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不当廉価販売

「そうだな初めに、競争店同士が値下げで価格競争をすることにどう思う?」


 夕登は初めから全容を話してしまおうかと考えたが、この世界ではまだ商売における自由競争の概念が育ち切ってないと見て、アリシアに理解してもらうために学校の授業のように、質問とその答えに対する解説を行い説明することにした。


「それは良いことじゃと思う。ワシらが安く商品を購入できるし、新たな客を取り入れることが出来れば、店側も発展するじゃろうし」


「その通りだ。値下げの価格競争は値段で勝負し、相手も同じ値段だったら、次は質を良くしようとするから、より良いものを消費者は手に入れられるようになる。じゃあ、初めは100ゴールドで売っていたものが80ゴールドになり、さらに安くなって50ゴールドになったらどうなると思う?」


「大量に客が押し寄せるじゃろ? それで店も大量に売れば儲かるから、良いことじゃないのかの?」


「それは一理あるし、客が来るのは当たり前だが、単純に店が儲かるかり続けるかどうかは別問題だ。それに後で話すが、儲けがあっても店は潰れるんだ」


「何故じゃ?」


「まず通常として、売値100ゴールドの商品が例えば、仕入れにかかった費用が20ゴールドだったとしよう。なら、残りはどうなるだろうか?」


「単純に人件費と店の儲け分くらいじゃろ?」


「大雑把に言えばそうだ。今は、それで考えよう。だから、店の従業員に支払う人件費が25ゴールドとすれば、店主が儲ける利益は55ゴールドになる。では、50ゴールドで売った時、どうなる?」 


 単純に、売値-仕入れ値-人件費=利益に当てはめて計算式で表すと、100―20―25=55の場合と、50-20-25=5である。

 つまり、普通に売れば55ゴールドの儲けで値下げして売れば、その差は50ゴールドも変わってしまう。

 するとどうなるだろうか? というのがここからの話である。


「5ゴールドの儲けが出るな。確かに、儲けが少なくなるのは分かるが、それでも大量に売ればいい話じゃないのか?」


「そうだ。大量に売れば問題ないかもしれない。通常で販売し、10個売れば550ゴールド儲けるのに対し、値下げして売った場合に150個売れば、750ゴールド儲けることが出来る。だが、果たしてそれが可能かどうか。答えはほぼ否に近い。なぜなら、他の競争店も同じ値段で売るからだ」


「ああ! そういうことか! つまり、安く売っても他の店が同じ値段で売れば、客の取り合いになり、そんなに売れないということか。じゃが、少なくても利益は出ておるんじゃろ? それではダメなのか?」


 夕登の言いたいことを纏めると、売れるとしても他店と競争にある場合、そこまでの利益が見込めないのだ。

 ようやく、彼女が理解でき始めたようだ。

 しかし、新たな疑問が湧き出てくる。

 これは彼女が浅学なのではなく、この世界の経済の成り立ちが未熟だからだ。

 夕登がいた、かつての世界も同じである。

 長年、人類が商売の歴史を得て、育っていくものであるし、300年も生きていたとしてもアリシアは商人ではないのだ。すぐに理解できる方がおかしい。


「たった5ゴールドでも利益は出ている。だが、それだけで生活できると思うか? 店には一つの商品ではなく、他にも商品もあるはず。それならば利益が出るものもあるし、他の店に無いモノならなおさら、儲けることが可能だろう。しかし、実際、行きつく先は、どの商品も他店と価格競争の末に、限りなく利益が0に近いものになる。安易な価格競争とはそういうものだ」


 売れるからこそ、価格競争が起きて客を取り合うし、売れない物も値下げして売ろうというのが単純的な値段の設定の仕方ではある。


「だったらどうすればいいのじゃ? 価格競争は良いモノじゃとお主も、初めは言っておったではないか?」


「その値下げによる価格競争が適正ならばだ。安くしすぎる事は自分達の首をどんどん絞めつけて行く。これは難しいとしか言いようがない。簡単な解決方法はないんだ」


 売れ無くなれば、また値段を下げて、商品自体の利益は減るが、沢山売ってその補填をしようとする。

 これが薄利多売というものだが、上手く行かないこともある。

 競争店が多いとなおさらだろう。


「では、一番初めの問題に戻るが、商人の店が安く売って、他の店を閉店に追い込んだことは価格競争の末に起きたものだというのか? 安く売って、利益が少なくなって店が続けられなくなる。これが、お主の言っていた利益があっても店が潰れるということか?」


「大体はあっているが、違うな。その商人の店は真っ当に価格競争なんてするつもりはなかったはずだ。適当に価格を大きく下げ、値下げ競争をさせて、その地域における商品の平均的な価値を下げる。そして、売り上げをどんどんなくしていくつもりだったんだろう」


「なら、商人の店も利益が無くなり潰れるじゃろう? それでは意味ないと思うが?」

「そこが今回の話の肝だよ。商人は元より真っ当に価格競争するつもりがないと俺が断言したうよな? つまり、始めから自分の店も利益が無くなることは予想済みだ。もちろん、他の店もだ。しかし、他の店の利益が無くなって閉店することが分かっているなら、周辺の店が潰れるまで耐え凌げばいい。何故だか分かるか?」


「他の店が無くなれば、客達が買い物する場所がその商人の店に限られてやがて、利益が回復するからじゃろ? これのどこがいけないのじゃ? 確かに方法はずる賢いが商売の戦略ではないのか?」


「まさにその通りだが、それによってとある問題が生じるから俺は商人が安く売っているのは駄目だと言ったんだ。店が一つだけになれば、その一帯における商品の供給はその店だけだ。なら、その店が自由に値段を設定できる。今まで、値段の安かったものが、急激に値段が高くなっても、客はその店買うしかない。それについてどう思う?」


「明らかにヤバいじゃろ! ワシらが高くモノを買うしかなくなるのは困る!」


「そういうことだ。資本力が強い店、つまり赤字になっても他の店が潰れるまで待てる店が市場を独占することになる。そうなれば、消費者と生産者(販売者)が対等ではなくなるだろう。これは由々しき事態だ。つまり、不当に安く売ることによって、他の業者を市場から追い出すような真似が出来ないように法律を決めるんだ」


「なるほど! そういうことじゃったか。なら、店同士で値段をあらかじめ設定をするのはどうなのじゃ? それならば、どの店にも客が集まるのではないか? それに、同じ値段なら、中身を良くしようとするじゃろ?」


 アリシアはまるで画期的なアイデアと言わんばかりだが、夕登は暗い表情を浮かべた。

 なぜならそれも、法律で取り締まるべき事案だからである。


「それもダメだ」


「なっ!」


 アリシアは自身が絶妙だと思った案をすぐさま夕登に否定され、驚きを隠し得なかった。


ここまでお読み頂きありがとうございました。

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