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コネクト ~ド底辺からの成り上がり~  作者: 灯月公夜
第二章 レグルス公爵家の双子
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07.予想外の再会

「うーん」


 気持ち悪い。頭痛い。起き上がれない。

 というわけで、昨日無茶苦茶に飲まされた僕は見事に二日酔いになっていた。

 何度か起き上がろうとするのだけど、あまりの気持ち悪さに身動きが取れない。

 お酒なんて嫌いだぁ……。ていうか、なんで数え年で十五歳の僕がお酒なんて飲んでいるんだよぅ……。ていうか、飲ませすぎなんだよモルスさんのバカぁ……。

 そんな感じでうめきながら脳内で愚痴っていると、部屋の戸が叩かれる音がした。

 シスターかな。日も高いし、お昼でも持ってきてくれたのだろうか。

 なんだか申し訳ない事ばかりしてる気がする……。


「どうぞ」

「失礼します」


 しかし予想に反して入ってきたのはシスターじゃなかった。


「な、ななーっ!」


 ぐわんぐわん痛みも忘れて、僕は飛び起きる。

 なんと、そこにいたのは誰であろう、昨日レグルス公爵家に帰ったはずのサラ・レグルス様だった。


「お静かにお願いします、ケイト様」


 言うなり、サラ様に開いたくちびるに優しく人差し指を当てられ、口を封じられてしまう。

 そして、目の前でサラ様は悪戯っぽくウィンクをした。

 ……やめて欲しい。なんだよ、この美少女。ドキドキしちゃってヤバいじゃないか。


「ふふふ、ありがとうございます」


 悪戯っ子の表情のまま、サラ様は僕の唇に当てていた白魚の指を離す。そして、おもむろにその人差し指を自身の唇に当てやがった。


「あまり大声を出すと近所迷惑ですから、しーっですよ」


 そしてにこりと穢れない笑みを浮かべた。

 ……あかん。この子は魔性の子だ。清純な容姿の背中から悪魔の尻尾が見える気がする。

 ごほんごほんとわざとらしく咳をする。これまで女っ気がない人生を送ってきたから、こんな対応をされちゃったら魂が抜けてしまうじゃないか。そもそも僕は今数えで十五なので、十五年生きているわけなんだけど、前世を合わせたら三十年超えてるからね? 詳しくは明言しないけど、前世は夜逃げで転校の繰り返しで彼女どころかまともに女子と仲良くならなかったし、今生は忌子だから誰も彼もが避けてそんな展開にはならなかったし。

 だから、ね? あとはわかるよね?

 突然急き込んだ僕を見て、サラ様は悪戯が成功した童女のように、同時に淑女のようにコロコロと笑っていた。

 四大公爵家の長女で、美少女。清純にして小悪魔とか……なんだよ、この妄想が具現化しような美少女。

 僕はばれないように深呼吸を繰り返す。勘違いするものか。これは前世でよく見聞きした奴だ、絶対。

 これには十中八九裏がある。彼女は病気だったとはいえ公爵家の娘だ。絶対になんかある。


「――んんっ」


 僕は落ち着けるために喉の調子を整える。二日酔いと合わせて頭がぐるぐる回って、すでに気絶しそうだった。


「それで、サラ様。どうしてこのような場所に?」


 よし、なんとか普段通りの声を出せたぞ。裏返ってないっ。

 サラ様は「んーっ」と相変わらず白魚のような指を唇に当てながら、素知らぬ表情を浮かべた。その指に僕の唾液とかついてないよね? 大丈夫だよね? あ、これは想像したらダメなやつだ。

 顔が熱くなってきたが、幸いこちらに視線を向けず素知らぬふりをしているサラ様には気づかれなかったみたいだ。


「はて、サラ様とは誰でしょう? わたしはただの街娘の<ララ>ですよ?」

「…………は?」


 そしてまさかの発言。一気に熱も引いた。

 突然何を言い出すんだ、この子は。

 いや待て、よくみろ僕。落ち着いてみると、サラ様は公爵令嬢らしき服装ではなく、そこらへんにいる年頃の女の子が着る服を着ていた。

 つまり。


「……なるほど、そう言うことですか」

「はい、そういうことです」


 穢れのない笑みを浮かべた彼女の背後に、僕は悪魔の尻尾を確かに見た気がした。



     ◆



「とりあえず、横になってください」

「いえ、そんなわけには!」

「いいから」


 無理矢理起き上がろうとした僕を、サラ様はやんわりと、しかし強固に寝かしつけてくる。抵抗するのもなんなので、素直に横になる。

 サラ様は横になった僕の傍に腰かけた。


「十五で成人とはいえ、あまり痛飲するのはお体に触りますよ」

「……肝に銘じます」


 流石に「無理矢理飲まされたんですよ!」とはこの人に言えなかった。頂いたお金を使ったちゃった負い目もあるし。


「少しじっとしていてくださいね」


 言うなり、妖精のように可憐な手が僕の額に乗せられる。本当に久々に触れられた人肌はひんやりとしていて、気持ち良かった。


「な、なにを……」


 たまらず掠れた声を出してしまう。

 しかし、次の瞬間理由が明らかになる。

 サラ様の手のひらから優しい温もりが伝わり始め、血液に乗って全身を巡り始めたのだ。

 あまりの心地良さに、ほっと息を吐き、目を閉じた。

 全身がサラ様のおかげで、ポカポカとする。

 しばしの後、サラ様が手を離す。その温もりを心底残念に感じながら、まだ身体に残る温もりの残滓を感じた。


「……いかがですか?」

「だいぶ――いえ、かなり良くなりました。ありがとうございます」


 びっくりするぐらい体調が良くなる。二日酔いの気持ち悪さも頭痛もなにもかもがきれいさっぱりなくなっていた。


「それは良かったです」


 サラ様は温かな笑みを浮かべた。

 ……身体にはまだサラ様の残滓が残っている。

 サラ様の笑みを見た時。



 何故か、僕は少し泣きそうになってしまった。



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