廃墟
夕登ら一行は昼食後、レジスタンスのメンバーと顔を合わせるためにガルバスの市街から離れた、廃墟街を訪れていた。
ここは以前、獣人のコミュニティが出来あがっており、集落化していた場所だが十年前の事件により獣人達がいなくなって放置されている場所だ。
レンガ作りの建物は風化によってボロくなり、瓦礫と化しているところは酷いもので、そこに何がったのかさえ判別が付かないほど原形を留めていない。
井戸からは蔦植物が顔をのぞかせ、転がっている樽にはネズミが住んでいた。
「酷いな」
「本当に誰か住んでいるの?」
夕登とシェリルがそれぞれ、辺りを眺めながら呟く。
「流石にここには住んでおらん。建物の下に暮らせる場所がある。それに、レジスタンスの全員がガルバスにおるわけではない。半数以上は国の外で暮らしているのじゃ」
「人間以外の種族はここじゃ、一定の条件を満たさないと暮らせないから。人間や人間と見分けがつかない種族はガルバスや王都でひっそりと活動しているわ」
アリシアとアンリは何処か元気なく答えた。
彼女らは事件当時を知っている。
そうなるのも仕方ないだろう。
「こんなことを言うのは気が引けるけど、この場所血の匂いと死体、多分もう骨だろうけどその匂いがするよ。私はこれでも魔王だからね。死に関しては鋭い方なんだよ。どこかの教会からアークプリーストを呼んで供養してもらったらいいよ」
彼女は魔族の王であり、その系譜を辿ると死を司るとされた古の魔王がいる。
それ故、シェリルが血や死体の匂いがすると言ったのは物理的ではなく、霊魂や怨霊などを感じ取ることが出来たからだ。
つまり、十年前に無念の死を遂げた未だ供養されていないということなのである。
「やはりそうか。十年前から放置され続けてきたからのう。整備して、人間が住めるようにする話もあったそうじゃが…………」
「革命後にきちんとすればいい。私の伝手で優秀なアークプリーストを呼ぶから」
「それはありがたいわね」
アークプリーストは宗教的な儀式を魔法を使って執り行う者のことで、古来から伝わる秘術を受け継いでいる。
そのため、回復やサポートタイプの魔法が得意であり、冒険者のチームでは重宝される役職だ。
また、ギルドに所属せず、宗教の協会に勤める者は冠婚葬祭などの儀式を依頼があれば、各地に赴いて執り行っている。
今は獣人らを供養するには国の政策もあって、出来ないので革命後に盛大に弔おうとアリシアは考えた。
「さて、着いたぞ。ここじゃ。ルルーナ頼むぞ」
「うん」
先頭を歩いていたアリシアが立ち止まり、彼女の目の前には蔦に覆われた瓦礫があった。
一見すると、ただの年季の入った瓦礫なので誰も何かがあるとは思わないだろう。
というより、レジスタンスの活動場所なのだから、気付かれるのはまずい。
これは周囲に擬態させているのだ。
アリシアが一歩下がり、ルルーナが瓦礫に近づき、両手をかざす。
すると、蔦が奥の方に退き、瓦礫が空中に浮いて、その下に石でできた階段が姿を現した。
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