憲兵隊
ひょっこりと顔を出した彼女は、両足でジャンプしながら大柄な兵士の肩を叩いた。
アリシアは王国の関係者や兵士、街を闊歩するときは今のように一人称、口調、そして小柄な姿に身体を変化させ、髪の色を赤くしていた。
ついでに名前はアリシアから、クラリスと変えて名前も偽っていた。
「うっ! 別に我々は貴方と戦いたいわけではない。ただ、屋敷の中を捜索させてもらえればそれでいい。今、我々、憲兵隊は国家安全法の下に動いているのだ。貴方はそれに従ってもらう」
兵士はアリシアを怒らせないように慎重に伝えようとする。彼はどっぷり冷や汗をかいていた。
いくら、法律のを持ち出そうと、アリシアを怒らせれば彼女はあらゆる手を使って、報復をすることはガルバスでは有名な話だ。
アリシアは法の抜け穴をいくらでも知っており、手法はとても口に出せるほど真っ当ではなく、憲兵隊でも迂闊に手が出せない。
とはいえ、アリシアも好き放題できる訳では無いのだ。
大義名分無く、憲兵隊などに手を出せば、国中の兵士から敵と認定され、アリシアと衝突することになるだろう。
それでは、今までレジスタンスの仲間を集めた意味がない。
あくまでも、アリシアの目的はこの国の力で王国を取り戻すことだ。
だから、アリシアも殆ど冗談で、兵士を退去させられればそれで良かった。
「あのねぇ、アンリも言ってたでしょ? お客様をお迎えしたって。そんなに信用できないかな?」
「信用も何もありません。私達は上官の命令に従っているます。それが全てなのです。貴方も軍属なら分かるでしょう? 国ためです。特に貴方達、異種族はこの国生かしてもらっていることを忘れないで欲しいですね!」
大柄な兵士の隣にいた、眼鏡をかけた真面目そうな兵士はきっぱりとアリシアに怖気づくことなく言った。
彼らも譲る気はないらしい。
それもそのはずで、彼ら二人が何もできず、のこのこと帰ることになればただの恥さらし。
上官に怒られるだけで済めばいい方で、確実に減給と軍位の降格が決まるだろう。
彼らはなんとしても屋敷を捜索しないといけなかった。
「仕方ないね。好きなだけ探せばいい。だけど、物を壊したりするのは許さないからね?」
アリシアはそれを察したのか、折れて開門した。
「分かっていただければそれでいいのです。さぁ、捜索対象から許可は下りました。全員、早く探しに行きなさい」
「は?」
眼鏡をかけた兵士が大きな声で、命令する。
すると、彼らの背後に大きな魔法陣が地面に浮かび上がり、三十人ほどの兵士が姿を現した。
これは召喚魔法というものだ。おそらく、眼鏡の兵士が術者だろう。
「聞いてないぞ! お前達、二人じゃないのか!」
「はぁ、あなた方はつくづく頭が悪いですね。私は二人などと一切、口にはしていません。それに、何度も言っていますが法律を遵守したまでです。我々の捜索人数に制限はないはずですが?」
ブライルが食って掛かるが、眼鏡の兵士は取り合うのも面倒といった風にあしらう。
「てめぇ、いい加減にしろ!」
「ブライル、止めた方が良いよ。何言っても意味ないから。今は、落ち着こう」
「っ、分かりました。クラリスさんがそういうなら」
「おまえら、家を汚すなよ!」
ぞろぞろと敷地へ入って行く、兵士達にブライルは言い放つ。
彼の声に反応した一人の兵士は、
「俺達は仕事をこなすんだ。誰がガキの言うことを聞かなけりゃならねぇんだ! 異種族共は黙って、人間に従えよ。そうすりゃ長生きできるぜ? ペッ!」
アリシアやアンリ、セシリアをあざ笑うように言葉を投げては唾まで吐いた。
「くそっ!」
「ほんとにむかつくっ!」
「まぁ、落ち着いて。ここで暴れるようなことは流石にしないわ。それより、あの二人を上手く隠せたの?」
「うむ、ワシのプランは問題ないぞ? 今頃、上手くやっているはずじゃ」
悔しい思いでブライルは兵士共を見送ると、足元に落ちていた石ころを蹴り、セシリアは彼に同調した。
アンリは落ち着いたもので、二人を諫めている。
それよりもアンリはアリシアが彼ら二人をどうやって隠したのか、気になった。
「それならいいわ。時間を稼いだ甲斐があるもの」
「ワシが来るまで、上手にやってくれた。助かったのじゃ」
「どういたしまして。さて、私達も戻ろうかしら。あの二人、どうやって隠れているのか気になるわ。アリシアさん、聞かせてもらってもいいかしら?」
「ふふふ。構わんぞ。時間が無い中であの作戦を思いついたワシは天才じゃと誰かに自慢したかったしのう。ほれ、お主達も用事があったのじゃろう? 兵士共が帰るまで家で、のんびり話でもしようぞ? それにしても、あやつらはすまんことをしたのう。早う、戻ってやるか」
アリシアはブライルとセシリアを連れ、家へと戻って行く。
その後ろをアンリが歩きながら、不敵な笑いをするアリシアを見て、夕登とシェリルの心配をしていた。
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