第百三話
(´・ω・`)おわりのはじまり
「ただいま戻りました! すみません、ちょっと食堂で寝ちゃってて遅れました!」
「おかえりなさい、ユウキ。もしかして寝不足ですか? あまり遅くまで起きてはいけませんよ?」
急ぎ帰宅すると、既にイクシアさんが晩御飯を作り終えていた。
「はは、ごめんなさい。おー……今日のサラダ美味しそうですね!」
「ええ、今日はコブサラダという物ですよ、伊藤さんから教えて貰いました。野菜嫌いな子供が野菜を好きになるように、と作り始めたそうですよ。ユウキは元々野菜が好きですけどね? 良い子です」
「いやぁ……俺も小さい頃から婆ちゃんが厳しかったから……」
うむ、幸せだ。この生活を失う訳にはいかないですな。
「しかし早い物ですね……もう七月に入ってしまいました。今年ももう半分過ぎたんですよね」
「あー……学園が四月からだからそういう意識なかったです。今月の実務研修が一学期最後の研修になりますねぇ……」
「……そうですね。ユウキは立場上、他の皆さんの護衛もかねて学園に通っている。それは重々理解していますが……前回も軽い負傷をしたという報告がありましたし、やはり私は心配です、ユウキ」
う……前回の任務については流石にイクシアさんに伝えられないので、表向きは他の生徒が知るように『任務中に負傷、一足先に帰国した』という事でイクシアさんにも報告されている。
でも、その所為でイクシアさんにまた心配をかけてしまっている……。
「負傷って言っても、場所が他国なのでどんな怪我でも負傷って大げさに扱ってるだけなんですよ? 日本だったら間違いなく任務が終わるまで放っておいて問題ない怪我だったんですから」
「そうなんですか? ……たしかに痕はどこにも見受けられませんが……」
「そうそう、その程度なんですってば。だから安心してください」
「ん-、分かりました。確か、今年からはグランディアでの研修もあるんですよね? もしそうなったら、いろいろ気を付けないといけないですね」
「ですね。それに、それが終わったら夏休みですし、そうなったら今年は早めに実家に戻りませんか?」
「そういえば、実家を今改修中でしたよね? それこそ今月中に工事も終わるんでしたっけ」
出来るだけ心配させないように適当な嘘を並べ、そして話題を変える。
そう、リフォーム中の我が実家がついに完成するのですよ。
いやー……結構ガタきてたからなぁ……将来はあの家に戻りたい所存であります。
「今年はどこかに旅行も行きたいですねー。実家からならさらに北に旅行も行けますし……北海道とか行ってみたいですねー」
「知っていますよ、北海道。魚介の美味しい場所だとBBちゃんねるで紹介されていました。良いですね、では夏休みになったら一緒に行きましょうか」
「はい、絶対」
こりゃ楽しみが増えた。絶対、なにがなんでも無事に研修を終わらせないといけませんな。
「楽しみですね、ユウキ。確か今月の実務研修はいつもより早めに開始されるんでしたか?」
「そうなりますね。いつもは月末ですけど、今月は来週に入ったらすぐです」
もう気持ち的にアメリカから戻ってすぐな気もするんですが、こういうハードスケジュールもSSクラスの宿命だ。
それに……研修の分だけ報酬が支払われるし、前回の任務では文字通り破格の報酬が支払われたのだ。
旅行で泊まる宿、思いっきり奮発してやろうかな。
翌日、今日も俺以外クラスメイトが登校していない中、講義を無事に終えた俺は、予想通り理事長であるリョウカさんに呼び出されていた。
「お久しぶりです、ユウキ君」
「はい、ご無沙汰しています。結局、しっかりとした報告は前回出来ないでいましたけど……大丈夫なんですか?」
「はい。状況は全てジョーカーから聞いていますから」
やはり気になるのは、あの事件がその後、どうなったのか。
一応ニュースはチェックしていたのだが……大統領が突然の辞任表明をした事以外、俺の耳にあの国についての話は入ってこなかった。
