【 第四章 】 EP 4 Theater
【 EP 4 Theater 】
【第四章】
「アナタが…ワタシに観えた…」
「……ん…?」
なっ、なんだ……?
イキナリそんなコトを言ってきたリナの表情を見るオレ…、相も変わらず、全くの無表情だ…、何を考えているのかがさっぱりワカラン……
「な…、なんだって…?」
「アナタが、ワタシに観えた…」
……………………ダメだ、ワカラン……
「どういう意味なんだ?ソレ…」
「……ワカラナイ…」
ワカンネェのはコッチだよ、とも言いたかったが…、何か良くワカラン「何らかの感覚」が
リナの中で囁いているモノでもあるんだろうか?と、想ってとりあえず、やり過ごそうと思ったのだが…
「……アナタの中の遺伝子情報と…、ワタシのプログラムが…似ているの…」
……………で…?ソレってどういうコトに成るんだ?ダメだ…、さっきからコイツの言わんとしているコトが何だか、さっぱりワカラン……
「ソレはつまり…、どういうコトなんだ…?」
「アナタとワタシは似ているの…」
「……なっ、何がだ?その遺伝子とか何とかがってのか?」
「そぅ……」
「そぅ……」だけじゃワカンネェんだよ、いつもいっつも…、とりあえずリナを造った「ミーナ・フィリカ」にオレの先祖が紛れ込んだりでもしていたのだろうか……?
「だとして、どうするよ…?オマエはアンドロイド…オレは人間だ…、元々、人間に似せて造られているんだから、そういうトコロがあってもフシギじゃ無いんじゃないのか?」
とりあえず、そんな感じのもっともらしいコトを言ってみたのだが
「ワカラナイ……」
そう言って、目を伏せてうつむいているリナ…
なんだろう…?初めてコイツから「感情」のようなモノが観えたような気がするが…
「……良くワカランが、短いオレの人生経験であり、人間のオレからすると、だ…」
「……なに…?」
「頭で考えて、良くワカラナイ…でも身体の内側で何かモヤモヤした気持ちがうごめいているってぇのはだ」
「ぅん…なに……?」
「「情」ってヤツだ」
「…じょ、お……?」
「そう、「情」だよ「情」、人間は有史以来やソレ以前の遥か昔から、何千年、何万年モノ間、その「ワケのワカラン気持ち」に左右されていて、しかも、いまだにソレについてハッキリとした解明をするコトが出来たヒトは居ないんだよ」
「アレだけ、書物があるのに……?」
「あァ…、だから気にすんな、オマエだって自分がどんなプログラムで構成されているかなんてぇのを100%認識しているっていうワケでは無いんダロ?」
「……ぅん……」
「だとしたら、理解が出来ないトコロがあってもフシギじゃ無いんじゃないのか?」
「そう…アリガト……」
「いや別に、礼を言われるようなコトじゃネェとは想うが…、まァ、何にせよよ?人間ってのにはそんな部分があんダヨ、頭では分かっているのに、心ではその通りに成らないとか、そういうトコロがサ」
「こ・こ・ろ……?」
「そう「心」、どっから来て、何がそうさせるのか、今のトコロ、ハッキリとは解明されてはいない部分なんダヨ」
「人間ってそんなに「不確かな感覚」で生きて居るの…?」
「まァな…、食欲やらなんやら以外のよくワカンネェ部分についちゃ…、本人も何でそんなコトをやってんのかワカンネェこと何ていうのは日常茶飯事なんだゼ?」
「……そぅなの…」
「オマエの中に「そういう部分」があるのかどうかってぇと良くはワカンネェが…、今のハナシを聞いている限りでは…、オマエが言っているのは、そういう人間の「感情」って呼ばれる部分に近いっていう感じがしたな」
「…かんじょう……」
「あァ…、アンドロイドのオマエにそんなモノが内在しているのか?って、いうと…正直、オレにはワカンネェけどな?」
