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第17話 心に響くのはいつだって真摯な姿勢

 思わぬところで足止めを食らってしまったが、今度こそまだ来ない幼馴染を迎えに行かねばならないだろう。

 ジュゴン…いや母も言っていた。

 女の子は迎えに来てほしい生き物なのよ――と。

 母が迎えに来てほしいのは、単純に自分が動きたくないからではないだろうか…?


 幼馴染であるイロハの家は、外見は西部劇に出てくるようなバー。

 実際は村の人間がだれでも寄り合う場所で、カフェ兼居酒屋という方がニュアンスは近いだろうか。

 いろんな人間が集まる場所が家だからこそ、イロハは顔も広いし愛想もよい看板娘なのだ。

 店に入ろうとすると、何やら中から喧嘩する声が聞こえる。

 えっ? こんな展開あったっけ???


(いや、ないなあ…)

 

 とリーンが僕にテレパシーで答える。

 だよなあ、と思いながら入るのもはばかられる。

 あ、そうだ今こそ僕のスキルを使ってみる時なのでは? 殺傷系のものじゃないし、試しにはうってつけだ。

 バーの裏手の方に回ってスキルを発動してみる。


「『空間共振感応フェルート』」


 大層なスキル名だが、このスキルは端的に言えば聞き耳のスキル。なぜか『空間移動テレポート』の一種として存在する。

 呼吸の数などで敵の人数が分かったり、何を話しているかを聞くというスキルだ。

 パーティ全員に効く便利なスキルなのだけれど、ものすごくよく聞こえる聞き耳というだけなので、欠点は間に部屋が挟まったりすると聞こえにくいというところか。

 スキル名に意味は全くないっていうか、その辺は…その…あの…思春期のあれっていうか…その…ちょっと難しい言葉を使いたかったって言うか…。


「…ってられないだろうが!」


 おっ、聞こえる。中の声が鮮明に。

 スキルはどうやら僕にもちゃんと使えるようだ。一つ懸念が減った。サンダードラゴンと戦う時に技が出ないとかしゃれにならないし。

 人数は…割といっぱいいる。

 イロハ以外に男の人が10人、女の人が6人、子どもはどうやらいない。


「だから、どうしてみんな分かってくれないの? タカアキは取り戻すけど、それは今じゃないって言ってるでしょ!?」

「やってみないとわからないだろう、これでタカアキが帰ってくるなら万々歳だ。帰ってこなくても別に気にすることはない。外見がタカアキなだけの、別人なんだからよ!」


 …うん、物騒な話をしてらっしゃいますね。

 入らなくて良かったー! やってみないとわからないって、多分『殺ってみないとわからない』だよね! えー!!

 入ったら飛んで火にいる夏の虫とばかりにタコ殴りにされてたとこだこれ…。

 そうか、タカアキと入れ替わった中身の僕を殺そうとする問題は、何一つ解決してなかった……。


「ねぇ、使う? ノワールが中に入って『散弾雨バレットレイン』使う?」

「いやいや、使っちゃだめだからね」


 ノワールがとんでもないことを言い出す。やめて、バーの中が血みどろの大惨事になっちゃう…。


「でも、このままじゃタカアキ殺されちゃうかも…」

「う、うーん…どうしたもんかな…」


 泣きそうな顔で僕を見つめるノワール、流石にシャレにならないと思っているのか、リーンも心配そうだ。

 どうやら聞いている限りイロハが彼らのことを止めてくれているものの、血気盛んな方たちが今にも僕を殺しに行こうとしている。


「なんとか穏便にこの場を切り抜けて、イロハとユウナのところに行く方法はないものかなぁ…」

「バレット…」

「それは全然穏便じゃないからね」


 穏便の対極にある方法はだめだよノワール。それにそれ範囲指定とかなかったから、最悪イロハも死ぬやつでは?

