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おもいついた妙案は?

 夕登の願いは街を破壊しないでほしいというもの。

 シェリルは街を破壊せずに敵との戦争を平和的に解決する事。

 両者の思惑が一致したからこそ、シェリルは夕登にまかせたというのに、当の本人はガルバスを襲撃すると言うのだ。

 そんな矛盾したことを唐突に宣言されても困るのも無理はない。

 シェリルはほんの数秒前まで、キラキラとした目で夕登を尊敬していたはずだが、今は失望の表情を浮かべていた。


「いやいや! おかしいでしょ! 街を破壊しないで解決することが最優先事項でしょ? それなのにガルバスを襲撃ってそんな意味の分からないことを!」


「まぁ、流石にやる気満々の相手を鎮めるには、一発どでかいのをぶちかましておかないと収まらんだろ?」


「それ、私がやろうとしたことなんですけど? あんまり寝言を言って私の邪魔をしていると、ぶん殴るよ?」


 シェリルは握りこぶしを作って、夕登の前に突き出す。


「お、落ち着いてくれ! 違う。別に街は滅ぼさなくてもいいんだ」


「でも、襲撃って言ったよね?」


「襲撃とは言った。だが、滅ぼすとは言ってないだろ?」


「そうだけどさ」


「もったいぶって、変な言い方をした俺が悪かった。とにかく聞いてくれ」


「そういうなら、聞くけど。次は無いから」


 シェリルは魔力を可視化させて夕登を睨みつけた。

 少女とはいえ、仮にも魔王なのである。そのすごみは異世界に来たばかりの夕登でも、背筋が凍るくらいに恐ろしかった。


「き、き、気を付ける」


「よろしい。じゃあ、妙案と言うのを話してくれるかな?」


 一転して次は笑顔になる。

 この落差が何とも言えない気持ちになった。

 果たしてどちらが魔王シェリルの本当の姿なのだろうかと、夕登は恐れた。


「おう。それじゃ、俺が思いついた策について話すぞ。まず、ガルバスを襲撃するとは言ったが、別に都市そのものを攻撃するわけじゃないんだ。あの城壁都市は王国の要なんだろ? それならば、都市の重要施設を攻撃すればいい」


「そういうことね。つまり、立法運営の施設や金融経済の拠点を破壊し、王国にとって強大なダメージを与える。そして、弱った隙にクロス・インペリアルの兵を国から出動させて、王国の首都に向けて進軍させる。それで、降伏を促すわけだ! これなら、沢山の人が死ななくて住むし、確かに妙案だね!」


 夕登の作戦の概要を聞き、シェリルはその作戦の内容を細かく、想像する。

 展開を先読みした彼女はドヤ顔だ。

 これでも『魔王のすすめ』を読んでいるだけあると言わんばかりに。


「概ねはあってるんだが、別に魔族の兵を出撃させる必要はないし、金融経済の拠点を破壊することもしなくていいんだ」


「え? そうなの?」


「深読みしすぎだ。兵を差し向けたりするような、中途半端に過激な事をやるのは良くない。戦争で勝てばいいんだ、という希望を持たせず、シェリルがやろうとしたように徹底的に戦意を削ぐんだ」


 軍を国から出すのはまずい。これは本当に戦争モードに突入してしまう恐れがある。

 それはシェリルの望むところではないはず。

 敵が戦争すらする気にならないほどの脅しは全てを破壊することではないのだ。

 本気の片鱗を見せつけることで、恐怖を抱かせることが重要である。

 こちらを怒らせればこんなものでは済まないと。


「そうなんだね。てっきり、クロス・インペリアルの総戦力を見せつけるのかと思ってたよ」

 

 シェリルは得意げに語った割に、夕登の意図に沿えていなかった自分を恥ずかしむ。

 その顔はどや顔から赤面へと変化していた。


「だが、基本的な事はシェリルの言う通りだよ。立法に基づいて都市を運営や管理する『役所』や駐留する軍を完膚なきまでに叩き潰し、占拠する。そして、このままだと首都を陥落させ、王都すらも攻撃すると魔王自ら脅してやればいい。後は交渉だ。向こうがこちらの条件を飲むなら、我々も譲歩し、王国にとってある程度の利益を用意すれば丸く収まるはずだ。割といい案だろ?」


 危険を通り越してしまえば、敵は背水の陣と感じる。そうなれば負けると分かっていても戦を仕掛けてくる可能性がある。

そうならないように、敵にはある程度の逃げ道を作っておいてやることが必要だ。


「………………」


「どうしたんだ? シェリル」


 無言でぽかんとする彼女。

 それに対して夕登は何かまずいことを言ってしまったのだろうかと、内心焦る。

 先の件がある以上、彼女を怒らせるのは良くない。

 もし、機嫌を損ねたのであればとにかくすぐにでも謝罪をしなくては。


 だが、


「すごい! 確かにその案なら行けそうだね! 知識を持つ人ってすごいなぁ。君は天才だよ! 君みたいな人は初めて会った! ただ滅ぼす事しか考えてなかった私はまだまだ甘かったんだ」


 無言だったシェリルは堰を切ったように夕登を褒めまくり始める。


「そんなことはない。シェリルが最初にやろうとしていたことを的確に改善しただけだ。時間さえあればこれくらいの事は出来るし、何よりこの作戦を考え付いたのは君が経営の知識を活かせと言ってくれたおかげだ」


「そ、そうなんだ。私はこんなにすごい人の役に立てて嬉しいよ」


「何言ってるんだ。シェリルがいとも容易く街を滅ぼせる力を持ってないと、成立しないことなんだ。俺からすれば戦闘力に秀でた人の方がすごいと思うよ」


「そんなことないってぇ!」


 夕登は急に褒められすぎてどういう反応をしていいのか分からず、シェリルを褒めることでしか気恥ずかしさを紛らわすことが出来ない。

 因みにシェリルも褒め返されて恥ずかしいようだ。また、赤面を晒している。

 そんな彼女を見て、夕登は人に褒められたり褒めたりするのは気持ちのいいことなんだと気づく。

 過去の会社員生活では理不尽に怒鳴られたり、怒られたりすることばかりだったから、あの場所がどれだけ異常だったのか今更ながらに理解できた。

 これなら、異世界でも楽しくやっていけそうだ。

 そう、感じるほどに心安らぐひと時であった。


ここまでお読み頂きありがとうございました。

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