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第九十六話

「で、そのなんだ? フロリダ? ってどんな場所なんだよユウキ」

「俺に聞くなよ……カイ、教えて」

「悪い、俺も知らない。ミコト頼む」

「む……私か? 私はグランディアが長かったのでな……カナメはどうだ?」

「アメリカ南部って事しかわかんないよ。こういう時は……カヅキさんお願い」


 みんなでとりあえず参考にとアラリエルのバイクを見に行く道すがら、アラリエルの疑問に答えられない地球組が文字通りたらいまわしにしてキョウコさんに任せる事に。


「そうですわね、フロリダはアメリカ南部、沿岸から半島を含む州ですわ。別荘地、避暑地、観光地としても世界的に有名なスポットですわね。ちなみに、最も観光に向いているシーズンは、それこそ五月から七月とも言われていますわ」

「へぇ、ソイツは楽しめそうだな」


 マジで。任務じゃなきゃ結構はしゃぎたくなるんだけど。

 ……今回、俺しか知らないとはいえ、地球の命運がかかっていると言っても過言じゃないんだよな……色々作戦練ったり、リョウカさんともっと色々相談しないとだよな。


「見えて来たぜ? ……なんだ、一期生のガキが群がってんな」

「ああ、それは仕方ないんじゃないか? 目立つぞ、アレ」

「あら、中々良い趣味ですわね、アラリエル君」


 駐輪場には、多数の原チャリ……ちょっとデザインが俺の知る物とは違うが、恐らくこの世界でポピュラーであろう物が複数停まっていたが、その中に一台、明らかに大きくイカツイフォルムの大型バイクが停めてあった。


「おら、邪魔だから散れ一期生」

「ひっ……SSクラスの先輩……!」

「……なんかもう完全に腫物扱いじゃないですかね、俺達」

「ケケケ、主にお前の所為だけどな」

「いやー、そのうち誤解も溶けるでしょ」


 アラリエルが試しにエンジンをかけると、やはり元の世界のバイクとは違い、なにやら魔力が集まり、発光を伴いながらエンジンが駆動し始めるのが分かった。

 凄いな、音はするけどかなり静かだ。……が、アラリエルがアクセルを捻ると、爆発音のような物が鳴り響き、車体から高周波のような音がし始めた。


「どうよ、俺のマシン。一応フルスロットルで時速490キロは出るぜ」

「は!? マジかよそんな出るのか!? 死なないかこれ事故ったら」

「まぁ魔力が枯渇したらセーフティも切れるしおっちぬろうな。まぁそんな環境で走るなんて事ありえねぇけどな」


 あ、そうか。魔法あるんだもんな、この世界には。

 しかし……特に特別なフォルムって訳でもないのにそんなに出るのかよ……元の世界にも時速600キロ出るバイクはあったらしいけど、あれはかなり独特な見た目だったよなぁ。


「騒音はともかく、中々良い趣味をしていますわね、アラリエル君。これ、車体は『ウミザキ』の『ドーンナイト』ですけれど、エンジンは我が社の物を使っていますわね? それに足回りも……認めたくはありませんが、秋宮のタイヤとサスペンションですわね、完成度の高い事で有名な。それにエンジンに刻まれた術式や魔力リアクターは……グランディア産の物ですわね? 恐らく『サウザンD工房』の物でしょう?」

「お、すげぇなキョウコ、全部正解だ。やっぱり分かるのか」

「ええ。よく手入れもされていますし、各社のパーツがしっかり組み上がるように細かくチューニングもしてあるようです。かなりこだわりがあるのですね?」


 あ、なんかキョウコさんのメカニック魂に火がついてる。

 アラリエルと二人で熱いトークを繰り広げておりますな。


「……ちょっと俺にはデカすぎるけど、良いなバイク。俺も免許を取ったらお金をためて自分のバイク、買ってみたいな」

「……俺はどうなんだろ。絶対足がペダルに届かない。スクーターにでも乗るかぁ……」

「あら? ササハラ君はあまりバイクに詳しくないのかしら? 来週にでも我が社のバイクカタログを持ってきますわ。小柄な女性でも乗れるバイクも多くありますし、気に入るマシンもきっと見つかりますわよ」

