勇者登場! そして、犬猿の仲
エルに連れられ、シェリルと夕登は大きな両開きの扉の目の前にいた。
「さぁ、入って入って! 驚きの人物とのごたいめーん!」
彼女は意気揚々に、ば―んと扉を押して開いた。
二人はエルに中を押されて、半ば無理矢理——ではないが強く歩みを進めさせられる。
余程、中にいる人物を早く見て欲しいみたいだ。
部屋へ入って行くと、中央に長いテーブルがあり、その奥側に少女が二人が並んで座っていた。
二人の内、左にはアリシアやエルのような金色で長い髪の少女がちょこんと座っている。
その少女は日差しに当てられたことが無いのかと疑うまでに、真っ白な肌をしていて、翠の瞳がこちらを見つめる。
端的に言えば、清楚可憐だ。
そして、その隣には銀色に輝くロングストレートの少女がいる。
少女は眠たげな表情。
しかし、もう一人の少女のような碧の瞳は吸い込まれそうだ。
「ああっ! あなたが何でここにいるの⁉」
途端、シェリルは金髪の少女を指さし、叫んだ。
シェリルが驚いている様子を見るにアリシアが言っていた意外な人物とは彼女の事だったらしい。
当然ながら、夕登は知らない。
もちろん、もう片方の少女もだ。
アリシアはユウトやシェリルに向けて言っていたので、夕登にも何かしら関係があるらしいのだが、彼は全く二人を知らない。
いまだ、彼女の真意は謎である。
「久しぶりですね。シェリル。あら、そちらの殿方は私達と同じ人間族の方ですか。初めまして、わたくしはシャティー・ルシエラです。皆からは光栄にもほどがありますが、勇者と呼ばれています。以後、よろしくお願いしますね!」
その綺麗すぎる顔をにっこりとさせ、シャティーはお辞儀する。
彼女はシェリルの話にあった勇者。
先代魔王をあっさり倒した強者らしい。
たしかに、夕登は勇者とこんなに早く会えるとは思ってなかったから驚いた。
意外な人物というのは間違ってなかったようだ。
「私の質問に答えてよ⁉ 無視しないで! この間までクロス・インペリアルにいたのに!」
「あら、私がどこに居ようと関係はないでしょう? まぁ、アリシアさんのお話をお聞きになったのであれば、薄々感づいているのではないですか? 私がレジスタンスの一員であると」
「まぁ、そうなんだけど。私が聞きたいのは、その隣にいるのは超大手ギルド『ヘブンズ』のギルドマスターでしょ? あなたと殺し合うほど折り合いが悪いって聞いてたけど、まさか席を共にしているなんて、びっくりだよ!」
(勇者とギルドマスターは仲が悪いのか? 俺のイメージだと、ギルドに所属する勇者が依頼を貰いそれをこなして、ギルドに貢献していると思ってたんだが、やはり、この世界は日本のファンタジーアニメや漫画とは違うらしいな)
夕登にとって、勇者がギルドマスターと仲が悪いというのは不思議な事ではあったが、それがこの世界で普通というのならば、受け入れるしかないだろう。
どちらかと言えば、魔王と勇者が仲の悪い関係だと思っていた。
だが、そんな事よりこの虫も殺せなさそうな少女が、隣に座る少女と殺し合うというのがにわかに信じられない。
「別にわたくしは仲が悪くても人のためになるのなら、このゴミks、いえギルマスとも手をつなぎます。それが勇者という者ではありませんか?」
(おい、この子、ゴミカスって言ったぞ⁉ 言い直してたが、ゴミカスって言った! おいおい、こんな物腰柔らかそうな女の子がなんて汚い言葉を使うんだ!)
シャティーは横目で銀髪の少女をみて、薄ら笑いをする。
そんな姿に夕登は驚いて、内心、そのギャップに突っ込まずにはいられなかった。
「よく、そんなことを言うね。初めは私を殺そうとしたくせに。自分の利益のために人を殺そうなんて勇者のやることじゃないね。まったくこれだから、脳筋バカ女は困る」
一言も発さなかった少女はシャティーを見ながら、馬鹿にするように両手を広げて手首を折り、首を横に振った。
「はぁ? おっしゃる意味が分かりませんね。わたくしはただ、剣の練習をしていただけですよ? あなたがそこにやって来たのではありませんか? 剣の間合いに入ってきたら斬られても文句は言えませんのに、あなたはすぐわたくしを悪者にしようとして。困ったものです」
「白々しい。私を視界にとらえた瞬間、目の色変えて獣のように襲ってきたのは忘れないから」
「あらあら、被害妄想かしら? 嫌ですね、稀代のギルマスともあろうお方が危ないクスリでやってらっしゃるのでしょうか? このままだと、周囲の方々を危険な目に遭わせてしまいます。一刻も早く殺処分しなければなりませんね」
「そっちこそ、いつかポーションの飲み過ぎで体壊すでしょ。さっさと勇者辞めれば?」
二人は火花を散らすように、にらみ合い、遂にシャティーは自分の隣に立てかけていた剣を鞘から引き抜く。
一方、銀髪の少女の方も青色に光る魔法陣を顕現させ、今にもシャティー攻撃しそうな勢いだ。
「コレっ! 二人共やめんか! ここでは喧嘩をするなと言ったじゃろうが。ワシの家を消すつもりか!」
「「っ~~~~~………………」」
二人が身構えた瞬間、青筋を額に作ったアリシアが部屋に入ってきて、二人を小突いた。
その時、ドゴッ、という到底、小突いたようには聞こえない効果音が夕登の耳に届き、二人が一瞬だけ悶えた後、ガクリと首が下を向き、彼女らが一言もしゃべらなくなったのは気のせいだと知らんぷりをする。
その後、エルが慌てて二人の少女に向け、必死の形相で何やら大規模な魔法を掛けていたのだから、なにがあったのかより想像もしたくない。
「お主、驚いたじゃろ? 勇者とヘブンズのギルマスが一緒にいるとは思わなかったに違いない。こやつらほど仲の悪い二人は存在せんからのう。箱入りだと言っていたお主でも知っておるじゃろう? この二人が一緒にいるところを見かけたら逃げろとな」
「まぁ、そうだな。それくらいは確かにな」
(全然知らなかったぁ! この世界にはそんなやばい奴ら扱いされているのがその辺を闊歩してるのかよ! 先にシェリルやアリシアと出会えて良かった。無知なままだと死んでたかもしれん!)
「さてエル、二人の蘇生は終わったかの?」
「終わったけど、アリシアも加減しないと、いくらこの二人が特別体質だからってさ、流石に時間が経てば生き返らせられないんだから」
(オイィィィ! やっぱり死んでたのかよ! 何やってんだこの吸血鬼! てか、死者を蘇えさせられるのかよっ!)
「………………」
エルによって蘇生された二人は虚ろな眼で此方を見るばかりで、いまだ動きはない。
まるで、人形のようだ。
この異常な光景にシェリルと夕登は唖然とするしかなかった。
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