第百二話
(´・ω・`)お待たせしました、九章開始です。
「では、本日の講義はここまでとします」
紋章学の講義を終え、一人学食へと向かう。
最近では新入生も徐々にこの学園に慣れ、学食でその姿を見る事も珍しくなくなっていた。
まぁ俺が来ると露骨にみんな離れていくんですけどね。春の一件が尾を引いているって事です。
すると、珍しく俺の隣に誰かが座って来た。しかも、二人。
「お? 珍しいな、ナシアだけじゃなく……ホソハさんも一緒なんて」
「ユウちゃん先輩、古術学の講義ぶりですね。最近、他のSSクラスの皆さんを学園内でお見掛けしないのですが」
「そうそう、ユウキ先輩最近いっつも一人でご飯食べてますよね? 皆さんはどうしたんです?」
「SSの実務研修の一環。実際の現場に出て警備や護衛の任務に従事中。で、俺は前回の実務研修で負傷したから、大事を取って学園内で通常の学業に従事してるって訳」
これは嘘だ。本当は俺以外の全員が、前回の独断専行の罰則として奉仕活動……それも護衛や警護という任務を与えられているという状況だった。
まぁ真実を言うのは禁止されているのだが。我ながら上手い言い訳じゃないですかね?
「え! ユウキ先輩負傷したんですか! 大丈夫ですか? 背縮んでないですか!?」
「なんだとコラ! いや大丈夫大丈夫、もうなんともないから。他の皆ももうそろそろ通常のカリキュラムに戻るはずだよ」
「なるほど、やはりSSクラスというのは、通常のカリキュラムとはだいぶ違うようですね」
……そう、もうそろそろ他のみんなの罰則も解かれ、学園に戻って来る。
俺は結局、ユウキとしては他の皆とかれこれ半月は会えないでいたのだ。
あの研修から二週間、すぐに他の皆は理事長に呼び出され、そのまま有無を言わさずに僻地に飛ばされ、罰則である任務に従事させられている。
曰く『規則とはなにか』『規律とはなにか』『自由とはなにか』を徹底的に教え込ませる為の任務なんだとか。……今回ばかりは、理事長もかなりご立腹だったからな……。
「……俺だけこんなに自由でいいのかね」
俺は学園を後にし、今日は少し気分転換に都市部に寄り道でもしようかと思いながら、珍しく正門から外へと出る。
まぁ、気分転換と言ってもこの世界にあるゲームセンターなんて、せいぜいメダル系のゲームかパチンコ、スロット、それにクレーン系の物しかないのだが。
ああ、後は一応、VRを利用したスコアアタックのような物があったっけ。
なんというか、体感型のシューティングというか、元の世界にあったビートセイ〇ーのような物だ。普通に面白いからたまにやるんだよね。
ただ、要求されるアクションの難易度が元の世界の非じゃないっていう。
さすが魔法のある世界だ。
「イクシアさん、今日は伊藤さんの家にお呼ばれしてるっていうし、少しくらい遅くなってもいいかな」
久々のゲームセンターには、以前よりも新しい筐体も増え、結構な人が平日だというのに詰め掛けていた。
一応、この世界にもゲームセンターにあるゲームについて語るインターネット掲示板や、全国ランキング、SNS上でのイベントも存在しており、こういう訓練にもなるゲームはしっかりと存在し盛り上がっているのは素直に嬉しい。
それに……少しだけ、本当に少しだけ望郷心を刺激する。
あとあれ、このゲームセンターの店内スコアランキングって、全国規模で見ても異常に高い水準だから、挑戦しに全国からゲーマーが集まって来るんですよね。
そりゃあ天下のシュヴァ学のおひざ元、エリート学生も遊びに来るゲームセンターだしスコアが高いのは当然なんですけれども。
「とりあえず全部ランキング一位かっさらうかねぇ」
暫くして、ゲームセンター内の空気がどよめくのを感じ取り、一仕事終えた気分で休憩に入る。
いやぁ……久々にこう、ゲームでハッスルしたような満足感を味あわせて頂きました。
案の定、周囲からは『誰だよYOUちゃんって』『シュヴァ学の生徒にしたっておかしいだろこれ』という会話が聞こえてくる。はい、それ僕のハンドルネームです。
いやはや懐かしい。元の世界だと、どんなゲームをプレイしていても、自分の名前を『YOUちゃん』にしてたんだよね。別にそこまで有名なプレイヤーじゃなかったけど。
なんというか、この世界のゲームセンターって殆どレジャー施設って扱いなんだよね。バッティングセンターみたいな。後はボーリングみたいな?
