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利害の一致

「と、いうのが十年前にあった事じゃ。今でも、あの時の事を思い出すと腹立たしくなってくる」


「そんなことがあったなんてな。どう、言ったらいいか分からないから、まず質問させてくれ」


 夕登は彼女を安易に同情するのもどうかと思った。

 この国に起きた事件の苦しみや悲しみを理解できるのは当事者達だけだ。

 夕登にも確かに怒りの感情はある。

 だが、勝手に彼女達を可哀想と思うのはただのエゴと変わらないものだと感じたから、アリシアやエルに何も言わなかった。


「別にいいが、どうせ、ガルファスがどうなったかじゃろ?」


「え、まぁそうだな。それが聞きたかったんだ」


 質問をしようと思っていたことを当てられて夕登はたじろいだ。


「あやつは死んでおる。これは間違いのない事実。事件が収束したあと、人間の裏切り者として祭り上げられ、遺体は民衆の前で燃やされて、今では売国者として侮蔑の対象じゃ」


「何もかもが酷い話だな」


「本当に許せないわ。あんなことは二度と起こしちゃいけない。だから、私達は人間族も含むレジスタンスを立ち上げたの。この国を王を倒し、国を変えるためにね」


 拳を震わせるエル。

 彼女は父親が殺され、あまつさえ悪人扱いなのだ。よく耐えていると思う。

 夕登は自分ならば今すぐにでも国王を殺しに行くだろう。

 その力が無かったとしてもだ。


「他に聞きたいことはあるか?」


「そうだな、アリシア達、レジスタンスは何をどうやって国を変えるんだ?」


「それは難しい質問じゃな。まずは、レジスタンスは現国王を捕縛し、敗北宣言をさせ、そのあと処刑しようと思っておる。それからは、この十年の間に生まれた子供達に植え付けられた、人間以外の種族は劣等種であるという意識を改革することじゃな。加えてこの国から流出した沢山の種族を呼び戻すことと諸外国との交友関係を元に戻す」


「えらく具体的だな。てっきり国王の処刑と王権の簒奪だと思ってた。すると、レジスタンスはもうすぐ動き出すのか?」


「その通り! 私達はあと、一週間後に反乱を起こす予定だったの。クロス・インペリアルへ王国軍が侵攻を始める、そのタイミングを狙ってね」


「まぁ、王国軍が侵攻すること以外はシェリルと馬が合うかもな」


「そうじゃな。魔王の目的は戦争の終結と賠償金を目的にした、ガルバスの王国軍の殲滅と役所の占拠なら、ワシらの作戦と合致する。文句なしじゃろう。というわけで、魔王を探しに行くかの。まずは話をせんとならん」


「だったら、俺が探してくるよ」


 夕登は紅茶を飲み干して立ち上がる。


「すまんのう。迷わんように地図渡しておく。お主、方向音痴ではないな?」


「大丈夫だ。それじゃ、行ってくるよ」


 アリシアから地図を受け取り、ドアへと向かって歩き、取っ手に触れようとした瞬間、夕登の手は空を切った。


「おわっ!」


「おおっと!」


 扉がひとりでに開いたかのように見えるが、勿論そんなことは無く、シェリルがそこにいた。


「戻って来たのか」


「あ、もしかして私を探してた?」


 夕登はコクコクと頷き、シェリルはそれに対してごめんごめんと謝り、部屋へ入ってきて、ソファに座った。


「で、どんな話をしてたの?」


「アリシア達の事情について聞いていた」


 夕登もソファに座り、 アリシア達がどんな経験をしたのか、レジスタンスの目的など

シェリルがいない間の話を彼女にする。


「そっか、じゃあ、私はアリシア達の手伝いをするよ。利害は一致するし、基本的に文句はない。だけど、国王は一発殴らせて」


「もちろんじゃ。その代わり殺すでないぞ? ワシも一発は殴っておきたいからの」


「あ、私も殴りたい!」


 シェリルは夕登が思ったように、概ねアリシア達に賛同らしい。

 彼女が一人で王国と戦うと言い出すかもしれないとほんの少しだけ懸念していたが、全くの無問題だった。

 これで、アリシア達とシェリルは互いに強力な味方として、同盟が成立したようなものだ。

 彼女達は握手を自然と交わしていた。

 三人は今では、国王をどんな目に遭わせてやろうかといった算段まできゃっきゃっと盛り上がっている。

 会話のトーンは女子そのものだが、内容が無いようなので夕登は遠巻きに見守るしかなかった。


「それじゃ、晩御飯にでもしようかの。そろそろ頃合いじゃろう。お主らも食べていけ。どうせ、今から宿を探すのは手間取るじゃろうし、泊まって行けばよい。それに招いておいて、はい、さよならとはここの主としてそういうわけにはいかん。それとも、すでに宿は取っていたりするのかの?」


 盛り上がっていた女子会? をアリシアはパンパンと手を叩いて、終わらせる。

 夕食に誘ってくれるようだ。しかも、泊まらせてくれるらしい。

 夕登にとって、これほどありがたいことは無い。

 なにせ無一文だ。

 普通ならば、野宿だっただろう。

 まぁ、シェリルと出会っている時点で彼女がどうにかしてくれたと思うが。

 それはそれで、少女に金を払わせて宿に泊まるのは体面が悪いというか、大人としてどうなのかと思っていたりもするから、ここにで世話になれるというのなら、断る理由は一切なかった。


「いや、宿は取ってないな。厄介になれるならその方がありがたい」


「私もエルに財布取られてるからね。このままだと野宿だった」


「あ! ごめんごめん! 返し忘れてた! はい、これ! 中身は一切触ってないから」


(そういえば、財布をスラれたのが原因だったな。もし、気付いていなかったら俺達は野宿だったのか。危なかったぁ。気付いた俺、ナイスプレーだ!)


 夕登はシェリルが財布を盗まれていたことをすっかり、失念していた。

 彼女が皮肉気味に言わなければ、思い出すことは無かったかもしれない。

 それにエル自身も忘れていたようで、慌てて、ポケットから巾着財布を出した。


「まだ、返してなかったのか。エル、ワシはあやつらを呼んでくるから、お主は二人を部屋へ案内を頼む」


 扉を半分開けたところで立ち止まったアリシアはエルに苦笑する。

 彼女の口ぶりから他にも誰かいるらしい。


「アリシアとエル以外に誰か住んでいるのか?」


「もちろんじゃ。この家にはワシとエルを含めて五人が生活をしておる。まぁ、後で紹介する。楽しみにしておけ。意外な人物がおるぞ? ではの」


 アリシアは何かを匂わせながら、部屋から出て行った。

 夕登ははて? と首を傾げるしかない。

 この世界に来てまともに会話したのは、シェリルとアリシアやエルくらいだ。

 果たして一体、誰がいるというのだろうか?

 夕登の頭の中で疑問が、大きく膨らんでいった。


ここまでお読み頂きありがとうございました。

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