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第百五話

(´・ω・`)バーに行きたい……もう二年くらい人の多いお店にいってない……

 いや本当認識の違いって凄まじいな。

 ナシアの話や研修の概要を聞き終えた後は、てっきり質問攻めにでもあうんだろうなーと思っていたのだけど、もうみんな物凄い畏まっちゃって……。

 アラリエルですら敬語だよ? やばくない?


「そんな大物だったのかー。ていうかカイまで聖女って知ってたんだ」

「当たり前だろ……ユウキは知っててあんな態度だったのかよ」

「何分疎いものでして」

「疎いなんて次元じゃねぇだろ。お前、田舎っていうか別世界から来たんじゃねぇか?」


 ドキ。やめろアラリエル、それ冗談のつもりだろうけど核心突いてるから。


「僕ですら来歴くらいは知ってるよ? ユウキ君、よくこの学園受かったね」

「グサ。カナメ酷い、それは俺に突き刺さる」


 裏口入学みたいなものですから!


「まぁ私は一応幼馴染みたいな物だから普通に話せるけど……というかうちの里のみんなは普通に可愛がってるんだけど、聖女って『サーディス大陸の象徴』みたいな存在なんだよね。今でこそ『セリュミエルアーチ』っていう統一国家が治めているけど、その前は二つの国が大陸を治めていたんだ。で、その時代から聖女っていうのは存在していて、後に一つの国に纏まったのも、全部聖女様の功績なんだってさ」

「へぇー……ナシアはその聖女の一八代目って訳なんだ」

「そ。聖女っていう役職は、大体七〇年周期で解任されるんだけど……それってつまりは花の一族の寿命がそれくらいだからっていう意味なんだ。先代様が今から一一年前に亡くなられて、それから少ししてナーちゃんが国王様に連れられて、新しい花の一族として育てられ始めたんだ」


 寿命が短い……のか。たしかにエルフの尺度で言えば、七〇年前後で亡くなるのは大分早いと言える。いや、聖女になってから七〇年? じゃあ大体の寿命は九〇年前後なのかね?

 ……地球人と大差ないんじゃないですかね。


「それより、なんでアラリエルあんなに依頼主の名前に反応してたんだ?」

「確かにそうだな。何か関わりでもあるのか?」

「ね。私が驚くのなら分かるけど……」

「あー……気にしなくていい。ちょっとだけ面識があるんだよ」


 ほうほう。君のエルフスキーな性癖と関係でもあるのでしょうかね?

 だが……出来れば俺は会いたくないんだよなぁ。

 そうして、明後日に研修を控えた俺達は、今日は早めに帰宅し、準備に取り掛かるのであった。






 研修当日。前回コウネさんとグランディアに赴いた際に購入した『成長した身体用の私服』を用意し、さらに普段着も成長した体に合うサイズの物を身に着け、強引にベルトで止めたり裾を折り返したり、腕をまくった状態のなんともダボダボでみっともない恰好で空港に到着する。

 やだ……すげー浮いてる。


「ジェン先生、おはようございます」

「早いな、ユウキ。……一応理事長から聞いてはいたが……本当にその恰好で行くのか?」

「本気です。見ててくださいって、ちゃんと向こうに付いたら変化するんですから」

「……いくらなんでもそれは夢を見すぎなんじゃないか? 多少老化するという事案は報告されているが……」


 くそー! 信じろー!


「それより他のみんなの身体って大丈夫なんですか?」

「一応、一日だけファストリアで身体を慣らす時間を設ける予定だ。まぁカイは完全に身体が変質している関係で問題ないとは思うが、カナメとキョウコはあまりグランディアには長く留まっていなかったという話だからな」


