石の街
扉の向こうには驚きの光景が広がっていた。
入り口から一歩踏み出すと、長い階段が続いており、その先には巨大な地下空間が存在している。
主に石で作られた建物があり、空間の壁は大理石と水晶が入り混じっている不思議なもので丁寧に削られて綺麗だ。
街中では獣人やエルフ、ドワーフにサキュバスなど多くの種族が歩いていたり、おしゃべりに夢中だ。
そして、地下空間には太陽が無いのにも関わらず、魔法によって疑似天体を作り出して天井から降り注ぐ暖かな光が石の街を照らしていた。
「こ、これは……すごい! まさか地下にこんな街があるとは!」
「絵本みたいな場所だね! 神秘的で素敵!」
二人は街に魅入られ、夕登は不思議な壁を触れた観察したり、シェリルはアリシア達よりも先に階段を下りて行ってしまった。
「ここは事件当時、国から逃げ出した者や追われた者達が、協力して作り出した場所じゃ。ざっと300名は暮らしておる」
「これでも、国を追われた人たちのほんの一部でしかないけどね」
かつては国中にいた多種多様な種族がこれだけなはずはない。
国外に居住している者が大勢いるのだ。
そして、夕登はとあることに気が付いた。
「俺達はレジスタンスの仲間に会いに来たんだよな? 結構、子供やその親が多いようだが? 皆、革命に参加するのか?」
この街で見かける殆どが13歳以下くらいの子供とその親である。
どう見ても、革命を起こすには力不足だ。
「女子供を革命に参加させるわけには行いかん。一部の例外を除いてな」
アリシアはそう言いながら、アンリをちらりと見た。
「ここは、主に国外で暮らすのに厳しい、子供を持つ者たちの住むところなの。レジスタンスのメンバーの殆どは国外か、国内で静かに暮らしているわ」
「だったらなぜ、ここへ?」
「国外にいる人は集められないし、国内にいる仲間も集めるの至難。だから、ここに常駐しているメンバーだけに会う予定なの」
「そういうことか」
要するにレジスタンスのメンバーは基本的に散らばっているため顔を合わせるとなると、王国にバレてしまうリスクがあるということ。
多くのレジスタンスと面識が出来るのは作戦決行当日とその前日くらいだろう。
「じゃから今日、会えるのは二十人ほどかの?」
「でも、革命実行直前だから、もう少し人数が増えていると思うわ」
「行ってみないと分からない。エル達が待ってる。早く行こう」
「そうじゃの。おーい! 魔王、そろそろ行くぞ!」
「ほーい!」
アリシアに呼び戻されたシェリルは辺りの者から奇異の視線を向けられる。
理由は当然、彼女が魔王と呼ばれたから。
子供達は魔王って敵だよね? なんでいるの? くらいでまだ理解が達していない様子だが大人たちの表情は硬く、中にはシェリルを警戒して、距離を取ろうとしていた者もいる。
地下に暮らしていても地上の情勢は把握しているみたいだ。
「あーごほんっ! 皆よ、心配するでない。この者は魔王だが敵ではないのじゃ。新しいレジスタンスの一員である」
アリシアは考え無しに魔王と呼んでしまい、彼女が不当にその尊厳を貶められるようなことがあってはならないと考え、街の住人へ説明をする。
「なんだ。そうだったのか」
「もしかして、魔族の国とは和平を結んだのかしら?」
「アリシアさんがそう言うのなら、彼女も立派な仲間よね!」
「近くにアンリさんやルルーナさんもおられるのだ。間違いなく仲間だ」
と、すぐに理解を示す大人達。
流石はレジスタンスの発起人である、アリシアの言葉。
絶大な効果を発揮した。
「では、ワシらは他のメンバーと合って来る。またな」
アリシアは手を振り、階段の踊り場まで降り立つと、夕登達を浮遊させる。
レジスタンスのメンバーがいる場所は、ここからまっすぐ先にある塔の形をした空間最奥の建造物だ。
街中を歩くのでは時間が掛かるし、新入りに興味が惹かれた住人達が彼女らを取り囲むに違いない。
彼女は飛行の魔法で一気に、目的地まで飛んでいくことにした。
「おお⁉ 魔法はこんなことも出来るのか!」
「これは難易度は低いけどね」
「へぇ」
「君は魔法を使ったことが無いんだよね?」
「ああ、どんな魔法があるのかさえあまり知らないな。そういえば、俺にも魔法の適性があるかを調べる予定だったんだ。ルルーナ、その検査紙を持ってるらしいな? 後で分けてくれないだろうか?」
「もちろん。魔法についても手取り足取り教えちゃう」
「助かる」
これでようやく夕登はどんな魔法を使えるかどうかが判明するわけだ。
自分に魔法の才があれば、これから出来ることの選択肢が増える。
魔法についても強力な魔法を使えるアリシアやシェリルなどに教えてもらえばいいだろうし、何なら他のメンバーでもいいだろう。
アリシアの屋敷に住む同居人は皆、レジスタンス内でも相当な実力者と夕登は聞いている。
エルやアンリ、シャティーもいるので彼の指南役はいくらでもいることに、夕登は恵まれたなと喜んでいた。
「よし、着いたぞ」
アリシアが塔の屋上に降りると、夕登達はゆっくりと確実に足の裏でしっかり着地した。
「遅かったね?」
「この場所の事を二人に説明しながらじゃったからの」
「みんな、新しい仲間に待ちくたびれてる、程じゃないけど、楽しみにしているから早く中に行こうか」
「そうしようかの。ああ、そういえば、少し用事があるんじゃ。エル、付きおうてくれ」
「いいよ」
「では、案内はわたくしが務めますね。お二人とも、こちらへどうぞ。わたくしに付いてきてください」
たどり着いた屋上にはエルが待っていて、両手を可愛らしく振って出迎えてくれる。
その後ろには、シャティーがいて用事で一度、別行動になるアリシアに代わって、案内役を買って出る。
彼女は、まるで使用人のように夕登とシェリルを先に案内して、二人は先に建物内へ通された。
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