トンデモ本「人類は鳥類だった!」付録童話(番外編)
議長(鳥代表)「本日は、神様にご出席いただき、ニンゲンよる被害拡大の抑制について、審議して参りたいと思います。議長は私が務めさせて頂いて宜しいでしょう。」
(「異議なし。」の声あり。)
議長「では、早速質疑に移らせて頂きます。質問のある方は挙手をお願いします。」
(挙手あり。)
議長「コウノトリ君。」
コウノトリ「コウノトリ目、コウノトリ科のコウノトリと申します。私からお伺いしたい事は、ニンゲンは永きに亘りお互いに反目し合い、日常的に殺し合いも繰り広げております。これは他の動物では考えられない、異常な事態である思っておりますが、これをどの様にご覧になっているのか、またどの様な対策を講じて来られたのか、教えて頂ければと思います。」
議長「神さま。」
神様「担当の天使よりご説明いたします。」
議長「ニンゲン課長。」
ニンゲン課長「日頃は、ニンゲン行政にご理解とご協力を頂いておりまして、誠に有難うございます。また、ニンゲンにより多大なご迷惑をお掛けしている事につきましても、この場をお借りしてお詫び申し上げる次第でございます。
さて、当局と致しましても、ニンゲン同士の抗争に関してましては、詳細な観察を続け、種々のデータから、由々しき事態であるとの認識を明確に持つまでに至っております。これに対して、様々な施策を講じてきたところでございますが、一例を申し上げれば、以前より、その道徳を向上させるべく、ニンゲンに宗教を付与するという施策を行って参りました。反道徳的行為の抑制を企図して、ニンゲンがニンゲンを殺せば、或いは性道徳に反する行為をした場合などには、罰が下されるという事を通知した訳でございます。これには一定の効果が認めらた、と考えている所でございます。」
議長「コウノトリ君。」
コウノトリ「私も宗教の付与に一定の効果があったとは思います。しかし、宗教は時間的、場所的にも限定された範囲でしか効力がないように思いますが、その点はいかがですか。」
議長「ニンゲン課長。」
ニンゲン課長「その点につきましては、委員の仰る通りでございます。宗教の伝播・普及には各種の障害がございまして、言語・文化の壁を越える事はなかなか難しい訳であります。それを回避するために、以前は民族固有の宗教というものを付与しておりました。ご存じのように、ニンゲンは同一種でありながら、文化や血筋によって民族、という単位に分化しておりまして、効率的な普及という観点から、その民族毎に固有の宗教を与えていた訳でございます。ただ、民族固有であったが為に、効力の及ぶ範囲はその民族の分布範囲を超える事ができません。またその民族の滅亡に伴って、その宗教も無効となってきた訳でございます。
そこで、民族を越える宗教、いわゆるグローバル宗教を創設、普及させる事によって、人類の道徳向上を図るという方向へ政策の転換を行い、今日に至っている次第でございます。
また一般論ではございますが、どれ程正しい教えを付与したとしても、それが普及しなければ効果は期待できない訳でございますから、その地域や時代の特性に合わせた、種々の宗教を付与する事によって、効果の持続性や効力の及ぶ範囲の極大化を図って参ったところでございます。」
議長「コウノトリ君。」
コウノトリ「しかしですね、近頃ではその宗教同士で反目しあっていて、効果を減殺している、むしろ逆効果になっているのではないでしょうか。その対策についてはどうお考えでしょうか。」
議長「ニンゲン課長。」
ニンゲン課長「委員ご指摘のとおり、宗教の付与が逆効果になっている、ニンゲン同士の反目を助長しているという事例が散見されるようになった事は事実でございまして、当局と致しましてもこの点を憂慮している訳でございます。これにつきましては、学問や科学技術の進歩を促進し、宗教とは違う視座をニンゲンに付与する事によって、ニンゲンが宗教間の見解の違いを調整していく事を期待しているところでございますが、現状この効果につきまして見極めていきたい、その様な段階にあるとお考え頂ければと思います。」
コウノトリ「有難うございました。私からの質問を終わらせて頂きます。」
(挙手あり。)
議長「ハシボソガラス君」
ハシボソガラス「スズメ目カラス科のハシボソガラスです。ニンゲンの観察に関しては、私の右に出るものは居ないと自負しておりますが(議場、笑いあり。)、昨今のニンゲン社会は、政治と経済と道徳が、三すくみになっおって、少しも発展している様には見受けられない。それはどうゆう事かと言うと、道徳がなければ政治的安定がない、政治的安定がなければ経済の発展がない、経済の発展のないところに道徳の向上は望めない、そういう状況にあるのではなかろうか、と思うのであります。
