第5話 作戦名は秘密にしよう
セバスというのは当然偽名で、本名はアレクス・デ・サントーニュ・ベール。
孫娘であるユウナの婿探しをしているが、孫を想うあまりについつい見る目が厳しくなっている。
その眼鏡にかなう男は、先日行われた対大型魔邪生物の討伐共闘遠征の際タカアキに出会うまでいなかった。
タカアキを間違いなく孫の夫とするために、可愛いはずの孫娘の身を顧みない色々とやりすぎな手を使うことが多々ある。
得意武器は斧。属性は大地と火。
その怪腕から繰り出される斧の斬撃によって大地は焼尽し、唸り声をあげる。
戦場で燃え盛る大地を発見したら何を置いても逃げろ。
その命が惜しいならば。その命がまだ…あるならば。
彼の王を 目視し て生き残るには逃げるしか術はない。
出会ってしまったなら己の散漫さを嘆け。
もはや懺悔の時間さえも彼の王は残してはくれないだろう。
戦場で王を前にした者たちは悉く灰燼に帰する。
『灰燼王』アレクス。
今はもう息子に王の座を譲り楽隠居している予定だったのだが、息子の現王が頼りないので度々政治の舞台に立たされている。
現王は実際に力がないわけではなく、その政治手腕や魔邪生物討伐の指揮は評判が良い。偉大な父という壁に1人で怯え、自信がないだけである。
アレクスは自在に体型を操れるため、戦場や政治などその剛腕と知略を発揮する場でのみ王としての姿に変わる。
普段の優しげな老紳士然とした姿を見ても、気付くことのできる者は家族を含めても極僅かである。
何かと小回りが利くため本人も好んで使っている。
ちなみになんと、孫娘のユウナはセバスとアレクスが同一人物であるとは知らない。
…という設定だよお!!
『エターナルダークサーガ(仮)』を書き始めた頃は最強のおじいちゃんおばあちゃんキャラにハマっていた。
物語を書き出す前に色々と設定ノートに書き殴っていたのを今でも覚えている…。
でもアレクスは…今でもちょっと…いや、正直大分…かっこいいと思ってる…。
もしこの世界が二冊ある設定ノート通りなら…、あと3人はいることになるな。
正体を隠した最強のおじいちゃんとおばあちゃんが。
まだ僕の膝の上に乗って抱きかかえられたままだったユウナが、上半身を起こして笑顔でセバスに手を振り返している。
手の振り方がとても美しい。
これ見たことある。…テレビで見たことあるやつだ!!
「どうでしたか~? 姫様~!」
「成功ですわ~!」
「何が!?」
思わずツッコむ。
いやいや、落ちてきてから僕の腕に抱きかかえられてるだけでしょうよ!
したことと言ったら自己紹介だけじゃないか。
ユウナはニコニコと僕の方を見ながら言う。
「『ちょっとエッチな恰好で救世主様の胸に飛び込もう! 妊娠確実ぅ!! 既成事実で姫の依頼は断れないぞ!』作戦ですわ!」
「」
コラー!
だめだろそれは、色々と!
「既成事実作らせようとしたのかよ!! あと、なにさらっと作戦喋っちゃってるの!! だめだろ! 作戦は仕掛けてる相手に喋ったら!」
はっとした表情をしたあと、やっちゃったとばかりにてへっ☆と舌を出す。
か、可愛い……じゃない!!
作戦名も大分酷い。
「妊娠確実とか姫が言っちゃダメ!」
そんなこと書いてた小説で言わせた覚えないのに、一体どこで覚えたわけ!?
それとも覚えてないだけでそんなこと言わせてたの!?
僕の性への目覚めはそんなに激しかった覚えないんだけど…!?
「執事ならこんなことやる前にこの子を止めて下さい!!」
窓の外の執事のフリをした前王に向かって叫ぶ。
グッ!
なに満足げな笑顔でサムズアップしてるんだよ!!
お前がさせたのかよ!
やめろよ灰燼王!
はっちゃけすぎだろ灰燼王!!
やりすぎな手にもほどがあるわ!
「やっぱり既成事実作ったんじゃない!!」
後ろから耳をつんざくようなイロハの怒声が聞こえた。
「ちょっ!? 既成事実なんてないから!! リーンもそう言っただろ! この子が落ちてきたのイロハが入ってきた数秒前とかだぞ!」
「す、数秒あれば…既成事実の一つや二つ…」
「無理に決まってるだろ!! どんだけ早撃ちだ!!」
収拾がつかなくなるから、お願いだから話に入ってこないでくれ!
「私に髪の色がよく似た、男の子と女の子の双子のような気がいたしますわ」
お腹を撫でながらうっとりとユウナが言う。
「そんな伝説の武器防具を装備できそうな子達は絶対生まれないから!!」
「た、確かにタカアキは弓の早撃ちスキルももちろん持っていたけど…。まさか…隣にいた私が見落とすほどの早撃ちだったというの…?」
リーンが目を見開いて演技がかった仕草で震える。
お前分かってて言ってるな!
「やめろ! 撃ってない!! 撃ってないから!! いやまず僕は早撃ちじゃない!!」
ええい、あっちもこっちもボケ倒しやがって!
対応が追いつかない。
(ボケの玉突き事故や~)
うるせえ!!