神様からの恩恵はアイテムポケット
知ったかぶりをしたが、アイテムポケットを夕登は持っていない。
縁結びの神が渡したアイテムの中にそれが混じっているとは限らないし、そもそも本当にアイテムをくれたかどうかも怪しい状況なのだ。
「一度、探してみたら?」
そうやって、シェリルが促してくるが無いものはどうしようもない。
うまい言い訳を夕登は考えようと努力した。
「まずアイテムポケット、持ってないんだよね。ははは」
結局、無難でありきたりな嘘を付く。
夕登の口からは乾いた笑いしか出てこなかった。
「え? マジ? アレを持ってないって相当だよ? 普通、購入したら半永久的に使えるものだから便利だし、赤ちゃん以外なら誰でも持ってるんだけどね」
「あれって、半永久的に使えるのか? と言うより、実はアイテムポケットの存在は知ってるけど、なにせこれまで箱入りだったからな。恥ずかしながら殆ど分からないんだ」
白々しい嘘だ。
なんとなく、あたかもアイテムポケットについて、曖昧ながらも微妙に知識があるような質問をしてみて、知っているふりをしてみた。
夕登は段々、馬鹿らしくなってくる。
もういっそのこと、異世界から来ました、ってカミングアウトすればいいのではなかろうかと思い始めた。
「あーなるほど。そういうことね。いいよ、じゃあ教えてあげる。アイテムポケットっていうのは、この世界とは違う次元を開いて、そこの空間に道具を置いておける魔法道具の事だよ。因みに、アイテムポケットは支払う料金によって、そこに仕舞っておける量が違うんだよね。アイテムポケット自体に使われてる、次元を開く魔法の効果で値段が決まってて、果実を十個分ほど仕舞っておける、一番小さいモノなら大体一万ゴールドで、山一つ分入れられる最上級なら100億ゴールドだったと思うよ」
要するに、物置部屋が自分について回るということだ。
その大きさもお金で買え、自由に使用者の必要度に合わせられる。
前の世界では絶対にありえなかった技術。
これも、魔法のおかげである。
「ほうほう。それでどうやったら使えるんだ?」
「簡単だよ。自分が仕舞った道具が置いてある空間を思い浮かべて、魔力を注ぐだけ。それで、アイテムポケットに登録された、自分の魔力が反応して空間が開くから。ね、単純でしょ?」
「ふむ」
(言ってることは分かるが、魔力とか言われてもどうしたらいいんだ? まぁ、とにかくやってみるか)
魔力について夕登は全くの無知であるが、一度やってみるしかないだろう。
それに、持ってないはずだが、もしかすると神がプレゼントしてくれているかもしれないという、淡い期待を胸に抱く。
「お? おお!」
シェリルがやってみたように手を少しだけ前に出しみる。
そこから、意識して夕登は物置部屋を想像してみた。
すると、先刻のようにブラックホールが生まれ、夕登の脳内にいくつかの道具らしきものが浮かんできた。
「なんだぁ! ちゃんと持ってるじゃん! もしかしたら、ご両親が知らない間に買ってくれてたのかも。アイテムポケットは使用者の魔力さえ登録したら使えるから、プレゼントとしても人気なんだよ。良かったね!」
これでちゃんと神が便利なアイテムを譲ってくれていたことが証明された。
使い方くらい教えておいて欲しかったと愚痴りそうになるが、夕登は貰えるだけありがたいと心を改めて、感謝した。
(なんだこれ? 本が五冊に服? あ、スーツか。で、たったこれだけ?)
「何か見つかった? って、使い方も知らなかったのに何か入ってるわけないよねー」
「あ、ああ。何も無かった」
とりあえず、誤魔化しておく。
本は見たこともない物だったが、スーツに関しては夕登の私物だ。
出したところで意味はないだろう。
また後で確認することにした。
「それじゃ、探し物は見つからないよね。ま、失くしたと思って諦めるのが肝心かな」
「そうだな、仕方ない。だが、アイテムポケットを自分が持っているということが分かったんだ。それで良しとするよ」
「それが一番だね。で、何の話をしてたんだっけ?」
「たしか、街を滅ぼす話だったな」
「あ、そうそう。今から滅ぼしに行くんだった!」
(しまったぁ! そういえば滅ぼされたら困るから何か便利なアイテムはないか、探してたんだった! やばい、本とスーツしかないぞ! これで何が出来るって言うんだ!)
「それなんだけど、もし、街を滅ぼされると、俺が行く当てが無くなるんだ。どうか考え直してくれないか?」
素直に話して、夕登はシェリルに理解してもらうことを決めた。
魔王とはいえ、こうして普通に会話できているのだから何とかなるかもしれない。
ダメ元だが、こうする他ないのだ。
「うん! 無理な相談だ。こっちも死者が出てるから、流石に報復無しじゃ、威厳がないからね! ごめんよ」
軽い口調でシェリルは言うが、目は鋭く何かを恨むよう。
同族が殺されたとなれば、報復こそが民を納得させられる手段であることをシェリルは知っている。だから彼女はそれを止める気はさらさらなかった。
「そうか、仕方ない。なら、俺は巻き込まれないようにどこかへいくさ」
最初から分かっていた事だ。
しぶしぶ夕登はその場から去ろうとする。
そんな寂しそうな背中を見て、シェリルは夕登を呼び止めた。
「あ、待って、待って!」
「ん? なんだ?」
「君はここまでせっかくここまで来たんだ。それを、台無しにするのも忍びないから、とある条件を満たしてくれれば、街は滅ぼさない。それでいい?」
「まぁ、それでいいならありがたいが。俺は何も出来ないし、何も持ってない人間だ。魔王の出す条件を満たせるとは思えんが」
「大丈夫! シンプルな事だから」
「なら一応聞くよ」
「うん。条件はクロス・インペリアルに宣戦布告した、国から賠償金と即時終戦締結と平和条項を結ぶこと。それだけ! オッケー?」
さらりとシェリルは難題を夕登に難題を突き付ける。
夕登は聞いた途端、絶望感に襲われた。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
よろしければ、評価を付けていただけますと作者は大喜びします!
どうぞよろしくお願い致します!