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第百七話

「な……お前は誰だ!」

「だからユウキです」

「嘘をつくな! ユウキはな、もっと小さいんだ! そこまででかくなる訳がない!」

「本当ですってば! ほら、制服だってあらかじめこのサイズで注文し直してきていたんですから!」

「騙そうっていったってそうはいかんぞ! ユウキはな、私のこの辺りまでしか背がないんだ! お手頃サイズなんだよ!」

「誰がお手頃サイズじゃ! キョウコさんからもお願いしますよ」


 ホテルにてジェン先生と口論中。俺をユウキだと認めたくない模様。

 いやージェン先生背高いもんなー。それが今じゃ俺の顎くらいまでしか身長ないんだもんなー。はっはっは。


「ジェン先生、彼はササハラ君で間違いありませんわ……私もしっかりとこの目で確認しましたから。先生は私とは違い、学園側からあらかじめ説明もされていたのでしょう?」

「しかしだなぁ……いくらなんでもこれは変わりすぎだろう……アタシ一七〇センチあるんだぞ? だがお前は……」

「一九三です。服の採寸取る時に計りました」

「……ありえん」

「でも実際なっちゃったんだからしょうがないじゃないですか。一応、身体の方はもう異常なしなんですけど、さすがに町中で戦闘訓練をする訳にもいかないので、後はどうしようかなって」

「ぐぬ……軽く流す程度ならアタシが付き合ってやる。ホテルの裏に来い、一応軽い訓練用のスペースがある。いいか、絶対に本気で暴れるんじゃないぞ!」

「そっちこそですよ」


 とりあえず学園の外なので自分でリミッターをいじる。

 最近は五五〇までレベルを上げていたが、この姿ならその倍は必要だろうな。とりあえず一一〇〇にセットして……うお、一瞬めちゃめちゃ身体が重くなった。

 というかこの辺りになるともう、身体強化すら発動が難しいかも。集中しないと。

 ホテルの裏手には、屋外テニスコートのようなノリで、訓練用のフィールドが用意されていた。

 本当に身体の調子を見るだけなので、コンバットスーツに着替えるでもなく、ただ軽い組手感覚でジェン先生と相対する。


「うー……なんで私の方が緊張してるんだ。いいか、ササハラ(仮)! これはお前の身体がしっかりと慣れているか、そして本当にササハラなのかチェックする為だからな! デバイスは無し、ただの組手だからな!」