 その時、上から誰かが降りてくる音が聞こえる。


「全くあんたたちは殺すだの殺さないだのって…、朝から物騒なんだから」


 この妖艶ようえんな声は…イロハの母親、コノハさん!!

 全く年を感じさせないナイスバディの持ち主。

 泣きボクロが色っぽい素敵なお母様!!


「コノハ…でもよ…」

「あんたはちょっと黙ってな」

「……」


 イロハの父親が口をつぐむ。


「大体、タカアキじゃないなら殺してもいいなんて、どんな理屈だよ。タカアキがそんなこと望んでないって、あんたら本当は分かってるんだろ?」


 そうだそうだー! タカアキはそんなこと望んでない!

 いいぞコノハさん!! もっと言ってやってくれ!!


「分かってても、抑えられないことだってある…」

「はあ…。あんたら、創造主がここに望んで来たと思ってるのかい?」


 望んだか、と問われると肯定も否定もできない。

 少なくとも、こんなふうになると知っていたら、望んでこの場所には来なかっただろう。

 異世界でチートして、俺TUEEE! は夢だった。

 夢だったけれど、普通はチート能力があっても、僕が僕として転生するだろう。もともとそこにいた誰かではなく。

 それが、なんの因果か僕が主人公を僕と同じ名前にしてしまったばっかりに、こんなことになるなんて。


「…タカアキはさ、言ってたよ? 『僕が消えるのが怖いように、望んだにしろそうでないにしろ、ここにいきなり現れる創造主のタカアキさんもきっと怖いだろう』って」

「……」


 タカアキ…お前ってやつは…どこまで…、どこまでいいやつなんだ…。

 会って話がしたかった。

 僕が生んだキャラクターが、こんな風にみんなに愛されて。会ったことのない僕のことさえも心配して。

 彼らの会話の断片からでもにじむそのタカアキという像が、酷く優しいのがわかるから。


「イロハの言うとおり、タカアキをどうやって取り戻すかの算段は、この世界を救ってからでも遅くはないんじゃないかい?」


 中のメンバーが静まり返る。

 沈黙を破ったのはイロハだった。


「お母さん、ありがとうみんなを止めてくれて。私はアキと行くよ。もし、みんながまだアキを殺したいと思ってても、私がアキを守る。世界を救ってから、タカアキには平和な世界に戻ってきてもらう」

「ノワールだってタカアキを守る!! タカアキを殺そうとするなら、ノワールが相手になるからね!!」

「!!? だれこの子!?」


 あれれー!? 一緒にいたはずのノワールがいないよ~?

 やだ、嘘でしょあの子ったら!!

 仕方なく、僕はもうちょっとで収集がつきそうだったこの冷えきった空間に足を踏み入れた。

 全員の視線が突き刺さる。

 ノワールは僕とその視線の間に入って、僕を守るようにキッと周りの人間に鋭い視線を送る。

 ありがとう、ノワール。

 でもいいんだ。


「…本当に、もう…あのタカアキじゃないのか…、あなたは創造主…なのか?」


 震える声を絞り出したのは、イロハの父親のナガレだった。


「はい…すみません」

「……っ!」


 僕の返答を皮切りにして、そこかしこからすすり泣く声が聞こえた。

 ここにいるのは大人ばかりだからか、みな涙を流すのを必死で止めようとしているが止められないと言った風で、顔を背けている。

 僕がこの場でできること…それは一つしかない。


「僕はこの世界を救います。魔邪王を必ず倒します。その上でタカアキを取り戻す方法をきっと旅の中で見つけてきます。だからお願いします…。僕に時間をください」


 膝をついて土下座する。

 みんなに愛されていたタカアキを奪った僕ができることは、救世主としてこの世界を救うことしかないだろう。

 どれくらい経っただろうか、とても長いようにも短いようにも感じた。

 すすり泣く声はいつの間にか消えていた。


「顔を上げてください。…この世界とタカアキをお願いします」

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