「…………」
「ま、こんだけ「人間社会の中」に溶け込んで生活しているんだ、少しばかり人間くさく成ってもオカシくは無いと思うし、人間ってのいうのはな?」
「なに…?」
「自分がしている色んなコトの元と成っているっていうような、そういうのをホントのトコ、あんまり良くワカンネェで行動しているヤツなんてぇのが、結構一杯居るっていうかサ、何て言うかなァ、ま、そんなような生きモンなんダヨ」
「…信じられない……、一つ一つの行動に「理由が無い」なんていう…そんなコトが…あり得るの……?」
「まァな?認めたくはネェがな…、大まかに言うとそんなモンなんだ、その「人間」とだ、こうやって長い時間一緒に行動していれば、オマエ自身も「何らかの影響」を受けてもフシギじゃ無いってコトさ」
「……そう…」
「だから気にすんな、ソレよりよ?」
「なに…?」
「いっつも「レコレディ・アルト」にばっかり行ってんダロ?」
「うん…アナタには…感謝をしている…」
「ソレはアリガタイんだが…、さっきも言った通り、オレは人間だ…おんなじコトばっかやってっと段々と飽きて来ちまうっていうのがあってよ?」
「飽きて…来る……?」
「うん…、何かバイトにでも行っているみたいな気分に成っちまっているからよ、今日はチョット趣向を変えて二人でどっかに遊びにでも行ってみないか?」
「…………」
「ん?どうした…?」
「…そういうのを…したコトが無いから…どうしたらイイのかが…、よくワカラナイ……」
「そっか…、そういう場合には持って来いっていう感じのデートっつぅか、そういうのがあるんだが行ってみるか?なにより「人間の感情のコト」っていうのを良く知りたいんダロ?」
「うん…、今はソコが一番良くワカラなく成っている部分……」
「だったら、尚更だ…今日は「レコレディ・アルトでの作業」はお休みってコトにして、遊びに行こうゼ?」
「わ…かっ、た……」
と、いうような感じで、初デートというかコレまでずっと一緒に「レコレディ・アルト」での作業をして来ていたオレ達…今日は、気分転換も兼ねて一緒に遊ぶコトにした
「デートも出来て人間の感情も観られる、とっておきのプランっていうのがあるんだがな?」
「なに…?」
「映画だよ、映画、ちょうど観たい映画があってよ?アレを一緒に観に行こうぜ?」
「ぅ、ぅん……」
「映画くらいはワカルんダロ?」
「ぅん…、まだ…観たコトは無いけど……」
「じゃ、尚更だ…、社会勉強って感じで今日はまずは映画からスタートしてみようゼ」
「わ…か…った……」
と、半ば強引にリナを「映画」へと連れ出したオレ、普通に歩いている分には、何処にでも居る小柄でカワイイ女の子であるリナと街中を一緒に歩くっていうのは悪くない気分だ、と、そんな風に一緒に歩いている途中足を止め、つぶやくように一言いうリナ、さっきと同じ問いだ
「なんで…アナタは、ワタシと似ているの…?」
途中で立ち止まったリナのトコロまで少し戻って説明をするオレ
「だから…、今、色々と考えたってきっと答えは出ネェよ、そういうのは…、何て言うかな……?経験して色々と認識して行くコトだと思うゾ?」
「けい…けん……?」
「そう…、いっつもおんなじコトばっかりやっていたら、いつまで経っても見つかんネェよ、そういうのは…」
「……そぅ…」
「何でもイイからよ?今日はパ~ッと気晴らしに行ってみようゼ?」
「ぅ、ぅん……」
その後、リナは…今のコトについてずっと考え込んでいるようで、少しうつむきながら歩いていた
リナを造った「ミーナ・フィリカ」、ソレが…リナのようなアンドロイドにどれだけの機能を組み込んでいるのかまではワカラナイが…どうやら「感情」に当たるような部分が含まれているのかもな?そんな風にも思い始めているオレが居た