「了解です。んじゃいきますよー」


 いつも以上に繊細な魔力コントロールが要求されているはずの身体強化。

 だが、グランディアの環境が、充実した魔力が、最適化した身体が、それを容易に可能にしてくれる。

 いつものように疾走居合でもするかのような速度で接近すると、先生の反応が一瞬遅れるも、すぐさまこちらの背後を鋭角な角度での回り込みで奪おうとする。

 だが一瞬で振り向き、先生の姿を捉え、迫る腕を弾き返す。


「くっ」

「ちょっと先生本気出し過ぎ」

「お前もだろ!」


 こちらも掴みかかる……と思わせておいて、足払いをしかけるも、驚異的な反応速度でバックステップされる。

 姿勢を落としての足払い故に、体勢を戻すのに一瞬生まれる隙。そこを先生が見逃すはずもなく、再びこちらに迫る。


「知ってた」

「な」


 見なくても、分かる。釣り行動に釣られるようじゃレート戦じゃ生き残れないんですよ。

 迫るかかと落しを両腕でがっちりとホールドし、そのまま体を引き寄せる。

 このまま〆てもいいけれど、これは訓練なので――とりあえず片足大開脚の先生をそのまま抱き留める。


「は、放せ!」

「はい。んじゃ俺の勝ちって事でいいですよね?」

「私に勝てるって事は間違いなく……うちの生徒だしなぁ……認めたくないがユウキ……なんだよなぁ」

「まだ信じてなかったんですか……」

「……頭では分かってる」


 そんなに俺がでかくなると納得できないのか貴女は。




 その後、ホテルで待機する事になった俺は、そのまま継続して訓練場で身体の調子を確認していく。

 動ける、間違いなく以前よりもさらに身体が動く。リミッターをあげてもこれだ。やっぱりグランディアの環境下でなら……俺はさらに強くなれる。けどまぁ――


「さすがに……ヨシキさんに勝てるビジョンは浮かばないんだよなぁ……」


 海を割り、施設を一瞬で消し飛ばし、大国を屈服させる。どんな力だよ。

 やっぱり俺は、あそこまでの力は欲しくない……かな。伴う重責に心が潰されてしまいそうだ。


「ササハラ君、そろそろ日も沈みますわ。もう上がりにしましょう。シャワーでも浴びてきてはいかがです?」

「あ、そうだね。ありがとう、キョウコさん。これは?」

「差し入れ……ですわ。だいぶ動いていたようですので」

「あ、見ていてくれたんだ。ありがと、もう倒れたりはしないから安心してね」

「え、ええ」


 スポーツドリンクを受け取る。そういえば、こっちの世界の飲料は初体験だ。

 ……あれ、これ普通にパッケージが日本の某アクエリだ。味もそのまんま。

 しかし……やっぱりかなり強くなってるな、俺。今ならまたディースさんと戦っても、自滅覚悟の特攻なんてしなくても食い下がれるのではないだろうか。

 いや……慢心はやめよう。あの人どこまで本気か分からないし。

 でも、確実に自分より強い存在がいると知れたのは、ある意味では心に救いが出来た思いだ。

 強すぎる力。相手になる存在が居ない事への虚無感、そういうのが全部吹き飛んだ。




「ふー……どこかで髪、切らないとなー。前髪だけでも今切っちゃうか」


 部屋でシャワーを浴びながら、伸びすぎた髪を指に絡める。後ろはさすがに自分じゃ無理だな。

 洗面所に移り、とりあえず前髪だけ切って顔が出るようにする。オールバックって似合わないんだよ俺。


「あー……髪乾かすの時間かかりそ」


 とりあえずみんなが戻って来るまでには身支度整えないとな。




 ホテルのロビーに戻り、先生とキョウコさんとみんなの帰りを待つ。

 どうやら、こちらに詳しいアラリエル、コウネさん、セリアさんがそれぞれ班に分かれて自由行動をしているらしい。

 ナシアの護衛はいいのか……いや、まぁ一緒に行動してるのがコウネさんだから問題ないのだろうが。

 ということはカイと一之瀬さんは一緒なのか? 二人きりではないだろうけど。


「戻って来たな」

「お?」


 すると、ホテルに最初に戻って来たのは、カナメとセリアさんの二人だった。


「ただいま戻りました。コウネとナーちゃん……じゃなくてナシアさんは少し遅れます」

「む……どうしてだ?」

「すぐそこの屋台に並んでいます」

「……またか」

「僕が並んでみんなの分を買えばよかったのにね」


 いつも通りなコウネさんと、恐らく同じくらい買い食いをしたかったであろうナシアを想像しながら笑っていると、不思議そうな顔でカナメがこちらを見ていた。


「先生、こちらの方は?」

「あ、もしかして研修の協力者さんですか?」

「はい、そうです。皆さんの研修にお供させて頂く事になりました」


 他人の振りしてみる。騙されてくれるだろうか?


「へぇ、外部協力者がいるなんて初めてですね。地球出身ですか?」


 お、気づいてない気づいてない。


「……おい、あまりからかうんじゃない。二人とも、驚くなよ? こいつは――」


 先生がネタばらしをしようとしたその時、ホテルのロビーに子供の声が木霊した。


「あー! あー! ずるい! ずるいですよユウキ先輩! なんですかその姿は! 私だって大きくなりたいのに!」


 両手にクレープを持ったナシアが、ぷりぷりと怒りながらこちらに近づいて来たのだった。

 え? その距離から分かる物なのか? え、初見バレ?


