表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こっちとあっちの二重な生活  作者: 地印 油字
7/8

勘違いされる

 いほは学校にいるあいだは大体誰かと一緒にいる、女子といることが多いが、ジロやミナトなど舎弟連中がパシらされるためにいほの近くにいることもある。なのでなかなか二人きりになることは難しい。


 ジロたち昔なじみには、いっそのこと打ち明けてしまって相談しようかとも考えたが、上手く伝えられる自信がないし、証明する方法も思い浮かばなかった。相談したところで、昨日の俺と同じになることは避けられまい。つまりは「あ、こいつ厨二に目覚めた」と思われるだけだ。いくら仲の良い相手でも、いや仲が良いからこそ、そうなるのは避けたい。もし本当にこっちが夢、幻だとしてもいほのように向う見ずにはなれない。ってか恥ずかしくて無理だ。なので放課後にいほを訪ねることにした。


 今さらの話だが、いほは人気が高い。男というにはかわいく、女というにはかっこよすぎる女子だ。まだ始まって一週間しかたっていない高校生活でも、そのビジュアルと性格はクラスメイトの関心を奪うには十分だった。遊びだとは思うが、毎日のように女子・・から告白されるし、いほのことを「兄貴」と呼ぶ男子生徒も増える一方だ。もっとも、後者は同じクラスになったジロとミナトの影響も小さくないだろう。二人をたしなめることができ、自然といほのとなりに立てる同性のミサキが別クラスというのも要因の一つだ。



 まぁ、そんなわけでいほの周りには放課後になっても人が絶えてはいなかった。


 帰りのHRが終わってすぐの騒がしい教室。最後列の中央にあるいほの席は4人の女子とジロ、ミナトに囲まれ教室内でもとくに騒がしい。いほの姿は人影に隠れて見えないが、囲まれてるのならまだ席にいるのだろう。


 俺はいほと話をするために、その席へと近づきジロとミナトの間に肩をいれ割り込んだ。


「いほ、帰るぞ」


 いほも早く帰りたかったのか、机の上には制かばんが出されていて、帰る準備は終えているようだ。


「わかった。すまないみんな、また明日」


 いほは俺の顔を見るとすぐに、周りの女子に向けそう言った。女子の名前は把握しきれていないので便宜上それぞれ女子A、B、C、Dとする。ちなみにいほから聞いたが全員がいほに告白済だ。


「でしたら駅までご一緒します!」

 いほの挨拶を聞くと、いほのすぐ横に立っているストレートロングヘアーの女子Aが少しでも一緒に居たいのアピールをしてくる。 


「私は降りる駅も同じなので、一緒に帰ってもいいですか!」

 ボブカットの女子Bもそれに追従し、ついでに女子Aに対し自身の優位をひけらかす。


「あ、だったらみんなで一緒に駅前のマルデナルドでバーガー食べましょう。もちろん神戸君たちも一緒に」

 女子Cは今にもAとBを断りそうないほの表情を読んだのか、いほに断られる前に早口でそう言った。すると女子A、B、Dが「それいーいー」だの「そうしましょう」だのと言って賛成していほの腕を掴もうとする。


 さすがにしつこいし、いほのことをないがしろにし過ぎだ。ちょっとイラッときた。

 いほだって今朝のこともあるので不安だろう。もちろん俺もだ。

 だから俺はいほを無理やり連れだすことにした。


「すまんがいほは俺と今から放課後デートなんだ、邪魔すんな」

 

「はぁ!?」


 俺以外のその場にいた全員が驚き止まる。いほの席の近くだけでなく、少し離れた席の夙川さんまでもガタリと席を立ち、「嘘でしょ」と言うように口を開けて茫然とこちらを見ていた。

 俺はそのみんなを無視していほの腕を掴むと、そのまま引きずるようにして教室の外へと出て行った。教室からは女子たちの「キャー」という黄色い悲鳴と、ミナト達に「あの二人はそういう関係なの!?」といったような質問が響いた。ミナトの上手いフォローを期待しよう。








 いほを無理やりに連れ出したものの、俺たちは落ち着いた場所で話がしたかったので、結局は俺の家で話をすることにした。


 母さんは買い物に出かけているのか、家には誰もいなかった。


 部屋に入ると、俺は学習机の椅子へ。いほはベッドに腰かける。これがいつもの俺の部屋での定位置だ。ちなみに居る時はジロとミナトは床に座り、ミサキはいほの隣に座る。

 ただ、いほが高校の制服のままウチに来ることは初めてなので、新鮮な感じはする。


「さて、何から話そうか」


「話合う前に質問してもいいか? わからないことが多すぎるんだ」


「分かった、なんでも聞いてくれ。知ってることは答えよう」

 いほは俺の目を見てしっかりと答えた。


「じゃあまず、お前は誰だ。もちろんあっちのお前だ」


「僕はイオ。教会に育てられた勇者だ」


「そういえば昨日も勇者だって言っていたよな。何をして勇者になったんだ?」

 俺は始まりである昨日の朝を思い出しながら言う。勇者と呼べるような英雄は何かを成してそう呼ばれる。ペルセウスはメドゥサを討ったし、ヘラクレスもは多くの苦難を乗り越えた。アーサー王のように戦に勝ち、大きな国を作った人物もいる。


