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コネクト ~ド底辺からの成り上がり~  作者: 灯月公夜
第一章 終わりと始まりのプロローグ
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閑話 ある公爵家の出来事

 気味の悪いガキだ。

 それがケイトを始めて見たカザフ・レグルスの感想だった。

 掴みどころがないというか、希薄というか、そう言ったものを感じることができなかった。


『幸福を運ぶ忌子』


 バカげた噂話だと思った。魔力のない忌子にそんなことができるはずがないと、七愚人の『救済の四番』じゃあるまいし、と。

 だが、妹のサラの容体が急激に悪化した。治癒魔術師の話では、もう命が危ないと言われた。

 もともと難病を患っていたサラを治療すべく、レグルス公爵家は『救済の四番』――シェリル・オルレアンに依頼をしていた。

 それも七年前からだ。

 彼女は依頼を快諾してくれたそうだ。しかし、その知らせを受けてからもう七年の歳月が流れた。

 彼女は聖少女と呼ばれる。そこに血の貴賤は問わず、問われれば誰であろうと救う。

 しかし、それ故に誰もかれもが彼女の救いを求める。だから、彼女を待つ人が後を絶たないのだ。『癒す』ことに特化した彼女の手にかかれば、例え死に瀕した人物も救済されるのだから。

 けれど、もう『救済の四番』を待つわけには行かない。サラの寿命は刻一刻と終わりを告げようとしていた。

 だから、カザフは藁にもすがる思いで、鼻で笑い飛ばしたく噂に縋って『幸福を運ぶ忌子』に会いに来たのだ。

 もしかしたらそいつにしか使えないユニークスキルがあり、それがサラの病気を癒すことに繋がると願って。

 そしてカザフが出会ったのは、ケイトと呼ばれた不気味なガキ。正直落胆した。

 だからカザフは思わず威圧する。けれど、ケイトはどこ吹く風で受け流したのだ。四大公爵家、しかもレグルス家当主を前にしてのその対応に、いらだちが募った。

 ケイトは言った。


『話せる範囲で構いません。疑うのは当然ですから。それに、必ず僕がその問題を解決できるとも限りません。ですが、ものは試しと言う言葉がありますし、ここはひとつ、本題とは違うことから聴かせて頂けませんか?』


 言わんとしていることはすぐに分かった。

 嘘を言っていい。全部がほんとでなくていい。けれど、ちゃんと教えて欲しい、と。

 だからカザフは、嘘を告げる。その中に、真実を混ぜて。


『私の知り合いにある難病を患った男がいる。そいつには何の借りもないのだが、そいつの兄には借りがあってな。だが、難病を癒すための薬がなかなか手に入らない材料から作られているらしく、市場にもあまり出回らない。お前にはこの『材料』を見つけてもらいたい』


 サラの難病を治す、稀少な材料。

 それはチルという青い小鳥だった。

 このチルという鳥は、もともと数が少ないうえに、本当に小さい。しかも逃げ足は熟練の魔術師の攻撃でもかわすほどに早いのだ。

 さらに、薬として使うためには、このチルという鳥の『生き胆』が必要になってくる。死後半刻を過ぎた時点で、薬としての効力を失ってしまうのだ。

 だからこそ、このチルという鳥は生きて捕えなくてはならい。

 故に、危険度はないくせに高難易度のクエストなのだ。

 カザフの言葉を聞いたケイトが目を閉じる。


『……どうだ?』


 この間、焦りを抑えるのに必死だった。

 そして目を開けると、ケイトはにこりと笑った。


『僕の知り合いをご紹介します』




 そしてダンという狩人とカザフは出会う。

 変哲もない、どこにでもいる狩人だ。

 しかし、カザフは驚嘆を押し隠すのに必死だった。

 何故なら、『材料』とは言ったが、それが動物の類であるとは一言も言ってないからだ。

 いや、まだ薬草の可能性もある。騙されるな。落ち着け。カザフは無言で自分を納得させようとした。

 しかし、そうやって努めた冷静さも、ダンが放った矢を追いかけて先で脆くも崩れ去った。


「なん……だと」


 矢の先には、なんとチルがいたのだ。それも生きた状態で、である。

 カザフはすぐさま魔術を捕え、チルを捕獲する。

 それからも公爵家当主としてあるまじき言動だと分かっていながら、カザフは急いで屋敷に帰った。

 片道一週間の移動をこれほどもどかしいと思ったことはない。

 そして。

 レグルス家についたカザフは、すぐさま高位の薬師を呼び寄せると、チルを使った薬を調合させた。

 すぐさまそれをサラに飲ませる。

 サラの閉じられていた瞼が揺れる。その様子をカザフは弟のアルトと息を潜めながら、願うように見つめた。


「……」


 すっとサラが目を開ける。


「大丈夫か、サラ!」


 アルトがすぐさま駆け寄る。


「辛くないか? どこか痛くないか? どうなんだ?」


 駆け寄ってきたアルトを見て、サラがふわりとほほ笑む。


「はい、アルト兄様。サラは大丈夫です」


 そう言ってサラは、自ら身体を起こそうとする。

 すぐさまアルトがその病弱な身体を支えようとする。しかし、サラはそれをやんわりと押しのけると、自らの力だけで身を起こした。

 カザフは不覚にも泣きそうになった。七年間、八つの時から寝たきりだった妹が、自らの力で身を起こしたのだ。歓喜の涙が零れそうになる。

 しかし、当主として泣くわけには行かない。カザフは涙を必死にこらえる。


「サラ、お前……」


 アルトが乱暴に目元をぬぐった。ここまで嗚咽が聞こえてくる。

 そんな兄を見て、サラは穏やかな笑みを浮かべた。


「調子はどうだ」


 カザフは努めて冷静な声を作る。

 そんなカザフを見て、サラが目を細めながら優しい笑みを浮かべた。


「すこぶる良好です。今までにないくらいに」

「……そうか」


 カザフは後ろを向く。


「今日はもう休め。お前はまだ病みあがりなんだ」

「はい、カザフ兄様。ご心配をおかけしました」

「構わん。お前は我がレグルス家の大事な娘だからな」


 言って、カザフは部屋を後にする。後ろからアルトとサラの声が聞こえたが、それに気を取られることなく歩く。

 そのまま一直線に書斎を目指す。

 椅子にもたれかかり、大きくため息を吐く。


「どうぞ、旦那様」


 父の代からレグルス家に従事してくれている、家令のジョイスがハーブティを差しだす。

 メイドではなく、気心知れているジョイスが用意してくれたことに、言外の労りを感じた。


「それでは、わたくしめは失礼いたします」

「……ああ、すまん」


 ジョイスが一礼と共に書斎を後にする。

 母が好きだったハーブティを飲む。

 久々に飲んだそれは、何故か塩味がした。

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