始伝~顔を喰らう者 ~その六
第6話です
次で完結します。
洗いざらい喋った。今年の一月の事だった。いきなり家に義妹が来て、結婚を迫られたがその気はないと断った。
「それで、主は、婚約者(仮)である義妹の嫌がらせに耐えていたが、義妹が本家の暗部を使って、主が住んでいた、アパートを追い出されたと?」
「概ね、そんな感じだ。」
「追い出されたとは聞いて、何か裏があるとは思ったが・・・・・・まさか、そんな裏があろうとはな・・・・・・で、我にまで、被害が及んだのは何故じゃ?」
帝の言葉を無視し、タマは理由を聞く。
「今日の夕方、そのバカ女に電話して、お前と結婚するくらいなら、色ボケ年増ババア狐と結婚して憑き殺された方がマシだと言ってやっただけだ」
その言葉を聞いて、タマはカッカッカッと笑うが、すぐに真面目な顔をして、帝に聞いた。
「愉快、愉快じゃの・・・・・・そのバカ女の顔が見てみたいわ・・・・・・で、これからどうするつもりじゃ?」
タマの問いに、帝はベンチから立ち上がって口を開いた。
「どうもしないさ。 俺とお前がいればどこだって問題ない。 どこに行こうとお前がいれば、俺はそれでいいのさ。」
「帝・・・・・・」
帝の言葉を聞いたタマが、頬を紅潮させて呟いた。
「タマ、俺と一緒に来てくれるか?」
帝はそう言って、右手を差し伸べるとタマは嬉しくなり、耳と九本の尻尾が出ているにも関わらず、差し伸べられた手を取ってこう言った。
「我が身、我が命、尽き果てるまで一緒ぞ」
そして嬉しくなり、タマは帝に抱き着いた。
「あらあら、本当に狐に憑かれたようですわね。」
声の主と思わしき人物に視線を送るタマと帝。
「誰ぞ? 我のイチャラブタイムを邪魔するとはいい趣味とは言えんのぉ・・・・・・悪趣味な童よ。」
先程よりも非常にご立腹の様子のタマ。
「あらあら、悪趣味とはあなたの様なキツネさんの事ではありませんか?
金髪、狐耳の幼女とはお義兄様はこんな趣向が好きだったんですか・・・・・・言って頂ければ私自身でその趣向に合わせたと言うのに・・・・・・全く人が悪いですわ・・・・・・」
そう言って、黒のワンピースを纏った少女が帝に視線を送る。
「主よ、この童はお主の知り合いか?」
「知り合いだ。強いて言うなら・・・・・・先程話した、バカ女がこいつだよ。」
帝はそう言って、少女を睨みつける。
「ほう、では、我の資産を一円も残さず掻っ攫った本人かや?」
タマも少女を睨みつけた。
「あら、嫌ですわ・・・・・・バカ女なんてそんな侮蔑の言葉にを聞かされて、お義兄様に汚物でも見るような視線を送られたら・・・・・・私・・・・・・グショグショのグチュグチュで糸を引くほど濡れちゃいますの」
そういって。股間当たりをもじもじとさせる少女。その表情は悶々とし、悦に入ってる。
少女の名は虚空 蓮。
十代半ばに見えるが実年齢は二十四歳となる、れっきとした女性である。
「帝よ・・・・・・こやつ、バカを通り越しておるのではないか?」
タマが呆れて溜息交じりにそう言った。
「言うな。 あれでも本家の中ではまともな部類だ」
帝の言葉にあれでまともと聞かされさらに気持ちが沈むタマ。
「お主・・・・・・一体どんな家庭環境・・・・・・いや、かなり前にそれは聞いたかの・・・・・・じゃが、あれは痴女じゃろ・・・・・・幼女でドMな変態痴女とは・・・・・・むっ、我とキャラが被るっ!?」
「言っとくが、あいつは二十四歳だ。」
「なっ! リアルロリBBAじゃとっ!」
それを言うなら、今のタマの方がリアルロリBBAだと言う事はあえて伏せておく。
「で、蓮。何の用だ? まだ結婚がどうのとか言うのであれば、力でねじ伏せるぞ。」
「あらあら、そんな力が残っているのですか? 修羅鬼と戦い、負傷したその身体で私に勝てるとでも?