「うおおお! またランキング変動したぞ!? 今日なんかやばくね?」
「さっきのYOUちゃんってヤツよりもすげーぞ……」
するとその時、俺の記録を塗り替えた人間が現れたという話が聞こえてきた。
なんだと? 誰だ誰だ、どこのどいつですか! せっかくランキング制覇して満足してたのに!
VR対応の筐体の中でまだプレイ中らしく、その筐体が見える位置で中の人物が出てくるのを待つ。すると、稼働中のランプが消え、中から――
「ふー……面白かった! 普通の訓練室よりこっちの方好きかなー」
「……マジかよ……」
現れたのは、神出鬼没の代名詞とも呼べる、一人の少女。
水色がかった銀色の髪を持つ、かつて俺を負かした……リオちゃんだった。
急ぎ近づき話しかけようとすると、背後から迫ったのにも関わらず――
「お待たせ、ユウちゃん。じゃあ少しお話しよっか」
「……まるで俺が来るのを待っていたみたいだね」
「うん、今日はユウちゃんに会いに来たんだ。ちょっと私について来て?」
飄々と、けれどもどこか不敵な笑みを浮かべたリオちゃんに誘われるまま、俺はこの都市部の奥へ奥へと案内されていくのだった。
「ユウちゃん大丈夫? 迷ってない?」
「ん、大丈夫大丈夫。っていうか……ここって普通に見覚えある」
「そりゃそうだよ。偶然かどうか分からないけど、私を抜かして、ユウちゃんが最初にこっちの人間と現場で遭遇したのがこの場所だもん」
「っ! こっちの人間って……まさか!」
案内されたのは、忘れもしない路地裏。俺がかつて、ノルン様が誘拐された現場を目撃した路地裏だった。
そして、目的の場所はさらにその奥……俺が入店を断られた、不可思議な扉、意思を持ち人と話すという、ファンタジー溢れる入り口を持つ質屋だった。
「やっほ、半年ぶりくらいかな? 開けてくれる?」
すると、リオちゃんがあのファンタジーなドアノブに向かい話しかけ始めた。
『おう、お嬢! なんでぇ、知らねぇガキも一緒ですかい?』
「一度ここに来た事あるんだけどなぁ」
『あーん? ……ああ、前に追い返したガキだな? なんだ、金でも溜まったのか?』
「うん、ばっちり。たぶんこの辺のビルなら一つくらい買えるくらいには」
『ほー! 出世したな!』
「無駄話しないでさっさと開ける! ユウちゃんは一応、私が見込んだ男だよ」
何やらここに常連のような口ぶりでドアノブと会話するリオちゃんが、ガチャリと音のしたドアを開き中へ入る。
それに続き店内に入ると――
「おお……なんていうか……すげえそれっぽい」
店内は、俺が思っていた通りの様相だった。ファンタジーRPGに出てくるような、幻想的で不思議な品々が並ぶ店内。まるでこの場所だけ日本じゃないような、そんな非現実的な光景だった。
「ここ、一応私の拠点の一つなんだ。今日はユウちゃんと邪魔されずにお話ししたくてさ、それで呼んだんだよね」
「ん、そっか。……君が何者なのかは、そろそろ聞いてもいいのかな?」
いよいよ、俺は彼女の核心を訊ねる。
ある意味では俺の今いる場所への道を最初に提示した人間であり、同時に俺に強くなる事への貪欲さを植え付けた人物でもある。
全ての、全てのきっかけはこの子にあると、俺は勝手に思っていた。
「ん-……そうだよね。もうユウちゃんは……こっち側の人間なんだもんね」
「こっち側?」
「裏の世界の人間って意味。秋宮の暗部に所属するエージェント。それに少なくとも数回、私の所属するグループの人間と会ってる」
「所属するグループ……?」
「まぁ、美化して言うなら『世界の均衡を保つ裏組織』正直に言うなら『場合によっては犯罪も侵す非道な傭兵集団』って感じかな。……例えば、お姫様の狂言誘拐とか」
その瞬間、彼女から距離を取り、持ち歩いていないデバイスの代わりに店内にあったステッキを構える。
「落ち着いて。誘拐犯の用心棒として仲間の一人がくっついてたってだけだよ。それこそ、この近くでユウちゃんが戦った相手」