逆に申しますと、良い道徳があれば、政治が安定し、経済が発展して、一層の道徳向上が出現する訳であります。このような好循環をもたらすべく、ニンゲン局の天使諸兄が尽力されて居られると、拝察いたしておりますが、特に昨今の施策は、科学技術の長足の進歩により、ニンゲンの経済を発展せしめ、もって道徳の向上を図ろう、という言わば一極集中型の施策ではなかったろうかと思う訳であります。
しかしながら、ニンゲンの世界政治は安定性を欠いており、新たな富の出現は、その争奪戦を生じさせ、却って道徳の荒廃をもたらしている、と見受けられるのであります。
先程もお話しが有りましたとおり、ニンゲンの道徳向上の施策として、宗教の付与がなされて来た訳でありますが、この政治と経済と道徳の3要素に対して、別々に働きかけるのではなく、3要素に対して同時に刺激を加える事によって、初めて好循環が生み出せるのでないかと推測して居るのでありますが、この様な提案があったとすれば、如何お考えになられるか、見解をお聞かせ頂きたい。」
議長「ニンゲン課長」
ニンゲン課長「委員のお考えには傾聴すべき点があるかと存じますので、局に持ち帰りまして、今後の施策に活かすべく、検討致したいと存じます。」
議長「ハシブトガラス君。」
ハシボソガラス「議長、ハシボソです。」
議長「失礼。ハシボソ君。」
ハシボソガラス「今後、目に見える効果のある施策を期待いたします。有難うございました。」
(挙手あり。)
議長「ウズラ君。」
ウズラ「キジ目キジ科のウズラと申します。よろしくお願い致します。私からは、本委員会の主題である、ニンゲンによる被害の抑制についてお伺いしたいと思います。先刻も同じキジ科に属するニワトリ君と話しておったのでありますが、我々はニンゲンによる捕食を問題にしている訳ではありません。食べたり、食べられたりという関係は、これは言わば生き物の宿命と申しますか、掟と言うべきものであって、ニンゲンが我々を大量に飼育し、しかもそれを全て捕食している現状に対しましても、否やを言うつもりは毛頭ございません。
確かに、ニンゲンによる捕食によって絶滅した仲間も大勢居りますので、決して些細な問題であると申し上げるつもりはありませんが、昨今のニンゲンの所業と比較すれば、まだ筋の通った話しである、と申し上げているのに過ぎません。
つまり、近頃のニンゲンは、捕食の為だけに他の生物を殺しているのではない、工業製品の原料として、他の生物を殺傷している、これは我々鳥類に限った話しではなく、あらゆる生き物を、我々からすると無意味に殺傷している点が、甚だ大きな問題であると思うのであります。
さらに、彼らの戦乱によって殺傷されるもの、開発によって生息域を奪われて絶滅するもの、化学的な環境破壊によって健康を害されるもの、これらが後を絶たないという現状があるという事は、周知の事実であるのであります。
これらニンゲンによる被害の軽減策について、お伺いしたいと思います。」
議長「ニンゲン課長。」
ニンゲン課長「委員がご指摘の件は、私共も遺憾に思い、甚だ憂慮致している次第であります。他の生物種を絶滅に追い込んで、しかも少しも顧みる事もないという非道な行為に対し、かつては懲罰として天災地変を下した事もあったのでありますが、近年ではそれを懲罰と解する能力さえもが著しく低下しており、結果として道徳の低下のみをもたらすという傾向にあるのであります。
このような状況下におきまして、他生物種への被害軽減対策につきましては、永らく有効な手だてが見いだせない状況が続いておりましたが、近年、種の多様性を維持する事がニンゲンにとって有益である、との観念をニンゲンに付与しましたところ、これに賛同するニンゲンも観察されるようになりました。即効性についての過度な期待は慎むべきでありますが、暫くして効果を生じ、被害軽減に資するのではないかと、思量いたしております。
ご存じとおり、ニンゲンは皆様方とは違い、神様を始め、我々天使とも意志を疎通する能力を失って久しい訳であります。従いまして、あらゆる施策が間接的なものにならざるを得ず、即効性を期待できないという現状があるという事は、ご了解頂けるものと存じます。
本日改めて、皆様のお気持ちを拝聴する事ができました。皆様方の思いを肝に銘じ、局一丸となってニンゲン行政に邁進して参りますので、今後とも、ご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願い申し上げる次第であります。」
議長「ウズラ君、宜しいでしょうか。では、時間になりましたので、本日の議事はこれまでにしたいと思います。神さま、本日はお忙しい中、ご出席賜り、誠に有難うございました。皆さん、ご苦労様でした。」 おわり




