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コネクト ~ド底辺からの成り上がり~  作者: 灯月公夜
第一章 終わりと始まりのプロローグ
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04.幸運を運ぶ忌子

 僕らはダンさんの案内で森へ入っていた。

 変哲もない森をダンさんを先頭に僕、貴族様と一列になって進む。

 それにしても後ろからの威圧感がすごいな。物凄く睨みつけられているのが分かる。関係ないダンさんがびくびくしちゃうレベルのプレッシャーだ。

 後ろはしょうがないとして、せめてダンさんの緊張くらいは取ってあげないと。


「ダンさん、その後の経過はどう?」


 尋ねると、ダンさんが軽く振り返りながら答えてくれる。


「お陰さんで、今じゃあすっかり走れるようになったよ。ケイトのお陰だよ、ありがとな」

「でも、そのお陰で後が大変だったんでしょ?」


 笑いながら尋ねると、ダンさんもガハハと笑った。


「まあな! 三ヶ月ただ働きだったよ!」


 そういう割には、その顔は晴れ晴れとしていた。僕もダンさんの子供を思い出して、笑みを浮かべる。

 そして朗らかに笑うダンさんに、もう変な緊張感はなかった。良かった良かった。

 そう思っていると、不意にダンさんが立ち止まって、手にしてた弓に矢をつがえる。さっきとは別種の緊張感を放つダンさんの様子に、僕も後ろの貴族様も足を止めた。

 ダンさんが森の繁みに向かって矢を引き絞る。

 一瞬の間の後、ダンさんは矢を放った。

 鳥の鳴き声と羽ばたき。鳥たちが慌てて逃げていく。


「ちっ、外しちまったか」


 ダンさんが残念そうに呟き、緊張を解く。


「外すこともあるんだね」

「当たり前だよ。あっしは達人でもなんでもないんだからさ」


 笑いながらダンさんは矢を回収すべく、森の中へと入っていく。

 僕らもそれに着いていく。

 すると、繁みの奥から鳥の鳴き声が聞こえて来たのと同時に、もがく音も聞こえてきた。

 果たして、ダンさんの矢は確かに獲物を射ぬいていたのだ。

 その鳥は綺麗な青色をしていて、とても小さかった。そんな小さな小鳥の翼を器用に射ぬく形で、矢は小鳥を木に縫い付けていた。

 それにしても、こんな鳥いままで見たことないな。取っても綺麗で、ちょっと可哀想。


「なん……だと」


 不意に、背後から戦慄を滲ませた声が聞こえてきた。

 振り返ると、これまで黙っていた貴族様が鳥を見つめて驚愕の表情を浮かべている。


「どうーー」


 ――しましたか、という前に、貴族様が魔術を唱える。

 地面から蔓が伸びて、綺麗な青い小鳥を拘束する。

 小鳥はぴぃぴぃと鳴きながら逃げようともがくが、逃げることができないようだ。


「すまないが、この鳥を私に譲って欲しい。あとで相応しい報酬も出す」


 先ほどとは違い、若干切羽詰まった様子で貴族様が言う。

 僕はダンさんと視線を合わせる。ダンさんも貴族様の様子に若干おびえた様子で、僕に向かって小さく頷いた。

 ……まあ、ダンさんが良いっていうなら、僕が言うこともないか。


「どうぞ、好きにしてください」

「感謝する」


 言って、慎重な手つきで貴族様は小鳥を捕まえている蔓でできた籠を手に持つ。


「すまないが急用が出来た。これにて失礼する」


 貴族様が踵を返す。

 僕もダンさんも、その背をただ見送った。

 貴族様の姿が見えなくなったのを確認して、僕もダンさんに向き直り礼を言う。


「ダンさんも、今日はありがとうね。お邪魔しました」

「……いや、別にいいけどよ。でも、大丈夫か、ケイト?」

「大丈夫だよ。悪い人には見えなかったしね」


 そう言って、手を振りながら僕はダンさんと別れる。

 帰り道、僕はひとりごとを呟く。


「そう言えば、あの貴族様の名前聞かなかったなぁ」


 まあ、きっとまたどこかで会えると思う。報酬も用意するって言ってたし、この縁は大事にしたいなぁ。

 それとはまた別に。


「病気、治るといいですね」


 きっと、あの貴族様のとても大事な人が患っていると思うから。




 それから三週間後、僕の前に彼らが現れた。

 僕と同い年らしき男の子と女の子。

 人の出会いってのは本当に素晴らしく、大切な繋がりなんだと改めて感謝する。


 後になって思う。


 前世からも併せて、僕の本当の物語はここから始まったんだ、て。

【人物図鑑①】


ケイト・ノードゥス


魔力を持たない『忌子』として生を受ける。

忌子のため魔術を一切行使することが出来ず、また武技も平凡の領域を出なかったが、数々の英雄的活躍を残す。

後の歴史学者の研究によると、彼は魔術にも武力にも恵まれなかったが、「人材」において目を見張るほど恵まれていたことがわかっており、また人の采配に置いて天賦の才があったとされている。

その証拠に、彼の周りには後世に名を残す優秀な美姫が侍り、英雄として名高い偉人が何人も忠誠を誓っていたという文献も残っている。

『混沌時代』と呼ばれる人外魔境、群雄割拠の時代に活躍し、忌子でありながら「ノードゥス大帝国」の初代帝王としての座に着いた偉大な大王である。


――『偉大なる英雄名鑑』より抜粋

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