「うっそだろ……なんで分かったんだナシア」

「え? だって同じ服で同じ顔じゃないですか? 魔力も少し似てる感じですし」

「まじかー……お前のそれ洞察力なのか子供の勘なのかわからねぇ……」


 え? 俺ユキとして会った事もあるけど、下手したらバレる? 念のためもし変装する事があっても近づかないでおこう……。

 すると、今度は入り口の方からコウネさんもやって来た。


「あ、無事に適応出来たんですねユウキ君。ふふ、久しぶりに見ますけど、やっぱり良い男ですねー?」

「いやー照れる。と言う訳で、謎のお兄さんの正体はユウキ君でした。どう? びっくりした?」


 カナメとセリアさんに正体を明かす。

 すると、カナメがじっとこちらの顔を見つめ――


「……うん、確かにユウキ君だね。雰囲気が間違いない。はー……これでクラスで一番背が低い男子が僕になってしまったよ」

「おい、密かに俺を心のよりどころにでもしてたのかよ」

「だって僕、背伸びないし」


 あ、そういや武器の影響で伸びないんだっけ。


「うっそ……こんなに変わる物なの……? ユウキ? 本当にユウキ?」

「本当ですとも」

「じゃあ……質問、私と去年の夏休みに一緒に観光に行った場所、最初はどこだったでしょう?」

「え? スカイツリーでしょ」

「……正解。えー……本当にユウキだ」

「疑ってたのかよ……いやまぁたしかに自分でも凄い変化だと思うけど」


 セリアさんが腕を伸ばしこちらの頭に触れる。


「アラリエルより大きいんじゃない? えー……なんかちょっと悔しいなー」

「へへへ……そういえばカイと一之瀬さんは? それにアラリエルも」

「三人は確か港の方見に行ったはずだけど……」


 すると、丁度三人が戻って来た。


「遅れてしまい申し訳ありません。ただいま帰還しました」

「すみません、俺がちょっと港で手伝いなんて買って出ちゃった所為なんです」

「俺はこいつらに連れ戻された。せっかく飲みに行こうとしたのによ」


 お前自由行動だからって自由がすぎるぞ。


「アラリエル、一応今日も任務行動中だ。勝手な行動は許さん。一之瀬、カイも、もう少しスケジュール調整をしろ。無理なお願いを上手く躱す事も時には必要だ」

「はい、申し訳ありませんでした」

「肝に銘じます」


 一先ずこれで全員がホテルに揃う。後は飯食って明日の移動に備えるだけだな。


「本当に、アラリエル君より少し大きいですわね」

「そうみたいだね。前からあの身長が羨ましかったからさ、結構嬉しい」

「……ふふ。本当に変わりませんのね」


 そうです、こんなんでもユウキはユウキですので。


「ところで……そちらの方は一体?」

「あ、それにユウキの事はどうなったんです? キョウコ、ユウキとは一緒じゃないのか?」


 はい三回目! このくだりもう三回目!


「ササハラ君でしたら、無事に身体がグランディアに適応して退院しました」


 他人の振り、パート2。


「そうか……あの、もしかして治療院の方ですか?」

「いや……カイにミコト、それにアラリエル。こいつは……ユウキだ」

「どうも、前髪不ぞろいロンゲお兄さんのユウキです。どうしよう、サーディス大陸に着いたら散髪して貰おうかな」

「は?」

「あん? おいマジか?」

「……ふむ?」


 三人共信じてくれない。そんなにいつもの俺と別人に見えるのか。

 いや俺もたぶん信じないだろうけど。たとえばナシアが突然イクシアさんみたいな美人なお姉さんになったとしたら、疑うだろうけど。


「どうだアラリエル、ついにお前の身長すら越えてやったぞ」

「……クク、マジかよ。お前イケてんじゃん、後で街に繰り出そうぜ」

「くそ……実際研修じゃなかったら凄く魅力的なお誘いなのに!」

「だな。あー勿体ねぇ。地球に戻ったらまた縮むのかよ?」

「たぶんそう。春休み中もこうなったもん俺」

「……どんまいだな」


 チクショウ! 俺も夜の街に繰り出してお姉さま方と遊んだりしてみたいのに!

 やましい気持ちではありません、あくまで社会経験です、男子の健全な願いです。


「……髪も伸びるのか……ユウキなんだよな?」

「そ、髪も伸びる。前回切ったんだけど、また伸びたんだよ。前髪だけさっき切った」

「はー……その身体だとどうなるんだ?」

「倍くらい強くなる」

「は!? お前さらに強くなるのか!? くっそー……後で手合わせな!」

「もう夜だが。船の中で訓練とか出来ると良いんだけどな」


 いやーカイは真っ直ぐですな本当。そっちももしかしてグランディアにいる間は力が増したりするのだろうか?


「ふむ……なるほど、良い顔つきだ。君は元々、邪気の少ない、真っ直ぐな瞳をしていた。幼さが目立つ関係で気が付かなかったが……その自信と余裕を秘めた人相は、どこか私の兄にも似ているな」

「あ、確かに! 少しセイメイさんに似てるな」

「あ、一之瀬さんのお兄さん? へー……似てるんだ」

「いや、あくまで雰囲気が、だな。君の方が人当たりの良い顔をしているよ」

「……照れる」

「ふふ、すまない。しかし……なるほど、手足のリーチだけでなく、機動力も増すと見た方が良いか……これは是非、私も手合わせをしたいところだな」

「はは、俺も試してみたいよ。明日の船、どの程度の規模になるか、だね」


 さて、明日からは暫く船の上か……果たしてどんな事が待ち受けているのだろうか?


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