いや、大統領辞任ってかなりの大事件ではあるけど……。
「事件のその後について……聞いてもいいですか?」
「ええ。貴方はもう、裏の世界における『最も深部に関わる情報』を知ってしまいましたからね。今なら、どんな質問にも答えると約束します」
……そっか。それはたぶん、俺はもう後戻り出来ない場所まで踏み込んだって意味でもあるんだろうな。
「あの事件の顛末から教えてもらえませんか?」
「いいでしょう。あの事件が発覚した後、ジョーカーにより現大統領へ『全ての実験の凍結』『現政権の凍結』『関係者全員の凍結』『次期大統領及び政権への介入』を約束させました」
「は!? じゃあこの間の辞任も含めてジョーカーの要求なんですか!?」
「そうなります。……暫くは、アメリカはジョーカーの監視下に置かれる事になるでしょう」
「……どんな力があれば大国を意のままに操れるんですか……」
「操りはしていません。あくまで監視です。もし下手にグランディアと戦争になってしまえば……間違いなく地球は植民地化するでしょう。その事実を地球の人間は分かっていないんです」
マジでか。どうしても元いた世界の常識に囚われているので、近代兵器と魔法を組み合わせれば、グランディアとも渡り合えると思っていたのだが……不可能なのか。
「次の質問です。その……ジョーカー……ヨシキさんの力ってなんなんですか……あんなの、その気になれば全部支配出来てしまうじゃないですか……戦争すら起こせない、争いも全て恐怖で支配出来てしまう……何故、ヨシキさんはそれをしないんですか」
「……それは、彼が極めて微妙な立ち位置にいるからと……恐怖での支配はお互いに不満をため込むだけになるからです。貴方は、その支配者がいなくなった後の世界がどうなってしまうのか、考えたことはありますか?」
「っ! ……ヨシキさんも不老不死ではない、って事ですか」
「ええ。ジョーカー亡き後、溜まりに溜まった不満は世界を滅ぼす争いへと発展するでしょう。それに……ジョーカーは地球と同じくらい、グランディアを大事に思っている。だからこそ、正しく起きた争い以外が生まれてしまうのを何よりも恐れている」
それが分からない。正しい争いってなんなんだ? 争いは全部正しくないんじゃないのか? 平和が一番だって、そんなの子供でも分かる事じゃないか。
「……喧嘩が一切起きない学校なんてありません。あったとしたら、それは上の人間による締め付け、徹底した教育により子供が締め付けられた結果。それを、貴方は健全だと思いますか?」
「……喧嘩がないのはいいことじゃないですか」
「そのクラスの人間は、きっと戦う力、ぶつかり合う事の意味、それらを学べずに壊れていくか、誰かを壊してしまうか。その二択でしょうね。勿論、全員がそうなるとは限りませんが、そういう人間は必ず出てくる」
「……俺には分からないです。でも……それがリョウカさんとヨシキさんの考え方なんですね」
「いえ、私はどちらかというとユウキ君よりですね。ただ、ジョーカーはそうじゃない。両方を等しく愛しているからこそ、両方にしかるべき試練、衝突を経験して前に進んで欲しいと考えています。それはもしかしたら、強すぎる力を持つが故、なのかもしれませんね」
強い力は、少しの動きで両者を完全に縛り付けてしまう。だからこそ極力関わらず、決定的な事件が起きた時以外は黙認している……か。
「……そんな力、どうして存在するんでしょうね。ヨシキさんはそれで、どうして地球じゃなくて同じくらいグランディアに肩入れするんです。そんなの……自分が辛いだけじゃないですか」
「……ええ、本当に。ですがあの力は……彼が召喚して身に宿してしまった物ですから。それに彼は、地球人であると同時に、グランディア人でもあるんです」
「え?」
