彼女が魔王になった理由
シェリルの口から放たれた間違いようのないその言葉は、夕登を焦らせるのには十分な破壊力を有していた。
先ほどまでは、ただの優しい少女に見えていたシェリルだが、今はもう夕登には残虐な魔王にしか見えない。
しかも、笑いながらである。
一層、危険であると認識した。
「ど、どうして滅ぼすんだ?」
「んーどうしても何も、あの街が所属する国は私達に宣戦布告したからね。すでに十数人近い魔族が殺されているのも事実。そりゃ当然、若くても国の長たる私は魔族の民を守るのは義務でしょ?」
彼女の言うことはとても道理が通っていた。
自身が治める国に対して宣戦布告、そして攻撃があったすればそれはもう開戦したということ。それがどれだけ小さな被害であってもだ。
ここにいる少女が魔王としての、国の王としての職務を全うする確固たる理由になりうるのである。
「散歩中だって聞いたけど、それは嘘だったの?」
「嘘じゃないよ。散歩のついでに滅ぼしておこうかなと」
「ははは。なるほどね。ついでね」
(おいおい! 散歩のついでに街を一つ滅ぼすとかただ事じゃないぞ!)
夕登の頭の中には、恐怖と言う二文字しか浮かんでこない。
「酷い話だよね。先代魔王が勇者に倒されたからって、それに便乗してクロス・インペリアルを蹂躙しようだなんて。困ったものだよ」
人間が魔族の国を倒そうとするのは当然の事ではないだろうか?
とは、もちろん言えるはずもなく、夕登は質問して状況を理解していくしかなかった。
「まぁ、便乗するのは良くないよな。でも、勇者が先代魔王を倒したのは戦争中だったからじゃないのか? それなら他国から宣戦布告されてもおかしくないと思うんだが?」
「ん? 何言ってるの? 別にどこの国とも戦争はしてなかったよ。勇者がうちのお父さんを倒したのはお父さんが勝手に勇者に挑んだから」
「え? そうなのか?」
「そうそう。お父さんね、ここ百年、魔王らしいことしてなかったから、勇者と戦ってみたかったらしいだよ。それでまだ十七歳の勇者にあっさりと負けたから、ショックで引退したの。『私が倒されようとも、必ず娘が貴様を倒すだろう!』とか言ってね。笑っちゃうよね」
夕登はその話を聞いて思った。
子が子ならば親も親であると。
つまり、親子そろってバカなんだなぁと気づいた。
と言うより、父親の方は中二病臭いと感じられずにはいられなかった。
「それで、魔族の王が倒されたから今がチャンスとばかりに宣戦布告した国があるのか?」
「うん、そういうわけ。今は何処の国もあまり裕福じゃないから、他国を侵略すれば潤うと考えたんだろうね。全く、浅はかだよ。」
資源や資本を求めて戦争を仕掛ける辺り、どうやらこの世界も元の世界とあまり変わらないらしい。
それは夕登によってはどうでもいいことだが、行く当てにしていた街が滅ぼされるのは少々まずい。
街が無くなれば次の街を探さないといけないし、戦争ともなれば命が危険にさらされる。
まずい。本当にまずい。
どうしようかと深く考える。
自分の知識を生かして、何かできることはないかと思考を張り巡らせる。
そして、思いついたことがある。
それは神がくれたいくつかのアイテムのことだ。
今の今まで忘れていたが、夕登は神との別れ際に役に立つアイテムを貰っている。
それを使う時が来たのだ。
夕登は体中をまさぐった。因みに服装はTシャツと半ズボン。冬の装いで神社に行っていたはずだが、この世界に来る間にいつの間にか服装が変わっていた。
神が気を利かせたのだ。
であっても、今は本当にどうでもいいことである。
よくズボンのポケットを探してみたが、それらしきものはない。
(あれおかしいぞ? 無い、アイテムが無い! もしかして本当は貰えてなかったとか?)
「どうしたの? 探し物? 何か失くした? もしかしたら、アイテムポケットにあるかも」
「アイテムポケット?」
夕登にとって全く知らないワードが出てくる。
一体、アイテムポケットとは何であるのか、想像は出来ても知識は無かった。
「誰でも持ってるものだから通じると思たんだけど、もしかして、君の国ではそう言わないのかな? アイテムを一定数、収納できるやつの事なんだけど…………こんな風にね」
と、シェリルは何やら右手を前に少しだけ伸ばすと、そこに黒いブラックホールが現れ、それに手を突っ込み宝石を取り出した。
「ああ、それね」
誰でも持っているとシェリルが言うから夕登は怪しまれないように、知ったかぶりをするが、
(なんだそれ。全然知らん)
とそんな風に思うしかなかった。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
よろしければ、評価を付けていただけますと作者は大喜びします!
どうぞよろしくお願い致します!