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第九十七話

「ど、どちら様ですか?」


 謎の来訪者の正体を確かめるべく扉を開く。するとそこには――


「あ、いた! おはようございますユウキ先輩」


 ……ナシアだった。そうか……お前カメラの高さまで背がないから……。


「ナシア小さすぎ……」

「は!? なんですか、いきなり喧嘩を売るつもりですか!?」

「いやごめん嘘嘘。それで、どうしたのさ土曜の朝に」

「むぅ……ユウキ先輩に裏の町を案内してもらおうと思ったんですよ。ついでにコンビニスイーツを奢ってもらおうかと。どうです、先程のお詫びもかねて、私に沢山奢らせてあげますよ!」


 いやごめんな、ちょっと本気で警戒しててつい。

 ん-……まぁいいか。


「いいぞ、暇してたし。今日はイクシアさんも用事で出かけててさ。じゃあちょっと着替えてくるから中に入って待っててよ」

「分かりました」


 コンビニスイーツかぁ……そういえばここ一年くらい食べていないな。

 コンビニも行く機会が減ったし、何か新製品を探すのもいいかもしれない。

 それこそ、お花見シーズン真っ盛りだし、色々あるでしょ。


「ナシアお待たせ。買い物が終わったら家の窓辺で花見でもしながら食べようか。そろそろお花見シーズンもピークだし」

「お花見? お花を見るんですか?」


 青年、お花見について説明中。グランディアにも桜ってあるのだろうか?


「ふむふむ……あの綺麗なピンク色のお花ですね。ふふ、私は通称『花の一族』ですからね、勿論お花の事は知っていましたよ。実は、あのお花ってグランディアには無いんですけど、確か……十数年程前、私の国に数本、植樹されたのですよ。友好の証として」

「へぇ、そうだったんだ」

「でも、こんなに沢山咲いているのは初めて見たんですよね。お花を見ながらスイーツ……良いですね! じゃあ早速お買い物にいきましょうか!」


 嬉しそうに、ニコニコと一緒に山を下る。

 なるほどなぁ……俺にもし妹がいたら、こんな感じなのかな。

 興味深そうにキョロキョロと周囲を見回すナシアが、なんというか……庇護欲を刺激してくる。


「前に来た時はバームクーヘン屋一直線だったんだな?」

「そうですねー。それに、コンビニの名前がよく分からないので、地図アプリでも分からないんです」

「ああ、無駄に多いもんなぁ種類」


 実際この町にも四種類程あるので、とりあえず最寄りの店へと案内してあげる。

 やはりシーズンなのか『サクラ味』やら『桃味』というような、春らしさを前面に出した商品が目立っていた。

 俺? 俺はとりあえず定番のさくら餅と塩豆大福を買いました。ついでにイクシアさんの分も。何時に帰って来るか分からないけど。


「おおー! こんなに沢山売ってる! 購買部じゃこんな光景見られないです! どうしましょう、どれにしましょう!」

「今日は奢るって約束だからな、好きなのいれていいぞ」

「本当ですか!? じゃあ、どんどんいれちゃいます!」


 あ、凄いこの子遠慮しない。棚の商品一個ずつ片っ端から入れてる。

 大丈夫? 君の胃より大きいんじゃない、そのお菓子の総体積。


「これも……これも! あ、お菓子も良いですか!? 桜クッキーなる物が気になります!」

「ははは……いいよいいよ、どんどん入れな。食べきれなかったら持って帰っても良いし、うちに置いておいてまた家に来て食べても良いよ」

「わーい! じゃあこれもこれも……飲み物も買ってしまいましょう!」


 おお……篭の重量が一気に……もう家にため込む気満々だなナシア。




「お会計、七五四三円になります」

「おお……コンビニでこんなに買ったの初めてだ」

「す、すみません……とんでもない量買ってしまいました……明日お金持ってきますよ?」

「いんや余裕。ナシア後輩、実は先輩はお金持ちだったりするのだ」

「えー、本当ですかー?」

「しんじろー」


 支払いはカードでお願いします。大丈夫、たぶんお店ごと買えるくらいお金あるから。


 買い物を終え、家に戻る前にシンビョウ町を見て回る。

 まぁぶぅぶぅマートの場所さえ知っていれば特に困る事もないのだが、せっかくだし案内もかねて。


「ほら、ここが一応、不動産屋。分かる?」

「分かりますよー。お家を買うところですよね? 私は寮を出るつもりはないんですけど」

「なるほど。いや、最近クラスメイトがこの町に家を買ってさ。コウネさん、覚えてる?」

「食いしん坊なお姉さんですね! へー……確かシェザード家の方なんですよね」

「お、知ってるのか?」

「勿論。だってシェザード家と言ったら、私の一族よりも歴史が長いんですよ?」

「……マジかよ……エルフの氏族より長い歴史って……」


 そういえばコウネさんの一族の人間は長命だって聞いた事があるような。もしかしてエルフ並みに長生きなのか……?