 へぇ……じゃあカナメとキョウコさんは変化するかもしれないのか。

 それから数分、他のクラスメイト達も続々と集まって来た。

 無論、こちらの服装に対して突っ込みを入れてきたのだが。


「なんつー恰好だよ? さすがにんなファッションは向こうでも受け入れらんねぇぞ」

「うるせー! 理由があるんだよ!」

「なんていうか……一度試着した服は絶対買わないといけないお店だったの? ユウキ、さすがにサイズが合わなさすぎだよ……」

「その、なんだ……ササハラ君、もしも動きにくいようならいっそのこと制服に着替えたらどうだろうか。面会用に用意しているだろう?」


 みんなの言葉が俺を切り裂く。いいんだ、きっと驚いてくれるだろうから。

 ちなみに、セシリアとの面会用に制服を持ってきてはいるが、しっかりユウリスサイズにしてあります。リョウカさんが手配してくれました。

 まぁそんなこんなでまもなく飛行機の時間が迫ってきたところで、意外にもリョウカさんがやってきた。


「皆さん、実務研修頑張って来て下さいね。しっかりとジェン先生の指示に従い、クライアントと良い関係を築いてください。ジェン先生、生徒達を任せしましたよ」

「はい。しかし珍しいですね、リョウカさんが態々見送りとは」


 確かに。京都にはついて来ていたが、こんな風に態々俺達を見送りになんて来た事なかったと思ったんだけど。


「……そういう気分になる時もありますよ。それに初のグランディアでの研修ですから」


 なんとなく、なーんとなくだけど、いつもより少しだけ元気がないように見える。

 だが、それを指摘できる状況でもないし、そんな間柄でもないし……しっかり研修を終わらせてくるのが一番の元気づけになるんじゃないかな?








 生徒達を乗せた飛行機が、見る見るうちに視界から空へと消えていく。

 それを見送ったリョウカは、人気のないロビーで一人ごちる。


「……今夜にでも、行った方がよさそうですね」


 すると、リョウカはスマ端を取り出し、ある番号に連絡を入れる。


「もしもし、ヨシキさんですか? 今夜あたり、お願い出来ませんでしょうか?」

『深夜の貸し切りか? 分かった、バーとして営業してやる。もう、そろそろなのか?』

「ええ。既に私が本社に戻る事は出来ない状況ですし、プライベートな資産も全て凍結されている事を確認しました。恐らく、既にあの子が国に働きかけていたのでしょう」

『昨年から続く国との軋轢は、全てあの娘さんの根回しだったって事か。さすがお前だな、もう一人の』

「……ええ、本当に。人の優しさに包まれ、ある意味ではぬるま湯で生きてきた私とは違う……ずっと秋宮で生きてきた『私』ですから。少々地球では分が悪いみたいです」


 語っている内容は要領を得ない。だが、確かにリョウカは『完全なる敗北』を痛感していた。


「お客さんを一人、追加してもいいですか?」

『分かった。……お前は、結局ササハラユウキに何も伝えなかったのか?』

「伝えたら、彼は反発する。そして反乱分子となった彼を『私』は容赦しない。彼や学園の人間を守る為にも、伝えられないのですよ」

『……そうか。なら後はあの子……イクシアやユウキの判断で、秋宮から逃げ出すのを待つって訳か。……前も言ったが、そう上手く行かないだろうな』

「私も耄碌した、という事ですかね。流石に長く生きていると、思考も鈍るというものです』


 ロビーを後にし、珍しく徒歩で学園へ戻るリョウカ。

 それは、もう何も信じられないとでもいうかのようだった。


『リョウカ。もう一度言うが俺はお前を助けない。だが……盛大に見送ってやる。そして戻って来たら盛大にもてなしてやる。……だから、絶対に帰ってこい』

「……はい、ヨシキさん」


 通話を終えたリョウカは、空を仰ぎ見ながら、ぽつりとつぶやいた。


「本当……なんでこう上手く行かないんでしょうかね。今度こそ私の物に出来ると思っていたのに」


 それは、果たしてどういう意味だったのか。それはきっと誰にも分からない――








「長引けば夏休みまでずれ込むかもしれない……か……」


 一方その頃、ユウキを送り出したイクシアは、家事をこなしながら、暫く帰ってこないかもしれないユウキの事を思い、溜め息をついていた。

 以前よりも一層ユウキを構いたいと思っているのに、それに反して二年に進級したユウキは多忙な日々を送っている。それは仕方のない事なのだが、やはり寂しく感じていたのであった。


