表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/42

決起


「うぇーい! 酔ってなんかないろぉ~アリシアちゃんもこっちこいよぉ~! ええ? 俺の酒が呑めんのかぁ? ウラァ!」


「おめぇ、酔ってキレてんじゃねぇよぉぉぉ」


「ひゃはやはやhyはやはひゃひゃひゃ!」


 酒に酔った男どもは最早、手が付けられない。

 怒ったり泣いたり、あとは奇声を上げているとか無駄に暴れているとか、散々で最高にカオス状態。


「ぷはぁ!」


「エル、いい飲みっぷり。ささ、もう一杯」


「ギルマスぅ、私にもお酒を注いでよぉ。ねぇ! ギルマスぅ⁉」


「おいおい、飲みすぎるなよ」


 エルがグラス片手にかなりアルコール強めの酒を煽り、ルルーナは赤みが差した顔で空になったそれになみなみ注いだ。

 シェリルに関してはエルに絡んでいく。

 酒に割と強い夕登はほろ酔い状態で、まともな意識は残っているものの、なんとかしようという気にはならない。

 部屋に入ってきて惨状に呆れ果てていたアリシアも——————————


「もっと酒を持ってこいっ! 新たな同志の歓迎会じゃあ! ほら、おぬしも遠慮せんとグイっと飲み干さんか!」


「い、いえ私はお酒が苦手なのでちょっと…………」


 隣にいた犬耳を困ったように垂れてさせている女性に向かって、アリシアは酒瓶ごと勧めていて一気飲みさせようとしている。

 犬族の女性はその場から逃げて、事なきを得るがまた一人アリシアの相手をさせられるものがいたり、どうしようもない。

 そんな中、彼女が酒に酔うのは珍しいなと傍観する者が二人。


「アンリさんどういたしましょうか?」


「そうねぇ、このままだと収拾がつかないわ」


「アリシアさんがお酒に酔っている場面をわたくしは見たことがありませんわね」


「あの人はめっぽうお酒に強いもの。この十年で彼女が酔っているところを見た人はほとんどいないでしょうねぇ。いつも、お茶目な感じだけど、どこか気を張ってたと思うの。だから、やっと革命の日が近づいたことでどこか緩んだのかしら。だって普段なら、酒樽十個あっても酔いつぶれることないもの」


「酒池肉林、狂喜乱舞するのはまだもう少し先だと思うのですけど…………」

 

 苦笑いのシャティーと微笑まし気にアンリは壁を背にして並んで見守る。

 彼女達は酔ってないように見えるが、ちゃっかりその手には透明感のある琥珀色の液体が入ったグラスを持っている。

 しかし、自分達の適量を量りゆっくり酒を楽しんでいた。

 それはまるでお酒の飲み方の見本だ。

 大人の飲み方と言えばわかりやすいだろう。


「それもそうね。仕方ないわ、シャティーさんよろしくお願いね」


「分かりましたわ…………」


 シャティーはアンリの要請を受けて、二歩前に出ると大きく息を吸った。


「…………っ、はい! 皆さん、そこまでです!」


 次の瞬間、シャティーはパァンと柏手を打つ。

 すれば、見る見るうちに泥酔、酩酊していた者達の様子が変化する。


「あ、あれ?」


「何してたんだっけ?」


「何事だ?」


 さっきまで狂喜乱舞状態の室内は一気に静まり正気を取り戻した。


「さぁ、そろそろ、今日の目的を果たしましょう。アリシアさん、いつまでお酒の瓶を持っているのですか?」


「おおっと、そうじゃった。我を忘れておった。しかし、ワシの酔いを醒ますとは、シャティー、おぬし勇者特権を使ったな?」


「ええ、まぁ。この場を収めるにはそれが一番かと思いまして」


 勇者特権とは世界で唯一の能力である。

 これはシャティーに与えられた天恵であり、人族の奇跡の一つ。

 勇者特権は強制的に精神を正常に戻すことが出来る力だ。

 酔った者を素面に戻し、怒り発狂した者を通常の精神状態に変える能力。

 逆に感情を昂らせたりすることも可能だ。

 シャティーが勇者である所以の一つでもある。


「うむ。助かった。時間を無駄にするところだったのう。それじゃあ、本題といくかの」


 コホンと、咳ばらいをしてアリシアは立ち上がった。


「おぬしら、もうすでに知っておるかと思うが新たな仲間が加わった。そして、ワシらは三日後に革命を起こす!」


 アリシアが高らかに宣言すると、おおおお! と歓声が上がる。


「明日、明後日と準備をし、その翌日レジスタンスは王都で旗を掲げる。作戦上、皆を集めて決起集会を行うことは出来ないが、各拠点におぬしら幹部が出向いて人を集めてくれ。そこで指揮を頼む」


「いよいよか!」


「俺達の国を取り返す時がきたんだな」


「長い十年だったけれど、これで私の家族に、仲間に、いい報告が出来そうね」


 思い思いの気持を口にするレジスタスの幹部たち。

 当時、苦渋を舐めた者。

 家族を失った少年少女。

 仲間を手にかけざるを得なかった元兵士。

 クーデターによって奪われた誇りを取り戻すため集まった者達は夢でも見ている感覚にとらわれていた。


「先ほどの痴態を晒しておきながらなんじゃが、浮かれるのはまだ早い。しかし、多くのレジスタンスの同志、幹部を始め、勇者、魔王、大手ギルドのマスターが集まった! それにここにはおられないが革命当日、現国王の弟君、レオニダス殿が我らの旗頭となられる算段じゃ。すでに、全ての準備が整ったわけである! いま、ここにワシはレジスタンス旗頭代行として、宣言する! 正義は我らに!」


「「「「「正義は我らに!」」」」」


 復唱するレジスタンスの面々。

 戸惑う夕登とシェリルだったが、隣でエルやルルーナが胸に手を当ている姿を見て真似をした。


「取り戻せ、王国の誇りを!」


「「「「「王国の誇りを!」」」」」


 徐々に上がっていくボルテージ。

 最高潮に達したその時、アリシアの言葉が響き渡る。


「さぁ、ゆくぞ! 革命の火を灯せ!」


「「「「「革命の火を灯せ!」」」」」


 彼女が言い終わり、皆が復唱しきると、今度は先ほどとは比にならないくらいの歓声が巻き上がる。

 しばらく余韻に浸った後、アリシアが各面々に指示を出して三日後の革命に向けて作戦の最終確認が行われた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