「凄いといえば……あらりぇーる先輩? も凄いですよね? 恐らく北方の魔族だと思うのですが……銀髪に小さいですがこめかみに角。それに具現化こそしていませんでしたが、片目は魔眼でしたよね? 上位魔族と呼んでも差し支えのない人でした」

「へ? 角に魔眼? 実は俺、他種族の知識が全然ないんだよ」


 ほへー……角あるのかアラリエル。全然気が付かなかった……。


「え、この学園の二年なのに知らないんですか!?」

「くそう……正直こればっかりは自分の不勉強の所為だから反論出来ねぇ」

「ん-……魔族って、エルフよりも遥かに細分化が激しい種族なんですよね。一般的には尻尾や小さい翼、頭上に角や蝙蝠の羽などの特徴がみられるんですけど、それらがほぼ現れない魔族の方の方が一般的なんですよ? 神話の時代にはもっと目立った身体的特徴の人が多かったという話ですけど」

「ほー、んじゃアラリエルは目と角って訳か」

「恐らくですが。ただ、あらりぇーる先輩は目に現れていますので、話が変わって来るんですよ。目、つまり魔眼は『単独で魔術的に大きな力を秘めている特殊器官』なんです。もうそれだけで他種族を圧倒しちゃいます。そうですねぇ……魔力を周囲から吸い取る魔眼や、相手の行動を縛る魔眼、中には『相手の意思を奪い服従させる魔眼』なんて物もあったと聞きます。間違いなく、魔族の中では超高等な種族ですよ」


 ……マジかよ。じゃあアラリエルってそこまで本気出していないのか、普段。


「で、問題はここからです。あの人の髪色的に、恐らくノースレシア出身だと思うんですけど……あの髪色はエルフで言うところの金髪碧眼と同じ、高貴な血の証なんですよ」

「……マジで?」

「マジもマジ、おおマジです。それも……神話に登場する『原初の魔王』の血を引いてるとも言われているんですよ? 間違いなく、グランディアにおけるもっとも『高貴な血』と呼べるでしょうね!」

「本人があんなんなのに?」

「はい、あんなんなのに」


 言うな、ナシア。確かにあんなんですよアラリエルは。

 エルフ風俗に通うような不良生徒ですよ……それが高貴な血とかないわー……。


「つくづくこの学園ってとんでもないですよねー。さ、そろそろお家に戻りましょう! 私のスイーツが早く食べてもらいたくてうずうずしているはずです!」

「了解了解。ほらあんま走んなよー、転ぶぞ」

「そんなわけが――が!」

「ほら躓いた。山道を甘く見るとこうなるのだ」


 そんな、グランディアの種族の知識を教わりながら、桜の木が混じる山道を一緒に進む。

 ……もしかしたら、イクシアさんが俺に抱いている気持ちって、こんな感じなのかもな。

 一緒にいると癒されるし、楽しいし、構いたくなってしまう。いいもんですな……。




 居間の窓を開けると、近くの桜の香りが風に乗り、ふわりと部屋に入って来る。

 別段すぐ近くに木がある訳ではないのだが、遠くに見える桜を見ながら香りを楽しんでいると、気分的には花見となんら変わらないな、と感じる今日この頃。

 さらに言うと、そんな風情よりもスイーツに心を奪われている『花より団子』な娘っ子が一名。

 コウネさんだけじゃなかったのだ……ここにも小さな食欲モンスターがいたのだ。


「ユウキ先輩の買ったこれも食べていいですか! サクラモチ!」

「ん、いいよ。一応ナシアの分も買ったから。この季節の風物詩みたいなものだよ」

「へー! 綺麗なお菓子ですねー……」


 桜餅初体験なナシアの為に、緑茶を淹れる。紅茶じゃイクシアさんには敵わないけど、緑茶なら自信ありだ。


「ほら、緑茶。桜餅にはコレだよ」

「ありがとうございます! ……おいしいですねぇサクラモチ」


 もっきゅもっきゅと頬張る姿が可愛い。そして、適温より少しだけ温度の高いお茶を、静かにすする。なんというか……この風景にミスマッチなロリエルフなのに、妙にサマになっているというか……。

 その時だった。少しだけ強い風が窓から舞い込み、桜の花びらが部屋に入って来る。

 あ、なんか凄い春って感じする。


「……本当に、懐かしい」

「え?」


 すると、ナシアがまるでどこかのおばあちゃんの様にしみじみと話す。

 なんだ? 懐かしい?