「戻って来たら旅行……それを楽しみに待っていましょう。後で本屋さんでガイドブックでも……」


 そう考えていた時だった。珍しくイクシアのスマ端が鳴り、応答してみると――


「はいイクシアです」

『こんにちは、イクシアさん。秋宮リョウカです』

「まぁ、リョウカさん。珍しいですね、私の方に連絡をするなんて」

『ええ、少々お話がありまして。もしも今晩予定が空いていましたら、ちょっとお時間を頂けないかと思いまして』

「問題ありませんよ。どうしたのですか?」

『ふふ、たまにはゆっくりお話でも、と思いまして。では、夜の八時半頃に、私が指定するお店に来て頂けないでしょうか?』


 そうリョウカが言うと、以前、ユウキと食事に行った事のある裏の町にあるレストランを指定された。

『追月夜香』今日の夜は貸し切りにしている、とリョウカは言う。


「以前行った事がありますよ。大変美味しいお料理を頂けるお店です」

『おや、そうでしたか。ですが、今日は特別にバーとしての営業をお願いしているんです。軽く先に食べておいた方がいいかもしれませんね』

「まぁ……分かりました。そういえば……リョウカさんと二人でお酒を飲むのは『初めて』ですね、思い返すと」

『……ええ。お互い、忙しい身の上でしたからね』


 どこか、しみじみと語る二人。

 約束を取り交わすと、イクシアは早めに家の用事を済ませ、時間までどこかウキウキとしたような、けれどもどこか緊張しているような、そんな曖昧な気持ちで過ごしていたのだった。






 夜。日も長くなってきた初夏、ようやく街灯が点灯し始めたシンビョウ町を一人、イクシアが進む。

 目的の店が見えてくると、そこではリョウカが既にイクシアを待っていた。


「お待たせしましたリョウカさん」

「ふふ、私も今来たところです。では、入りましょうか」


 以前訪れた時、フロアをすぐに通り過ぎ、そのまま奥の個室に通されたイクシアだったが、今日は人のいないガランとしたフロアと、カウンター席をじっくりと見回す事が出来た。

