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最悪の先代魔王

 シェリルの周囲はとんでもない量の魔力が迸り、黒い高エネルギーとなっている。

 同時に、アリシアもシェリルに引けを取らないほどの魔力を放出した。


 彼女の正体を知るものなどこの世界に母国を除いて、数えるほどしかいない。

 わずか一週間前、魔王に就任したばかりで、それまでは箱入り娘。しかも、就任の演説もまだで、諸外国には顔出しをしてない。

 開示されている情報は魔王の一人娘が後を継ぐということだけで、他は厳重に機密情報として扱われている。


 なのに、エルはシェリルの正体を知っているのだ。

 絶対に正体がバレていないとは言い切れないが、常識的に考えてこの狐耳少女はクロス・インペリアルでスパイ活動や工作員をやっていた可能性が高い。

 それに、絶対的格上である魔王を目の前にしても慌てる様子もなければ、先刻、堂々とシェリルの正体を知っておきながら財布をスリに来たのだ。

 どう見たって、かなりの実力者。

 シェリルは初見でエルの実力を見誤っていた。


「君は下がっていてね。巻き込まれたら死ぬよ。私が知りうる最強の魔法結界を君にかけておくけど、結界が赤くなったら全力で逃げて」


「おい、魔王とはどういうことだ! 貴様、まさか宣戦布告をしたこの国の首都民を殺しに来たのかっ!」


 夕登に魔法結界を施すが今度は魔法発動の動作も術の名前も口にはしない。

 これは本気のシェリルはそういったものが必要ではないということの証明である。

 そうしてシェリルは前に出ると、一人の騎士が反応して怒鳴り声をあげる。


「お前達は早く逃げんか! いかんぞ、こやつはホンモノの魔王じゃ! ワシとエルでどうにかするその間にガルバスから離れよ! この都市は間もなく滅びを迎えるッ!」


「アリシア! 結界を張ろうか?」


「頼むぞ!」


 アリシアがシェリルの力量を見抜き、騎士や獣人達に向け、逃走を促す。

 エルは辺り一帯に魔法結界を張り、被害をその範囲に収めようとしていた。

 しかし、魔法を発動した途端、魔法結界がビリビリと震え一、次第に夕登に施された魔法結界も同じように振動を起こし、【ラグ】が現れる。

 ラグは魔法が本来あるべき形を保てなくなるような、干渉を受けている時に発生するもので揺れたり、ノイズ音が聞こえる現象の事だ。

 最強の魔法結界がそれを起こすことは、この状況がいかに危険であるかを示す一つの指針だ。


「それで、私から財布を盗んだ理由は私が魔王だからってことで、良いんだよね?」


「うん。そうだって言ってるよ。悪い人は罪のない人からお金を巻き上げる。だから、私は悪い人からお金をあるべき場所へと帰すの!」


「私が悪人である証拠は?」


「私は半年前、たまたまクロス・インペリアルに行ったわ。魔王城に興味本位で近寄って迷い込んだ。その時に見たの。前魔王が罪の無い人を痛ぶる姿! そして、そこにいたあなたは冷酷な目で薄ら笑いしていたことをっ! これでも言い訳できるの!?」


「………………………………。」


 エルがシェリルの正体を知っていたのはこれが理由だった。

 その話を聞いたシェリルは絶句。


「シェリル、お前まさか!?」


「いや、別に私は何もしていないし、お父さんも本当に悪いことはしていないんだよっ!」


「往生際が悪いよ! 悪の権化である魔王ならば、堂々としていればいいじゃない」


「違う、違うの! あれはお父さんの中二病が発動した結果なんだよ!」


「「「え!?」」」


 シェリルのカミングアウトにより夕登、アリシア、エルは思わず腑抜け、今にも、死闘が始まりそうな雰囲気は次第に和らいでいく。


「あれは、お父さんが魔王らしいことをやってみたい、って言って始まったことなんだ! 君には言ったよね? お父さんが魔王らしい事をやりたくなって勇者と戦った事」


「ああ」


「それで、話の続きだけど、お父さんは捕まえた罪人を魔王城に連れてきて、その人たちに罰として罪なき民を演じさせて、魔王っぽくボコボコにしたりしてたんだよぉっ!」


 アリシアやエルと一戦交えようとしていた彼女だが、今はもう魔力が無駄に放出されているだけで、威圧感など全くない。


「そうだったのか………」


「あと、私が冷酷な目で薄ら笑っていたのはお父さんに指示されたから。魔王の娘が横にいて、笑っている方がそれっぽいってね! でも途中からお父さんの方を見て、馬鹿にしてた。こいつは駄目な大人だなって!」


 シェリルは、よよよっと顔を両手で覆っている。泣きそうである。いや、泣いている。

 それも仕方のないことだ。

 身内の恥を晒し、しかもその後を継いだのは彼女。

 恥ずかしさと情けなさで涙腺は崩壊していた。


「そ、そ、そんなの嘘に決まってる!」


 あまりの衝撃にエルはそういうしかなかった。

 アリシアは可哀想なものを見る目でシェリルに無言で同情している始末で、夕登に至ってはお通夜状態だ。


「エルさん、この円らで潤んだ目を見てやってくれ。嘘を言っているような目には見えないだろ?」


 夕登は顔を覆っていたシェリルの手をどかして、その顔をしっかりとエルに見せつける。

 エルは、シェリルがうるうると目に涙を浮かべ、頬には一筋の雫が通った道があることを確認すると、


「あー、なんかごめんね。私の勘違いで。本当にごめんなさい。すべては私が悪かったです。なんかこんなことになってすみませんでしたっ!」


 完全に悪いのはシェリルの父親である先代魔王なのだが、最早エルは自分が謝ることで場を収めようとして、シェリルに気を遣う。

 だが、それが逆効果だった。


「うわああああああああんっ! もう死んでやるぅ!」


 と、やけになって泣き叫ぶ、魔王が誕生してしまった。

 それから、シェリルの心が落ち着くまでに相当な時間が掛かったのは言うまでもないだろう。


ここまでお読み頂きありがとうございました。

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どうぞよろしくお願い致します!

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