「懐かしいって、こっちで花見なんて初めてだろ?」

「……ふふ、そうでしたね。……それでも懐かしい。美味しいお茶に桜餅、それに春の香り……本当に懐かしい……有り難うございます、ユウキ君」


 目の錯覚だろうか。一瞬だけ、ナシアの姿がブレて……重なって見えた。誰か、知らない子の姿と。

 亜麻色の髪が金色に。長い髪がショートに。一瞬、本当に一瞬だけ。


「……ナシア?」

「はい? なんですかユウキ先輩」

「ありゃ? いや、なんでもない。気のせいだった。んで、何が懐かしいんだ?」

「へ? なんの話ですか?」

「だから今、懐かしいって言ってたじゃないか」

「え? 何も言ってないですよ? 変なユウキ先輩ですねー」


 えー? あれー? マジでなんだったんだ今の。








「なるほど……講堂には初めて入りますね」


 保護者説明会。

 昨年度最後の実務研修にて、学園が想定していなかった魔物の出現、生徒の命を危険に晒してしまったという件について、リョウカさんから正式に保護者への説明が行われる事となり、私も出席を決めました。

 実はもう事件の概要は知っているのですが、こういう場でもないと他の保護者の皆さんと顔を会わせる事もありませんしね、良い機会です。


「あの……もしかしてSSクラスの保護者の方でしょうか?」


 周囲を眺めていると、どこか遠慮がちな声をかけられました。

 振り返るとそこには……とても、とても綺麗な女性が、不安そうな表情を浮かべていました。


「はい、そうです。察するに貴女も同じクラスの保護者の方でしょうか?」

「あ、やはりそうなんですね。はい、私も息子がSSクラスに通っていまして」

「なるほど、そうだったんですね。嬉しいです、中々他の保護者の方と顔を会わせる事もなかったので」

「そうですよね、学園はそういうものなのだと聞いてはいたのですが……」


 淡い紫の光沢を持つ髪と、小さな蝙蝠の翼を頭から生やした魔族の女性。

 とても、とても綺麗でどこか儚げな印象を受ける方でした。


「よろしければお子さんのお名前を教えて頂けないでしょうか? 恐らく顔を会わせた事がありますので」


 恐らく、アラリエル君でしょうか? 見たところ魔族のようですし、あのクラスの魔族は彼しかいません。


「“アラリエル”と言います。あ、申し遅れました。私は『アンジェ』と申します」

「あ、私も申し遅れてしまいましたね。“ササハラ・イクシア”と申します。アラリエル君とは学園祭でお会いした事がありますよ」

「まぁ、そうだったんですね。私、息子に『学園には出来るだけ来るな』と言われていたので……」

「まぁ……照れているのですね。うちの子もよく恥ずかしがっています」


 ふふ、やはり男の子はそういうものなのですね?

 同じような境遇、同じクラスの母親との会話は楽しく、つい話し込んでいると、さらにもう一人、私に言葉をかけてくる人物がやってきました。


「これはこれは……ご無沙汰しております、ササハラさん」

「まぁ、一之瀬さんのお父様。お久しぶりです」

「こんにちは。初めまして、同じクラスの方のお父様ですね?」

「初めまして。今回は一之瀬ミコト、ならびにヤナセカイの後見人として出席させて頂きました」

「なるほど、カイ君もでしたか」

「ええ。彼のご両親からカイの事を全て任せると言われていましたので」


 なるほど……だからこそ、彼について動いていたのですね、例の一件の時も。

 その後、お互いの近況の話や、今日出席するのは難しいであろう保護者さんのお話しをしていると、講堂のエントランスホールにさらに他の方がやって来ました。

 どうやら……この国の“和服”と呼ばれる衣装に身を包んだ、背筋のピンと伸びた、目の前にいる一之瀬さんのお父様と似た雰囲気の方です。


「おや、皆さんは本日の説明会の出席者なのでしょうか」

「ええ、我々も出席者です。貴方もそうなのですね?」

「ええ。お初にお目にかかります。私は『香月 京谷』と申します。不肖の娘、キョウコがSSクラスに所属しているのです」

「まぁ、キョウコさんのお父様でしたか」

「ほう、娘をご存知でしたか。失礼ですが、貴女は?」

「“ササハラ イクシア”と申します。ササハラユウキの母親です」


 そう答えると、カヅキさんは目を見開き、突然深々と頭を下げてしまいました。


「これはまさか、あの青年のお母上でしたか。彼のお陰で、我が社のデバイスの売り上げが大きく伸びましたよ! 本当になんとお礼を言ったらよいか」

「そ、そうなのですか? 私はそういった話には疎くて……」


 ユウキは何かしたのでしょうか?