はて……? 本籍でも移動したのだろうか? それとも奥さんがグランディア人なのと関係しているのだろうか? 確かエルフっぽい人と魔族っぽい人と一緒にいたよな、あの人前に。
「彼は、ユウキ君同様、グランディアから古の魂を『二つ』召喚しました。お察しの通り、それは彼の二人の奥さんです」
「なんとも考えさせられる話ですね。でもそれがあの力とどんな関係が?」
「……そして、呼び出された存在はイクシアさん同様、現世の人間として生活し……さらにその人物が召喚実験を行ってしまった」
「!? そうか……それも出来ちゃうのか……」
盲点だった。そっか、ならイクシアさんだって召喚実験が出来てしまうのか……。
「その人物は、自分が生前生み出した魔導具を呼び出したのです。グランディアで厳重に保管されていたそれを、手に入れてしまったのです。当然、当時は大問題になったのですが……真実を言う訳にもいかず、ヨシキさんはその魔導具を自分が呼び出した物だと言う事にしました」
「……それで、どうなったんですか」
「その魔導具を、彼は使った。本当は大層な効果もなにもない、文化的価値しかない品です。『繰り返しの秘宝』と呼ばれたそれは、極めて幼稚な力しか持たない物だったのです」
「繰り返しの秘宝? それはどういうものなんですか?」
「グランディアと日本が同じ言語を使う事が幸いしたといいますか……簡単に言うと『同音異義語を叶える力を持つ』ですね」
「あー……あれですよね『完成』と『歓声』みたいな? それってどういう意味があるんです?」
「例えば今言った『歓声完成』と願えば、恐らく割れんばかりの完璧な歓声を得られるでしょうね。まぁ、その程度の物です。他人の行動すら操れてしまう強大な効力を持っている事を抜かせば、極めて幼稚な魔導具と言えるでしょう」
確かに凄い効果だが……うん、幼稚だ。
「さらに言うと、本来は同音異義語ですらない『擬音の具現化』を目的とした物らしいですよ? 『ふわふわ』と願えば、対象をふわふわに出来てしまう。そんな可愛らしい魔導具なんです」
「なにそれ可愛い。その魔導具作った人ってめっちゃ可愛くないですか」
「はい、めっちゃ可愛いです。ヨシキさんは奥さんと一緒に、この魔導具で様々な料理を作って楽しく過ごしていたんですよ」
「あの……その話だけ聞くと、ヨシキさんがなんであんな力を手に入れたのかさっぱりわからないんですけど……」
もう俺の中で『万能調理器』なんですけどそれ。トロトロって願ったら固ゆで卵も半熟トロトロになるんですかね!? ちょっと普通に欲しいんですけど。
「ある時……ヨシキさんはその秘宝を見てこんな事を考えました。『現役の料理人だった頃に比べて、どうしても包丁の扱いが下手になっている。これって同音異義語ならどうにかなるんだよな』と」
「へー、ヨシキさんって料理人だったんですね」
「ええ。そこでヨシキさんはこう願いました『最盛期再生機』と。それはつまり、自分が最も優れていた時代の力を自由に『再生』する力を得られないか。そう思い願ったそうです」
「あー……なるほど、頭いいですね。それで、結果はどうなったんですか?」
「今の力を手に入れました。星を穿ち、空を引き裂き、海を割る。心を読み無限とも思える再生力を持ち、圧倒的な技量で全てを凌駕する。文字通りの最盛期を手に入れました」
は? なんの最盛期ですかそれ。説明になっていないんですが。
「そんな最盛期あるわけないじゃないですか。つまり秘密なんですね?」
「いいえ、それはかつて存在した力。神話の時代にグランディアに存在した『原初の魔王の力』。その逸話は全て真実であり、それを引き起こす力が確かにグランディアには存在していました」
「……で、それがなんでヨシキさんに宿ったんです」
「……ニシダヨシキは、その原初の魔王の『生まれ変わりのようなもの』なんですよ。魂に刻まれた、魔王時代の力を全て引き出してしまった結果、ただの地球人である彼は、グランディアの礎を築いた原初の魔王の力を宿してしまった」