「え、マジで? じゃあお願い」

「ふむ……私は購入する予定はないが、参考までに見させて貰おうかな」

「私もー」

「私も興味がありますね、グランディアでも一部の大陸では街道での走行は許可されていますし、一台くらい持っておいてもいいかもしれません」

「わ、私は恐いなぁ……免許は頑張って取るけど」


 なんて事を話しながら、それぞれバイクの免許について、どんな事を勉強するのか、いつ頃から授業に出るのか、そんな事を相談する。

 うーん……バイクはもとより、車の免許も欲しいかな……イクシアさんとドライブなんて良いと思いませんか。

 そんな一幕もあり、これからの学業に新たなスパイスが加わりそうだな、なんて考えつつ下校の時刻になり、俺は少しだけ足取り軽く帰宅するのだった。








「検査の結果が出ましたよ、イクシアさん。やはり健康面に問題はありませんね。ですが……出来るだけ、人前で全力を出さないようにして下さいね。不安でしたらリミッターを作成する事も可能ですが……」


 その頃、イクシアは全ての健康診断を終え、その結果をニシダ主任から聞かされていた。

 無論健康上に問題はないのだが。


「いえ、必要ありません。しかし、やはり私の身体は……生前のものと同じスペックに近づきつつあるのですね?」

「……はい。ここだけの話ですが、グランディアに住む一般的なエルフや、過去の記録にある大魔導師と比べても、保有魔力、魔力との親和性、その両方が貴女の方が飛びぬけて高いです。……それに、今も成長しています」

「やはりそうでしたか。段々と、自分の最盛期に近づいて来たな、という感覚はありましたから。ですが……そちらには『R博士』という方がいるのです、私がもしも道を踏み外したその時は……幾らでも抑えが効く、そうですよね?」

「……はい。やはり、お互いに面識がある可能性が?」

「もう、そちらの総帥、リョウカさんは私の正体に気が付いているのでしょう? それにニシダさんも」


 自分の正体について、初めてイクシアが言及する。

 元々『神話時代のエルフ』という事は分かっていたのだ。

 そして、過去の文献や言い伝え、微かに残った伝承から正体に辿り着くのは時間の問題だった。


「……神話上の存在『偉大なる母』と同じ呼び名を死後に冠され、そして記録に残る事を是としなかった偉人。それでも人々は貴女の事を完全に忘れる事を認めなかった。今でも、古い貴族の家には貴女の肖像画が残されています。それに……故郷ではその名前も」

「そう、なんですね。私は、もしかしたら酷な事をしたのかもしれません」

「……そうかもしれません。誰だって……自分の親の事を忘れるのは嫌ですから」


 何かが変わったのか、イクシアはただ、和やかに瞳を閉じて語る。

 自分の全てを受け入れ、そしてこの世界で新たに生きていく事を本当の意味で納得したからであろうか。


「『イクスペル・D・ブライト・アルヴィース』稀代の名領主にして今も続く国々の礎。何人もの王家の人間を預かり、教育した育ての親。貴女を召喚したユウキ君は……本当に自分に必要だった存在を呼び出したのですね……」

「……そう、だと嬉しいです」


 彼女はその生涯を母として過ごし、そして来世でも母になる事を望んだ。

 その願いは、もしかしたら無意識に家族を求めていた『世界における特異点』であるユウキの願いと重なり、この結果を生み出したのかもしれない。


「では、これにて検査入院の全工程は終わりました。既に送迎の手配は済ませておきましたよ」

「ありがとうございます、ニシダ主任。では、私は戻りますね、息子が待っていますから」

「……本当、とんでもない果報者ですよね、ユウキ君は。私達が知りえた情報は、彼には秘密にしておきます。ユウキ君にとっては、イクシアさんはイクシアさんでしかありませんから、ね」

