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奇妙な再会

 降り出した雪は、さっきまで晴れていた事を忘れさせるくらいの勢いで、見開いたレフィスの視界を白く染めていく。その白に交じり合わない色彩が、家の前でただ黙って立ち尽くしたままレフィスを静かに見つめていた。


「えっと……何か、御用ですか?」


 見知らぬ者の突然の訪問にぎくりとしたレフィスの脳裏に、先程店の主人から聞いた話が甦る。追い払えなかった不安が、振り出した雪のように重く降り積もっていく。

 立ち尽くす人影は二つ。どちらも黒くぼろぼろのマントを羽織っている。目深に被ったフードから彼らの顔を確認する事は難しかったが、そのうちのひとりが形の良い唇を動かして小さく吐いた溜息は辛うじてレフィスの耳に届いた。


「……聞いた?」


 不気味な雰囲気からは想像も出来ないほど、その声は透き通る水面を想像させるくらい美しかった。一瞬だけ警戒を解いて近寄ったレフィスだったが、次いで届いた声音は、その透き通る水面の底に隠された澱んだ深い黒を曝け出した。


「御用ですか、だってさ。僕たちを散々のけ者にした挙句に言う言葉がそれ? ふざけるのは顔だけにしてくれない?」


「えっ……あの」


「少し落ち着きなさい、ライリ。こうして会えたんだし、レフィスも元気にしてて良かったじゃないの」


 もうひとりがフードを落して、レフィスを懐かしそうに見つめた。フードの下の顔がとんでもない美女だった事にも驚いたが、それよりも彼女がレフィスの名前を口にした事の方が不思議でならなかった。


「あの……私たち、どこかでお会いしました?」


 出来るだけ丁寧に、これ以上もうひとりの怒りを買わないように穏やかに尋ねたつもりだったが、どうやらそれすら彼の神経を逆なでしたようだった。今度はわざとらしく、レフィスに聞こえるように大きく溜息を吐いてみせる。


「あのさ……何なの、これ? いい加減にしてくれる?」


「で、でも、あなた達の事何も……」


「何? 寝込んでる間に忘れたとでも? どこまで役に立たない脳味噌なんだよ、もう!」


 声を荒げ、やり場のない怒りに頭を振った彼のフードが風に煽られる。怒りで震えている羽耳が彼の種族を物語ったが、儚げな美しさを持つその顔を見ても、レフィスにはやっぱり彼が誰だか分からなかった。


「……エルフ?」


「忘れたんなら嫌と言うほど思い出させればいいんだろ」


「えっ? ちょっと待って……」


「今まで散々待ったんだ。これ以上待つつもりはないからね、この馬鹿石女!」


 美しいエルフからは到底想像できない程の、黒い瘴気が溢れ出した。隣の美女が止めるのも聞かずに、彼は溢れ出した瘴気を黒い蛇の形に変え、それを無抵抗のレフィスめがけて勢いよく投げつけた。


「きゃあっ!」


 その場に立ち尽くすしか出来ないレフィスの悲鳴と、黒い蛇の威嚇した耳障りな声が重なり合った瞬間、突如として二人の間に真紅の影が立ちはだかった。かと思うと黒い蛇の体が瞬時に縦真っ二つに切り裂かれ、それは元の瘴気に戻りながら空気に霧散して消えていった。


「お前……」


 さっきまでの怒りを少しだけ隠したエルフが、自分とレフィスの間に割って入った真紅の人影を見据えて低く呻くように呟いた。


「邪魔しないでくれる?」


「邪魔などしていない」


「なら、そこをどいてよ。その石女に用があるんだ」


「今のお前は傷付ける」


 ただそこに立つだけで圧倒的な威圧感を放つ真紅の男を睨み、そのまま後ろに庇われているレフィスを強く見つめた。無意識に歪もうとする視界を瞼で押さえたライリが、吐き捨てるように呟いた。


「悪いのはレフィスだ。散々心配かけたかと思うと突然消えて、挙句の果てに僕たちを忘れるなんて。……仲間だと言ったのはどこの誰なんだよ」


 消えそうな声は雪に解けて消え、辺りの空気はゆっくりと静まり返っていく。何か言わなくてはと口を開きかけたレフィスだったが、それを遮ったのは家から出てきた彼女の母リシアだった。


「お茶の準備が出来たわよ。皆中に入って頂戴。ああ、勿論ブラッドもね」


 この状況でリシアの無邪気な笑みと言葉は場に不似合いだったが、それに不満の声を上げる者は誰もいなかった。


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