ。あとコウネさんはたぶん食べたカロリーがそっちに行ってる。残り二名はまぁ……和服が凄い似合いそうとだけ。

 ちなみにイクシアさんはコウネさんと一之瀬さんの中間くらいだと思います。

 こればっかりは……その、見たことがあるので。








 ユウキ達がプールの中にいた頃、プールサイドのカフェでサーディス大陸についての資料に目を通していた女子達もまた、彼等と似たような内容について話していた。


「こうやって見ると、私達のクラスの男子ってかなり目を引くよねー。こっちじゃ珍しい顔つきのカナメとかカイとかユウキがいるのは勿論だけど、アラリエルだって髪の色がさ、ほら」

「そういえば、彼はノースレシア出身なんでしたよね。つまり……」


 セリアの言葉にコウネが反応する。が、グラディアは長くても、他大陸の文化に疎いミコトとキョウコは、イマイチ話を理解出来ないでいたようだ。


「あらりぇーる先輩はノースレシアの魔王の系譜に連なる人のはずですよ? たぶんコウネ先輩と同じくらい、由緒正しい家の出じゃないんですか?」

「ナシアさんは詳しいのですね? まさか彼がそんな家柄の出だとは」

「まぁナーちゃんはグランディアに関わる歴史は全部叩きこまれてるからねぇ……でもあのアラリエルがねぇ……」

「ふむ……こうして見ると、周りの人間に比べると、確かに四人共かなり身体が引きしまっているな。確かに目を引くだろう。……だが、任務行動中におかしな真似はさすがにしてほしくはないな」

「まぁねぇ……最近カナメもアラリエルの影響で悪い遊びしてそうだし。その点、ユウキって割と健全だよね」

「そうですわね。……それに、今は逆に一番目を引いているのではないでしょうか。やはり髪が珍しいのでしょうか」


 散髪が出来ていない関係で、ユウキはグランディアには珍しい黒い長髪。やはりそれは人目を多く引いているのであった。


「確かにねー……それにあの中だと一番大人びて見えるっていうか……ね?」

「そうです、不公平です! あれでは大人の男の人です! どうしてあんなに変化するんですか! あんなにちっちゃかったのに! 私より少し大きい程度だったのに!」

「ふふ、そうですね。それに、中々の男前ですよ? やっぱり素直に笑ってくれる男性というものは良いものです。そう思いません?」


 コウネがそう訊ねると、キョウコだけはしきりに頷いていた。


「まぁ……確かにそうだな。どこかのバカと違って調子に乗る事もなく、変わらず実直だ。ふふ、確かに仲間としてではなく異性として見るのなら、この上なく良い評価を下したくなる気持ちも分かる」

「そ、そうだよねー? まぁユウキはユウキだけど……なーんか色んな意味でズルいよね」

「正直、ユウキ君かなりカッコいいですよね? それなのに無邪気に隣で笑ってくれますし、相変わらず無自覚に優しいですから、割とドキっとする事ありません?」


 キョウコだけ、全面同意中。一緒に行動すると、普段のユウキが普通にやっている事が、いかに危ない行動なのかを理解させられるのだ。

 つまり、幼い容姿のお陰で『気遣いの出来る子供』という意識が無意識に女性陣の中で働いていたという訳だ

 そんな会話をしていた時だった。彼女達の傍にもう一人の女性が近づいて来た。


「あんなの……ユウキじゃない。なんというか……癒されない。私は認めたくはない……」

「ジェン先生……なんていうか……前から思っていたんですけど、その……小さい子好きなんですか?」

「な……教官である貴女が……!?」

「違う、違うぞ! ただ、癒されるんだ、ユウキを見ていると。なんというか、もし弟や子供がいたらこんな感じだろうか……そんな気持ちになるんだ」

「あー……なんとなく分かります」


 そんな、結局は男子と大して変わらない会話で盛り上がっているのであった。








 一通り身体を動かした俺は、皆より一足早くプールから上がり、着替えて甲板の先端付近へと一人移動していた。

 日差しが結構強いけど、風が気持ちいいな……。

 すると、そんな中こちらに話しかける人物が。


「失礼、貴方は日本人ではないでしょうか?」


 振り返ると、中年……いや、壮年に差し掛かる頃合いかな?

 おじさんとお爺さんの中間、なんともダンディな男性が、キチっとした背広を着て立っていた。


「はい、日本の学生です。もしかして貴方も?」


 白髪交じりだけど、黒髪だ。それに日本語……ってグランディアの共用語もなぜか日本語メインだったな。


「ええ、仕事で少々こちらに」

「そうだったんですね。俺、こっちで働く日本人とは初めて会いましたよ」

「そうでしたか。学生……となると、こちらへは旅行かなにかですかな?」

「いえ、あくまで学校行事の一環、研修みたいなものですよ」


 そっか、こっちで働く地球人もそりゃいるよな。

 前に主任が『兄はグランディアで働いている』なんて言っていたけど……あれってつまり、ジョーカーとして活動していた……って事だよな。


「となると、やはりこちらへは初めてか、または数回程度、ですね? どうです、こちらに来た感想は」

「そうですねぇ……思っていた以上に魔法の技術が凄いなぁ、と。この船とか地球じゃまず見られない規模ですし、それでいて速度も……」

「ええ、本当にその通りですな。地球と比べ、明らかに魔法の技術が優れています。その上……地球の技術をどんどん吸収している。正直、地球では魔力量の違いでこちらの魔法技術は殆ど参考にはならないというのに」

「あー……確かに言われてみるとそうですねぇ。ちょっと不公平なんて思っちゃいますよね」

「そう、そうなんですよ。……そしてそれに危機感を覚えている人間は驚くほど少ない。君はどう思いますか?」

「ん-……まぁいつまでも仲良く出来たら、問題なんて起きないとは思いますが……実際、色々ありますからね。とにかくいい関係を続けていく、ですかね」

「……ええ、そうですね。……今のこの世界の在り方は、少々歪ではありますけどね」

「え?」

「いえ、失敬。つい熱くなってしまいました。まだお若いだろうに、非常によく考えていらっしゃる。もし、また会う事がありましたらその時はまたじっくりお話ししましょう」


 そう言って、男性はデッキから立ち去って行った。

 ちょっと変わった人だな。それに……なんだか今の世界の在り方に疑問を抱いている?

 俺みたいに、両方の世界の裏側に携わる人間じゃなくても、こんな風に感じる人も中にはいる……って事なのかな。

 でも、それはきっとヨシキさんの言うところの『正しい戦争』へといつの日か続く流れ。

 文化の違い、文明の違い、環境の違いからくる小さな不和なのだろう。

 きっと、リョウカさんは今の男性のような人間の不満をどうにか解消したく、この流れを止めようと日夜活動しているのだ。

 俺に、どこまでその手伝いが出来るかは分からないけれど。


「さてと……冷えてきたし戻るかな」


 そうして、俺はみんなが待つプールへと戻っていくのだった。


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