「ご配慮、感謝します。では……R博士にもよろしくお伝えください」

「……はい、必ず」


 そうして、検査結果以上の物を今回の入院で得たイクシアは、愛する息子が待つ家へと戻る。

 以前よりも、さらに甘やかし、愛し、触れあう事を決心しながら。

 頑張れ、青少年。








「お、家の鍵が開いてる……イクシアさん戻ってたんだ」


 家に戻ると、既に鍵が開いていた事に、ちょっと興奮してしまった。

 やっぱり寂しかったんだな俺。


「イクシアさんただいまでーす」


 そう声をかけると、いつもより勢いよく開いたリビングの扉から、イクシアさんがパタパタと駆けてきた。

 うん、変わらず綺麗です。おかえりなさい。


「おかえりなさいユウキ。そして、ただいま戻りました」

「はは、おかえりなさいイクシアさん」

「はい、ではまずユウキ成分を補充しますからね」

「ぐえ」


 抱きしめられてしまった。しかもいつもより長時間。

 やめて! ここ玄関先だから! 人来るかもだから! 頬ずりまでしないで!


「ん-……寂しかったですか? 私は寂しかったです」

「さ、寂しかったですから、やめてください。今はむしろ恥ずかしいです」

「ふふふ、では部屋に戻ってからにします」


 居間に戻ると、何やら作業中だったのか、イクシアさんの私服がテーブルに並べられていた。

 もしかして入院の時に持って行ったのだろうか?


「明日、保護者説明会がありますからね、着ていく服を考えていました。さすがに燕尾服は保護者会には相応しくないと思いまして」

「あ、そうだったんですね」


 そっか、そんなイベントもあったんだったな。

 ……とりあえず派手過ぎない服ならなんでもいいんじゃないでしょうか。


「ではこれにしましょう。ユウキの母親として恥ずかしくない恰好をしなければいけませんからね。そういえばユウキ、そろそろ今年の実務研修について何か情報は来ていませんか?」

「あ、来月の末にありますね。また海外になります」


 俺は、リョウカさんからの依頼については、今回だけは教えない事にした。

 無理をする、しないという問題じゃない。この件は……どう転がっても彼女を不安にさせる。これは俺のエゴだけれど、出来るだけ彼女の事を心配させたくない。


「また海外ですか……船での移動はあるのですか?」

「今回は飛行機だけですよ、安心です」

「それはよかった……。ユウキ、明日はお休みでしたよね? 本当ならどこかに一緒にお出かけしたかったのですが、先程言った通り私は説明会がありますので、どうしましょう?」

「ん-……明日は家でのんびりするか、もしかしたら裏町に買い物にでも行くかもですね」

「分かりました。では、帰ったら何か食べに行きましょう? ユウキと沢山お話しがしたいので」


 なんだか、こう……イクシアさんから溢れる幸せオーラが凄い。何か良い事でもあったのだろうか?

 すると、再び彼女が俺の傍に寄り、隣に腰かけた。


「ちょっと一抱っこします。一回抱っこするという単位です」

「なんなんですかそれ……ぐぇ」

「……私は幸せ者だなと再認識したのでつい。ユウキ、私を召喚してくれて本当にありがとうございます。……ずっと、一緒にいますからね」

「……突然どうしたんです、ちょっと恥ずかしいというか……照れます」


 本当……どうしたというのだろうか……何か悪い事があった風にも見えないし……。

 どうやら本気で寂しかったのか、イクシアさんはその後も事あるごとにスキンシップを求めてきたのだが、今回も全て受け入れつつ、なんというか甘やかされながら一日を過ごしたのであった。

 いやぁ……なんとか添い寝だけは回避出来たけど、これは色々と辛いです。






 翌朝、土曜の朝だというのに、イクシアさんが俺よりも早く家を出てしまい、若干暇だなと感じつつも、何気なくテレビを付けて時間を潰していると、唐突に家のチャイムが鳴らされた。


「ありゃ? 来客予定なんてなかったのに……」


 部屋の電話に備え付けられたモニタから、玄関の様子を確認してみると……。


「あれ? 誰も映ってない……」


 なんだ? 悪戯か? こういう便利な機能がある今の時代にこんな悪戯するやついるか?

 すると再びチャイムが鳴らされる。なんだ? 映ってないのに……?

 え……こわ……今俺一人なんだけど!?


「ななななな……なんだよまだ朝だぞ……どうなってんだよ……」


 そして俺は、デバイスを構えたまま玄関へと向かうのだった……。


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