勉強してきたことは無駄じゃない!
シェリルからの難題をクリアするべく、夕登はすでに一時間以上も考え込んでいた。
こういった政治的な問題はテレビで見たことぐらいだ。
実際に解決したことはおろか、直面したことすらない。
「なかなか、考え込んでるね。でも、リミットは後、二時間くらいでお願いするよ。もうすぐ、お昼だからお腹空いてきたし」
「分かった」
(政治問題の解決を三時間で導くのは正直きつすぎる! だって、俺は官僚や政治家をやってたわけじゃないんだ。分かるわけがない)
「今回の目的は相手から金を貰い、約束を取り付ける事だとして………」
夕登はぶつくさと口に出し、指を折って必要な事を纏めていく。
しかし、一向に何かを思い付く事はない。
「なぁ、何か政治に関する本とかないのか?」
もう、自分で考えるのはやめて、夕登はシェリルに知識を貰うことにする。
アイテムポケットにあった本を一度見てみるのもいいが、シェリルは夕登のアイテムポケットの中には何もないと思っている。それなのに突然、取り出すのは不自然で出来ない。
「ないよ。あるのはこれだけ」
シェリルが一冊の分厚い本を見せてきた。
そこには『魔王のすすめ』と書かれている。
ここで、夕登は一つ気付いたのだが、どうも異世界の字も読めるようだ。
(やっぱり、字も読めるんだな。見たこともない字のくせになんでか分かるんだよな。それにしても異世界にも『学問のすゝめ』と同じようなタイトルの本だあるんだ)
「それはどんな本なんだ?」
「簡単に言えば、魔王らしさを追求した本だよ。魔王の風格とか魔王とはどうあるべきかとか。あとは、魔王として国の経営に関する話だね」
「ああ、そういうやつね。にしても経営かぁ。懐かしいな」
夕登は大学時代や短い社会人時代を思い出してしみじみとした。
彼が大学の在籍していた頃や入社してから、読み込んだ経営学の本の数は数えきれないほどだ。
大学の所属していた学部では必ず学ぶことであったし、会社ではいずれ必要になるかと思って、勉強した。
会社員ではなくなった今を考えれば意味のないことであったが。
「何か経営に関することに思い出でもあるの?」
「まぁね。家がちょっとした商いをしていて、それで、後を継ぐならと勉強していたんだ」
当然嘘である。
夕登の実家は普通に会社員の共働きだ。
もう、嘘を付くことには慣れてきた。
ついさっきまでは間を置いてからでないと、嘘を付けなかったが、今では息をするように嘘を付くことが出来た。
「経営学って、難しいよね。読んでたら、パンクしそうだもん」
「あはは! 最初はそんなものだ。でも、極めたらすごい武器になるし、色々な状況で役に立つから覚えておいた方が良いぞ」
「だね。それでなんだけど、じゃあさ、君も経営学を学んだっていうなら、今回の私の条件も解決できるんじゃないの?」
どうだい? と聞いて来るシェリルに対して夕登はというと、
「あ!? そうだそれだ! 経営だ!」
急に立ち上がって、シェリルを指さす。
経営。それは盲点であった。
政治的問題を解決するために夕登は政治の中でしか考えていなかった。
夕登には政治の知識がほとんどない。
それならば当然、解決できるこはほぼないだろう。
しかし、経営に置き換えて考えてみれば、解決できるかもしれない。
シェリルに色々な場面で役に立つと言っておきながら、自分で使おうとしなかった夕登はすごく恥ずかしくなった。
「だよね! じゃあここからは簡単だね。後は時間内で頼むよ? 私にとって、クロス・インペリアルにとって最善の結果を期待してるよ!」
「ああ! 任せておいてくれ!」
その言葉を皮切りに夕登は、今まで学んできたことは無駄じゃないと奮起して自身に叩き込んだ経営学の知識を総動員し、試行錯誤を始めた。
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