 フロアの照明は点けられておらず、カウンター席周辺だけがおとなしめにライトアップされていた。

 勿論、カウンターに店のオーナーでありシェフであり……そして本日はバーテンダーをも務める男性が待機していた。


「いらっしゃいませ。……珍しいな、本当に一人じゃないなんて」

「ええ、今日は友人を連れてきました。……大丈夫ですよね?」

「勿論。特に……貴女ならば」


 オーナーでありバーテンダーである男性『ヨシキ』は、リョウカの影に隠れていたイクシアを見て、少しだけ表情を驚かせながら、小さく微笑むのであった。


「貴方は……! その説は大変お世話になりました」

「いえいえ。その様子ですと……無事、お子さんをお祝いする事が出来たのですね?」

「はい。とても、とても美味しいお料理に息子だけでなく、私も驚いてしまいましたよ」


 以前、ユウキの誕生日ディナーについて迷っていたイクシアに助言を与えた男でもあるヨシキは、ただの『お節介なおじさん』という体で語る。


「知り合い……だったのですか?」

「少しな。料理について話した程度だ」

「ええ。助言をいただきました」

「ふふ……それはそれは……優しいですね、ヨシキさん」

「……まぁな」

「あら……リョウカさんともお知り合いなんですね」

「ええ、たまにしか営業をしていないお店ですが、私の行きつけの店でもあります」

「だったら料理を食いに来い。なんでいつもバーとして来るんだよ……」

「それはまぁ……なんとなく悔しいですから?」

「……まだお前の所のレストランで働くのを断った件、根に持ってるのか」


 気心知れたような、自然体で楽しそうに話すリョウカの姿に、イクシアもつい微笑みを漏らす。


「座ってくれ。じゃあ……何から飲む?」

「ジンフィズ。クラッシュアイス多めで」

「え、ええと……では私も同じ物で」


 慣れた調子で頼むリョウカと、ちょっとおどおどしながら追従するイクシア。


「渇き物……ジャーキーやナッツ、チーズも一応用意しているが、どうする」

「ではナッツをお願いします」

「プレーン、スモーク、燻製してから蜂蜜漬けにした物もある。おすすめは三番目だな。今日のジンフィズのレモンはシチリア産だ、少々甘い香りが強い。蜂蜜とよく合う」

「美味しそうですね。ではそれで」


 そう言うと、ヨシキは慣れた手つきでカクテルを仕上げていく。


「私は、こういうお店に来た事はあまりないのですが、やはりカクテルの名前は覚えた方が良いのでしょうか?」

「そうですね、どう思います? マスターさん」

「……無理に覚えなくても、どういう物を飲みたいか指定してくだされば問題ありません。そうしているうちに少しずつ覚えていくと思いますよ。ただ……自衛の意味も込めて、特定の『強いカクテル』の名前は覚えておいて損はないかもしれません」

「だ、そうです。俗に言う『レディキラー』というヤツですね?」

「三流の人間が利用する手口です。強い酒で酔わせ、相手を自由にしようとする。まぁ、そういう手合いはこの海上都市にはいませんけどね。治安、かなり良い場所ですから」


 話しながらも、おつまみを提供するヨシキ。

 そして、出来上がったカクテルを軽く一口含むと、イクシアは小さく『美味しい』とこぼしたのだった。


「夏はこれに限ります。マスター、貴方は飲まなくて良いんですか?」

「一杯目を提供してすぐこっちも飲んでどうする……まだ宵の口だろう」

「ふふ……リョウカさん、楽しそうですね」

「ええ、楽しいです。……こうして、また過ごす事が出来るのが本当に」

「……はい。それで……もしや何かお話があったのではないでしょうか?」

「もう聞いちゃいます? では軽い触りの部分だけ……実はですね、その、近々学園の体制が変化するのですよ。ですので、現在彼、ユウキ君にお願いしている件についてですが……不満も出てくると思うんです」

「まぁ……」

「ですので、もしも不満があるのでしたら、その、変な意味ではないのですが、どうか遠慮なく逆らっても良いから、と、イクシアさんからもユウキ君に伝えておいて欲しいんです」

「ええと……分かりました……?」


 話がひと段落したところで、互いのグラスが空になる。


「二杯目はどうしましょう……マスター、私のイメージでカクテルって作れますか?」

「そういうこっちが困る注文をするんじゃない……。というかお前相手だとほぼ固定注文みたいな物だろ」

「あの、では私もまた彼女と同じ物で――」

「いえ、特別に貴女にも……イクシアさん、でしたか? 貴女のイメージのカクテルを作りたいと思います」

「まぁ……では、お願いします」


 ヨシキが棚に置いてある酒を調合している最中、イクシアが静かにリョウカに語る。


「……何か、困った事になる予定があるのではないですか?」

「……と、言いますと?」

「事前に予防線として懸念事項を説明、対抗策を教えておく。それは……貴女の癖のような物だと記憶していますから」

「……まぁ、そうですよね。ええ、ちょっとだけ面倒な事になりますね」

「私で、お役に立てる事はありますか?」

「……私は、貴女との契約によりユウキ君の命を最優先にしてしまう。ですが……その契約は既に失効してしまっています。ちょっと抜け穴を使って」

「つまり、もうユウキを助ける気がない……いえ、助けられない状況に陥る、という事ですね?」


 核心に迫る。だが、またしてもその話を中断するかのように、グラスが差し出される。


「アマレットをどんぐりリキュールに変更したアレンジゴッドファーザーだ。お前、これ飲まないと意地でも帰ろうとしないよな」

「ふふ、そうなんです。……美味しいです、ヨシキさん」

「そして貴女には……」


 すると、何故か一瞬だけ躊躇するようにヨシキはグラスを引っ込めようとする。

 だが……やはり差し出す事にしたようだった。


「これは、同じくゴッドファーザーというカクテルからアレンジされて生まれた物です。『ゴッドマザー』今回はまだ新しい、樽も設備も若い蒸留所で作られた、熟成もあまり進んでいないアマレットを使用しました。淡く、まるで貴女の髪のような黄金の色合いです。かなり度数の高いカクテルなので、出来るだけ氷をよく溶かして、ゆっくり飲んで下さいね」