「っと、着いたゾ?って、何が観たい?」
「いくつもあるの…?」
「あァ、まァ、大体5・6本くらいはいっつもやっているかな?」
「アナタのオススメのでイイ…」
「オレのオススメ…?」
ソレで行くと…SF超大作アクションの「ファイナル・グラッド」に成っちまうが…、今のリナに一番何ていうか勉強に成りそうなヤツって成ると…、ラブロマンス系の…「虹のかなたへ」なんかがオススメっぽいかな?とりあえず、コレにしとくか…、一応「人間模様が面白い」っていう前評判だったしな、こういうのが今はイイだろう…、と、いうコトで、「虹のかなたへ」を観るコトにして映画館に入ったオレ達、二人分のチケットを買い映画には付き物のポップコーンを買った、アンドロイドであるリナが食えるのかはワカラナイのでとりあえず1個だけにしておいたのだが…
「オマエ、ライトノベルはあんなに読んでんのに、映画は全く観ないのかよ?」
「ぅん…」
相も変わらず、無表情でそう淡々と返すリナ
まァ、イイか、コレはコレでイイ経験に成るだろう、そんなコトを思いながら席に付き、間も無く映画が始まった、オレの横で、パクパクとポップコーンを食っているリナ、思ったより平然と食うんだな?そんなコトを思いつつアンドロイドの胃の中ってのはどう成ってんだ?と、いうような疑問が沸いていた
「オマエ…」
「なに…?」
「オマエ達って、その何ていうか食ったモンって、どう成るんだ?」
「一度「重力」に変換してから、エネルギーとして貯蓄される」
「へぇ~「重さ」ってぇのは実はエネルギーの集合体っていうのは聞いたコトはあるが…、ソレで行くと確かとんでもない程のエネルギーに成るってコトなんじゃ無かったっけ?そんなに食ってて大丈夫なのか?」
「なんで…?」
「E=MC2(イーイコールエムシー二乗)だっけか?アレで行くと、そんなに食ったら、とんでも無いエネルギーに成るんじゃないのか?」
「成る」
「本当に大丈夫なのかよ…、オマエ、突然爆発したりとかしネェだろうなァ…?」
「しない」
そう言いつつ、パクパクとポップコーンを放り込むようにクチにしていくリナ、こんなに食うんなら、オレの分も買っておけば良かったゼ、とか、そんなコトを思っていると、リナがつぶやく
「この主人公が、何を言っているのかがワカラナイ…」
「あ?なんダヨ、ワカラナイって…」
「言っているコトと行動が、なんで違うの…?」
「まァ、何ていうか色々と事情があるんダヨ」
「事情ってなに」
「この主人公は、別れてしまった前カノのコトを今でも想っているワケだが、既に新しい彼女が居る、だから、ソレを表に出すワケには行かないんダヨ」
「なぜ?」
「いやそりゃ、今の彼女が悲しむから言えないダロ」
「なんで、そんなややこしいコトをするの?」
「まァ、何ていうかなァ…、ソレが人間っていうヤツっていうコトに成るのかな…」
「そぅ……」
と、言いながら、再びパクパクとポップコーンを放り込みながら映画に観入っているリナ
コイツは普段、どんな感じでライトノベルを読んで居るんだ?今、オレがしたような「説明」が無いと理解出来ないんだったら、いつも何に共感をして好きなライトノベルを買って居るんだろうか…?そんなコトを思いながら映画を観ていた、ソレから暫くしてのコト…映画の主人公が今の彼女に別れを告げて、ずっと想っていた前カノに対し告白をする場面まで来たとき…
「………」
さっきまでパクパクとポップコーンを食べていたリナの手が止まった
「ん?どうした…?」
「…………」
ソレを観たとき、正直驚きを隠せなかったが…、なんと…、リナの頬には一筋の涙が流れスクリーンの光が反射してキラキラと光っていた…
まっ、まさかっ、コイツ、なっ、泣いてんのか……?