 すると、こちらの様子を遠くから見つめている女の子が一人いました。

 あれは……明らかに保護者という風には見えませんが……。


「あの……ここが説明会の会場で間違いないのでしょうか」

「ええ、そうですよ。もしや、貴女も保護者の方なのでしょうか?」

「一応、家族の人間……姉です。両親が来られないので、東京に住んでいる私が……吉田と申します」


 吉田……カナメ君のお姉さんでしたか。


「ん、もしやカナメ君の姉上ですか?」

「あ、はい。カナメは私の弟です」

「なるほど、そうでしたか」

「ほう、というと一昨年のアマチュアバトラーのチャンピオンの。彼には一度、我が社の製品のモニターを依頼したいところですな」


 なるほど、お父様方はカナメ君の事を知っているのですね。

 アンジェさんはお話しについていけていない様子ですが。


 そうして話し込んでいる間も、これ以上保護者の方が現れる事もない様子でしたので、一先ず時間はまだありますが、先に講堂の中に移動する事にしました。

 やはり、グランディア在住の方達は来られなかったようですね。


「しかしまったくけしからん話ですな。幾ら入学契約書で結んだ内容とはいえ、それと子供達の安全を優先する為の対策を万全に施していなかったのは話が別でしょう。聞けば、一歩間違えたら全員命を落とすところだったそうではないですか」

「……ふむ。私は詳細をまだ知らされてはいませんが、私の娘は『単に自分の未熟さが招いた結果』と言っていましたね。ですが、どうやら娘は実際の危険が起きた場所とは離れた場所にいたようです」

「まぁ……そこまで大変な事件だったのですか? 私は息子とそういう話はほとんどしないので……」


 私は、会話に混ざるのがなんだか憚られるような気がして、押し黙る事しか出来ませんでした。

 秋宮の安全対策には、ユウキを生徒として紛れ込ませる事も含まれている。

 そうなると……もしかしたら、今回の危険はユウキにも非があったのかもしれない、そう思うと、安易に私が口を出すべきじゃないのかも、と考えてしまいました。

 すると、時間になり壇上にリョウカさんがやって来ました。


「保護者の皆様。本日はこのような場に足を運んでくださり、誠に感謝致します。ではこれより昨年度の実務研修における被害、および事件の詳細、調査の状況を報告したいと思います。また、今回の件は国の上層部からの密約、密命も含まれている為、ここで聞いた話を他言せぬようにお願い致します。最悪、我々ではなく国が動きかねません。そうなった場合、我々に皆様を守る事が難しくなってしまいます」


 その前置きに、どこか学園に不信感を募らせていたカヅキさんのお父様が絶句したのが見える。……そういう話になってしまうのですね。

 そうして、リョウカさんは今回の事件のあらまし、そして起きた事件の詳細を語ってくれました。




「――以上が、今回の研修で起きた事件のあらましです。事前に情報を集めきれなかった我々に落ち度があり、また対策を怠った事を深く謝罪します。申し訳ありませんでした」

「地球の呪術系の魔物に……そんな恐ろしい存在がいたのですか……」

「蟲毒ですか……私もその存在は人伝にお伽噺のような物としてしか聞いた事がありませんね……」

「国内の呪術、アンデットや魔物に対しての対策が疎かになっているのはいかがなものでしょうか、秋宮理事長」

「はい。その対策として、次回からは専門家として我が校に在籍している教師に、研修地の調査に参加して頂く事になりました。また、今回の件を受けて、一部生徒が呪術を専門に教える教科を専攻しています。カヅキ様のご息女であるキョウコさんがその講義を受けていますね」

「……ふむ、我が娘にだけ負担を増やす訳ではないのでしょうな?」

「はい。他にも一之瀬さんのご息女、そして今回事前に蟲毒の可能性を示唆したササハラさんの御子息も講義を受けています。もう、このような事がないと私は確信しております」


 ユウキが……そんな可能性に気が付けた? これは鼻が高いですが……同時に疑問でもありますね。何故、そんな知識を持っていたのでしょうか? やはり様々な事に興味を向けているからなのでしょうか?