「……コードネーム『六光』だっけ?」
「あ、知ってた? それとも秋宮から聞いた?」
「そんなとこ。……じゃあリオちゃんも一応は犯罪者の仲間って事になっちゃうのか」
「……まぁね。でも悪い事だけじゃないよ。例えばそう『ハワイ領内の島で行われた合宿で、生徒を秘密裏に守る』とかさ。秋宮の要請でバックアップに回っていたの、私ともう一人のメンバーだし」
「は!? じゃああの場所にいたのかリオちゃんも。っていうか……あの時の協力者って……ロウヒさんも?」
現在最強のバトラーであり、底のしれない人物。そしてこれまで聞いた情報を元にすると……恐らく俺より強いんじゃないか。
だって、あの人って一之瀬さんのお兄さんと手合わせするくらいの実力者なんだろ? で、その一之瀬さんのお兄さんは……俺が戦ったディースさんと同等以上の力を持つって話だし。
「まぁ一応ね。全員が同じ思想を持っているわけじゃないけど、繋がりは深いって感じかな。そして……私達は秋宮の手勢ではないけど、協力する事もある、互いに監視されあうような関係って感じかな」
「……マジか。いやまぁ……なんとなく秋宮がどっか裏の組織と繋がっていてもおかしくはないなとは感じていたけどさ」
「本格的に世界を荒すような事には手を貸さないよ、私達だってさすがに『ジョーカー』と敵対したいわけじゃないし。ユウちゃん、ジョーカーって知ってるよね?」
「まぁ一応。ノルン様の誘拐は世界を荒すような事じゃないの? それに、オーストラリアの一件だって、六光はセシリアを含めた要人を誘拐しようとホテルを襲撃しただろ?」
「うん、したね。でも世界はなんにも変わらない。それが現実の結果。たぶんユウちゃんが守らなくても、世界は大きな混乱に飲まれる事はなかったはず。だって別に要人を殺す訳じゃないんだし」
「……まぁ確かに」
少しだけ、恐いと思った。この少女はたぶん……俺よりも裏の世界に染まっている。
明らかに倫理観か俺とは違うその様子に、少しだけ握っていたステッキに力が入る。
「とりあえずそれおろして。今日はなにかする訳じゃなくて、本当にお話しするだけなんだしさ」
「了解。で、話って何さ?」
「……警告と確認……かな。君はさ、たぶん異端者なんだと思う。本来なら日の当たる場所にいられないような、そんな異能を秘めた異常能力者。正直私も君がここまで強くなるなんて思ってもみなかった。ただ片田舎で腐らせるにはもったいなさすぎる逸材だから、東京を勧めただけ。でも、君はここまで来た。ここまで来てしまった」
すると、唐突にリオちゃんが、年相応ではない、大人びた口調で語り出した。
「秋宮は、今は世界のバランスを保つ役目を担い、地球とグランディアの関係を保っている。それに協力するのは非常に『良い行い』さ。でも……いつか秋宮が道を誤った時、その時君はどうするつもりだい?」
「俺は、絶対の忠誠を誓っている訳じゃないよ。もしも間違った方向に行くのなら、それを正すなんて事もしないで、黙って家族と一緒に秋宮を去る」
「それが出来ると思う? 秋宮相手に」
「難しいだろうね。……それでも、もし家族や俺に仇なすならなんだってやってやる」
これは前々から決めていた事。今は理事長、リョウカさんが間違った事をするとは思っていない。でもそれは絶対ではないと俺は知っている。
現に、前回の研修でアメリカという大国が道を踏み外した。なら、秋宮だって何かの拍子に道を踏み外す事だって十分にある。ただでさえ、理事長率いる秋宮グループは、少し前まで日本の政府と微妙な関係になっていたのだから。
「もし、秋宮が道を踏み外したなら。秋宮グループはそこまで信じてはいないけど、秋宮リョウカを名乗るあの女はまだ信用出来るんだけどね。でももしも道を踏み外せば、私達は秋宮と敵対する。なら、ユウちゃんはこっちにおいで。もし秋宮を去る時が来たなら……私達の側に来ると良いよ。私達は秋宮と互いを監視している間柄。なにかあれば……私達が真っ先に秋宮に剣を向ける。その時は……ユウちゃんもこっちにおいで。たぶん……あの女ならそれを許してくれるし、私達ならユウちゃんを保護出来る」