その様子にかなり驚愕をしていたオレ、気に成ったので、どうだ?ようやく主人公の気持ちとかが理解出来たのか?とか、声を掛けてみたかったが…、せっかく感動している様子だったので水を差しても悪いと想って黙っていた…、そして映画が終わり、一緒に映画館を出たオレ達、さっきからずっと黙りこくっているリナが居る
「ポップコーン美味かったか?」
「……ぅん……」
「………」
どうやら、まださっきの映画の余韻が残っているらしく上気した様子でポーーッとしている感じのリナが居た
少し黙ってておいてやるか…
「…………」
「……ん?映画の内容は…どうやら理解出来た…ようだな…?」
「…ぅん……」
良くはワカラナイが、とにかくリナにはアンドロイドながら、人間の感情に共鳴出来る部分があるコトだけは確かなようだ
「人間って…、いつも…、あァなの……?」
「いつもって…?」
「あんなに…、強く誰かに「想い」を寄せてしまったり……、ソレで言葉とは裏腹に反対の行動を取ったりとかをするの…?」
なるほど…、今までは本の中での文字だけの情報で理解していたストーリーを、映画っていう「実写の情報」で観たコトで、相当に強く感銘を受けているようだな?とか…、何となくそんな風に今のリナの様子を分析してみた
「まァな?いっつもいっつも、あんな風にドラマチックに行くコトばっかりじゃ無いけどよ」
「ユタカは…、あァいう風に成るコトがあるの…?」
「あァいう風に成るっていうのは?」
「誰かを…「好き」にって成ったり……」
「あァ、オレもまァ普通に健康な男子なワケで、カワイイ娘にトキメいたりする何ていうコトは正直、しょっちゅうあるっていう感じかな?」
「……そぅ…」
そう言って、また少し考えるように押し黙るリナ…
「とりあえず、何ていうか…」
「……なに…?」
「オマエ達「ミーナ・フィリカ製のアンドロイド達」には、どうやら…「感情」を持たせる機能が組み込まれているっていうコトだけはワカッタよ」
「なぜ…?」
「なぜ…?」ってオマエ、映画の内容に共鳴して泣いていたじゃネェか…とか、思ったが、あえて口に出すのは控えて置いた
「少しは勉強に成ったろ?」
「……ぅん…、やっぱり……」
「やっぱり…?」
「アナタとワタシは似ている…」
「……そうか…?」
「ソレが何処から来るモノなのかはワカラナイけれど……」
「ワカッタよ、ソレ…、まァ、でも何ていうかそう急ぐコトも無いダロ?」
「……そう…?」
「あァ、そういうのは何て言うかな?ユックリと色んなコトを見聞きして自分なりに答えを出して行くもんだ…」
「…………」
「オマエ達、アンドロイドがどうしているのかまではワカラナイが…、少なくともオレ達、人間はそうやって「成長」して行っているよ」
「成長…?ワタシにも、出来るの、かな……」
「………だと、イイな?」
もし、そうだとしたら…、ふと…、自分の中にコレまでにはあり得なかったような考えがよぎってしまっているオレが居た…
「ありがとう、楽しかった…、…少し…、今日のコトを分析するのに時間が掛かりそうだけど…」
「まァ、そうだな?オマエ達のプログラムはオレ達、地球レベル程度のモノでは無く遥かに先を行っているっていうコトは確からしいからな?ユックリと考えろよ」
「ぅん…そうする……」
「じゃ、また明日学校でな?」
「ぅん…、待って……」
「なんだ…?」
「アナタとワタシが似ている理由…アナタも考えて……」
「わ、ワカッタ……」
「今日は、ありがとう……」
そう言って、帰って行ったリナ…
ふぅ…、アンドロイドとデートしていたなんて言ったら、誰に話しても信じて貰えそうに無いゼ、そんな一日だったワケだが……、さっきも一瞬、頭によぎってしまったコトだが…映画に共鳴して涙を流していたリナ……、その横顔を観て、このままコイツの中で「感情」と呼べるようなモノが成長して行ってくれるんだとしたら…、オレに対して…「特別な感情」と、いうようなモノを…いだいてくれるのではないか…
いや…、いだいて欲しい…?
なんて、そんな感じで、アンドロイドであるハズのリナに対して「あらぬ気持ち」をひそかに感じ始めてしまっているオレが居るのは…
ココだけのナイショにして置いて欲しい…