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コネクト ~ド底辺からの成り上がり~  作者: 灯月公夜
第一章 終わりと始まりのプロローグ
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01.追いかけられてからの自殺

ヒロインズ登場まで、少々お時間頂きます。

 楽しげな歓声があちらこちらから聞こえる。

 本日は晴天なり。高校の卒業式は、晴れ晴れと終わりを迎えていた。

 女子は泣き笑いを浮かべながら互いを抱き合い、男子は腕を組みながらわっしょいわっしょいやっている。

 みんなの顔は希望に輝いていた。人生の門出に、輝いていた。

 希望に満ち溢れる、優しい世界。

 僕はそんな世界を尻目に、そそくさと帰路につく。

 誰も僕のことなんか気にも留めない。誰にも記しをもらえなかった真っ白な卒業アルバム、そして僕の軌跡が載ってない卒業アルバムを抱えて、僕は校門を出た。

 別にいじめられていたわけじゃない。彼女はいなかったけど、友達だってそれなりにがんばってつくった。一年足らずの短い間にしては、よくがんばったほうだと思う。

 でも、僕はダメだった。どうしても、ダメだった。

 僕はこの優しく温い世界に馴染めなかった異端者だ。

 別に何がどうってわけじゃない。転校生と在校生という間以外にも、言葉に表せない何かが、僕と彼らの間にあったというだけ。


『馴染むことが出来なかった』


 全部はこの言葉に収束されるだろう。つまりはそういうことだ。

 こんな思いは僕だけが抱くものじゃなくて、きっとみんな何かしら内に抱えているのだろう。

 それでもみんなこの想いを騙し、あるいは共感し合い、日常を生きている。

 僕はただ不器用なだけで、ちょっとみんなと一緒に笑いあうのが疲れただけの十八の男でしかない。


「……さて」


 取り留めのない考えはやめだ。明日にはこの街を去る。こんな想いはこの街に放置して、また新たな地での生活が始まる。

 それが悲しいと思ったことはない。

 文字通り夜逃げして暮らす父に連れそう僕にとって、人との関わり合いほど希薄なものはない。むしろよく高校を卒業できたものだと思う。

 明日からは仕事だ。父さんの借金を返す手伝いをしなくては、まともにお天道様に顔向けできる生活はできない。

 ま、僕らの居場所が怖いお兄さんたちに知られてなければ、だけどね。

 思わず苦笑して、僕は馴染めない家のドアを開ける。



「やあ、おかえり。繋人けいとくん」



 嫌な予想ほど当たるとは言うけれど、やっぱりそうだ。嫌なことは考えれば考えるほど現実になる。

 部屋にいたのは、三人の怖い人たち。父は椅子に縄でグルグル巻きに縛られていた。黒髪から赤い血が滴っていて、意識はもうないみたいだ。


「……ははは、ただいま帰りました」


 苦笑。それ以外の表情を作ることが出来なかった。

 ああ、終わった。素直にそう思った。

 僕は踵を返す。駆けだす。後ろから怒号。僕は逃げた。

 涙は出ない。息を切らせて、僕は街の中を疾走する。

 人生はいつも理不尽だ。僕の知らないところで回り、勝手に僕の行く末を決める。

 これからどうなるのか全然予想できない。でも僕は走る。別に死んでもいいんじゃない? そう思いながら走る。息が切れて、肺が潰れて、足がもつれそうになっても走って走って走った。


「待てや、ゴラァ!」


 しかし僕の全力疾走も、大人の足には敵わない。あっという間に追いつかれて、肩を掴まれる。

 場所は橋の上。何ということか、辺りには誰もいない。


「は、離して!」


 僕は掴まれた手を振りほどこうともがく。


「じっとしてろや!」

「ぐふっ!」


 男の強烈な膝蹴りが腹部を貫く。胃液が逆流して、口からよだれが垂れた。

 動かなくなった僕を、男は乱暴に支えた。


「にぃちゃんも不幸なことやな。あんな父親を持ったばかりに、内臓売られるなんてよ」


 男が獰猛な笑みを浮かべた。

 そして、僕は引きずられる。いつの間にか目の前に黒塗りの車が止まっていて、中で怖い笑顔を浮かべた男がいた。

 ああ、僕は死ぬんだ。それも交通事故なんて優しい感じじゃなく、内臓をすべて売られる形で。

 そんな死に方は御免だ。なにも自分の想い通りに行かなかった人生だけど、それならばせめて死に方だけは僕の思い通りにしてやる。

 僕は、僕を掴む男の手が一瞬緩んだ隙をついて、男の金的を思いっきり殴りつける。

 呻いて思わず手を放した男の脇をすり抜ける。

 そして。

 僕は橋の上から身を投げた。

 下は川と呼ぶにはまったく水深のない、水がちょろちょろと流れるだけの川だった。

 僕の落下地点には、大きな石も見える。その石に向かって、真っ逆さまに落ちていった。

 大した走馬灯は流れなかった。

 僕のこれまでの人生は人を避け、人を寄せ付けず、人から逃げる人生だった。

 もしも来世があるならば、人との関係性を大事にする人生を歩みたい。

 僕は目を閉じて最期の瞬間祈った。

 そして、僕は十八の逃げ惑う人生は終わった。

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