アリシアの過去10-敗北と犠牲
「お前は!」
「おいおい、酷いなぁ。俺の名はカイデルって名前があるのによぉ。なぁ? 管理局長サン?」
カイデルはおどけた口調で言い放つ。
「なんなんじゃ、こやつは?」
「こいつは、カイデル・ゲブリオス。オルガムの腹心です。それに、王国でトップを張るほどの実力者。今回の事件における王国軍の陣頭指揮もこいつだと思われます」
「おー正解正解! 俺がオルガム国王様から軍の指揮を任されたんだ。お前にガルバスを追い出されてから大出世しただろう? 何でもやりたい放題だぜ? 今日だって獣人を百人は殺したかな? 後は俺に逆らった貴族も処刑したっけなぁ?」
「お前!」
「おっと、そう怒るなよぉ。二日酔いで頭が痛いんだ。人間の裏切り者は口を閉じて欲しいぜ!」
カイデルは見下すようにガルファスを睨んだ。
「お主、なんか臭いと思ったら酒か。いい気なもんじゃの」
「そうだろ? オルガム様に従うだけで、こんないい身分を与えられるんだ。その面こいつは損してんだよなぁ」
「うるさい。人間として終わっている貴様に言われたくはない!」
「だから、怒るなよ。これから死ぬってのによぉ。ああ、言い忘れてたが、お前の言う同志とかいうやつ? みんな俺が殺しちまったぜ?」
「なんだと!?」
「本当だって。正義がなんだとうるさかったなぁ。むかついたから、切り刻んでダークウルフの餌にしちまったぞ」
笑いながら、カイデルは残虐非道な行いを何でもないように口走る。
「貴様、どれだけ地に落ちれば気が済むのだ!」
「さてな。だが、今は俺がルールだ。責められる言われはないぜ?」
「お主、余程の外道と見た。痛い目を見ないと分からんようじゃな」
「はぁ? なんだって? 痛い目を見せる? 馬鹿言うなよ。お前如きに俺をどうこうできるのか? 笑わせんなよ。もういい、お前らとの会話がめんどくさくなってきた。そろそろ殺しとくかなぁ!」
突如、カイデルはガルファスに向かって走り出し、懐から取り出したナイフを向けて斬りかかった。
それをアリシアは間に入ってカイデルの手首を蹴りつけ、彼の手首は腕ごと弾かれた。
「させん!」
「おぅ、やるねぇ! けどな、おせぇよ。ブラック・リジェクトォォ!」
カイデルは後方に飛んで下がり、余裕の笑みを浮かべている。
そのまま叫んで片腕を振ると、弧状の黒い魔力の塊がアリシア目掛けて飛んだ。
「こんなものがどうした!」
中級以下の魔法だ。
アリシアにはどうってことない。
簡単に防壁を生み出す魔法で防ごうとしたが、魔法が発動しない。
「なっ! これは! ぐぅっ!」
「アンチマジックってのは便利だよなぁ? 優れた魔法使いだろうが冒険者だろうが封じ込めちまう。さて、ここで問題だ。今から、お前達はどうなるでしょうか? 答えは死だ! 穿て、黒雷砲!」
カイデルはアリシアの魔法を封じたことにより、さらに余裕の態度で問題を出題して遊ぶほど。
彼は一人で答えて、またアリシアに魔法を放つ。
今度は高等魔法だ。アリシアと言えど生身のまま受けるのは躊躇われるような、高威力の魔法である。
「アリシアさん、任せて下さい!」
「分かった!」
ガルファスは白い大きな盾を持って、アリシアの前に出ると、カイデルの魔法を受け止めに行く。
その盾は魔法を吸収するように見事防ぎぎった。
「ちっ! 対魔法武具かよ!」
「アンチマジックだけが魔法を無効化するのではない」
「あーもう、ダルいなぁ! 禁術指定魔法を使ってやる! その盾で防げるか? 我は精霊を喰らう者なりて……………………」
カイデルは呪文を唱え始め、彼の周囲に幾つもの球状の魔法が出現し、次第に膨張していく。
呪文を唱えるカイデルは無防備だが、近づこうとすると防壁が張られていて容易ではない。
彼は術のリスクを完璧にカバーしていた。
「くそう!」
「アリシアさん! エルとアンリを連れて逃げて下さい! ここから離れればアンチマジックも効力を失うはずです!」
「それではお主が!」
「私にはこの盾があります。それにあいつの魔法は使った後、術者に反動があります。その時には、アンチマジックの効果も切れるでしょう。これでも私はあいつ同じくらいの魔法を使えます。安心して逃げて下さい! さぁ、早く!」
ガルファスはこのままでは、エルやアンリ、アリシアがただでは済まないと、逃がそうとする。
しかし、それは彼の身が危うくなるということである。
いくら彼が、力のある者だとしてもだ。
外に控えている、兵士達を相手取れるかは怪しい。
躊躇うアリシアをガルファスは急かす。
「すまぬ! 後で会おう。エル! 逃げるぞ。ワシに掴まれ!」
「いやだ!」
離れたとこにいたエルを連れ出そうとしたアリシアだが、彼女は拒否した。
父親を置いてくことが出来ないのだろう。
彼女は幼い女の子。当たり前のことだった。
だが、カイデルの魔法は徐々に完成に近づいている。時間はない。
「エル! 早くしなさい! 今は逃げるんだ!」
「でも!」
「少し悪い奴をぶん殴るだけだ。必ず生きて迎えに行く! アンリの手料理も最近は食べてなくて、口さみしいし、エルとお絵描きもしたいし、また三人でピクニックにも行きたいからな」
「だったら、一緒に逃げようよ!」
エルはガルファスにしがみついて離れない。
「アリシアさん! お願いします!」
「うむ! エル、行くぞ!」
「そ、そんな! いやだ! 私はここに残るんだ!」
アリシアはすでに、アンリを担いでおり、エルをガルファスから引きはがして抱えた。
「馬鹿者! お主の父が命を張っておるのだ! わがままを言って困らせるでない!」
「絶対にいやだ!」
「エル、行きなさい! アリシアさん頼みます。後、これを持って行ってください!」
「ああ! 任された」
エルはアリシアの腕の中でじたばたと暴れるが、勿論、彼女は離すわけはない。
その時、ガルファスから一枚の紙を貰う。
「おねぇちゃん! はなしてよっ!」
「コラ、暴れるでない!」
アリシアは窓をあけ、飛び出そうとしている。
それを見た、カイデルが強引に魔法を完成させ、発動させた。
「はっ! 逃がすかよ! てめぇら全員、生かしておくはずねぇだろ!」
「貴様の相手は私だ!」
「邪魔すんじゃねぇよ! くらえ!」
無数の球状の魔法が放たれ、それと同時にアリシアは窓から跳躍で飛び出す。
そして、背後で大爆発が起き、空中で爆風を受けて投げ出された。
「おとうさぁぁぁぁぁんっ!」
「くっ!」
建物から離れたため、アンチマジックの効果が切れたアリシアは飛行の魔法で、悔しさを胸にエルとアンリを抱えて逃げた。
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