妖狐の方もあの修羅鬼を人に戻す術を使って力が出せない状態の様ですし・・・・・・分が悪いのはどちらの方かしら?」
蓮の言う通りである。帝、タマは先程の戦いの後で、帝は怪我を負い、タマは術を失敗し、己の妖気をかなり減らしているのだ。
連は帝に比べれば力は劣るがれっきとしたプロである。
プロであるが故、相手が弱っている時は仕留められるチャンスである事を知っている。
「やってみなければわかるまい。
タマは大人しくしていろ。 その恰好でうろつかれたら目障りだ。」
そう言って、帝は立ち上がり、無光を引く抜く。
「あら、やる気ですわね・・・・・・お義兄様とは久方ぶりに手合わせしたいと思っていましたのでちょうどいい機会ですわ。」
蓮はそう言って、両手に札を持つ。
睨み合いつつ、双方は相手の出方を窺いつつ微動せず、タマはその様子を術さえ失敗しなければと言う歯痒い気持ちで見る事しかできなかった。
そして強い風が吹くと同時に二人が動く。怪我のせいで十分な間合いも取れない距離から蓮に走り寄る帝に対し、蓮は恍惚な表情を浮かべ、手にした札を帝に向かって投げる。
「清浄なる炎にて我が道を阻む者を焼けっ!」
蓮の言葉に投げた札が反応する。
札は青白く光ると同時に炎の玉になり帝へと迫るも、帝は無光を振り、炎を消しそのまま、蓮めがけて走る。
「ぅっ!?」
喉元に無光の切先で触れる所で彼は止まった。
圧倒的な力の差だった。
負傷しているとは言え、帝もプロである。
そして、場数の違いがものを言うこの世界で、蓮と帝では圧倒的に実戦の違いが出ていた。
幼少時から、妖怪、幽霊、精霊、神と帝に引き寄せられたもの達の中にも悪いもの達もいた。
そんなもの達から自分の身を守るには自身が強くならなくてはならないのは当然の結論である。
自分に引き寄せられたもの達の中で協力してくれるもの達に頼み、実戦を積み重ねる。
物心がつく前からそんな事していれば、右に出る者などいない。
「あきらめろ。 負傷したとしていても、お前が俺に勝てる要素などないっ!」
これが実力。 これが現実と言わんばかりの帝に蓮は不敵に笑い後ろに飛び下がり、帝が追従しようした瞬間。
「ぐっ!?」
ボンッ! と言う音と共に彼の背中が爆ぜると同時に前のめりに地に着いた。
「ミカドッ!」
タマの叫び声がした。
「初撃は防がれても第二撃は防げなかったみたいですね?
お義兄様もしかして弱くなりまして?」
微笑を浮かべながら地に伏せた帝の頭に足を乗せグリグリと力を込める。
「全く、あの秀仁とか言うカメラマン、本っ当、役に立たずですねっ!
惚れた妖怪の為に犯人を教えろだなんて、人が妖怪の為に働くなっつーのっ!」
言葉を言い終わると最後にガンッ!と帝の頭に渾身の力を込めて踏み潰すように踏みつける。
「それはどういうことじゃっ?」
「あなたが考えている通りですよ。 ま、おつむが悪い、狐の神様にこの私がやさしく説明してあげる」
かいつまんで話すと、アキノに硫酸を浴びせた犯人を秀仁に教え、そして、彼に修羅鬼になるように呪印をこっそりと付けた。
結果は知っての通りだった。
「なんという事を・・・・・・」
「あら? なにかおかしい事したかしら? 妖怪は滅ぶべき存在だと言う事をまさか知らないとか?」
タマの動揺にさらに追い打ちをかける蓮。
「もう少し、お義兄様を弱らせるかと思いましたが、まぁ上出来ですわ。
当たったショックで気絶してしまってるようなので、このまま持ち帰りますけどね・・・・・・けど、その前に・・・・・・お義兄様の汚れは落とさないといけないわね・・・・・・」
と、タマを見つめ歩み寄る蓮。
「目障りなキツネさん、バイバイ。」
蓮は満面の笑みでそう言って、取り出した札を帝の時と同じように炎の玉にし、タマに向けた放つ。
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
「「っ!?」」
タマの目の前で薄い膜に弾かれた炎の玉に蓮とタマは驚愕する。
「これは・・・・・・お義兄様の守護結界・・・・・・そんな、一体いつ?」
ふと帝が結界を張れる程の間があったかを思い出すがそんな間も隙も自分は与えてないと確信する。
「ならば・・・・・・」
後ろを振り返るも帝はまだ伏せたままで沈黙している。
「厄介なお義兄様・・・・・・最後の最後でどこまでも焦らしてくれますのね・・・・・・ほんと・・・・・・もう大洪水になりそう。」
もはやここまでくると狂人である。
「お主と言う男は・・・・・・本当に馬鹿じゃ・・・・・・」
守られる事が皆無のタマを今回は守った・・・・・・それがどういう事かを彼女は知っている・・・・・・守護結界から伝わってくる帝のやさしさを感じるタマ。
「人と妖怪が共に歩むなど! そう何度も耐えられると言う事はないでしょうっ!」
そう言って、蓮は新たに札を出した瞬間だった。
タマの視線は連ではなくその後ろ・・・・・・帝に注がれていた。
「まだそんな力が・・・きゃぁ!」
彼女の視線の先に気付いた蓮が後ろを振り返ろうとした瞬間に蓮の右頬に衝撃が走り、吹っ飛ばされた。
「立てよ・・・・・・ちゃんと相手をしてやるよ。」
額から、唇から、鼻からと血を流す帝がそう言った。
因みに結界は、蓮が現れてから帝が立ち上がり一歩前に出た時に密かに張っていたのだ。
「そんな・・・・・・あぁ・・・・・・お義兄様・・・・・・やっぱり素敵ですわ。」
赤みがかった頬を撫で付け、恍惚の表情を浮かべながら立つ蓮。
「選ばしてやる・・・・・・醜くも人として生きたいか人として惨く死にたいか・・・・・・どちらを選ぶかはお前の自由だ。」
帝の最後通達を聞いた蓮。
「あぁっ!なんという凛々しいお姿っ! 殺気もいいん・・・・・・あはぁん・・・・・・もうダメェ・・・・・・私、本当にイきそうな上に失禁までしてしまいそう。」
神に出会ったような視線を帝に送る蓮。
「お前の最期は決まったな・・・・・・」
そう呟くと仕込ませていた拘束結界を発動させる。
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