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神様だと称えられない神様  作者: 原すばる
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第八話

 本日も雨。昨日ほど雨の音は煩くなく、

また三日続けての二日酔いも回避できたので

(あの芋焼酎にも慣れたのか?)

小豆がぱらぱらと落ちる程度のやかましさで橋の下から脱出した。

雨でにおいが流れることはないとわかったので、

はるひの信仰銀貨を一枚使って傘を生成する。

俺様は和傘が好きなのだが、

はるひと会った時に悪目立ちもしたくないので

普通の青くて広めの傘にする。

これで、俺様の中のはるひ信仰は三割まで減った。

その他七割は愛憎に満ち溢れた、

様々な事情で縁を切りたい信仰で構成されている。

それはそれで、歪んだ神様になってないか不安に駆られるが、

誰か一人に肩入れするよりは安全だ。

 まずはいつもの十字路に着くが、はるひの姿はない。

昨日は勘違いされたまま、別れちゃったからな。

あの巫女さんとのやり取りで、頭の整理はできたから

今日はちゃんと伝えられると思っているのだが。

肝心のはるひがいなかったらおしまいだ。

―じゃあ死んでみてもいい?

はるひの言葉が蘇る。

いやいやまさか、それについてはちゃんと否定していたわけで。

頭では否定していても、例のバス停まで早歩きで向かっていた。

バス停のベンチに赤いカッパを身に付けたはるひを見つけ、

俺様はほっと胸を撫で下ろした。

さて、なんて話しかけようかと俺様は考えを巡らせる。

「よお、今日は雨ガッパなんだな」

「あのね、お父さんに会えたよ?」

「えっ?」

「あの十字路で車に轢かれてみたら、会えたよ?」

そんなまさかとはるひを見る。

赤いカッパだと思っていたそれは、はるひの全身から出た血で……。

うわあああああ、と俺様は頭を横に振る。

なんつーホラーな考えを巡らせているんだ!

弱気な考えを打ち消すように

びちゃんと水溜りを強く踏んで、俺様ははるひのもとへ向かう。

「よお、昨日の今日で来ないと思ってたよ」

「あ、お父さん!」

笑顔で元気に呼びかけてくる。

昨日の別れ際のことなんて無かったかのように。

そんな様子に戸惑っていると、

「傘をなくしちゃって、探しているの」

辺りをきょろきょろ見回している。

それでカッパだったのか。

「昨日の傘ならベンチの下に隠しておいたんだが」

俺様が言ってやると、

「あーほんとだ!」

嬉しそうに叫んで、はるひは小さな赤い傘を掲げた。

「元気そうだな。何かいいことでもあったのか?」

「あのね、あのね」

急に傘をねじって、もじもじと言いづらそうな仕草をとる。

嫌な予感。

「おじさん、本当のお父さんになってくれないかな」

「えっ?」

「お父さんいなくなっちゃって、お母さんしかいないし」

なんでそうなるんだ! とは言えない。

はるひにお父さんと呼ばせていたのは他でもない俺様だ。

しかしあの時は、はるひの信仰が俺様のほとんどを占めていたからで、

三割まで減っている今ならば、

お父さんと呼ばせていることへの罪悪感がある。

「俺様は、はるひのお父さんじゃないよ」

はるひが逃げていかないよう両肩に手を置いて、

真っ直ぐ目を見て言った。

「お父さんだ!」

「はるひ、全然お父さんじゃないって言ってたじゃないか」

唇をかみ締めて、目に涙を溜めて、

「違うもん! だって、だって、お父さんと同じで臭かった!」

なんて酷いことを言いやがる。

でもこれでわかった。

はるひのお父さんを生き返らせて欲しいという願いの中に、

お父さんの代わりが欲しいという願いも含んでいたのだ。

「いいかはるひ。俺様は、

はるひのお父さんっぽいことはできるかもわからんが、

お父さんにはなれない。

誰でも、神でもなれないんだ」

はるひは鼻をすすり、泣きじゃくり始めた。

冷たい雨が冷たいコンクリートにしとしと打ちつける。

「はるひ、お父さんだって、

死んじゃったお父さんだって、はるひに会えなくて悲しんでいるんだ。

だからさ、顔を上げて、お父さんに会いに行こう」

頭を優しく撫でてやる。

さらさらの髪。目を涙で腫らしてしまっている。

「お父さんに会えるの?」

「ああ、会えるぞ。

ただし、はるひの想像力が試される!」

おでこをつんつんつついてやると、

くすぐったそうにそこを隠す。

「どうするの?」

「まずは、お父さんとしたいことを考えるんだ」

はるひと出会った初日と同じことを聞く。

「船に乗ること!」

「そうだね。どんな船に乗ってみたい?」

「ささぶね、はちょっとちっちゃいかな?」

「あはは。ちっちゃかったら大きな笹舟にすればいい。

葉っぱも分厚くて、縁もこんなに高い!」

「うんうん! いいねそれ!」

「あとは、どんな川がいいとか」

「アマゾンの川がいい!」

「あ、あまぞん?」

「うん! 絵本にあったんだけど……」

お父さんと船に乗るための細々とした設定を考えていると、

はるひはそれだけで朗らかな笑顔でいてくれた。

既に想像の中で、お父さんと一緒に船に乗っているのだろう。

やっぱり人間の想像力ってやつは、すげえな。

「たまに家にもアマゾンが送られて来るんだよ!」

「へぇ~あまぞんってすげぇな」

あまぞんが何なのか、俺様には全く想像がつかねぇ。

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