「は!? 生まれ変わりって、そんな事あるんですか? だって古代に死んだ人が現代に生まれ変わるなんてそんな……死者蘇生じゃないですかそれ」
「……ありえる事ですよ。ユウキ君、貴方はその死者蘇生に近い現象を、誰よりも身近に感じて生きているではないですか」
そう言われハッとする。……そうだ、イクシアさんがまさしく生まれ変わりみたいな存在じゃないか……。
「彼は誰かが召喚した訳ではない。純粋に魔王として生きた時代が魂に刻まれていた。死者蘇生よりもむしろ、自然と言えるでしょう。……まぁ、呼び出した二つの魂も魂で規格外ではありますが、極めて平和にこの世界で生きていますので」
「……それが、あの力なんですか」
「ええ。故に彼は地球人でありながら、グランディアを深く愛した魔王としての魂を持っています。片方に肩入れする事は出来ないんです」
「……それで、納得しておきます」
なんでも質問して良いと言われた。だったら、俺は昨日リオちゃんと出会い、そして万が一は俺が秋宮を離脱する事について、何か聞けることはないかと思案する。
けど……どうしても、恐かった。それは俺とイクシアさんを引き裂く道に続いているのではないかと思うと、その質問をする事がとびきり……恐かった。
「で……長くなってしまいましたがここからが本題です。今月の実務研修の日程はいつもより早く開始されると、既に聞き及んでいますね? その内容についてです」
「……あの、もしかして今回も厄介な任務ですか……?」
「いえ? 今回は貴方にだけ過酷な任務を与える、という事はありません。ただ、いつもより若干の緊張感が付きまとうかもしれません。今回、ついにグランディアでの実務研修が決定しましたから」
「マジですか! ちょっと楽しみになってきましたよ! それで、どんな研修なんですか?」
「今回は護衛と警護がメインとなります。まず、皆さんにはある人物を護衛しながら、グランディアにあるサーディス大陸、セリュミエルアーチに向かって貰います。そこで、更に貴方達には『ある物』を警護し、その後その警護対象を護衛対象の人物と共に無事に地球まで移送する、という内容です」
「おお……なんだか本格的ですね。もしかして……今他の皆がそれぞれ任務につけられているのは……」
「はい。罰則と言う側面もありますが、こういった任務の心構えを今一度徹底して教え込む必要があると思いましたので。ユウキ君はまぁ……仮にも総理大臣の護衛を勤めた人間ですし、必要はないでしょう」
「そりゃ……まぁそうですね。でも、護衛対象の人や物ってなんなんです?」
「実は……今回の任務の詳細については私も詳しい事は知らないのです。ただ、依頼主が『ナーシサスを連れてきて。そのついでに警護を頼みたいのだけど』とだけ。実は本来セカンダリア大陸での実習を予定していたのですが……強引に行先を変えられてしまいまして」
「……リョウカさんが後手に回るような大物が相手って事ですか?」
「……セシリア・アークライト様です。現状地球、グランディア含めて、魔導具製品の中枢を担うコアにはあの国の特産品である物質が使われている関係で、あの国の研究院の責任者である彼女にはさすがに逆らえないんですよね。まぁ……恐らく以前、ユウキ君と関りを持ったからこそ、今回こうして依頼を出されたのだとは思いますが……」
あの人か……俺あの人苦手なんだよな。イクシアさんにそっくりなのに性格がキツいっていうか、モロに女王様気質で。なんか無理難題でも出されそうだなぁ……。
「今回は距離がだいぶ離れていますからね、なので早めの実習開始で移動に時間を割く、という訳です」
「話は分かりました。でもこのくらいの内容なら、わざわざ俺だけ呼び出して話さなくてもよくないですか? 他にも何か用事、あるんですよね?」
頼む、イクシアさんとの旅行がかかってるんだ……どうか無理難題を言わないでくれ!
