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アリシアの過去11-離別

「うぅ、ひっく、おとう、さん、お父さんっ! うあああん!」


 ガルファスのおかげで無事に逃げだしたアリシア達は、市街地から遠く離れた一軒の廃墟へとやって来ていた。

 ここは誰もおらず、敵もやっては来るまいと踏んでアリシアは潜伏場所に選んだ。


「すまんなエル。ワシが力不足じゃった。これほど悔しいことは無い! しかし、お主の父は立派な男じゃ、絶対に生きておるはずだ」


「えぐっ、っくぁぁひっぐ、ゔん」


 エルは泣いていてえづきながらも首を縦に振って、弱弱しく頷く。

 それを見たアリシアは必ずこの女の子を二度と泣かせまいと心に固く誓った。


「そういえば、あやつから紙切れを貰っておったな、何か書いてあるかもしれん。エル、見るか?」


「…………見る」


「そうか、では、」


 アリシアはポケットに仕舞いこんでいた、一枚の折りたたまれた紙を取り出す。


「私も見るわ」


「お、おかぁぁぁさんっ! お、お父さんがっ!」


「うん、分かっているわ。そんなに泣かないの。お父さんが大丈夫だと言ったなら大丈夫よ」


「うぁぁぁぁんっ!」


「もう大丈夫よ。今は私がいるわ。だから、泣かないで」


 意識を失っていたアンリは寝かされていたが、意識が戻ったようだ。

 起き上がって、アリシアの元へ歩いてやってくる。

 気づいたエルは一目散にアンリに飛びついて泣きじゃくって、アンリはしゃがんで抱きしめると、彼女の背中をさすってあげた。


「お主、起きておったのか。どこから意識があったのじゃ?」


「実はあの人が私達を逃がそうとしたところかしら。意識はあったのだけれど声も出なければ、瞼すら開かなかったわ。でも、聞こえていた。あの人が私達が守ってくれようとしたこと。だから、その紙にきっとあの人が何か残そうとしたはず。だから、見せて欲しいわ」


「ああ、わかった。ん?」


 アリシアは丁寧に四つ折りにされた紙を開く。

 しかし、そこには何も書かれていない。

 どういうことだと思ったが、すぐに彼女は手に魔力を宿してかざした。


「こ、これは!」


 真っ白な紙から突如、ガルファスの姿が映し出され、等身大にまで大きくなった。


「お父さん!」


 エルはアンリから離れて、彼に飛びつこうとするがすり抜けてしまう。


「あれ?」


「それは映像記録魔法というやつじゃ。本物ではない。本人が喋っているように見えるだけでな、手紙と同じじゃ」


「あなた…………!」


「そんな…………」 


 エルの表情からみるみる内に笑顔が消え、しょんぼりとしてしまう。

 一方で虚像でも、もう一度会えたという喜びの方が勝ったのだろうか、アンリはどこか嬉しそうだ。


「エル、アンリ、よく聞いてくれ。この伝言を見ているということは私はこの世にはもういないかもしれない。そして、王国の悪を倒せなかった時かもしれない。だが、いざという時のために王国の外に仲間がいる。彼らを頼ってくれればいい。もし君達がこの国のために戦うというのなら、止めたいところだが正直嬉しく思う。この国の民は皆、愛おしい仲間だ! だから、決して人間を恨むことはしないで欲しい。悪いのは彼らの一部だけだ。ほとんどの人間は良い人ばかりだ。どの種族とも同じ者達であると私は思う。なぜなら、人間である私が君達を愛しているのだ。だからどうか、後の事は頼んだ」


 ガルファスはその後も、色々な思い出や国に対する気持ちを述べていく。

 それは会話をすることが出来ない一方的なものだが、それでもエルやアンリは彼と話すかのように、時折返事をしていた。


「それから、最後になるが、アンリ、君はとてもやさしくて、本当に良い妻だった。今まで恥ずかしくて言えなかったが、一目ぼれだったんだ。私が今まで愛した女性は君だけだ。こんな形での最後かもしれないが、今までありがとう。もし、私が生きていて会えるなら後で悶えるくらい恥ずかしいな。それでも、いいから君にちゃんとお礼を言えなかったことをとても公開している。本当に今までありがとう。愛しているよ!」


「あなたっ! ううっ! そんなことないわ! いつもあなたは私の事を思ってくれていることは知ってた。それに、あなたが私に一目ぼれだったのは気付いていたわ。だって露骨だったもの。不器用なのに器用っぽく見せたり、なのにたまに弱気になったりする。でも、そんなところが愛おしかったわ。私の方こそいつもありがとうって言い損ねてた。それにエルの事は任せておいてちょうだい! 私があなたのような立派な子に育てるわ! あなたみたいなカッコイイ人はこの世にいないもの、絶対にエルもいい子に育つわ! ありがとう! 私も愛しています。愛おしい旦那様!」


 アンリは通じないと分かっていても、思いの丈をぶつけた。

 そんな風になることが分かっていたのか、ガルファスも次の言葉を話すまでに間があった。

 そして、アンリが話し終わったその直後、今度はエルに向けてメッセージを伝え始めた。


「次はエルだね。エル、アンリの言うことをちゃんと聞いてわがままを言ってないか? 毎日、野菜は食べているか? 夜更かしはしないでしっかり寝て大きくなるんだよ。君はアンリに似たとっても綺麗な女性になるはずだと私はいつも思っている。だから、君がいつか結婚する時が心配だけど、そこはアンリのように素晴らしい夫を見つけると思っている。なんてね。こんなダメな父親じゃなくて、良い人を見つけなさい。今は良く分からないことが多いかもしれない。でも、いつか私の言いたいことが理解できる日が来るはずだ。後は、本当はもっと遊んであげたかった。山に遊びに行く約束もまだだったし、ああ、それとまだ言いたいことがいっぱいあるんだけど、そろそろ魔法の限界だ。君が生まれてきてくれて良かった。アンリと同じくらい愛しているよ。じゃあね。愛おしい僕の娘、エル」


「お父さん! お母さんの言うことは絶対に聞いていい子になるから、だから絶対帰ってきてね! 待ってるよ! それに、優しいお姉ちゃんがいるから、代わりに遊んでもうもん! だから、寂しくないよ! お父さんありがとう!」


 アンリとは打って変わってエルは短いメッセージだったが、彼女なりに考えた言葉だったのだろう。

 今まで、泣いていたのが嘘のように晴れやかな笑顔だった。

 そして、アンリの時と同じようにエルの言葉を待つようにして、今度は何彼は何も話すことは無かったが、代わりにガルファスは笑顔と共にその姿を消した。


ここまでお読み頂きありがとうございました。

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