それは『もしも時が来たら俺に秋宮を裏切れ』そう言っているに他ならなかった。
……もし、本当に秋宮が道を誤ったなら……。
「うん、沢山悩みなよ。どうやら君は秋宮と同じ方向を見ている訳じゃなさそうだ。どちらかというとかあの女と同じ方向、かな?」
「それってどういう……理事長は秋宮の代表じゃないか」
「それはいずれ分かるよ。……いつか秋宮は方針を変え、流れが大きく変わる。君達秋宮の生徒達は否応なしにその流れに飲み込まれてしまう。ユウちゃんは、その中で唯一その流れから抜け出す事が出来る。だから私は手を差し伸ばしているに過ぎないんだ」
「……意味がわかんないよリオちゃん。それってつまりリョウカさんが心変わりするって言ってるようなものじゃん……」
あの人が? あの人が世界の均衡を崩すような事をする? なんだか考えられない。
「……親グランディアを続けていけば、いつかはそうなる。どこまでいっても秋宮は地球の組織だからさ、その歪みはなんらかの形で現れる。……少年、今度会う時はきっと『何かが変わった時』『何かを決断する時』だと思う。その時は……私の手を取ってくれる事を、心から祈っているよ」
そう最後にリオちゃんが儚げに笑う。
本当に……この子は年齢詐称と言うか不詳というか……。
そう思った矢先、唐突に俺の意識が薄れ、まるで崩れ落ちる様に――――
「ユウちゃん先輩、ユウちゃん先輩! 起きてくださいよ、さすがの食堂もそろそろ施錠するそうですよ!」
「んあ? あれ? ……え、ホソハさん? あれ、なんで?」
気が付くと、俺は学園の食堂の一角で座ったまま眠らされていた。
あれ? 夢? もしかしてここでホソハさん達と食事中にそのまま?
「ホソハさん、俺いつから寝てた?」
「それは分かりません。私が来た時にはもう、ユウちゃん先輩は眠っていましたから」
「えー……マジかよ……」
俺は自分のスマ単を開き、今日行ったはずのゲームセンターに置いてあった筐体の全国ランキングを確認する。
……あった。軒並み俺の名前が一位になってる。だが、リオちゃんに越されたはずの作品まで、俺が一位のままになっていた。
……夢? いや、リオちゃんなら記録の改ざんくらいお手の物……なのかもしれないな。
「……たぶん夢じゃないんだろうな」
俺は、最後に交わしたリオちゃんとの会話。そして儚げに呟いたリオちゃんの言葉を思い出す。
『私の手を取ってくれる事を、心から祈っている』か。
それは、たぶん難しい。きっとその手を取ってしまえば、平穏な生活からは離れる事になる。
そして……秋宮の庇護の下この世界で生きているイクシアさんにとって、その道は選ぶのが難しい。いや……最悪俺だって、イクシアさんとの生活を盾にとられてしまったら……。
そうか……そういうことか。俺は、秋宮に最初から首の根を掴まれていたんじゃないか。
「はは……本当、ままならないな」
「ままならないのは分かりましたから、そろそろ出ますよ? ユウちゃん先輩はともかく、私の家は遠いんですから」
「あ、ごめんごめん。じゃあ俺はお先に失礼! ごめんね、ホソハさん!」
一先ず、俺はこの暗闇に包まれつつある食堂を後にし、なんだか唐突に会いたくなったイクシアさんの待つ家に戻るのであった。
「……本当に、面白い人。渦中で道を見失いつつあるはずなのに、それでも決して曲がらない……良い人に目を付けましたね」
ユウキが走り去った食堂で、ホソハアメノは一人そう呟き、そしてそのまま闇へと消え去っていく。
まるで溶け込むように――
(´・ω・`)NGSが早くちゃんとしたゲームになるのを祈る日々です
今はまだ旧版のFF14みたいな状態なんだと信じています。