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コネクト ~ド底辺からの成り上がり~  作者: 灯月公夜
第二章 レグルス公爵家の双子
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05.若獅子と深窓の令嬢

「ケイトくん! ケイトくん!」


 その日は街で教会に必要な物の買い出しに出ていた。

 そうしたら血相を変えたシスターが僕の名前を叫びながら入ってきた。老体に鞭うつほどの大事が起こっているらしい。僕関係で。

 別にやましいことはひとつもしてない。僕は首を傾げながらシスターの呼びかけに応じる。


「どうしました、シスター?」

「ケイトくん、あなた何やったの!」


 僕の問いかけを無視して、温和なシスターにしては珍しい大声を出した。よほど焦ってるらしい。


「なにもしてないですが……どうしました?」

「どうしたもこうしたもありません! レグルス公爵家があなたを探しているのです!」

「はぁ……」


 焦ったシスターに対して僕は気の抜けた返事しか返せない。

 だってそうだろう。僕が住んでいるトリニティア王国の四大公爵家の一角が僕を探しているとか、ちょっと現実感がないよね。

 ただ、ただ事じゃいことはわかる。貴族とか関係ない現代日本に住んでた僕にはまだ実感できないけど、この世界の貴族というのは『貴族』というだけで平民からしたら別格なのだ。

 睨まれれば一族皆殺しで済めばいい方っていうし。

 特にトリニティア王国の四大公爵家と言えば他国でも有名な名家中の名家だ。


 <獅子>のレグルス公爵家。

 <薔薇>のロサ公爵家。

 <牡牛>のベウルス公爵家。

 <ふくろう>のウルラ公爵家。


 中でも今回僕を探しているレグルス公爵家は、これまでの戦争において数々の英雄を輩出してきた武門の名家だ。

 ガチで一騎当千の猛者が何人もいたらしい。

 はてさて。

 このレグルス公爵家も、三週間前に来た貴族様のように僕の力を頼ってくれに来たのだろうか。

 ならばこれも一つの『縁』だ。大事にしなきゃ。


「わかりました。教会ですか?」

「わかりましたって……あなたこの状況がわかっているの!?」


 心配顔のシスターを安心させるように頷く。


「きっとまた『幸運を運ぶ忌子』の話を聞いて来たのだと思います。大丈夫ですよ」


 言って笑う。


「さあ、行きましょう」




     ◆




 拉致られました。

 というのは冗談で、僕は今豪華な馬車の中にいます。


「お初にお目にかかります。レグルス公爵家が長女、サラ・レグルスと申します」


 向かいに座っている儚げな美少女が、とても淑やかに僕に頭を下げた。

 絹のような金髪に、澄み渡る碧眼の瞳。そして触ると壊れてしまうのではないかと思うほど儚い雰囲気。長旅で疲れたのだろうか、顔色が若干青白いが、それでも彼女の美しさをまったく損なっていない。穢れを一切知らないかのような、真っ白な少女だった。

 病弱の美少女。深窓の令嬢。そんな言葉が僕の脳裏に浮かぶ。


「お前が『幸運を運ぶ忌子』なんだってな! 全然弱そうじゃねえか!」


 対して、彼女の横に座る同い年と思われる少年は『若獅子』と表現するに相応しい少年だった。


「俺の名前はアルト・レグルス。俺の双子の妹が世話になったな!」


 目を惹く逆立った金髪。サラと同じく澄んだ碧眼は、しかし強烈な意志を感じさせる。レグルス公爵家の男児はカリスマ性に優れるという話を聞いたことがあるけど、ひとたび言葉を交わしただけで引き込まれるものがある。

 まさに鍛えられているであろう体躯。本当に『若獅子』だね。

 そこまで来て、僕はアルト様の言葉を思い返す。


「もしかして、三週間ほど前に来られた貴族様は……」

「俺らの兄様だ!」

「……なるほど、そうでしたか」


 そうならそうと言ってください、レグルス公爵様。知ってたらもうちょっと礼儀に気を付けたのに……無理っぽいな、うん。


「本当は兄様が直接お前にお礼を言いたかったそうなんだが、急な仕事が入ってしまってな!」

「カザフ兄様は当主なので、どうしてもこれなかったのです。なので、レグルス家当主の名代として、わたくしと兄が参った次第です」

「はあ……」


 しかもあの年で四大公爵の一角の当主でしたか。すごい。

 しかし、この状況は鈍感な僕でも驚愕で気の抜けた言葉しか出てこない。

 だって、四大公爵家の次男と長女が名代として、忌子に礼を述べに来ているのだ。

 客観的に見て、ヤバい。なにがヤバいってとにかくヤバい。


「お名前をお伺いしてもよろしいですか?」


 サラと名乗った美少女が可憐な口を開いた。

 別に拒否する理由もないので僕も名乗る。


「僕はケイトと申します」

「ケイト様、ですね。良いお名前です」


 ふわりとサラ様が笑みを浮かべる。柔らかく温かな笑みだ。

 ただ「ケイト様」呼びだけは勘弁してほしい。色々な意味で身の危険を流石に感じる。

 サラ様が再び深く僕に向かって頭を下げる。


「ケイト様のおかげで、わたくしはこうして七年ぶりに外へ出ることが出来ました。深く感謝申し上げます」

「俺からも礼を言わせてくれ。本当にありがとう! この借りは必ず返させてくれ」


 サラ様の隣に座るアルト様も同じように頭を下げる。

 レグルス家の双子が忌子に頭を下げているこの様って、誰かに見られたら本当にヤバいなぁ。だから馬車の中で、しかも窓も閉めきっているんだろうけど。


「感謝は頂きました。どうぞ頭をお上げください」


 とはいえ、僕はこの二人に強い好感を抱いている。

 何度も言うけど、僕は『忌子』だ。神の存在を日本よりも強く信じているこの世界において、神に見放された子供と呼ばれる僕に対して高貴な人が頭を下げられるなんて並大抵のことではない。まず間違いなく褒められた行為ではないだろう。

 でも、この双子の兄妹は躊躇なく行った。感謝の意を忌子である僕に示してくれた。

 それが本当に嬉しい。生まれてきて良かったと思った。





 それからしばらく談笑して、僕はレグルス公爵家の馬車から降りた。

 二人はこのまま公爵領に戻るそうだ。本当に僕に礼を伝えるために一週間もかけて来てくれたらしい。

 走り出した馬車に僕は手を振る。

 レグルス公爵家の若獅子と深窓の令嬢も窓から身を乗り出して手を振ってくれている。

 僕は見えなくなるまで二人を見送った。

 今回は格別に良い『縁』が結べたな。この繋がりは大切にしなきゃ。

 僕はちょっと重い革袋を見て苦笑を浮かべる。

 こんな忌子に金貨百枚なんてぽんと渡そうとしないで欲しいよ。なんとか粘りに粘って金貨十枚までにしたけど。代わりに今度レグルス公爵家にお呼ばれすることになったけど、これは甘んじて受けるしかあるまい。

 僕は鼻歌交じりに帰路につく。

 今日は心配かけちゃった分、シスターに美味しい料理をご馳走しなきゃね。

やっと女の子を本格的に主人公に絡ませられました。

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