「答えから言うとまだ成していない。魔王を倒すために教会に育てられた捨て子を勇者と呼ぶんだ」


「魔王を倒すために?」


「そう、教会に伝わる神の技である奇跡を身に受けて育てられるんだ。だから僕に魔法は効かない」


「へえ、そんな技があるんだったら、魔人なんてすぐ倒し尽くせるんじゃないか?」


「体との相性があるみたいで、素質がない人には身に付かないらしい。それに例外もある。だから魔人どもの指導者である魔王を殺し、魔人の繁栄を遅らせるのが僕の成すべきことなんだ」


「じゃあ次だ。昨日村長さんの言ってた呪いってなんだ?」


「呪いは僕らもよくわからないんだ。過去にも何人も勇者がいて、何回も魔王を倒しているんだけど、魔王を倒して帰ってきた勇者が精神的におかしくなってしまっていることがあるみたいなんだ。もしかしたら魔法の一種なのかもしれないけれど、そういった勇者に防ぐことができない何かを呪いって呼んでる」


「勇者が育てば絶対に魔王を倒せるってわけでもないんだな・・・」

 もし、また向こうに行って魔王に挑むとしたら、それ相応の覚悟が要りそうだ。


「ほかには何かあるかい?」


「そうだな・・・」

 俺はあごに手を当て、昨日のことを思い返す。


「そういえば・・・。昨日朝一でウチに来てたみたいだけど、なんで急に思い出したんだ? きっかけとかあったのか?」

 少し気になったので聞いてみた。


「いや・・・。そういえば、なんでだろうな。昨日、目が覚めた時に急にフラッシュバックして思い出したんだ。寝る前に変わったことは何もしてなかったんだけど・・・」

 

 いほは額に手を当て、必死に思い出そうとしているようだ。

 どういうことだろうか、ただなんの理由もなくそのタイミングで思い出したのだろうか。俺は少し考え込む。どうやらいほも何か考えているようだ。

 ふと、思いつくことがあった。


「そういえば・・・。昨日俺があっちの世界に行ってたのって、こっちの世界で寝てる間だったみたいだが。いほは? いほも寝てたのか?」


「僕も寝ている間だったよ。昨日ベッドで寝ると最後の村で目覚めて、向こうで寝るとこっちで目覚めた。・・・もしかして?」


「寝るとあっちの世界に移動する・・・?」

 一つの仮説が出来た。あくまで仮説だ。けど、もしそんなに簡単に移動してしまうなら確認するのも簡単じゃないだろうか。そう考えて俺はいほに提案する。

 

「おい、寝てみろよ。ベッド貸すから」

 俺は立ち上がり、ベッドの縁に座ったいほを押し倒そうとする。


「ええ!? ここでかい? なんか恥ずかしいんだけど。それにここは君の部屋じゃないか、君が寝てみればいいじゃないか」

 いほは何が恥ずかしいのか、肩に置かれた俺の手を振りほどこうと抵抗する。押そうとすれば向こうも押し返し、こちらが引こうとすれば俺の手を引き、ベッドへ引き倒そうとしてくる。

 引けば引き、押せば押す。ならばとひねりを加えてみれば、いほは柔らかく体を曲げて力を反らし、そのまま俺の腕を掴んで引きずり込もうとしてくる。それならばと、男である俺の力と、いほよりは大きい体を利用してそのまま覆いかぶさるようにして、いほへと圧し掛かる。


 勝った!

 そう思った瞬間、部屋のドアが開いた。


 母がコーヒーとお菓子の載ったお盆を持ってたっている

「あんた達、なにしてんの」


「あ、お邪魔してます」

 いほが俺の腕の間から顔を出して母にいう。


 俺は慌てて立ち上がり「おかえり」と言って椅子に座った。母は少し屈んで学習机にお盆を置くと、顔を俺の耳元によせ 

「いかがわしいことするならちゃんと避妊しなさいよ・・・」

 と、俺にだけ聞こえる小さな声で言うと、胸元に手を組んで立ち上がる、そして笑顔でいほに向き直ると「ゆっくりしていってね」と言って流れるような動作で退出した。


「こっちでは女の子の身体だし、勘違いされたよね」

 いほはベッドの縁に座りなおしうなだれる。


「そもそも僕は、夜にならないと寝られないんだ。夜寝るのは早いけどさ」

 口を尖らし、いほは拗ねるように言った。


「じゃあ、とりあえずは今晩確認してみるってことで」


「うん、そうしよう」

 そう言って、二人でコーヒーをすすった。





つづきます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