アリシアの過去9-ガルバスの首長
「つまり、お主はクーデターについて察知していたと?」
「ええ、その兆候がありまして、私は国王様からの勅令で調査をしておりました。その一環で、衛兵になりすまし、王国軍の内部調査をしていたのです」
アリシアは数分、時間をおいて頭の中を整理し、男から事件の経緯を聞いている最中で、次第に状況が理解でき始めていた。
彼女は彼から得た情報を頭の中で纏める。
男の名はガルファス・ベルデン。
アンリの元夫で、ガルバス中央管理局の局長。
種族は人間である。
彼は殺された国王の命令で、王国内部に不穏な動きがあるためガルバスにおいてその調査を任されていた。
そして、調査するうち徐々にクーデターが近々、起こる可能性があると気づいていたのだ。
クーデターに加えて、首謀者であるオルガムが差別主義者で以前、人間だけの国を作ろうと画策して国王から左遷されており、その動向を窺っていたらしい。
「しかし、それならばクーデターを起こそうとした者を処刑しておれば良かったのではないか?」
「もちろん私は国王様にそうするように進言いたしました。ですが、国王様は反逆の徒である、オルガムをその手で断罪する決断が出来なかったのです。国王様は慈悲深いお方でそのお気持ちを考えれば私も強く申し出ることが出来ませんでした。今では、強引にでも私が暗殺を命じていればこうはならなかったでしょう」
「なるほどのう。では、なぜアンリと別れたのじゃ? もし、お主の家族であればエル達は危険な目に遭うこともなかっただろうに」
アリシアはソファで眠っているアンリとガルファスの膝の上に乗っているエルを交互に見た。
すると、ガルファスはエルの頭を撫で、彼女は嬉しそうに表情を緩める。
「つい先日、オルガムから手紙が届いたのですが、その内容はクーデターを起こすために協力しろとの事で家族と別れれば、危害は加えないと脅されました。だから私はアンリに事情を説明してエルを託し、家を出て何とかオルガムにクーデターを起こさせないように策を練ってきましたが、どれも上手く行かず遂にクーデターは起こってしまったのです」
そういえばアンリはガルファスと別れたのは事情があると言っていたのをアリシアは思いだした。
あの時から事態は進行していたと思うと、祭を遊んでいた自分が間抜けなように思ってしまう。
「そういう理由だったのだな。ならば、これからどうするのじゃ?」
「このままでは人間以外の種族が全て殺されてしまいます。私が前々から集めていた同志が今、王国で奮戦しているはずです。彼らは人間もそれ以外の種族も愛する者達。この国の本当の姿なのです。私はここにいることしかできませんが、そのうちこのガルバスに応援が来るでしょう。それまでここにいます。しかし、彼らがくれば、反撃に打って出るつもりです」
「敵はかなりの数じゃろう? お主は死にに行くのか?」
「そんなつもりはありません。ですが、私がやらねばならないのです。もしもの事があれば国王様から託された身ですので」
ガルファスは強い信念を目に宿し、決意していた。
彼は人間である。オルガムに黙って味方すれば殺されることもないだろう。
しかし、彼はそれを許さない。
獣人であるアンリと結婚したことからも分かるように、ガルファスにとって種族などは関係ないからだ。
誰もが愛すべき国民であり、国の仲間だと認識している。
だから彼は立ち上がるのだ。
「そうか、ならばワシも協力しよう。まだ、祭りのすべてを見たわけではないし、楽しみだったのだ。この国と者達と夜を明かし、酒を飲み、踊り、肩を組む。そんな楽しい旅にしたかった。じゃが、それを邪魔した奴をワシは許せぬ。素晴らしきこの国を穢した大バカ者をな」
「それはありがたいことです。私から言うのは違うかもしれませんが、お礼は後で言うとして、そろそろ同志との合流の時間です。さっそく、そこへ向かいましょう」
礼は後回しにすると言いつつ、ガルファスはちゃっかりと頭を下げている。
それだけで、アリシアは満足である。
というより、別にお礼が欲しいわけでもない。
ただ、自分の心に従っているだけだ。
「まって! お父さん!」
ガルファスの膝の上で大人しくしていた、エルは何かを察して彼を見上げる。
「ん?」
「もうどこかに行っちゃ嫌だよ」
「ごめんな。もう少しだけわがままをさせてくれ」
「でも、やっと会えたのに!」
「すまない」
「…………わかった。もう少しだけ待ってるね」
ガルファスはエルに沈痛な面持ちで、呟くように発する。
すると、エルは少しの間を置いて頷いて見せた。
「ありがとう。アリシアさん、行きましょうか」
「アンリとエルはどうするのじゃ? ここにおいて行く訳にはいかんじゃろ」
「もちろん。信頼できる仲間に預けます。この管理局の地下には堅牢な施設がありまして、実はそこにはすでに何人かの同志がいますので、そこで事が終わるまで隠れてもらおうと思ってます」
「それならば安心じゃな」
「ええ、敵にバレる訳にはいかないので、市民の方々を避難させることが出来なかったのは悔やまれますが」
「仕方あるまい。それに今は、っ!?」
「どうかしましたか?」
アリシアは話を途中でやめてしまう。
建物の周辺で異様な魔力を感知したからだ。
「外に誰かおるぞ!」
「あ!」
ガルファスは振り返り背後の窓を見やった。
そこには大量の王国軍の格好をした者達がいる。
数は約2000人。
建物を取り囲んで待機しており、今にも戦闘が始められそうなくらい準備が整っていて、彼はガルファスの言う同志には見えなかった。
「なんじゃこやつらは!」
「王国騎士団です。こいつらはただの王国軍ではありません! 王国軍から集められた優秀な兵士によって構成された部隊です。なぜ、彼らがここへ!?」
「お主を殺しに来たのであろう。それしか考えられまい」
「なんてことだ! だが嘆いていても仕方ない! 早く、同志達と合流しなければ」
「その必要はないぞ。というよりは叶わぬ話なのだがな!」
ガルファスはエルを膝から降ろして、立ち上がる。
その時、部屋のドアが開いて一人の青年が入り込んできた。
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