秘密基地とお金
「明かりは灯しておくが、念のため足元には気を付けておけ」
階段は通常サイズの者ならば、二人は同時に通れるくらいには広いが、地下空間なので圧迫感があり壁を触れながらでないと進むのには覚束ない。
アリシアが明かりを生み出す魔法で、五人の頭上左右に魔法陣が現れ、そこから光源が発生している。
夕登らが大体、二十段ほど降りきると奥に続く通路があった。
そこの壁には等間隔で正方形にくり抜かれた窪みがあり、明かりとなるロウソクが一つずつ立っている。
まるで、ここに来た者を誘導するみたいだ。
「全員、階段を下りたな?」
このまま通路を突き進むのかと思われたが、そうではないらしい。
アリシアが振り返り、夕登達がいることを確認しながら四人の間を割って通り階段付近まで戻る。
そして、しゃがんで地面に左手を置き、魔力を放出したと思えば、すぐに立ちあがった。
すると、地面から二重の魔法陣が浮かび上がり、上段の魔法陣は階段の通路を塞ぐように移動してもう一つは左の壁に張り付く。
階段の魔法陣は突如、光るが何も起こることなく消えた。
だが刹那、階段の最下段の天井部分から、分厚い壁が降りてきて、今度は物理的に階段を封じる。
一方で、壁に張り付いていた魔法陣も発光し、こちらは壁が消えて通路が出現した。
「おお」
シェリルは感嘆の声を小さく上げた。
夕登も声は出さなかったが、ゲームみたいな仕掛けだなと感心している。
「こっちじゃ」
アリシアは手招きして一同を通路へ誘導し、四人に続いた後、彼女は先ほどと同じ手順で、通路の入り口を塞いだ。
「なるほどな、カモフラージュか」
「うん。万が一、侵入者が来ても分からないようにするの。あっちの通路に行くと、先に進めるけど迷宮になってる。頑張れば外に出れないことも無いけど、止めておいた方が良いと言っておく」
(こういうのって、男のロマンみたいなところあるよな)
夕登は一人で納得するように頷いてからルルーナへ視線を向けると、彼女はこの場所の説明を分かりやすくしてくれた。
遊びではないので当然ではあるが、レジスタンスの拠点が本格的で、夕登は子供の時に憧れた秘密基地を思い出して、高揚感が表情に滲み出る。
いつもは表立ってはしゃいだりしない夕登だが、今ばかりは純粋な少年時代に戻って感動していた。
「さて、行くかの」
アリシアは仕掛けがしっかりと稼働したことを見届け、また四人の先頭に立つと一行は通路を進み始めた。
「魔王城にもこんな仕掛けが欲しいなぁ」
「無いのか?」
「お父さんは見た目ばかりに拘るから、外だけゴツいんだ。それに、お母さんが機能性を重視するタイプで、内装は勝手に弄れないし。というより、魔王城の外装の改造も最近は駄目って言ってるからね」
シェリルが家族の話をするが、魔王の一族であるのに案外、普通の家庭だなと隠れて苦笑する。
以前暮らしていた世界風に例えると、車やバイクを改造する父親とそれに呆れる母親のようだ。
「まぁ、もうすぐ正式に魔王になるんだろ? だったら、新しい魔王城とか作ればいいんじゃないか?」
「それは国の予算的に無理」
「切実だな」
なんだか、本当に魔王らしくないと感じるが、夕登が知っている魔王はゲームか漫画の世界だけだ。
実際、国のトップに君臨し、国民を飢えさせないためには好き勝手出来ないのが普通である。
彼女が、傍若無人で悪辣な魔王ならば話は変わるだろうが。
「予算があれば建てるけどね」
「建てるのか」
「お金が正義なんだよ」
「シェリーの言う通り。私もお金があれば、豪華な家を建てるのに」
「そうよねぇ。お金があれば革命後には宿を立て直して、また再開したいのだけど」
シェリルの発言にルルーナとアンリがため息交じりに同意した。
ルルーナはギルドを経営する立場で、アンリは宿の元経営者。
お金の問題は経験から痛感していた。
「革命後に、この国の財政をちょろまかするしかない」
「そうね。宿を建てるくらいなら、国家予算からしたら大した額じゃないわ。今後が楽しみね」
「私も一枚噛ませてよ」
「もちろん。ユウトもどう?」
「考えておこう」
四人は何やらきな臭いことをアリシアに聞こえないよう話し合う。
夕登も誘われたが、曖昧に返して(殆ど肯定の意味だが)冷静に、汚職はこうして起きるんだな、と分析していた。
貴重な経験である。
「お主ら、なんの話をしておる。着いたぞ。早く、こっちへ来んか」
「悪い」
会話に夢中で四人はアリシアから離れてしまっており、彼女は5メートル先で呆れ顔をしながら腰に手を当てている。
夕登は彼女の様子から三人の企みがバレていると感づき、彼女らの計画から静かにフェードアウトすることにした。
「よし、では開くぞ。ここがレジスタンスの拠点じゃ」
現在いる場所は曲がり角で、右側にまだ通路が続いているもアリシアは正面の壁に向かって魔力を注ぐ。
つまり、この先の通路もフェイクということだ。
侵入者は階段から正しい拠点への道筋を辿っても、この仕掛けに気付くことが出来なければ、あちらの迷宮と同様に彷徨うことだろう。
徹底した構造に夕登は益々、感心しているが、その間に壁は両開きの扉のように開いていて、眩しいほどに中から溢れ出していた。
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