「え……」


 一瞬、イクシアは驚きの声を上げ、ヨシキを見つめる。


「……あの、やはり顔を見れば分かる物なのですか? 私、実はそこまでお酒に強くないんです」

「……ええ、なんとなくです。ただ、一般の人でもかなり強いと感じるカクテルですから。今回は溶けやすいクラッシュアイスにしていますので」


 ちびりと、本当にちびりとイクシアがグラスに口を付ける。

 そして……今度は小さく『懐かしい』と口にした。


「それで……やはりどうしても私では助けになれないのでしょうか?」

「……ええ、無理です。だから、イクシアさんはただ、ユウキ君との生活だけを守る事に専念してもらえたら、と。……もしもの時は、二人でどこかに逃げる、という手もありますからね」

「……そんな事になるかもしれない、と?」

「そうですね……そんな時が来たら……」


 すると、リョウカは唐突に大人しくカウンターで自分の仕事をしていたヨシキへと向かい――


「この人に、相談してみてください」

「……おい。だから今日、彼女をここに連れてきたのか」

「ええと……このマスターさんは……」

「一応、関係者ではあります」

「断る。俺は、今回の件に付き合うつもりはない。申し訳ないが……貴女が仮にここを訪れても、協力は出来ませんよ」

「酷いですね、直接目の前に連れて来ても断るなんて」

「……悪いな。ただまぁ……話くらいは聞くかもな」


 少しだけ居心地の悪い沈黙が場を満たす。

 その空気に耐えられなくなったのか、ヨシキは言葉を掛ける。


「……人生に悔いの無い選択なんて物は存在しない。絶対に後悔する。何か事が起きた時は『罪のない選択』をして欲しい。罪、罪悪感が生まれる選択はしないに越した事はない。たとえ悔いが生まれても、自分の心に従って行動していけば、運命はそれに応えてくれる」

「それは……たとえ自分にとって大きな損失に繋がるとしても、でしょうか?」

「その損失にもよるでしょうね。話を聞く限り……貴女の一番は息子さんだ。なら、その息子と共にいられる為の最良の行動を、思うまま取るといいでしょう」


 そうして語り合うヨシキとイクシアを眺めながら、リョウカがグラスを煽る。


「……本当に、美味しい。ヨシキさん、あまり下手な事をイクシアさんに吹き込まないで下さいよ?」

「お前の邪魔はしていないさ。ただ……お前がいないと平穏な生活を脅かされるかもしれないなら、お前の無事こそがイクシアさんが息子さんと平穏に暮らす為の道筋なんじゃないかと思っただけだ」

「……そう、かもしれませんね。リョウカさん、貴女はきっと……私や学園にとって必要な存在です。もしも、なんて事は起きないに越した事はないですよ」

「……本当、その通りなんですけど、ね」


 苦笑いを浮かべながら、度数の高いカクテルのおかわりを要求するリョウカ。

 それはまるで、強い酒で現実から逃れようとしているかのようで、少しだけ……彼女らしくはない行動だった。

 賽は既に投げられた……のではない。既に出目が出そろった状態なのだ。

 故に、今夜の酒の席は、ただの現実逃避。珍しく……リョウカは秋宮の総帥ではなく、ただの一人の、仕事に疲れた女になっていたのだった。


「……そろそろ俺も付き合う」

「……ええ。って……なんでバーなのに堂々と日本酒飲もうとしてるんですか」

「俺の店だ、別にいいだろう」


 静かに、夜が更けていく。


(´・ω・`)ステイホーム!(豚小屋)

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