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告白

 彼女は表情を変えるなんてことも無く、ただ本気で夕登を夜の床へ誘った。


「いや、あのな、俺はまだ君の名前を聞いてないんだが? いくら何でもそれはどうかと思うよ?」


 アリシアの時は吹き出してしまったが、今度はあまりにストレート過ぎて逆に夕登は冷静に言葉を返す。

 これは求婚と言っていいのだろうか?

 それとも、ただの種馬として見られているんだろうか?

 二つの思考が駆け巡る。

 

 彼女の言い分は自身の後継者、つまり世継ぎが欲しいとの事だ。

 どちらかと言えば後者の方がニュアンスは近いはず。

 こんな十代半ばくらいの少女にそんな求められ方をしたことなど、彼には当然ながら経験がない。

 驚きに驚きを重ねた、ある種の事件だと思った。


「だったら、私の名前を教える。私はルルーナ・ガレスティア。これでお互いに名前を知ったね。だから、夜伽をお願いしたい」


「そういう問題じゃないんだ。俺達は初対面だろ? なのに夜伽とか世継ぎを作るっておかしくないか? なぁ?」


 ルルーナは堂々としており、やましさの片鱗すら見せないので、この世界ではこれが普通なのかと、夕登は疑いたくなって、シェリルやアリシア達に聞いてみると、皆一堂にして首を横に振り、この状況は異常であることが判明した。

 異常ということは誰も対処できづらい問題なのだ。

 一向に一人も助け船を出すこともフォローすらしてくれなかった。


「そう? 子孫を残すのは競争でもあるはず、いち早く番を見つけて種を貰うことに何の疑問があるの?」


 ああ、もう何を言ってもダメだ。

 夕登は彼女に理解を求めるのをあきらめた。

 この少女にとってはそれが、当たり前であるらしい。

 考え方を改めさせるというよりは、夕登自身が拒まないと事は終わらないようだ。


「そうだな、自然の摂理で言えばそうかもしれないが、俺達は人間だ。動物ではないんだ。お互いの気持ちが大切だろ? いくら気に入った遺伝子の持ち主でも、相手を好きになれないと家庭を持つのは苦労するぞ?」


「それは大丈夫。私はあなたが好き。一目見て、あなたが私の旦那様になるって思った。だから、あなたが私を好きになってくれたら問題ない。ねぇ? 私の事好き?」


「ひゅーう」


 ルルーナははっきりと夕登に告白し、瞬間、アリシアが口笛を吹いて茶化す。


 アリシアに一度、気を取られたが、要するに一目惚れらしい。

 あまり表情の無い彼女だが、頬をほんのり赤く染め、見上げるように夕登を見つめる。

 

ルルーナは十代の少女らしく見えるが、よく観察すると胸は割とあるし、腰つき、体つきもすでに赤子を孕めるかと言えば頷かざるを得ず、しっかり成長している。

 夕登のいた世界では彼女のようにかなり若くして、結婚して子供を産むというのはあまりないことだし、推奨されることでないが、ルルーナが少女どうかも夕登は知り得ないし、ギルマスと呼ばれているくらいだ。

 夕登より大人である可能性も否定はできない。

 これだけの要素を鑑みると、夕登の気持ち次第では彼女と結ばれるという選択肢もありえなくはないだろう。

 彼はそれでも、彼女の好意に対して嬉しくは感じても、同じ気持ちにはなれなかった。


「気持ちはとても嬉しい。でも、俺は君に恋愛感情は無いんだ。だから、君の気持に応えられない。すまない」


 堂々と自分の気持ちを伝えた彼女に対して、夕登は濁した答えなど返すことなど出来はしない。

 ルルーナへ答えを返し、明確な理由もしっかり述べた。

 これで、義務は果たしたはずだ。


「そっか。残念。でも、私は諦めない。良かったら、これから仲良くしてほしい」


 しばらく黙り込んだルルーナは落ち込んだ表情を浮かべながらも、健気に夕登へ受け答えをした。


「もちろんだ」


「あのね、私のことは好きに呼んでくれていいから。ルルーナでもルルーでも、ルーでもいい。ルーナって呼んでもいいよ。どう? 私の事、なんて呼んでくれる? ユウト」


「う、あ、いやそのだな、俺も迷うから、とりあえずルルーナって呼ばせてくれ」


「分かった!」


 夕登に振られたばかりだというのにルルーナは一生懸命にアピールを続ける。

 夕登は転生する前を含めても、こんなに女性から迫られたことは無く、ぎこちなく対応するしかなかった。


「おわー! なんじゃ、結婚せんのか!」


「アリシアさん、こういうことはしっかりとした過程が大事なのよ? 私もあの人と結ばれるまでに割と時間が掛かったもの」


「ユウトさんとご結婚されて、ギルマスを引退してくれればよかったのに。残念です」


「まさかの展開過ぎてびっくりしたよ!」


「私も見てるだけなのに、ドキドキしたわ」


「お主らも、ルルーナを見習って積極的に行かんとな」


「そういう、アリシアだって未だに男の人と付き合ったことないって言ってたじゃない」


「ワシの相手にふさわしいのはワシをいとも容易く組み敷けるような男じゃ。いつか、決闘の果てに婚約を交わすのが夢なのじゃ」


「わたくしはそれはいやですね」


「私もー。ロマンチックなのがいい」


「だよねー!」


 二人の様子を見守っていたアリシア達は今現在を持って緊張感が解けたみたいだ。

 各々、言いたいこと思ったことを口にして、わいわいと盛り上がっているのは同姓ばかりだからだろうか。

 一人が自身の結婚観について語りだすと、皆、呼応して一気に姦しくなる。

 こうして、晩餐は一波乱? の後、一層盛り上がったまま深夜まで、酒を飲んだり談笑したりしていつの間にか朝を迎えていた。


 言うまでもないが、その夜はルルーナが夕登の部屋に侵入しようとしたことはあったが、彼がルルーナの部屋に訪れることも二人がまぐわうことも無かった。


ここまでお読み頂きありがとうございました。

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