「……ユウキ君、忘れていませんか? 貴方がグランディアに行ってしまったらどうなるのか。前回はグランディアの魔力が多いとはいえ地球での出来事ですのでリミッターで抑えられたようですが……グランディアに行ったら貴方は確実にまた『あの姿』になりますよ? なので、今回はあらかじめあちらで貴方が使う学園の装備、コンバットスーツ一式や着替え、そういった物を手配する為の事前連絡なんですよ?」
「あ!!!!! そうだった!!! ……いやー……ついに俺の真の姿をお披露目ですか」
「真の姿って……くれぐれも力に振り回される事はないようにお願いしますからね? では、そちらでも着替えの服の準備等しっかりしておいてくださいね?」
「了解です。いやーよかった……実は夏休みに予定があるので、難しい任務が来たらどうしようかなって心配していたんですよ」
そう答えると、リョウカさんは苦笑いを浮かべながら、ぽつりと言った。
「……もう、私から貴方に厳しい任務を言い渡す事は……きっとないと思いますよ」
「え? そうなんですか?」
「ええ、きっと。ユウキ君、夏休み、沢山楽しんでくださいね」
「はい。任務も全力で臨みます」
そう最後に伝え、今日はもう下がっても良いと言われた俺は、足早に自宅に戻るのであった。
いやー……クラスメイトが俺を見てどんな反応をするか、今から楽しみだなー!
ユウキが立ち去った理事長室で、リョウカは一人溜め息をつきながら一人ごちる。
「……私が干渉できない研修に、連絡の取れない妹。首相とはあの一件から特に戦力要求の依頼もなし……これはいよいよもって……事態が動き出したのでしょうかね……」
リョウカはもう一度大きくため息をつき、電話に手を伸ばす。
「彼の言う通り、潮時……なのかもしれませんね」
彼女が掛けた電話の相手は――
『もしもし。今さっき日本の領海に入った船乗りお兄さんです』
「ふふ、思ったよりも通話がクリアですね、ヨシキさん」
『まぁ近くに海底魔力ケーブルが奔ってるからな。それで、要件はなんだ?』
「近々、私は地球から姿を消す事になると思います。なので、今のうちにお別れをしておこうかと」
『……そうか。安心しろ、俺はお前の邪魔をするような事はせんよ。不干渉でいてやる』
「……はい。貴方はいつも私の言葉を奪いますね、それをお願いしようと思っていました」
『俺は、お前の味方にはなってやれない。だが代わりにお前の敵にも決してならない。この世界の均衡を守って来たお前への敬意だと思っていい』
それは、己が廃される事の予感と、遺言とも言える願い。
「……それともう一つだけ。無理なら断ってくれてかまいません。……どうか、流れに飲み込まれる生徒達を守ってくれませんか?」
『断る。その流れに飲み込まれる位置に生徒を配したのはお前だ、甘えるな。ただ……もし、流れに逆らう人間がいるのなら、後押しくらいはしてやるかもね』
「……はい。あの、ついでにもう一つなんですが……イクシアさん、彼女の事も守ってあげてください。私が消えれば、彼女は酷く不安定な立ち位置に立たされる。彼女もユウキ君も、貴方のように強くはないから……」
『それも断る。なによりもお前は勘違いしているぞ。イクシアは……あの子は……物分かりの良い子なんかじゃない。とびっきり我儘で、我の強い子だ。お前が思うような展開になるとは思わない方がいいさ。もしもの時はあの子の選択を尊重してやれ』
「……そうですか。それは『親』としての確信ですか?」
『さてな。まぁなんにしても……お前とはこれで暫くお別れだな。達者でな』
「はい。ヨシキさんもどうか息災で。……ニシダ主任をあまり困らせないで下さいね? あの人はこれからとても面倒な立場になりそうですから」
『任せろ、さすがに大事な妹の事は世界を敵に回しても守ってやる。……せっかくだ、俺が戻ったら俺の店に来いよ、最後くらい奢ってやる』
「……有り難うございます」
それっきり、お互いに無言のまま、どちらからともなく通話が切れる。
それは終わりの始まりを告げる合図であるかのように――――