「事件については分かりました。では、現在の調査状況について教えてもらえないでしょうか」

「はい。現在、関西呪術連合と秋宮の調査団が協力し、事件の起きた環境が自然に発生した物なのか否か、また発生の状況を後押しした隔離結界が、このような結果を生むと知っていて意図的に行われたものなのか、関係者全員を取り調べている状況です。さらに、地形が変わっていない以上、再び同じ状況にならないとも限りませんので、定期的な調査、浄化を行う事を許可して貰いました」

「ありがとうございます。……ふむ、現状はこれ以上を望む事は出来ないようですね」


 悪性の呪い……呪術生物の発生ですか。

 もしかしたら、ユウキが必死に『タリスマンやお守りを下さい』と言っていたのは、こうなる可能性を出発前から感じていたからかもしれませんね……。

 我が息子ながら、恐ろしい程の先見の明です。


「イクシアさん、聞けばユウキ君に私の息子が救われた様子ですし、私からもお礼を言わせてください」

「あ、いえ……こちらこそクラスの皆さんに協力して頂いたのが大きいかと思います」

「先日の件と良い、我が娘や弟子が命を落とさずに済んだのも、彼によるところが大きいと感じました。私からもお礼を言わせて貰いたい」


 どうしましょう、お母さん鼻高々ですよユウキ。

 しかし……グランディアでなくとも、そこまでの災害級の存在が生まれてしまうというのは……確かに普通では考えられませんね。

 恐らく、何者かの意思は働いていると見て良いでしょうね……。


「――らに今年度はグランディアでの活動も視野に入れている為、あちらの警察組織と連携を――」


 その後も、リョウカさんによる今後の予定の話が進み、多少不満の声も漏れましたが、説明会は無事に終わりを迎えたのでした。

 講堂から出ると、再び一之瀬さんのお父様、そしてカナメ君のお姉さんに呼び止められました。


「あの! 私はこういう話はよく分からないのですが、カナメが無事なのも、ユウキ君のお陰なんですよね? 改めて感謝します。今度、直接お礼を言いに行きたいと思います」

「恐縮です。ですが、ユウキはきっと自分がするべき事をしただけなのだと思います。特別感謝などせずとも、これから先もカナメ君とお友達でいられたら、それで本人は満足だと思いますよ」

「確かに、彼ならばそう言いそうですね。私も、もう少し地球の呪術への対抗手段を学び、流派に取り入れられないか模索してみたいと思います。本日はありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそいつもユウキがミコトさんやカイ君にはお世話になっています。改めてご挨拶出来てよかったです」


 そうして二人が去って行き、アンジェさんも軽く会釈をした後、講堂外に待機していた車に乗せられ帰って行きました。

 やはり、皆さん立場ある方なのでしょうね。本当に今更になって、ユウキが入学した学園が、普通ではないのだと思い知る形になりました。


「……私も、お礼を言うべきなのでしょうな。聞けば、貴女は秋宮に連なる研究者であり、ご子息もそのお手伝いをしているそうですね。言うなれば我が社のライバルに連なる人間ではありますが……感謝します、息子さんには。我が社では新規にグランディアにおける紋章刻印の研究部門の人員を募集しています。もしその気があるのならば、是非娘を通してご連絡を頂けたら、と思います。では、今日はこれにて失礼致します」

「は、はぁ……ありがとうございます、良いお話しを。ではどうかお気をつけて」


 な、なるほど? これがスカウトというものなのでしょうか。

 皆さんが帰ったところで、今度はリョウカさんがこちらにやって来ました。


「イクシアさん、ここまでの説明で何か気になった事はありませんでしたか?」

「いえ、聞きたい事は全て聞けました。ただ……ユウキは、リョウカさんの要請により今のクラスに配属されました。ユウキは……今回の事件で十全な働きをしたと言えるのでしょうか? 何か、罰則などはないのでしょうか? それだけが心配です」

「まさか、そんな事はありません。彼は十全に、それどころか想定以上の働きをしてくれています。それに……精神的に彼はSSクラスの中心人物になりつつあります。これからも、彼にはSSクラスの一員として、一緒に学んでいけたら、と思っていますよ」

「……そう、だと良いのですが。そういえば、ユウキは来月の実務研修について、また国外だと言っていました。そこではどのような危険が予測されているのでしょうか?」


 私がそう訊ねると、一瞬だけリョウカさんの表情が固まるのが見て取れました。

 しかし、すぐに彼女は――


「恐らく、魔物との戦闘になります。それも、これまでとは相手にする数が違うと思います。ですが、今の彼ならば……いえ、彼等ならば魔物に後れを取る事はないでしょう」

「……そうですか」


 もしかしたら、何か秘密にしている事もあるのかもしれません。

 ですが、たとえ秘密があったとしても……私は、この人を信じる。そう決めたのでした。


「……信じていますよ、総帥」

「……はい」


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